2016/06/08 のログ
ご案内:「異邦人街安アパートの一室」に五代 基一郎さんが現れました。
五代 基一郎 > 前回のあらすじ。

この世界、島の外を知ること。
島内ではなく島外より侵入してくる見えざる”大人”の存在に対して
相応に戦える存在”正義の味方”にレイチェルを招き入れることでそれらを見せようとする五代であり
レイチェル自身もその側に入ろうという入口に立っていた。

しかしその入口で待っていた五代の口から出たのは
レイチェルの他者から”正義の味方”と呼ばれるその振る舞いに対しての
糾弾とも呼べる言葉だった……

ご案内:「異邦人街安アパートの一室」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル > 「正義の味方、そして英雄は幼稚、自己満足、エゴイスト、ね……。
 確かに、確かにその通りだろうよ。幼稚な自己満足で銃握ってるオレには、
 確かにお似合いの言葉に見えるかもしれねぇ。
 それに――ったく鳥のくせに、まともなこと言いやがる……。
 正義が普遍のものじゃねぇって考え方にもオレは頷くぜ。
 ずっと、そう思ってきたからな」
そこまで言って、だがしかしレイチェルは最後の言葉にはかぶりを振った。
少しばかり顔を俯けて、数度。
ややあって、ゆっくりと前方を見つめた。

「正義の味方を名乗れたら、どれだけ良かったか。
 正義の味方であれたら、どれだけ幸せだったか。
 正義の味方を貫けたら、どれだけ楽だったか。
 
 
 『何者』であるかによって変わる正義、と言ったな。
 クソ鳥の言う通り、各々の正義があって然るべきだぜ。
 そしてオレにも信じる正義はある。
 そしてオレの信じる正義は――正義の味方は――『人を殺さない』。
 残念だが、オレはもう一線を越えちまってる……って訳だ」
以前の仕事で多くの者達を手にかけてきた。
しょうがなかったと言えば、それまでだ。
助ける手立てが他に無かった、とか。
あの状況ではそうするしか無かった、とか。
幾らでも言い訳はできようが、そんな言い訳をする気は、レイチェルには
毛頭無かったのだ。


「別に、暴れ回るのに都合がいいから風紀に居るって訳じゃねーよ。
 責任を風紀に押し付ける気もねぇ。
 迷惑だってんなら、いつだって風紀から下りるつもりさ。最初からそのつもりだ。
 やろうと思えばこの学園、稼ぎ口はいくらでもあるんだからな。
 オレは……元々、戦闘経験を活かせる場を探してて、たまたま風紀に拾われただけだ。
 そりゃ、オレだって銃を持たずに物事が解決出来るってんなら、そっちの
 選択肢を取りたいとこだぜ……けどよ、そんな方法しらねーんだよ、オレは。
 そういう世界で生きてきてねぇんでな」

淡々と、しかし真剣な眼差しでそこまで口にして、ふぅ、と一息つき。
所在なさ気な右手を自らの横髪へとやり、軽く撫でた。

「けど……そんなオレも少しずつ変わってきてんだ。
風紀に入ったお陰でな。いや、変わってきてる気がしてる、だけかもしれねぇが……」
風紀で活動していた日々を思い返す。
川添孝一に始まり、何よりも彼女に影響を及ぼした西園寺偲や、続く六道凛、親友の佐伯貴子。そして目の前の五代基一郎といった人々と出会う中で、彼女の中で意識が変わりつつあったのは確かだ。

「オレは許せないものは許せないし、このスタイルを変える気はねぇ。悪ぃな。
 けどよ、やり方自体は変えられるんじゃねぇかって、そう思ってるんだぜ。
 武力だけじゃねぇ、なんつーかあんまりこの表現好きじゃねぇんだけど
 ……世で『悪』って呼ばれるような奴らへの対処の仕方をさ」

