2016/11/02 のログ
五代 基一郎 > 「何のためも何も、この前と同じじゃないのか」

手が。
音音の首に回していた位置から、下がり、その腹部に触れる手に重なるように
動く。それが何のためなのか。そんなわかりきったことを聞くのだろうかと。
そして、そのために異能を使ったことはあったじゃないかと。

「確かにその過去は変わらないだろう。でもこれからを変えることはできる。
 そう。生まれてくるこの子のために変えることはできる。その先にことを君自身が変えることができる。
 生まれてきたこの子は、どうあれ彼らから愛される存在になれる。」

正直俺はあのお二人どうでもいいんだが、そういうわけにもいかないのであるしと
それらが些事であることは伝えつつもまた、言葉は続く。

「彼らが望んだ都合の良いものでない場合どうなるかは君も身をもって知っているだろう。
 それが子であっても自分の望まない存在にどのようにするかというのをさ。
 勿論親と子でない分、距離がある。危険はないかもしれない。
 でも起こりうることでもある。直接的でないかもしれない。」

君が親から愛されなかったとしても、俺がこれからも愛するからかまうことではない。
それまで以上に、それ以上に愛そうともささやき。
これからのことを考えれば、そうは思えないかと続き、また

「普通の人間を意のままにしろ、と言っているんじゃないんだ。
 自分の都合のいい存在に変えろ、というものじゃない。
 ”敵を無力化しろ”と言っているんだよ。そこは勘違いしてもらっては困る。」

その声は、いつかの黄昏時がどうのと話していた時と
同じ声色だった。

綾瀬音音 > ―――――――ッ、……………、
(あれは、と口にしようと思うが声にならない。
確かにそうだ。
自分が、“自分達が”虐げられないために、ねじ伏せて、奪い尽くした。
望んだことではないにしろ。
いや――それを望んでいたのか。
それは解らない。
本当に、解らないのだ。

重なる手は暖かなもののはずなのに、いやだからこそ縋るようにその手指に自身のそれを絡め――)


それ、は、そうかもしれないですけれど――。
そりゃあ勿論、お父さんとお母さんがこの子を愛してくれれば、と思います。
だけどそれは異能を使って歪めてまで――

―――――――。
………………………。
知っていますよ。
知っていますけれど、だけど、それは、その――!!

(上手く、言葉に出来ない。
彼の言うことは正しい。
そうだろう、愛してくれる祖父母をこの子に“用意”するのは簡単で、そして、それが自然に生まれる可能性は低いのだ。
生まれてくる子とて異能者――自分と同じ存在だ、疎まれたとしても可笑しくはない。
自分と同じ扱いを受けると思えば、身体が酷く冷える気がするし、とてもそれは恐ろしいことだ。
そうでなくとも、無下にされれば、矢張り気分の良いものでもない。

だが、彼から見れば他人であっても、自分から見れば彼らは親なのだ。
どうでもいい、と言われても腹立たしいわけではないが、自分はそう簡単に割り切れるものではない。
割り切れたら、もっと違う形の“家族”と言う共同体になっていたはずだ。

囁かれる愛の言葉は嬉しいものであるはずなのに。
いや嬉しいのは変わらないし微塵にも疑ってはいないのだけれど――。
なんであろうか、この、落ち着かなさは)

―――――“敵”なんですか。
お父さんとお母さんは。
いや、危害を加えてくるなら確かにそうなんですけれど、その、ええと――。
それはきっと簡単に出来ると思うんですけれど、
でも、それは、
(自分でも何を言っているのか解らなくなる。
彼の声が、暫く聞いてい無かった声音であるものだったからのも事実だし、
これは“愛情”の話ではなく“危険回避”であったり“敵をどうするか”の話だったせいでもある。
そして、それは簡単に――いとも容易く出来ることなのだ。
たった自分の意思1つで。
視線1つで。
彼が言っていることは間違っていない。
しかし、きっと正しくもない。

だが、自分が答えを用意できるかと言えば、否なのだ。

だって、両親を歪めてしまうことは。
1つ、自分の想いを捨てると同じだ。
だから、したくはない。
叶うことが無いことは解っていても。

彼の声音は言い聞かせるものでも、依頼でもなく。
どちらかと言えば命令に近いような、そんな気配すら感じながら。
ぎゅっと絡めた手指に、力が篭もる)

