2015/11/02 のログ
■美澄 蘭 > 速さが一定の段階までくるのを見計らっていたかのように、高音の旋律が溢れ出す。
それに伴うように、2つの音が細かく交互に鳴らされ始め…明るい草原を渡る風のような、透明感と軽快さを備えた旋律が始まった。
■美澄 蘭 > 軽快な旋律が段々音程を下っていき、細かく2つの音を交互に鳴らす伴奏と旋律の高低が入れ替わる。
低音の旋律はやや曇った響きを持っているが、旋律に刃を入れるように鋭く入る高音が、その曇りを打ち消す。
そして、低音の旋律は、低音に相応しい包容力を備えたものに変わった。
■美澄 蘭 > 低音の旋律と類似の旋律が、高音から溢れる。
そして、軽快な旋律の始まりを思わせるフレーズが再度現れたかと思いきや曲はどんどんゆるやかになっていき…
そして、曲の表情はほのかに艶を持ったけだるげなものに変わる。
■美澄 蘭 > ゆったりとした響きの中で、引っかかるような装飾音がけだるさを演出し、
子守唄のような低音の旋律のうねり。
そして、ゆったりと分散和音風に高音へ向かう動きが静かに強調された後、曲のテンポは軽快なものへと戻った。
■美澄 蘭 > メインテーマとも言うべき旋律が、澄み渡る高音で再度現れる。
和音も、細かくたゆたう伴奏も、それに合わせて透き通った響きを伴った形に変わっている。
伴奏は、時折大きく分散和音風に大きく音の幅をとって動いた。
■美澄 蘭 > 前半であれば音程を下って低音と入れ替わっていたようなところで、旋律と連動するように鳴らされる和音が響きに華を添える。
そして、メインテーマが薄れるように消える…かと思われたところで、渦を巻くかのような、勢いのある音のうねりが始まった。
更に、高音が力強く畳み掛けられる。
最後に、流れるように高音へ向かう装飾音がフォルテシモで奏でられる。
最後は、高らかに高音を4つ、刻むように強く響かせて「アナカプリの丘」は終わった。
■美澄 蘭 > あまりしっかりファンデーション等は塗っていないのだろう。
細かい動きを正確に弾くための集中が一旦途切れたのもあってか、その頬はわずかに紅潮して見える。
「………」
口の動きに注視していたならば、1つ、息を吐いたのが分かっただろうか。
気持ちを切り替えるように大きく1つ瞬きをしてから、次の曲…「沈める寺」に臨む。
■美澄 蘭 > 冷たさを感じるほどに澄み切った高音の和音が、まず1つ叩かれる。
決して音量は大きくないが、ペダルの効果か、会場全体に残るように響いた。
その響きを残したまま、神秘的な和音の動きが、低音の水底で鈍く蠢くようなわずかな動きが入り、また高音の和音が響く。
雪のしんしんと降る風景を思わせる、そんな静謐な響きが会場に満ちた。
■美澄 蘭 > それが繰り返された後、高音が数度そのまま叩かれる。
拍子も、調性も感じられない、静止した空間を、時間をそのまま曲にしたような、冷たく透明な響きの和音での動きがしばし続いた。
低音のうごめきの後、間に高音の和音を挟みながら山なりに音程が上下する和音での旋律が繰り返される。
その中で、徐々に曲の響きが明るくなっていく。
ピアノの響きも、徐々に強められているようだ。
■美澄 蘭 > そして、訪れる1つの頂点。
強く奏でられる光が舞い散るような和音と、そこから訪れる、神聖な響きすらある和音の旋律。
荘厳な和音がどんどん音程を下っていって厚みを増していく。
■美澄 蘭 > その厚みを極限まで持ってきたような、穏やかな荘厳さのある、コラールのような和音の連なり。
ペダルを活かして、荘厳な響きで会場を満たさんばかりに、鍵盤を叩く。
■美澄 蘭 > コラールのような和音が終わる中で、細く光が導かれるように、音が段々細くなりながら昇っていき…
最後に、冷たく無機質な不協和音。
それでも、その冷たさが曲の中にあっては心地よいので、恐らくミスタッチとは違うのだろうと思われた。
和音が繰り返し奏でられながら、徐々に存在感を希薄にしていく。
冷たい白で、塗りつぶされていくかのように。
■美澄 蘭 > 低音が、ぽーん…と、やや息苦しい重さを伴って響く。
それから、温度の低い優しさの篭った旋律が、低音でぽつりぽつりと、わずかな抑揚を伴って奏でられた。
奏者の少女が、細かな強弱のニュアンスにまで気をつけて演奏しているのが、聴衆に伝わるだろうか。
旋律に伴って鳴らされる音が徐々に増えていき、和音になる。
旋律の音程が、徐々に高くなっていく。
抑揚の基準が、徐々に強く強くなっていく。