五代 基一郎 > 「それは……」
■サマエル>「”それ以上”はレイチェルに当てるのは不適切ではないか」

レイチェルの言葉に対してもさらに何か言いたげでたはった五代だったが
サマエルの言葉で口を噤む……振り下ろさんとする拳を仕方なく収めるような
険しい顔になったがそれも少し。水を飲み溜め息をつけば、別の言葉が出る。

「悪かった。これをレイチェルに言うのは間違っているな。
 悪かった。」

その”これ”が何を指すかは特に伝えず、蓋を閉じて押し込めるように
感情的に出ていたそれらを封じた。封じればひと息ついてまた言葉を開く。

「話を整えよう。今あるレイチェルの欠点はレイチェルが自覚している通り”戦う以外の方法を知らない”ことだ。
 そしてレイチェル自身それではいけないと感じていて
 世間で言われるような悪党への対処の仕方を変えられるのではないか、変えなければならないのでは
 と、感じている。ということだ。」

それでいいよな、と一度伺うように問いかけまた水を飲む。
サマエルは特に口を出さず聞いている。

「いい方が悪かったが、俺の言いたいことは……そうだな。
  この島は揉め事の種や争いごとはそれこそいくつもある。
 それらに対してどうにかしたい、対処しなければ……と思っているのは君だけではない。
 風紀委員なら誰しもが持っているだろう。まぁ一部素行不良なのは置いておいてね。
 
 そしてその委員達もまた解決するために動く、動いている……ことを意識しなければならない。
 それは今君が悪と呼べる存在に対してどうすればよいか考えている時だからこそだ。
 悪と戦うのは君一人ではないし、他にも大勢の志を同じくいている者達がいることをだ。
 だが問題は、その悪い物事は様々な種類が存在してそれがいくつも複雑に点在していることだ。
 すぐに解決できるものの方が少ないのは、この島の実情から考えれば思うのは容易いだろう。

 だからこそ、それぞれが出来うることをし続けていくことがよりよくするための方法であると俺は思っている。
 それが組織というものであるしさ。
 
 つまりレイチェルには誰からも”正義の味方”と呼ばれるような評価の場当たり的な対処をする人になって欲しくないんだよ。
 それはある種、風紀でなくてもできる事だ。志があればね。
 これは他の人がいるから、というような意味ではなく他にもいる者達に任せようという信頼だ。
 レイチェルが見てきた風紀の人間なら、自分を変えたと思う人間ならというね。
 ならば君にしか出来ない、君だけが出来ることをすることこそレイチェルにとっても他の人達にとっても望ましいことだろう。

 だがそれはレイチェルが言うように戦うことのみではない。
 それはレイチェルが言うようにその他の選択肢も覚える時なんだ。
 物事の解決の最後の手段が戦うことを理解していたなら、それを回避する方法を学び
 またその結果戦うことになったとしても対処できるようになる……といったところか。

 先に言っていたが、これは……というよりこれらは他の人間や物事を多く考えなければならない。
 戦うことよりレイチェルにとって難しいことだろう。
 だがそれを学ぶことで他の人よりも優れている”戦闘的な経験”に別の方向からの手段と力を行使できるようになる。
 その結果、というのも短絡的だが表層的なものではなくより深い物事への対処が可能になるはずだ。

 君が今、自身が変わりつつあるのではと思っているのならば
 これを転機に先へと変ることがレイチェルの為でもあり、他者のためではないかな。
 自分だけではなく、周囲を考えて動くことが出来れば。
 ただの鉄砲玉ではなく律し研いだ刀になるのではないか……みたいなね」


そこまで言えば喉が矢継ぎ早に近いものだったためか喉を水で潤す。
されど水の飲みすぎが既にボトルは空になりつつあった……
焼き菓子と共に飲んだ分だけ普段より速かったのもあるが。

