2016/09/19 のログ
ご案内:「常世保健病院」に寄月 秋輝さんが現れました。
ご案内:「常世保健病院」に阿曇留以さんが現れました。
阿曇留以 > こんこん、と病室を叩く。
片手には大きな荷物。
病室の主の着替え一式だ。
本来なら彼に近しい人が持ってくるべきなんだろうが、留以もお見舞いついでに、と彼の着替えなどをもってくることにした。

「寄月くん、入っても平気かしら~?」

寄月 秋輝 >  
響く声に端末を覗いていた顔をふと上げる。

「はい、どうぞ入ってください」

突然入られても問題ないくらいの状態である。
ベッドの上だが、声の主を招き入れるだろう。

阿曇留以 > 病室の扉を開け、入ってくる留以。
今日は私服らしく、楽そうな格好をしていた。

「体のほうは大丈夫?
熱とかは、でてないかしら~?」

看護婦でないため病気のことなどはわからないが、緊急手術をしたのだ。
体力を使って風邪などひいていてもおかしくはないだろうと思い聞いてみる。

寄月 秋輝 >  
「ええ、大丈夫です。
 内出血がひどく、内臓を圧迫していたので少しだけ疲労していますが……」

脇腹を抑える。
結局、無理をしたせいで内側で血が溢れていたらしい。
緊急手術の後でこっぴどく怒られた上に、次の早期退院は認めないと釘を刺されてしまった。

「あぁ、着替え持ってきてくれたんですね。
 すみません、わざわざお願いしてしまって」

阿曇留以 > 「ふふっ、きっと先生とかにはたくさん怒られたんじゃないかしら。
もう、あんな無茶はしちゃだめよ~?」

寄月の荷物を個室の端、彼から手を伸ばせば届くところに置く。

「寄月くん、おうちにメイドさんなんて居たのね~。
メイドさんが用意してくれたものだから中身は大丈夫だと思うけれど、後で確認しておいてね?」

寄月 秋輝 >  
「しこたま怒られました。
 無茶をするつもりは無かったんですが……」

不可抗力だ。どれもこれも。
特に一番の原因のメイドキャッチは。

「ちょっと前にモニターに応募したら当たりました。
 非情に助かっているんですよ」

うむ、とひとつ頷いた。
彼女が居るのと居ないのとでは、家事の負担だけでも雲泥の差であることは先日よくわかった。

「……今日は軽い格好ですね、留以さん」

阿曇留以 > なんとなく、しょげているように見える寄月をくすくすと笑う。
いい歳をしているとはいっても、そのしょげている姿は、留以からすれば年下の子供に見えた。

「あら、メイドさんのモニターなんてあったの?
私も応募すれば来てくれたのかしら……。寮住みだけれど」

寮住みでも、やっぱりちょっと掃除が大変なときがあるので、居てくれたら助かっただろう。
服のことをいわれれば胸に手をおくようにして

「ええ、少し汗かいちゃったから、シャワーだけ浴びてから寄月くんのおうちに寄らせて貰ったの。
だからちょっと遅くなっちゃって……ごめんなさいね」

そう謝る。
リンスの匂いか、椿の匂いがするだろう。

寄月 秋輝 >  
「随分前のことですが。
 電気代は食いますけど、それ以上に助かっています」

電気代。
人間を連れているわけではないのだ。

「ああいえ、それくらいは気にしません。
 ただちょっと……」

素敵な香りを楽しみたいところだが、そうもいかない。
目を壁の方に向けて。

「……僕らに反応したんですかね。
 何やら不穏な気配が」

霊的なものを察知している。
出来ればこの場でなんとかしたいのだが、目の前の女性は軽装だ。

阿曇留以 > 「……?」

不穏な気配、といわれ扉のほうを向く。
あいにくとそれほど察知能力は高くなく、特に弱いものとなると、近くまで寄らないかぎり留以には察知できない。
学校の件は、昼間にふと気付いたために夜見に行った結果がアレだったが。

