2015/07/27 のログ
ご案内:「収監施設・面会所」に『囚人』さんが現れました。
『囚人』 >  
■警備員「出ろ、面会希望だ」

淡々とした口調で声をかけられて、静かに立ち上がる。
ぼーっと、虚空を見ていたが、少し首をかしげ――

……面会?

一体誰が? また、保護者の彼だろうか。
心配性――というより、面倒見が良い彼だ。
きっと逐一、精神状態を確認しきてくれたのだろうか。
いや、もしかしたら手続きが整ったとか。
やる気の内容に見えて優秀な人種だ。そうかもしれない。
何はともかく、いかない、という選択肢はない。
ゆっくり、牢の外に出て、手錠をかけられ。腰に紐を通されて
静かに静かに、面会室へ向かう。

――無機質な、その場所へと……

ご案内:「収監施設・面会所」にギルバートさんが現れました。
ギルバート > 現れたのは面識のある五代ではなく、そも所属すらも違う。
歳は見目には左程変わらない。体格の面でいえば一回りほど大きくはあったが。
『囚人』がそちらに視線を向ければ、同じように姿を確認する。
片目の隠れた髪型の少年は、公安委員会所属、常世学園一年。ギルバート・レイネスだと名乗った。

「率直に聞きたいんだ。」
「あのビルでドローンの群れを操っていたの、アンタだって聞いた。」
「本当か?」

『囚人』 > じっとみる。
まるで品評のような目だ。
片側しか見えないそこから
色を見るように見つめて、静かに瞑目。

入った瞬間は
――だれ?
といいそうだったのをぐっとこらえたが
素性を聞けば、納得した。静かに腰掛けて――

「本当だよ」

端的にそう告げた。きっと、この男性はまどろっこしいのは嫌いだ
そう思ったがゆえに

ギルバート > 「……オレもさ、あの日、あの場所にいたんだ。
 正直驚いたよ。最初は武装決起か何かだと思ってたのに。
 蓋を開けてみれば、無人機しかいないんだ。」

風紀がビル上層からの突入。公安が正面玄関からの突入。
そのどちらも対応したのは、『囚人』が操作するドローンの群れ。
方向性さえ違うが最新鋭の装備を持つ両組織を相手に、彼は一人で戦ったのだと言う。

「ハッキリ言って凄かった。でも、今日はそんなこと伝えにきたんじゃないんだ。
 虎みたいな……機械の化け物と戦った時、オレは死んだと思った。
 この鋭利な牙なら、爪なら……一撃で終わりだなって。
 地面に組み伏せられた時にそう、思ったんだ。」

強化ガラスで遮られた両者間。
この距離が少年には少しもどかしい。
言葉に乗せた感情が、上手く届いているのか不安になる。
少しでも近付きたくて、身を乗り出しながら。

「何でオレは死ななかった? 何でアンタは殺さなかった?
 単純なところ、ソコなんだ。オレが引っかかるのは……。
 別に他意があるワケじゃないよ。どうしてもわかんないんだ。」

『囚人』 >  
「死にたかったの?」

ぽつりと、疑問をぶつけられれば。
そっと瞳をぶつける。
ほうっと、息を吐けば。男娼の時の癖か。
どこか色っぽさがあった。

「カーテンコールは許されなかったから。
 あれは、ぼくのものじゃなく、七色のものだ
 続きを描くのはぼくではなく、あのヒロインで
 そして、ぼくはぼくの終わりを求められた
 あそこで、殺してたら――”七色”の舞台が前座になっちゃうでしょ?」

ダメと言われた。だからしなかったのもある。
けれど、それ以上に。きっちり終わらせてあげたかった。
そして――

「……別にね。ぼくは殺すために劇をやってるんじゃないんだよ
 ただ、綺麗にしたかった人がいたから、劇をしてたんだ」

そっと、恋を告げるように――

「キミだったら、殺してた? 人殺しって行為は、そんなに美しい?」

ギルバート > 「誰が……ッ!」

思わず声を荒げてしまう。
警護の看守らが一度眉を潜めるがそれだけ。
ギルバートは落ち着きを取り戻し、言葉を探す。

ひと呼吸。『囚人』の言葉を反芻していく。
人殺しはいけないことだなんて、社会生活を送っていたら、誰だって無意識にそうだと学ぶもの。
しかし彼が目の当たりにしてきた"フェニーチェ"の犯行は、少年の常識の範疇外で行われてきた。