五代 基一郎 > 「それでは守れないな」

自分ひとりの身なら問題ないだろう。
問題があっても、問題ないと誤魔化せるだろう。
だがそこに、また別の者が絡めば話は別になってくる。

「敵を敵と認識できないようでは守ることもままならないものさ。
 敵ではないと、それが受容されるべき相手と環境であるとすれば事はないだろうが
 その手が自分が守るべき対象に移った時にはもう遅いんだよ。」

断定できるが綾瀬音音がこの先両親に愛されるというようなことはないだろう。
16かそこらの娘の年齢まであの対応であり、帰省のときも厄介払いの対応だ。
一応の社交的な対応はするだろうが、実際は遠くに行けばというのが透けて見える。
言えば関わりのないところで死んでくれればという程度というものだろう。
その先にどうなるかわからないが、異能者の子供が出来ればさてどうなるか。
その辺りは確実にこうと言えるものはないが、何と出るかわかるものでもない。
無いか、あるかのものだろうが。
あれば良いものではないことなど、わかりきっている。

「きっと両親はそうではない。
 普通の家庭ならそうだと盲目的にまだ信じているのは、よくないな。
 敵である、じゃなくてさ。
 敵になるんだよ。自分を産んだ存在でさえ。それが人間なんだ。
 幻想的に夢を見るような存在ではないよ。
 
 いいかい。異能の行使が良し悪しというのは一体何に拠るものか。
 君がこれから先何のために自らを置くか。それをよく考えるといい。
 世に黄昏時などないし、昼も夜もないのだろう?君も言っていたじゃないか。
 そう、この世界はもうこの世界なんだ。混沌とした世界だ。
 だから、君が決めるといい。これから先を、どう生きるか。
 何のために生きるかをさ。
 そして何かを守るならば、何かを傷つけることも考えなければならいないことも。」

そうして、そこまで絡められていた……絡めていた指を
ゆっくりと解いて、また立ち上がり……また、テーブルの席に戻る。

「帰省、楽しみだね。向こうは食事がおいしいからなぁ。」

何を食べようとか、今度は落ち着いて色々食べたいねとか
そんな雑談をいつものように話し、続けた……

綾瀬音音 > ――――――――。
(何を守りたいか、何を守るべきかなんて、はっきりしている。
考えなくても解ることだ。
天秤に掛けるまでもない。
今はもう既に自分は自分だけのものではないのだ。

だけど、と言う躊躇いは消えない)

それは、理解できます。
確かにこの子が、と思えばそれを躊躇う必要はありません。
先手必勝というわけではないですけれど、何かが起こる前に対処できるなら、出来るに越したことはないです。
不安の芽は潰すに――越したことはないです。
(力なく、そう告げる。
以前実家に帰った時の両親の反応を思う。
決して17歳の娘が孕まされた相手を連れてきた時の反応ではなかったのは、解っている。
解っているのだ、解っている。
希望という名の幻想に縋っているだけの位。
子供が生まれれば――彼らにとっての孫ができれば変わるかも、と言うのは、それこそ幻想だ。
両親は異能者を、認めないのだろう。
彼と話せば話すほど、それは確信に近づいていく――)

――信じたかったんですよ、それでも。
信じられなかったら、それこそ私は“私”じゃなかった。
そんな幻想を抱えて、ずっとそうやって来たんです。
私は―――――

良し悪し、の問題ではないのかもしれません。
ねじ伏せられたくなければ、捩じ伏せるしか無い。
そこに善悪は挟む余地は殆ど無いです。
だって、そうでしょう?
力こそが全て、という事はそういう事です。
善悪すら捩じ伏せるのがそれです。


――――――何を選ぶか――何のために生きるか、なんて。
そんな事は訊かれたら答えは1つに決まっているじゃないですか。
先輩と、この子を取ります。
更にどちらかは、選べませんけれど。
(例えば両親と、彼らを、というのなら間違いなく後者を取る。
どれだけ悩み苦痛を伴おうともそれらを選ぶ。

決まりきっている。
だって、もう失うことは考えられないのだ。
自分でも愚かだとは思う。
だけど、本当にこの二人を失ったら、もう自分は自分ですら無い。
依存と言えばそれまでだ。
だけど、そこにあるのは矢張り狂おしいまでの愛情だ。

名残惜しげにもう一度力を込めて、あとは素直に解かれて)

そうですね……どうせ家には泊まれませんし、ご飯の美味しいホテルか旅館でも泊まりますか。
温泉も入りたいですし
(へらっと笑いながら、いつもの雑談に紛れ込ませる。
先程まで繋がっていたのに指先は、冷たかった)

ご案内:「自宅」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「自宅」から綾瀬音音さんが去りました。