「……妖怪、かしら?
ごめんなさい、私にはうまく察知できないのだけれど……」

集中して気配を探すも、やんわりと、なにかいる、ていどにしか理解できていないようだ。

寄月 秋輝 >  
「妖か、以前学校に居た悪意のようなものか……
 ただ居ると分かった以上、放っておきたくないので」

留以を見つめる。
帯刀していないし、神聖な巫女服を纏っているわけでもない。
となると、自分がやるしかないのだろうか。

「軽く仕留めてくるので、留以さんはここに居てください。
 ただ浄化だけ手伝ってほしいので、その準備をお願いできますか」

ベッドから降りた。
スリッパでぺたぺた歩いて、刀を手にする。

阿曇留以 > 「軽く仕留める……って」

さっきまで緊急手術していた人がいうセリフではない。
困った顔をしてぺたぺた歩いている寄月をみて

「こーら、さっきいったこと、もう忘れたの?」

ぺち、と脳天にチョップしてみる。

寄月 秋輝 >  
「うぐ」

チョップが直撃した。
痛みには強い。でも痛くないわけじゃない。

「……ですが放っておくわけには……
 私服の留以さんに任せるのも危ないですし」

そういう理由らしい。
せめて留以が戦闘衣装なら話は別だったのだが。

阿曇留以 > 「ん~……」

確かに、放っておくわけにもいかないだろうし、私服姿で、しかも刀を持ち歩いていないために戦力になるかといわれると怪しいが。

「一応、お札くらいは持ち歩いてるのよ?
枚数がそれほど多くないから、なくなっちゃったら……自力でなんとかするしかないのだけれど」

そういってスカートの裾を少し持ち上げ、内側を探ると、十数枚ほどの御札がでてくる。
緊急用なので高威力のものだが、作るの大変。

寄月 秋輝 >  
「……え、意外とちゃんと装備がある?」

それなら話は別だろう。
お札を見ながら、むーんと小さくうなる。

「……では念には念をということで、僕の刀をお貸しします。
 申し訳ないですけれど、お願いしていいでしょうか」

ベッドに腰かけ、刀を差し出す。
彼女が安全確実に勝てるならば、任せた方が無難だろう。
こちらは魔術による援護をすればいいのだ。

阿曇留以 > 「本当に緊急用だから、あまり使いたくないのだけれどねぇ~……。
この御札、素材が高いし刀の子に力も借りてるから凄く作りづらいのよ~」

所謂、ボムのようなものだ。
留以がお小遣いを貯め、日々やりくりして買った素材を、刀から力を借りて作った御札。
もちろんそんなことはいわないが。
刀を差し出され、少しだけ首を傾げる。

「えっと、いいのかしら。
私が触って、握っちゃっても大丈夫?」

一応、そっと刀を受け取るが、刀のほうが怒らないだろうかと思いつつ。

寄月 秋輝 >  
「なるべく使わないで済むようにしましょう。
 僕も可能な限りの援護をします」

ぱし、と両手を合わせる。
魔力を高め、三つの大魔術を組んでいく。

「大丈夫ですよ、一時的に留以さんの言うことを聞くように言ってあります。
 ただ、とんでもない切れ味ですから……十分注意して使ってください」

刀は実に大人しくしている。
まるで真の主の手の中に納まっているかのように、静かに。
刀身に満ちる力は留以のそれに近く、すぐに振るってもそれなりに馴染むだろう。

阿曇留以 > 「あらあら、じゃあできれば寄月くんの援護がいらないように、私も最大限頑張ってみるわね~」

ほんとは動いちゃいけない人を動かすのだ、できるだけ、こちらで始末できるようにはがんばろう、とはおもいつつ。

「……それじゃ、少しの間だけど、よろしくね。
すぐご主人の元に返してあげるから」

小さく刀に語りかけてから左手で刀を持つ。

「それじゃ、いってみましょうか寄月くん」

寄月 秋輝 >  
「……フィールド、ロック。
 アストラル、オープン、セット……
 隔離結界、展開」

魔術結界を大きく展開する。
病院を覆うほどに大きく。

性質が非常に特殊な結界で、内部に『残す』人間を選定しつつ、別位相へとそっくり移動させる技術だ。
この場合は留以と秋輝、そして対象となる妖のみ。
この病院に居る他の人たちは、本来の病院に居るだろう。
こちらではどんな被害を出しても、現実にフィードバックされることはない。
……秋輝さえ倒れなければ。