「オレにはわからないよ。『劇』だとか、『綺麗にしたかった』だとか……。
 ようはただの犯罪行為じゃないか。誰かの生活を犯してまで……。
 ただ普通に生きていくのは、そんなに退屈だったのか……?」

向ける視線には少量の戸惑いの色。

『囚人』 >  
「……ねぇ、公安委員さん」

すぅっと息を吸い込んで。境界の透明の壁。
ぎりぎりまで顔を寄せて、囁く。

「――”普通”って、なに?」

無表情に。そのままの疑問をぶつける。

「キミのいう、普通ってなんだ? それは全ての人の”普通”なの?
 この島はただでさえ、特別が揃っているというのに
 キミも、外から見れば普通からきっと外れている可能性もあるというのに――」

すぅっと息を吸って。

「ぼくにはね、逆にわからないんだ。わからないという、キミの――その、感覚が……わからないということが、わからないんだ」

生まれた時から、そうあることが当然だった。
犯罪をするのも、生きていくのに必要だった。
劇をするのも、自分であるために必要だった。
依存するのも――全てが。だから全部、自分にとって”普通”なのだ。

「”退屈”とか以前に――”無い生き方”だったよ
 書物とかでは知っていたけれど、必要なかったし。できない生き方だった」

――だって彼らといることができないし。”依存―こい―”する人たちといられない

「……伝わるかな? 裏方だから、しゃべるの、苦手なんだ」

困ったように微笑んで

ギルバート > 「そりゃオレだって、色んな人がいるってのは知ってるよ。
 でもそれが全員自分たちのルール押し付けちゃ、社会から弾かれるでしょ。
 オレが言ってる普通ってのは……そうならないように、"全員で"上手いこと生きていくためのルールなんだ。
 精神性っていうか。……ごめん、オレだって喋るの得意じゃない。
 だけど、やっぱりオレはアンタたちフェニーチェの生き方は許せなかったし、法で裁かれたと聞いて心底安心してる。
 それは確かだ。もしアンタが今までそんな生き方ができなかったとして、これからそういう生き方ができるってなら……歓迎もしたい。」

言葉を選ぶたびに深い吐息。
どうすれば伝わるのか。どうすれば理解できるのか。
まるで汚泥の底で、コインを探すかの作業。

「……実はオレは、ついこの間までアンタと変わらなかった。
 ルールなんてそれこそ知らなかったし、言葉さえあやふやだった。文字だって。
 奴隷商の売り物だったからさ。実のところ、親兄弟の顔だって知らないよ。
 でも、今はなんとか上手くやってるつもりだよ。
 ……だから、アンタとも上手くやっていきたいんだ。
 そりゃ年端も近い。編入後の学年も同じ。だから依頼(おねがい)されたというのもある。
 監視だとか、そういうのだろうな。けど違うんだよ。オレの気持ちは違う。」

公安・風紀で一年生といえば、数は少なくないが粒はそれぞれ不揃いだ。
その中で『囚人』の傍に配置するには、事件との関連性、素性、その他を総合的に判断した上で、公安からはギルバートが選出された。
無論『囚人』にとってそんなものは外が勝手に決めた取り組みである。
ギルバートからしてもそうだ。しかし与えられた任務であっても、それに従うに足る理由が欲しかった。

「……オレはアンタを、少しでも理解したいんだ。」

『囚人』 >  
「……常識は、”法”は人が間違いを犯し
 積み上げてきた研鑽の歴史であり、不完全の産物」

とさりと座りなおして。

「ぼくは、きらいじゃないよ。法というルール
 人類が積み上げてきた”背景”だもの
 キミのいうことは頭ではわかる。でもまだしっくりこないんだ」

まだフワフワしてる。
色んな所が、まだ。

「そう。キミはそっち、だったんだ
 ぼくの仮面の一つと同じだね」

ふわりと笑った。そこはわかる。なぜなら経験してきたことだ。
そして依頼と聞けば――あぁ、なるほどと思うと同時。
ずいぶん真っ直ぐだなとも、思う。よく曲がらなかったものだ。
よく――持ち直せたものだ。

「そうすることで、キミが救われたから?」

きっと、その経験があるからだと推測した。
彼の言葉から予想できる範囲の背景から――

それとも……?

