2016/06/29 のログ
ご案内:「転移荒野」に五代 基一郎さんが現れました。
ご案内:「転移荒野」にレイチェルさんが現れました。
五代 基一郎 > 前回のあらすじ。


レイチェルへの課題。
今の段階ではなく次の段階(ステップ)へ進むため
己の存在感の制御と周囲の環境との融合。
それのための片鱗でありきっかけを掴ませるために
五代はレイチェルへ己の身一つで有象無象、再現なく時空を超えて
湧き出してくる魑魅魍魎。屍と鬼の群れへ向かわせるのだった……


「周囲を感じ、同化するんだ……無為自然。
 自然にあるように、己を自然と同調させることこそ今レイチェルに必要なことだ……
 ただ姿形を似させるのではなく……己の存在を……」

既に日が傾いているのか。
天の模様すら歪み、それすらも定かではないが
高台からその姿を見ずともレイチェルを見守る男が焚く火は
ある程度の炭と灰を生み出していた……

レイチェル > 「ちっ……」
骸の爪が、制服のスカートの端を切り裂いた。
四方八方から襲い来る骸の爪や牙をいなす。
序盤とは打って変わって、レイチェルは防御的な型をとる。
パッシブなスタイルはあまり好みでないが、ただひたすら打ち倒しているだけでは
終わりの見えない道に立たされていることは、彼女自身よく感じ取っていた。

既に日は、落ち始めている。
斜陽が、赤く燃えている。

地獄の亡者共は、レイチェルへと群がるその勢いを増してきたようにも感じられる。
群がるそれらを拳で、肘で、脚で。蹴散らしながら、まずは距離をとる。

『オレに求められてるのは、同化は同化でも、見た目、姿形を変えるって訳じゃねぇんだよな……
 あの口振りだと……』
思考する。その隙に彼女の後頭部を狙う、豪速の腕。
察知。身を低く屈める。掠めていく爪。

『だとしたら、変えるべきは内面なんだろうが……心一つでこの状況が変わんのかっ?』
足元を掬うように払われる巨大な腕。
軽い跳躍。回避。

地獄から這い出てきた彼らの攻撃が止むことはない。
走り出しながら、レイチェルは思考を続ける――。

五代 基一郎 > 「そうだレイチェル……考えるんだ。いや、人は皆考え続けなければならない。」

特に、そう特に異なる力を持つものであるならば。
特に、そう特に異なる世を渡ったものであるならば……

異なるものとは、そこにある大多数との異なるものでありマイノリティ。
マイノリティであることが悪いことではない。
しかし大多数がそこで社会として、世界を形成している以上
そこに何も考えずに入ればただ異物として吐き出される。
白い布に現れる一点の染みのように……

故に考え続けなければならない。
自分”エゴ”のことだけではない。自分と他者と……世界とを同調させる。
それはそこの社会に、世界にいるものであるから用意にできることではあるが
異なるものであれば意識して行おうとすればするほど難しい。
異邦人であり、異種族であれば尚更。

レイチェルはその体だけ見ても、人とは大きく身体能力が違う。
違うが故に素行に、無意識下に出る挙動がいくらなれてもズレを生む。
故に、小さなそこだけとっても大きな違和感を産む……

だからこそ今、それを強制的に露わにし意識させ続けることを強いる。
地獄の亡者共という死に近く、そして人とは異なる存在達の前に引きずりおろすことによって。


そしてそれらを操る”心”を形作らなければならない。
なぜか。それはレイチェルの身体能力は前述した通りに人を容易に超える身体能力を持つ。
故に、何でもではないがその力により可能な限り解決できることは解決しようとしていた。
可能でなくても……だろうが。
それを過信か、慢心かと言えばそうであろうし……何より些細な事に強大な力を振るうことは果たしてとなる。
その時に必要な、応じたことが必要となる……端的には他者に任せると言ったが
それと同じくして、自らが出来ること出来ないことのほかに
するべきこと、するべきでないことも判断する……

身体的なものではない。力のコントロールとは
自らを律する心にある。即ち自身という存在のコントロール……制御を司るのは
一つの心。
そこで、その場所で自らの心をどう置いて自分の存在を制御するか……
それを体系や理論ではなく、実践でわからせようというのだ。

最もそれは並大抵なことではなく、すぐには理解できないだろうし
なまじ吸血鬼とサイボーグいう高すぎる身体能力が足かせになるかもしれないが
だからこそそれらを持つ自信を制御しなければならない。
制御し、周囲に同調させる……