「……ふぅ、よし。
 大規模結界を張ったので、内側で思い切り暴れても大丈夫です」

ただ体が重い。
慣れない上に適性も薄い上位結界術だ、負担が大きい。

「行きましょう。
 ……彼らを、あるべきところへ還しに」

阿曇留以 > ふ、と何かに隔離……いや、弾き飛ばされた。
なんともいいがたい感覚に襲われ、それが寄月の術だと知る。
すこし辛そうにしている寄月をみつつも、こくりとうなづいて前を歩き出す。
いつであっても良いように、臨戦態勢でいつつ。

「でも、こんな病院でも妖怪がいるのねぇ……。
寄月くん、どういうのか察知できるかしら?」

さきにどんな存在かわかれば、ある程度の不意打ちも防げると思い、尋ねてみる。

寄月 秋輝 >  
一歩足を進める。
絶好調なら話は別だが、縫った後がびりりと響く。
やはり苦手だ苦手だと言わず、練習しておくべきだった。
後悔先に立たず。

「非業の死を遂げた方が多いでしょうからね……
 還るに還れず、ここで苦しみ続けているんでしょう」

悪霊も妖怪も、秋輝にとっては悲しい存在だ。
出来る限り救いたい。

「……はっきりとは……ですが人型をしていますね。
 弱いですが、数が少し多いです」

結界を揺らす感覚でそれを掴み、警告する。

阿曇留以 > たまにちらりと寄月を振り返り、ついてこれているか確認をしつつ進む。
人型、といわれれば幽霊の類か、屍の類か、とあたりをつける。

「そう……、強くないならいいのだけれど……。
でも数が多いほうが大変ね……」

こっちは手負い一人に簡易装備一人。
しかも、状態を考えるに時間制限もありそうだ。
一刀一撃の覚悟で行かないといけないだろう。
歩くたびに近づく気配。その方向へ歩みを進めていく。

寄月 秋輝 >  
「あまりのんびりはしていられませんが……
 確実に全て、還していきましょう」

ぺたぺた歩いていく。

しばらくすると、妖気を放ちながら歩く腐乱死体が見える。
隔離空間で、霊が行き場を失くして霊安室の遺体に移ったのだろう。

こちらを発見すると、緩慢な動作で迫ってくる。
牙と爪が伸びた、凶悪な人の姿。

阿曇留以 > 見つけた。
屍人、いわゆるゾンビという存在。
ゾンビをみるのは初めてだが、特に緊張も無い。
結局、やれることは一つだけなのだから、それを丁寧にこなすだけなのだ。

「寄月くん、一気にいくから、祓いもらしたのだけ追撃を頼めるかしら。
実はゾンビって初めてみるから、どこを斬れば致命傷なのかあまりしらないのよ」

刀を腰の高さで持ち、少しだけ前にかがんで抜く姿勢。

寄月 秋輝 >  
「首を飛ばしてください。
 基本的にそれで動きを止めます。
 その後、頭の方を祓えば大丈夫です」

大体は、と付け加える。
たまに胴体の側に居る場合もあるのが問題だが。

そちらは打ち込むために、術を展開させる、
浄化術を組み込んだ、光弾を構えて。

ついでに留以の体に光の防護膜を纏わせた。

阿曇留以 > 「了解」

短く答えれば、その後前傾姿勢で走り出す。

まずは手前のゾンビ。
留以が近づけば腕を振り上げ襲い掛かってくるも、すれ違いざまに刀を抜き、まず腕を斬り飛ばす。
左足に力を籠めて振り返れば、遠心力をつかって刀を振り回し、続けてゾンビの首を胴体から斬り離す。
また、そのまま回って前に向き直り、続く群れに向かって突っ込んでいく。
濡烏色をした髪は宙を舞い、留以はその中で舞うようにゾンビを斬り伏せていく。

