2017/01/15 のログ
寄月 秋輝 >  
「これは失礼」

ぺろりと血をもう一度舐めとり、低空を飛んで荷物のところへ。
中から救急箱を出し、脱脂綿に消毒液を染み込ませて鼻に詰め込んだ。
これで正面からは特におかしな顔に見えないだろう。

「……さて、改めて。
 前回の大会と比較しても、かなり成長しましたね。
 僕はとても嬉しいですよ」

うむ、と一つ満足そうに頷いた。
敗北を糧に、十二分な訓練が出来たようだ。

八雲 咲雪 > 問題はないだろう。
安心して、寄月の言葉にこくりとうなずく。

「といっても、まだ足らない部分は多いけど。
もっと速く、鋭く動けるようにならないと」

相手は、まるで自由に泳ぐ魚のように、ぬるりとした動きをする。
ならば、もっと尖らせて。
もっと鋭く、機敏に動いて狩る。
そう、考えた。

寄月 秋輝 >  
「その通り。
 速く鋭く、それ以上に咲雪には自由度がまだ足りない」

ぴっと指を一本立てながら言い放つ。

「まだまだ、咲雪は空を『飛ぶ』感覚が抜けていませんね。
 なので、今日からはそれを払拭する訓練をしましょう」

にこりと笑った。
けど、ちょっとだけ細めた目の奥がこわいえがお。

八雲 咲雪 > ちょっぴりびくりとする。
あれ、なんかいやな目が見えた気がする。

「……ちょっとだけ、お手柔らかにお願いします」

嫌とは言わないけれど。
でも、しごきがきついのは否定できない。

寄月 秋輝 >  
「大丈夫、普段の訓練はむしろ短くしますから」

くすくす笑いながら、咲雪の反応を見つめる。
鞄の横に置いてある、ちょっと大きな箱をぱかりと開けた。

「……そんなわけで、プレゼントです」

その中には、新品のスウィング。
それも咲雪の使っているものとほぼ同じ型のものだ。
ただし、足だけ。

八雲 咲雪 > 「!!」

耳があればぴょこんと立っていただろう。
それぐらい大きく驚き、がばりと食いつく。
新品のS-Wing。
最新モデルとかそういうわけじゃないが、しかし新品。

「……プレゼント、ですか?
なにかありました?」

冷静を装えていない冷静な声で尋ねる。
はて、誕生日だったかなと思いつつ。

寄月 秋輝 >  
「ええ、これから咲雪は一日中、これを着けてもらいます」

一日中。
迷わずそう言い切った。

「今後、朝目覚めてから、夜入浴までの間、これを外すことを禁じます」

優しい笑顔は変わらない。
だが言っていることは無茶苦茶だ。

八雲 咲雪 > あれ?と首をかしげる。
お祝いの品じゃない?

「……寄月さん。
これ、お祝いの品、とかじゃない?」

脳裏に浮かんだのは、矯正装置とかなんかこう、鍛える系のもの。

寄月 秋輝 >  
「一応、三位祝いでもありました……でも調達に時間がかかってしまって。
 でもこのために渡そうと思って購入したものですよ」

それなりに懐には痛かった。
それでも、この特訓には必要なものなのだ。

「咲雪は何時間くらい飛び続けられますか?」

本題はここからだが。

八雲 咲雪 > 「……例えば、全国大会レベルで動き続けた場合ですけど。
3時間いくかは怪しいです」

地区大会程度ならば、よほど強いのが来ない限り、余裕をもって飛べるために3時間はいくだろう。
が、全国大会となると気を張るのと同時に、技の多様、思考速度、情報処理といろんな要素で力を使うために、すぐにへとへとになる。

寄月 秋輝 >  
「ではそれを14時間まで引き上げましょう」

さらりと言い放った。

「日常生活の全てのリソースをそのままに、常に飛び続けてください。
 通学中はもとより、授業中、食事中、常にです」

今回は内容を緩くしてあげるわけにはいかないのだ。
これが出来なければ、現チャンピオンには勝てないのだから。

八雲 咲雪 > 「………」

まじですか、という顔。

「……ずっと……ですか……」

本当に、ただ飛んでいるだけなら4時間はいく…はずだ。
もちろん試したことはない。
しかし、それを大きく越して14時間。
えぇ……と困った顔をしている。

寄月 秋輝 >  
「ずっとです。
 ちなみに僕もやっていますよ、昔から。
 ここ数年は地面に立っている時間の方が短いくらいです」

足元を指さすと、やはり10センチ程度浮いている。
思い返せば、浮いている秋輝の姿しか記憶にないかもしれない。

「これは僕が飛んでいる状態が当然になるまで続けた訓練と同じものです。
 こうすることで、空中での制動をとにかく安定させました。
 なので咲雪にも同じようにしてもらいます。
 ……彼に勝つために、必須の訓練です」

目を細めたまま、そう呟く。
これがこなせなければ、正直お手上げだ。
咲雪が空に『居る』レベルまで引き上げるのに、これ以外の手が思いつかなかった。

八雲 咲雪 > 「……わかりました」

授業中ともなると、かなり大変だ。
空気椅子をやれといわれているのだから、まぁなんとかやるしかない。

「つまりこの靴、それように調整されてるってことですか?」

寄月 秋輝 >  
「え? そんな調整があるんですか?」

鬼畜な発言が飛び出した。

「どんな姿勢でも安定して。
 どんな環境でも無心で。
 飛ぶことが自然になるようにしないといけません。
 そもそも普段飛ぶ設定と同じでないと、意味が無いんですよ」