「ぼくを理解――といっても、ぼくはそんな複雑じゃないよ
 ただ――うん。ただただ依存し続けるしか脳がなかっただけだ」

ギルバート > 「『仮面』だなんて言うなよ。
 どんな一面だって、生きてきたのはアンタ自身だろ。そんな他人事みたいにさ。
 誰かに依存してきたって言っても、それは自分で決めた選択じゃないか……。」

今すぐこのガラスを打ち砕くことができれば、どんなに楽だっただろう。
激情が拳に宿りかけるたび、歯を食いしばることでそれを打ち消す。
刻みたい思いだけが、どうしても逸る。

「きっとアンタは、オレよかずっと頭いい。
 でもさ、知らないこともきっと多いんだ。
 誰かに頼ることでしか生きていけなかったなんて、それだけじゃ悲し過ぎるだろ……。」

やり切れない表情を前にして、やり場のない気持ちを机に叩き付ける。
いつか自分に語りかけてくれた"知らない誰か"も、こんな思いをしていたのだろうか。

「生きる方法だって色々あるよ……大事なものだって、いくらでもあるじゃないか!
 それがわからないってんなら、オレも探すよ。一緒に。
 だからもう……そんなに悲しいことを言わないでくれ……。」

感情移入か将来の実直さ故か。
見据える瞳には雫が浮かぶ。

『囚人』 >  
「――…………」

ちょっと、意外だった。
まさか泣くとは思わなかった。
あぁ、でも、わかる気がする。
きっと、彼は。自分があの子に抱いていた気持ちと
もしかしたら同じなのかもしれない。
かなわなかったけれど。
でも、それは嬉しい事で――

「違うよ。悲しいことなんてないさ
 幸せなことだ。幸福だ
 そんなに想える人がいたことも
 そして、キミのような人がいることも――
 あぁ、事実は小説よりも奇なり
 ホントだね?」

知ってたのかな? それとも、これはキミの差金?
まだ現実として再生はできない。
でも――
間違いなく、この出会いは喜ぶべきことだと思った。

「そんな泣きそうな顔をするなよ、涙は”ヒロイン”の武器なんだぜ?」

ギルバート > 「なんだよ、それっ……!」

指摘されてから始めて気付く。
落涙が掌に落ちて確信を得る。
乱暴に袖でぐしぐしと拭い去ればまたいつもの顔。
緑の目は若干赤みがかったままではあるが。
続ける言葉を選出しかねていたが、傍らのベルが面会時間の終わりを告げる。

「近々出るんだろ? ここから。
 まだ色々話したいことがあるんだ。全然足りないよ。
 だからさ、オレ待ってるよ。外の世界で。
 アンタと、仕切りのない世界で会えるのを。
 その時は……まず、名前を聞けたらいいなって思う。
 今まではそんなもんなかったって聞いたからさ。」

がたりと席を引き立ち上がる。

『囚人』 > 「おや、もう閉幕か。残念だ」

くすっと、艷やかな笑み。
ふんわりとした顔は、いつか自分にしてくれた”七色”のもの。
もう、絶対に自分にはない――だからこその”痛み―はいけい―”。
出てしまったのはきっと、それだけまだ拭えていないということで。
擦り続けるしかないということで。
しかし――まったく重くなくて。

「あぁ、そうしよう。ここではまだシュージンで、美術屋であるから
 今度改めて、自己紹介しに行くよ。その時は――」

もう少し、理解できるようになってるといいな――……

ぱちりと、ウィンクを一つ、落として。

ギルバート > 苦笑いの反応を返し、背中を向ける。
面会室を後にして、長い長い廊下を歩く。
馳せるのは"これまで"のことと、"これから"のこと。
不安がないと言えば嘘になる。
だが希望はあった。『囚人』は理解し合えない凶悪犯罪者ではなかった。
人と人の会話が成り立っていた。ならばそう悲観するものでもないと、一人思う。

「……夜か。あっという間だったな。」

外へと出ると、あたりはすっかりと闇が落ちていた。
月を見上げて静かにぽつり。
淡い光を浴びながら、少年は帰路へと消えていく。

ご案内:「収監施設・面会所」からギルバートさんが去りました。
『囚人』 > ■警備員「時間だ」

「――わかっているさ」

静かに腰を上げる。
囚人は、まだ――
もしかしたらずっと――

   錠と枷に縛られて。

いつかそれが取ることができるのだろうか。

この――依存を……

そっと目を閉じて、自分のあるべき場所へと、戻っていく

ご案内:「収監施設・面会所」から『囚人』さんが去りました。