そのためには、考え続けなければならない。
この地獄のような場所で如何に亡者共と違和感なく同調できるかを……

■サマエル>「いつまで持つかな」
「持たなかったら、引き上げてくれよ」

レイチェル >  
思考しろ。  思考しろ。  思考しろ。
自らに言い聞かせ。
躱す。    避ける。   逸らす。

再び、走りだす。

今求められているのは、普段とは異なった思考のベクトルである。
戦いにおいてはその行動選択に割いている頭のリソースを、
今は別の思考へと向けなければならない。
故に身体の動きは迷いのない普段のそれに比べて、いくらか劣る。
迷いから動きが鈍るのは人間のみではない。特異な生まれを持つ彼女とて、同じなのだ。

「くっ……!」
背後から衝撃。
爪が皮膚と肉の表面を、背中から腰まで一直線に裂く。
痛みに顔が歪む。思考も解けかける。
しかし、踏みとどまる。彼女は思考することを止めない。
背中の血や怪我を気にすることもない。
ただただこの状況で如何にこの亡者共と同調するか、と。
ただただその点を、実践の中で模索していく。

『同調、同調……つまりは奴らにオレが合わせる必要があるって訳だ。
 姿形じゃねぇ、精神ってやつを……郷に入っては郷に従えなんて、先人共は
 簡単に言ってくれるが……さて……一か八か、案はあるにはあるんだがな……』

走りながら思考する彼女の中で、一つの考えが少しずつ芽生えつつあった――。

五代 基一郎 > これは難題である。

レイチェルがどう行き着くにしろ、これは極端であり
かなりの無茶な試験である。荒療治と言ってもいい。
それぐらいに、レイチェルの存在はやはり突出している。
故に、ただ人の中で馴染む……存在を落とす……殺すことは容易にできるかもしれない。
だがそれは一年程度かけて慣れたものはまたフィルターとなり邪魔をする。
これから送り込むのは平穏な、緩やかな日常の世界ではない……

故に、文字通りその強い存在を薄くするのではなく殺すほどにまで
殺しても御する程度に己と世界を同調させなければならない。

それは、とても、難しい。
なにせそれこそ亡者共は生者にあらず故に……

■サマエル>「考えることは苦手なのか、だいぶ手が鈍いな」
「だが光明は掴みかかっている。悪くない。この方法を選んだのは正解だな。」

レイチェル > 『あれこれ考えながら、受動的に戦うってのは……いつか必要になる日の為に
 慣れとく必要があるって分かったぜ……ったく』
心の中で悪態をつきながら。
しかし、レイチェルの動きは先程までと違い、機敏なそれへと戻っていた。
血を求め肉を削ぐ亡者の連撃を、躱す、躱す、躱す、躱す、躱す――。

『合わせろ、奴らに合わせるんだ――』
背後を振り返る。
レイチェルの血を肉を貪らんと襲い来るそれは、まるで理性の感じられない様子で
疾走しながら、彼女を追いかけてくる。

『奴らに、まともな心があるとは思えねぇ。あの血肉を求めて走り回るだけの怪物共に
 心があるとは思えねぇ。奴らは心も感情もねぇ、化け物共だ。なら――』


『オレも、個性《心》を消してやる……!』
思考はしながらも、己の心は殺す。
そして、周囲へと溶けこむ。
口で言うのは簡単だ。しかし、実践となればそれは、一朝一夕で出来ることのようには
到底思えなかった。
しかし、彼女はそれを実践することとした。やるしかない。一か八か――。
自らの考えを迷わず行動に起こす。
それは彼女のデメリットであるかのように思えるが、同時に最大のメリットにもなり得る。

目を閉じる。視界が闇に閉ざされる。
しかし同時にその闇の中、自らの思考が、心が、浮き彫りとなる。
脳内に響く音を、思考の外へ。痛みも。追いやる。

そうして彼女の脚は、少しずつその速度を落としていく。
それは、鈍りではなく、意図的なものであった。

五代 基一郎 > 「いいぞ、そうだ……」

まるで炎を通してその姿を見る様にレイチェルの姿を感じる。

その気配が徐々に消えていくことを。
闇と同化しつつあるそれを。

地獄の亡者たちがレイチェルを求める理由は一つ。
生気。視力、聴力、嗅覚や舌……それらではなく本能的な心で捉えていたそれ。
生きている者を取り込み冥府に引きずり込もうとするもの。
生きている血肉を取り込み食い、少しでも生気を得ようとする餓鬼畜生。

それらが求めるものが……求める先が”無”に近づけば近づくほど
亡者たちはそこにあったものを見失っていく。

レイチェルの存在が、心が、闇と同化していくにつれて
亡者たちの足は鈍り……そして、レイチェルという存在を見失った者達から
闇の中に溶けていくように……消えて行った。