■美澄 蘭 > 一際高い音を響かせた後、曲は徐々に響きを衰えさせていく。
勢いの衰えとともに音程も再び下っていく。重苦しい低音が、会場に響いた。
そして、曲が静止してしまうかと思われた瞬間…再び、優しい旋律が流れ出す。
先ほど奏でられた重厚なコラールを、子守唄に流用したかのようなメロディだった。
■美澄 蘭 > フレーズが1つ終わると共に低音が鳴らされ、そこから神秘的な和音の上昇が再び立ちのぼる。
最後に、清らかな高音の和音を鳴らした後、荘厳な低音の和音の余韻を残して、曲は終わった。
ご案内:「常世大ホール ピアノ実技受講生発表会」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > ──友人がピアノの発表会に出ると聞いて、それも偶々予定の空いている日だったから。
芸術に関しては疎いどころの騒ぎではない七生も、せっかくだからと会場を訪れていた。
「……はぁー……。」
開始前に席に着いた時は、途中で寝てしまわないかと自分でも不安たっぷりだったのだが、
幸いそんなことは無く、現在に至るまで観客席にて大人しく一部始終見届けられていた。
……少しだけ、落ち着きが無く一曲ごとに座り直したりしては居たけれど。
■美澄 蘭 > 低音の余韻が完全に消えたところで、鍵盤から指を離す。
それからゆっくりと椅子から立ち上がって客席の方に数歩、足を進めた。
それから、大きく一礼。
結局、化粧をしたとはいえ唇と目元以外ほとんど手を付けていなかったのだろう。
演奏をやり遂げたという感慨に頬を紅潮させ、達成感に瞳を輝かせていた。
■東雲七生 > 音の余韻が鼓膜を震わすことが無くなってから、一拍置かれて。
奏者が静かに席を立ち、こちらへ向けて一礼すると。
周囲の客席からぱらぱらと拍手が起こった。
七生もハッと我に返ってから、それらに倣う様に手を打ち合せる。
壇上に居る友人へとやや不慣れながらも労いの気持ちを贈った。
■美澄 蘭 > ぱらぱらと、拍手の音が聞こえる。
集中力と精神力を使い切り、ややぼーっとした頭で客席に視線を向けていると…見覚えのある、赤い頭が視界を掠めた。
(………東雲君?)
ステージ上、しかも授業の発表という形式上声をかけることは出来ない。
ただ、視線は少しだけ、東雲の方に留まっただろう。
それでも、それは本当に少しの間だけ。
奏者の少女は、姿勢を崩さないまま、スカートの裾をわずかに翻してステージから退場した。
■東雲七生 > 正直、凄いと思えた。
芸術に関しては丸っきりの門外漢である七生にも、美澄がどれだけピアノに、この発表会に打ち込んできたのかは伝わってきた。
その熱意に対し、素直に好感を抱ける。
「すげーなあ……あんな風に人前で出来るなんてさ。」
奏者が去り、拍手も引いた客席で。
七生は独りごちた。
■美澄 蘭 > 奏者が退場すると、ステージの照明が落ち、客席が明るくなる。
『以上で、「音楽実技授業履修生発表会」、本日のプログラムを終了とさせていただきます。
ご来場の皆様は、お忘れ物のないよう、お足下にお気をつけてお帰り下さい』
演奏開始前と同様、よく通る女性の影アナが会場に流れる。
その日の発表会はこれで終わった。
外はもう真っ暗、夕食にしてはやや遅いくらいの時間になっているだろう。
まだまだ発展途上の学生達の演奏なりに、聴衆の心に残るものはあったのだろうか。
もしあったなら…それは、音楽科冥利に尽きることに違いない。
ご案内:「常世大ホール ピアノ実技受講生発表会」から美澄 蘭さんが去りました。
■東雲七生 > 「……あんな風に、」
自分も人前で出来る事があるだろうか
ぼんやりと、そんな事を思案する。
だが、全く思いつかなかった。特にこれと言って他人様に披露できる特技が無い。
その事に気付くと、少しだけ劣等感にも似た感情が胸の裡に起こったのだが、溜息と共に消えていった。
別に人に見せられるものが無くても困るわけではない。
あまり目立ちたくない、というのが本当のところなのでむしろ好都合だった。
人知れず何かを達成できる、それだけで良い。七生は自分に言い聞かせるように呟いて、他の観客同様に席を立った。
「……まあでも、少し羨ましくも、あるかな。」
ぽつりと、緞帳の降りた舞台を一瞥して。
残した呟きと共に、七生は人波に紛れていく。
後でメールで感想を伝えよう。そう思いながら、帰路へ。
ご案内:「常世大ホール ピアノ実技受講生発表会」から東雲七生さんが去りました。