一体斬っては次へ。
また斬っては次へ、と。

何匹かうまく斬れていないものがいるけれど、そちらは彼を信用し、無視してしまう。

寄月 秋輝 >  
きっと刀は恐ろしく軽く、腕の一部のように馴染むだろう。
一般的な刀のサイズだが、留以の思い通りに動くはずだ。

残ったゾンビには光の弾を十字に打ち込み、浄化させる。
留以が気付いていない真横のゾンビまで撃ち落とす。

(……意外となんとかなりそうだ)

どんどん数が減っていく。
大きく散っているわけでもない、この団体を消していけばすぐだろう。

留以の周囲のゾンビに集中し、いくつも落としていく。
一応必要かと思い準備しておいた大魔術も、使わずに済みそうだ。

阿曇留以 > 斬る。飛ばす。移動。
斬る。飛ばす。移動。
目が回らないのはそういう訓練を何度も続けてきたから。
一対多数が基本と教え込まれ、それをこなすためだけに練習を反復した。
その結果、動体視力はそのスピードに追いつけるようになり。

「――」

ふと、視界の隅に映るゾンビ。
留以を囲うように集まっているゾンビとは別に。
寄月の後ろから忍び寄っているゾンビに気付く。

思考は一瞬だった。
あのゾンビに寄月は気づいているのか。
気付いているとして、あれは対処できるのか。
仮に気付いていないとして、こちらからはどうすればいいか。
その思考結果。

「寄月くん、しゃがんで!」

無理な体勢から大きく跳んで、刀を寄月へ投げる。
ブーメランのように回転しながら飛ぶ刀は、寄月の背後のゾンビに突き刺さる。
そのかわりに、留以は地面に転がって武器を無くし、囲んでいたゾンビに押し込まれ始める。

寄月 秋輝 >  
留以の動きをじっと見ている。
少しだけ、気のゆるみがあったかもしれない。
少しだけ、集中を削いでいたかもしれない。

留以が気付いた、背後のゾンビに気付くのが遅れた。

しゃがんで、の声とともに、見事にしゃがんだ。
真後ろに居るゾンビに刀が突き刺さる。

「……留以さん!」

背後を見もせずにゾンビに刺さった刀を、柄をきっちり握って引き抜き、スリッパを捨てて素足で飛び出す。
脇腹に走る激痛を無視し、留以の元へ。

「どけェ!」

刀を一閃。
浄化の魔力の込められた光の剣閃が、留以の周囲を祓う。

そして一気に踏み込み。

「せい!!」

張り付いているゾンビを、光を込めた掌底で弾き飛ばす。
ひとまずの状況を打開し、留以を見て。

阿曇留以 > 武器を失い、地面を転がった留以を押し倒してくるのは成人した――男性か女性かはわからないが――人の死体。
一人だけでも押しのけるのは難しいのに、それが何体も、だ。
当然押しのけられず、持っていた札で一体を弾き飛ばしても、次が乗りかかってくる。
抵抗も出来ない留以の首を一人が絞め、他のゾンビは体を捨てて霊体になって留以に乗り移ろうとする。

「――!!」

締められる首。吸えない空気。荒らされる身体。
苦しさから唾液を流し、もうだめだ、と意識を失いそうになる直前。

首から手が離れ、肺に空気が戻ってくる。
げほっ、ごほっ、と咳き込みうずくまる。

寄月 秋輝 >  
「祓え!」

ゾンビから解放された留以の胸に手を当て、浄化の魔力を流し込む。
わずかにでも侵入されていたら、これで消し去る。

脇腹に血がにじんでいる。
明らかにまた傷が開いた。

「……大丈夫、留以さん。
 落ち着いて呼吸を」

刀を手に、優しくそう囁く。
同時に浄化の魔力で留以をもう一度防御し直す。

「……思ったより多いな……
 これは……増えたのか」

明らかに察知から外れた相手が多い。
それらを刀で切り払いながら、なんとか留以を護る。

留以が立ち直れば、大規模魔術で祓えるのだが。

阿曇留以 > 内側を荒らしていた霊が、一気に祓われる。
何度も大きく深呼吸し、呼吸を何とか直す。

「ごめ……、なさ……げほっ。
ちょっと、対処しきれなくて……」

乱れた服装を直しつつ立ち上がり、お札を用意する。
流石に、敵の数が増えすぎている。
ちらりと寄月のわき腹を見れば、明らかに傷が開いている。
もう、時間にも余裕が無いらしい。