■サマエル>「まずは、と言ったところか」
「そうだな。だが十分だ。元々そちら側の素養はあるんだろうけどさ。
 消すことに躊躇いも時間も必要なかった。」

時刻はもう、随分と経っていた。
空は紫色に変色し、大地との境界は揺らめく灰色が漂っている……

レイチェル > 元より目の前の亡者共に対して、『恐怖心』はない。
それこそが、この状況下での彼女の強み。
亡者に臆して逃げ惑う者達とは違い、レイチェルがこの状況下で心を殺すのは、
比較的容易であった。恐怖、という感情が希薄であるが故に。
あとはその他雑多な感情を、取り除けばいいだけだ。

心を殺す。
無論完璧とはいえぬが、一種の無我の境地――その入門とも言えようか。
次第に、レイチェルの内面は死者に限りなく近いものとなってゆく。
そう、今や彼女の精神は、周囲の地獄の亡者達と同化しつつあった。

疾走は小走りになり、やがて歩みになり――彼女は、足を止めた。
小さく、しかし深く。落ち着く為の呼吸。

『そうか、心を同調させる……周囲と同じ色に染まることこそ――』

灰色の心の中で、思考だけは走り続ける。

『オレは一つの染みではなくなる――この世界の中で――』

金のツーサイドアップが風に揺れる。
斜陽がその輝きを失い始め、世界に暗闇が訪れるその時には。
レイチェルの背後に在った筈の亡者どもの姿は、すっかり消えてなくなっていた。

あとにはただ独り、暮れゆく日の中で独り立っている少女の姿のみがそこにあった。

五代 基一郎 > 「いいじゃないか。最初にしては上出来だし合格点かな」

■サマエル>「課題はあるがな。例えば世界と同調することで体を動かすまで思考は働かないことか。」

レイチェルが次に聞いたのは、亡者の声ではなく男の声としわがれた怪鳥の声。
亡者さえも暮れていくこの荒野でただ二人と一匹がそこにある。

「あとは日頃からでもシチュエーションをいくつかにして訓練することかな。
 どう?自分という存在を放して世界の色と同じになった感想は。」

比較的容易に出来ただろうことからもあるが、その特異な気配を消す姿。
恐怖心の無さから出来た無謀からのものか。それとも心が少し、成長したのか。
それとも……もとよりそちらの素養があったか。
それはわからないが……

「それとも、疲れてそこまで考えられないかな。」
■サマエル>「無我夢中というわけではあるまい。」

しわがれた声は、笑っていた。

レイチェル > 「……はぁ、ったく、慣れないことすると疲れるぜ、マジで」
五代とサマエルの声を聞き、そちらを見やり。
困ったように彼女は笑った。


「……そうだな。不思議な気分だったよ。これまでに経験したことのねぇ
 気分だった。まぁ、悪い気分じゃなかったぜ」
そう口にして、肩を竦める。なんとなく元気がない。
疲れているのは本当らしかった。

「慣れねぇことして疲れたのは確か、だ。
 しかしやっぱり徒手空拳は合ってねぇな。シャワー浴びねぇと今にも死んじまいそうだ。
 制服も結構やられちまったし……」
何匹もの亡者どもを素手で文字通り砕いたのだ。今の彼女の身体は結構汚れていた。
身体に出来ていた傷はすっかり塞がってはいたが、制服に彼女の、
そして亡者共の血が付着している。

五代 基一郎 > 「最初はそういうもんだよ。変わる、成長していくということはそういうことさ」

段々それができることが、することを慣らしていく。
慣れていく。そうして……自分が同調、同化させていくことで
より自分というものをはっきりさせることができる。

「心ある者なら、他者と比較することで自分の存在を浮き彫りにすることができる。
 他者を鏡のように捉えることで自分の存在を確かにできたはずだ。
 副次的なものかもしれないが、自分が何者かを確かにし続ければ
 どのように世界に溶け込もうと自分が自分でいられる。
 こちらの世界でのとは違うけど、他者により多く寄りかかる部分がある種なら尚更じゃないかな」

もっともそれは先であり……それこそその先にあるものなのだが。
まだその片鱗だけでも手に入れられただろうことで今回は十分であると。

「治りが速いな。これならレイチェルに俺の”血”は必要なさそうだけど……
 いや、申し訳ない。制服についてはなんというか、申し訳ないな……
 代わりを用意しないといけないんじゃないか。」

疲れた様子、というよりボロボロに近い……子供が泥遊びや野を駆け廻って
ぼろぼろになったのとはまた違うのだが、そのような印象を受けるそれを
間近でみて、また近くに寄り傷の具合を見て呟く。

「うちで浴びてく?このままで女子寮は帰るのまずいだろうし……」

風紀の活動で、でならある程度言い訳はできるが何をしたかどうのと聞かれればその限りではない。
実際それらとは全く関係ない所でのだったが故に、あまり詮索されるような姿ではどうかであろうということでの提案であるが。