レイチェル > 目の前のやり取りを見ながら、レイチェルは内心首を傾げる。
先の弾劾にも似た言葉の数々。珍しく、というべきか。
彼が、五代が感情的になっていた。
彼が口にした憎悪を孕んだ言葉は、レイチェルだけに向けられていたものではないことを、
薄々ではあるが彼女は感じ取っていた。
こと、人の憎悪に関しては、この少女は敏感なのである。
そしてその感じとったものは、五代を窘めるサマエルの言葉を聞いて、確信に近いものとなったのであった。
とはいえその感情は、今この場では収まったらしい。
ならば、こちらから問いかける必要もないだろう。
そう考えたレイチェルは、五代の話を促すように相槌のみを打った。

「その通りだ」
特に付け加えるようなことも、反論するようなこともない。
胸に引っかかったものを仕舞い込みながら、レイチェルはそう口にして数度、頷いた。

「ま、そうだな……それぞれの得意分野をやっていきゃ良い訳だよな、組織だし……」
これまで組織に属した経験などなかったレイチェルは、ふむ、と顎に手をやり頷いた。
ふと、貴子のことを思い浮かべる。彼女は戦闘面に長けてはいないが、レイチェルの好まないような細やかな情報処理を卒なくこなしている。
親友ではあるが、彼女のそういう所に、レイチェルは尊敬の念すら抱いている。
貴子だけではない。本当に多くの人々が、それぞれの志を持って組織に属していることは
自明の理であろう。

「そりゃあ、表層的な対処以外の、根本的な対処法を見つけていくのは
 戦うより難しいだろうな……。
 戦って解決が、オレにとっちゃ一番楽だ。
 物心ついて少ししてから、息をするようにして来たことだからな。
 でも、楽な方に流れてばかりってのも、な」
自嘲気味に微笑しながら、レイチェルはそう言った。


「鉄砲玉と言われてきたし、何より自分でも鉄砲玉を自覚してたが、まぁ
 そろそろ変わるべき時って訳だな……。
 ま、他人に出来ること、他人にしか出来ないことはすっかり任せて、
 オレはオレにしか出来ねぇことを他の奴らの為に活かせるよう
 努めるように……ね、そういう気でいくさ、これからは」
焼き菓子を口にしていないレイチェルの喉は渇いていなかった。
両腕を頭の後ろにやり、背を後ろに預けてそう口にした。

五代 基一郎 > 「それはこの島にいても、外に行っても必要なことさ。」

どこでもそうだ。島が社会であるように島の外にも社会はある。
そこには集団があり、組織がある。一人ではどうしようもないものを
どうにかするために作られた組織。一人が集まって組織となるもの。
それはどこの世界に行ってもあるものであるしここで恐らく学ばなければならないものだろうと。
先の何かをそのままどこかに沈めながら……続けた。おそらく今日はもう、出ることがないそれを沈めながら。

「残念だがこの世界では異能という力を持った人々、またはレイチェルのように力を持った異邦人が多くいる。
 となればわかりきったことだが、力だけではどうしても解決できないことは出てくるさ。
 難しいけど学んでいけばいいさ。そう死ぬほど難しいわけじゃない。
 レイチェルの戦闘能力も積み上げられたものだ。
 それ以外のことも経験していけば覚えるものだよ。苦手なだけで容量悪いわけじゃないんだろうからさ。」

座学の成績はそこそこなんだから問題はないだろう、と言うものの
多少はベクトルが違うものである。多少不安はあるがそこは別の経験が補うのだろうなと察っした。
多少そうであればとも思う希望を乗せながら。

「そうしていくんだよ。気じゃなくて。
 まだ16と言ってもあっという間に大人になって……ということじゃなくてさ。
 レイチェルは単純な力でいえばもう大人に匹敵するか、それ以上のものを持っている。
 それでいて社会や集団に属しているならそれなりの意識は持たないといけないんだ。
 年齢等とはさておき、特にこの学園自治の社会でなら一人前として見られているわけなんだからさ。
 よりよく変わって行けばいいんだよ。止まらなければそれで。
 永遠に生きれるものなんてないし、永遠に止まった存在なんて生きてはいけないし。
 進化あるいは進歩というのは特権だよ。命の限りがあるもののね」