続く言葉は説得力があるかもしれない。
そういう飛び方をさせなければいけないのだ。

八雲 咲雪 > このコーチ、鬼かな。
そんな思考が浮かんだ。

「……そんな調整があるのは私も聞いたことないですけど。
……コーチ。サディストって言われたことありませんか」

めちゃくちゃジト目で寄月をみる。
まるで地獄の底にいる亡者をみるかのような目だ。

寄月 秋輝 >  
「いえ、言われた覚えが無いですね。
 僕を鍛えた人はサディストのバケモノでしたが」

しれっとしている。
自分には身に覚えのないワードだ。

「……そんなに嫌そうな顔をしないでください」

居心地の悪そうな顔で呟いた。

八雲 咲雪 > 「いいです。
強くなるためならなんだってします。
たとえコーチがサディストで私が頑張ってるのをにやにやしながら見ている変態さんだとしても、私は従って強くなります」

はふぅ、とため息をしてそんなこといいつつ。

「だから、私のこと強くしてください。
勝ちたいので」

寄月 秋輝 >  
「うん、よろしい」

満足して頷いた。
この子はひたむきに努力する。努力出来る。
だからこそ、こうして教えていて楽しいのだ。

「これから二か月くらいは、飛行訓練は無しにしましょう。
 多分学園から帰るころには、もうへとへとでしょうから。
 ただしその間、絶対に浮かび続けてくださいね」

八雲 咲雪 > 「……あの、最初の一週間だけ、補助してもらってもいい、ですか。
たぶん、帰るのもままならなくなってると思うので……助けて、欲しいです」

へとへとどころか、飛んでいるのも怪しいかもしれない。
おそらく、部屋に戻ったらすぐにお布団にINだろう。

寄月 秋輝 >  
「ええ、もちろんいいですよ。
 あ、入浴から睡眠の間は外していてもいいですよ。
 ゆっくり休んでくださいね」

補助は確かに必要だろう。
あの頃の自分も、正直死ぬかと思いながら過ごしていたし。

それを思い起こすと、彼女がどうなるか楽しみでもある。

あ、サディストの変態ってそういうことか、と納得してしまった。
これは否定できない気がする。

八雲 咲雪 > こくこくとうなずく。
明日からは地獄の日が始まるのか、と若干つらくなりつつ

「……それでは、ありがたく受け取ります。
ありがとうございます」

ぺこりとしっかり頭を下げて、新しい靴を受け取る。

寄月 秋輝 >  
「どういたしまして。
 あ、そうだ」

ぽんと手を打つ。

「それは足だけに着けて、日常生活を送ってください。
 訓練の時は、いつも咲雪が着けているものを使いましょう。
 普段とは勝手が違うかもしれませんが、背中のS-Wingは着けないように」

大事な部分を伝えなければならない。
これで背中に着けたら意味がないのだ。

「僕の感じる限り、足のS-Wingだけという状態が最も空中に居る上で自然でした。
 なので足だけで慣らすようにしましょう」

八雲 咲雪 > 「……?背中はなし、ですか。
いいですけど……」

足だけはバランスがとりにくいのだ。
咲雪でもわりと姿勢維持に体力を費やす。

(……一週間だけの補助じゃ、きついかも……)

なんておもってたりする。

寄月 秋輝 >  
「無しです。
 それで慣れたら、背中に着けた時に驚くほど楽になりますよ」

基本となる状態を完璧にすれば、自然と全体の動作がよくなるものだ。
それが狙いなので、外すわけにはいかない。

「辛ければいくらでも付き合います。
 なので最後までめげないように。
 最低半年は続けますからね」

八雲 咲雪 > 「……そのときは介助、おねがいします」

おそらく、一週間以上。
一か月は介護状態になるかもしれない。
おとなしく女子寮まで運んでもらおう。

「とりあえず明日から、ですよね。
今日はもう終わりにして……寄月さん、家まで送りましょうか?」

さっきお鼻から垂れ流してたもんね。

寄月 秋輝 >  
「……家に送りましょう、はこちらのセリフでしょう。
 何を言ってるんですか」

困った顔で呟く。
さっきの鼻血のことなんてすっかり頭から抜けていた。

「さあ、帰りますよ。
 ……の前に、甘い物でも食べていきますか?」

年長者らしいことを言っておいた。

八雲 咲雪 > 「食べますっ」

ずいっと詰め寄り、甘いものを要求する。

「食べに行きましょう、甘いもの。
確かどこかのカフェテラスにおっきくてイチゴがくさんのったパフェがあると聞いてます。
寄月さんのおごりで、ぜひともいきましょう」

さぁ、はやく。と手を引っ張る。

寄月 秋輝 >  
「わかりました。
 ……わかりましたから、引っ張らないでください」

しれっと奢りにさせられたが、まぁいいだろう。
この子が目を輝かせているのは、実に可愛らしいものだ。
明日からの地獄に備えて、今日くらい甘やかしてもいいだろう。

「では行きましょう。
 夕飯が食べられなくならないように気を付けてくださいね」

八雲 咲雪 > 「大丈夫です。
――パフェでおなか一杯でも、生きていけます」

大丈夫ではなかった。
おそらく、誰かがセーブをかけなければほんとにおなか一杯にするだろう。

ご案内:「浜辺上空【スカイファイトエリア】」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「浜辺上空【スカイファイトエリア】」から八雲 咲雪さんが去りました。