2016/08/14 のログ
ご案内:「海岸沿いにある旅館」に五代 基一郎さんが現れました。
ご案内:「海岸沿いにある旅館」に綾瀬音音さんが現れました。
五代 基一郎 > 一度、手を伸ばす。

差し出された手に一度手を伸ばすが止まる。

それを取ってしまえばいいと思う。
いいが、取ってしまえばもうそれこそ文字の通り……”取り返しのつかない”ことになりそうで
躊躇った。

どこかに行っても帰る場所になるから待っていると。
しかし失う恐れを覚えたのなら、もうどこにも行けない。
自分がいない間に消えてしまったら、帰れなくなったらどうなるのか。

それこそ変化だ。
気が付けばなくなっていたなんてことは、嫌だ。
だからこの手を取れば、もう帰る場所ではない。
彼女は自分がいる場所になる。

置いてどこかに行く、と言うことはできなくなる。
彼女を置いてどこかに行ってしまった者がいることを知っているからこそ……
置いていくわけにはいかない。連れて行くわけにもいかない。
なら……こちらが、そちらに行くように……もう夜の世界を歩くことはできなくなる。
真っ暗な世界を歩くことができなくなってしまったから。


その差し出された手を、触れる最後の最後まで躊躇ったものの
取ればすがるような手で掴む。
逸らしていた視線と体の向きが、夜の世界を背に映れば……俯いたまま
崩れて濡れた顔で、手を取った。

言葉は無かった。
何故なら迷子の子供が母親を見つけたように、ただ言葉もなく手を取っていただけの姿でしかなかったから。

綾瀬音音 > (―――――簡単なことではない。
それ位は解っている。
どれ程の葛藤があるのか、それまでは理解できなかったし、
でもそこに恐怖が全く無いわけでもないのは解っている。

だけれど、止まって手を見て。
それでも、手を差し伸べるのは止めなかった。

取ってくれても、くれなくても、それでも構わない。
そう思ったのだ。
それでも、きっと自分はここで待っているだろう。
そう思えたから、手を差し伸べることは止めることはなかった。

ただ静かに、彼を――彼だけを見て。
上手に笑えない顔で、それでも迷いなく、彼を見いていた)


――――――――、。
(どれ程の時間か、ほんの一瞬にも何時間にも感じられるような躊躇いの時間の後、伸ばした手を取られれば。


漸く、笑えた。
此方からも、掴み返す。
掴み返して、その手を引いて抱き寄せるように。
母親が子供を抱きしめるような自然さで、その体に手を回した。
よしよし、と泣く子をあやすように――出来たのだって、ほんの一瞬だ。



次の瞬間には、しがみつくように、離したくないと言いたげな強い感情で抱きしめた。
いや、抱きついた。
母親何て優しい物じゃない、それは女性が男性に向ける愛情と全く同じもので、
彼が自分に“それ”を求めなくても構わないというような、一方的でそれでも純粋な愛情で、
その自分よりも大きな身体を掻き抱いた。
自然と何かがこみ上げてくる。
手を取られてしまえば、此方からも取ってしまえば――もう、離せなかった)

五代 基一郎 > ”その行為”が何かはわからなかった。
だが”それ”が何を意味するかは染みるように理解させられていく。
体温が移りゆくように、その温度とともにそれが流れていくように。

流れればわかる。
自分の体がとても、冷えていたことに。
差し出された手が暖かく、差し出した手が冷たかったことに気付く。

時間など忘れて立っていたいて、別の世界に取り残されていたのかと思うほどに。
現世の実感が流れてくるように抱きしめられればそれが伝わってくる。

「……ごめん、待たせた。」

それが何とも何として伝えればいいか、応えればいいかと戸惑うように出たのは
今自覚した時間をということへの謝罪。他に言うべきこと、言うことはあろうけども……
それがまずまだそれこそただ今の宿からの時間だけではないような、待たせたという意味が含まれているような
何か言葉を選ぶような音で絞り出された。
声にはもう崩れた音はなく……

綾瀬音音 > ―――本当にです。でも、大丈夫です。
(謝罪の言葉に、彼の冷えた身体から顔を上げて、漸くいつもの通りにへらっと笑う。
多分、色々な意味の含まれる「待たせた」に、少しばかり拗ねたような口ぶりで答えながら。

先ほどの声とは違う、元の世界に――元の世界、なんてものがあれば、の話なのだろうけれど――帰ってきたような声音に自然と安堵を覚えて、指の先が白くなるほど握っていた浴衣から手を離した。

大丈夫だ。
そう、きっと、大丈夫)

……戻りましょうか。
先輩の体、ちょっと冷えすぎです。
(抱きついていた身体から身体を離して、幾分躊躇うように――そのまだ冷えているだろう手指に絡めるように、自分の手指を絡めるように繋ごうとしつつ。

暖められればいい。
願わくば、もうそんな冷たさを感じなくて済むように――。
そんな場所に、そんな存在に、なれればいい)

五代 基一郎 > 「うん、ごめん」
その口ぶりに、ただ謝るだけで……ただ、確かめるように呟き返し
それこそ今、ここで綾瀬音音がいる世界に……彼女が帰る場所であることを
確かめ伝えるように…

「湯冷めしちゃったよ」

折角風呂に入ったのにさ、とでもいうように……体を離されれば
手を、指を絡めるように握り繋がれれば
それが命綱か、それを手繰るように確かめ

「帰ろう」

ただそれだけ、応えて……手はつないだまま。
導かれるようにというより……導いてほしい、というように
先に行くことを促すように頼むようなニュアンスで答えた。
帰る場所に帰る人と帰るのだと……

綾瀬音音 > しょうがないので、許してあげます
(今度は拗ねた口ぶりから、やわらかなものへと変化して。
何時でも帰ってきてもいいと、返すように、伝えるように)

夏はまだ長いんですから、風邪引いたら大変ですよ
(日常の、そんな言葉を口にしながら。
まだ予定は沢山あるのだ。
――彼が帰ってきたいと思える場所に、とも思う。
いやまあ、風邪を引いてしまっても、それはそれで。
帰ってきた場所でぶっ倒れる、と言うのも外で倒れられるりは大分いいのだし。

手繰るように確かめられた手指を、ゆるく、でも離さないように握りながら)

うん、帰りましょう。
(そう頷いて、手を繋いで。
彼をどこか、帰るべき場所に案内するようにその手を引いて、
半歩ばかり先を歩きながら。

今は一夜の宿へと来た道を戻っていく。
黄昏時でもない、夜の闇だけでもなく、昼間の明るいだけの世界でもない、
そんな世界で)

五代 基一郎 > そして、帰れば……帰るべき、帰る人と共に帰る場所に
手を繋がれて、戻って行けば宿にたどり着き
導かれるままに、部屋へ戻れば日付が変わるかという時間だろうか。

部屋の中で少し話された布団を見つけてかのかはわからないが
まだ手を繋いだままに呟き話しかける。

「……どこかに行って、帰る場所じゃなくて
 ここにいて帰る場所にする。」

どこかに行かない、音音を置いて行かないということを拙い言葉で伝え手を握る。
手は離さず、音音のいる世界からどこにもいかずここにいる……綾瀬音音のところに帰ると
直接ではなく、それを決めたことのように呟き伝えて……

時計の針が進む音が、続く。
変化を象徴するかのように。

ご案内:「海岸沿いにある旅館」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「海岸沿いにある旅館」から綾瀬音音さんが去りました。