何か別の存在を思わせるような定名という例えを含ませつつ
これでまぁ、一応の話は終わりつつあるようなという雰囲気で冷蔵庫に代りのボトルを取りに行き
ついでに何か茶菓子でもと思って漁ればスイートポテトの焼き菓子があり
それついでに持ってきて箱ごとレイチェルへ手渡し寄越す。

「というわけで、必要なのはそういった風に変えていくこと……成長かな。
 それを目指しつつ物事を広く見るように自分以外を意識することか。
 世界に馴染む……闇の溶け込む、影の中に入るということはそういうことがまず骨子になる。
 同化する……とまでも行かないけど自分の外側が何色かわからなければ溶け込むこともできないしね。」

レイチェル > 「力をぶつけてるだけじゃ本当の平和――そんなもんがあるか知らねぇが、
 まぁそれだけで社会をより良くしていける訳じゃねーしな。
 それにオレだって無敵じゃねーし、な。学ぶに越したことはねーわな。
 繰り返しになるが、オレは別に暴力が好きな訳じゃねぇし。それだけに頼らなくても
 その内やっていけるぜ……いや、やっていくさ」
何せ生き方を変えていくのだ。新たに生活を始めたこの世界に順応していかねばならない
のだ。課題は山積みだが、やれるだけのことをやる覚悟がレイチェルにはあった。

「ああ、そうだな。生きていく中で完全に止まっちまうなんて、そりゃ下手すりゃ死ぬ
 ことよりも悲しいことだとオレも思うぜ。しかし、命の限りがあるもの、ね……」
レイチェルはダンピールである。吸血鬼に加えて、エルフの血も少々混じっている。
故に人間よりは長生きするが、それでも終わりは来る。不死の存在ではない。
その終わりがやって来る時に、せめて後悔のないよう、前をしっかり見据えたまま
命を終えたいものだと、レイチェルは改めてそんなことを思った。

「お、スイートポテトだ。ありがたく頂くとするぜ!」
先のシリアスな雰囲気は何処へやら。
いや、先の事は彼女の胸の内にはしかと刻まれたのであるが、
それでも……やはり彼女は女の子である。
甘いモノを目にすれば、ぱぁっと表情が明るくなるのだ。


「了解だ、先輩。まぁ、見てなって。何とかやってやるから」
そう言って彼女は大きく伸びをした。
何だか今日の朝からの仕事と授業の疲れが今になってどっと襲ってきたようだ。
まるで甘いモノを見て気が緩んだその隙をついて押し寄せてきたようなそれであったが、
きっと甘いものを口に入れれば吹き飛ぶだろうとか。
そんなことを考えながらレイチェルはスイートポテトを受け取ったのだった。

五代 基一郎 > 「本当は力なんて……そうだな、それだけが世界を作るわけじゃない」

本来はそうであったのか、要素としては存在した
かつてのこの世界を思いながら。力が突出するようになったこの世界を想いながら呟く。
そうあるべきであり……そうあればと思う姿を。
レイチェルだって本来暴力とは無縁な生活が出来ていただろうにとも
もしもを思うのは、リアリズムからほど遠いある種の悪癖であった。


「まぁそういうことで期待してるしこれからも付き合ってもらうよ。
 それと……さっきは正義を、正義の味方を諦めているような言い方だったけど。
 そうあるものが自分の中にあるのならば、それは決して諦めてはいけない。
 失敗したとしても自分の中にある正しいと思うものを、正しいと思うからこそ貫こうとするものを諦めてはいけない。
 それが例え誰かに都合がいいことだろうと言われてもだよ。」

難しいけどね、は戒めみたいなものだしと話を閉じて。

そんなことを言いながら今日の会合という形のそれは一応終わった。
後はただ、甘いものがやれどうだとか。
最近の女子は甘いものは別腹なのか、とかどこかお薦めのところはあるか……
等、他愛もない話が続いた。
サマエルはただ、口を出さぬように黙って羽根を繕っていた……

ご案内:「異邦人街安アパートの一室」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「異邦人街安アパートの一室」からレイチェルさんが去りました。