「寄月くん、もう寄月くんも厳しそうみたいだから、一気に吹き飛ばしちゃいましょっか。
もしかしたら結界ごと吹き飛ばしちゃうかもしれないけれど……」

寄月 秋輝 >  
ズキンと脇腹が痛む。
さすがに銃創だ、縫って治癒術での治療を受けたとはいえ、すぐにはよくならない。

「いえ、留以さんが無事でよかった」

いつもと変わらぬ表情で、周囲を散らす。
しかしゾンビゲームのごとく、包囲されている。

「……出来ますか?
 いえ、結界は大丈夫……位相的に別の空間ですから。
 ……僕ごと吹っ飛ばされない限りは」

術の触媒に必要だろう、と留以に刀を手渡す。
即座に両手を合わせ、小さく術結界を展開する。
十数秒程度なら、ゾンビの侵入も阻んでくれるだろう。

阿曇留以 > 出来るか、と問われればこくりと頷く。
残り十枚程度のお札を虚空に展開し、刀を胸の前で持つ。

「高天原に神留座す神魯伎神魯美の詔以て――」

もしここに留以の大太刀があれば、もっと短い祓儀式ができただろう。
しかしそれは叶わない。けれども彼の刀があれば問題は無く。
結界を叩くゾンビたちを気にせず、ただ祓詞を謳いあげる。
刀で力を増幅させ、お札に力を流し込む。

「――聞食せと恐み恐み申す」

そして謳い終わった瞬間、御札ははじけるように霧散。
その中に籠められた力が一気に解放され、留以を中心として、病院中に力が拡散される。

寄月 秋輝 >  
痛みに耐えながら結界を維持し、留以を見つめ。

(……真宵が……)

刀が、彼女に十全に力を貸している。
手伝うようにと言ったが、ここまで彼女に馴染むとは思わなかった。

少しだけ寂しいような嬉しいような気持ちに包まれながら。

「……ここ!」

留以の力の発現に合わせ、周囲の結界を解除する。
隔絶された病院の空間内に力が満ちていくのを、結界を維持するものとして感じる。
ほんの少し、体が軽くなった気すらする。

「……すごい、ですね……」

結界内から、悪しき気が全て消滅した。
ここまでの浄化術は、秋輝では扱えない。
留以の技術に素直に感心した。

阿曇留以 > ふぅ~、と大きくため息をつく。
もとから微弱な反応だった存在が、いまはもう綺麗さっぱりと探知できなくなっている。
寄月の独り言には、笑顔で答えるが、

「――あらっ……」

ふらり、と体を揺らしてから腰を抜かし、前に倒れこむ。

寄月 秋輝 >  
ふぅ、と息を一つついたのもつかの間。
留以が倒れ込んできたのに驚いた様子で。

「お、っと……」

ぽすんと抱きとめる。

「お疲れさまです……すみません、僕の不手際で……」

申し訳なさげに呟く。
もう少し気を張れていれば、彼女も苦しい思いをせずにすんだろうに。
自分の弱さが恨めしい。

じわり、じわりと脇腹の血が広がり、ズボンを伝い始めた。

阿曇留以 > 「あ、ううん、こっちこそごめんなさい。
こっちが斬り込みすぎたせいでこうなったから……」

体が動かせずにいる。
久しぶりに大規模な術をつかったせいか。
あのような術は効率が悪く、燃費も悪い。
確かに大多数を一網打尽にするには便利な術だが、謳いあげる時間、防御へまわすための力、用意するもの、効果範囲の選定、などなど。
とにかくあまりにも効率が悪い。
そして久しぶりの行使。
倒れないはずもなかった。

「って、寄月くんだいぶ血が……」

流れ出る血が広がっていることに気付く。

寄月 秋輝 >  
「いえ、僕は大丈夫……この程度なら慣れてますから。
 でも留以さんの服を汚すといけないですね……」

血が触れないように、留以を担ぐ。
おひめさまだっこ。

「……とりあえず、一旦僕の病室に戻りましょう。
 結界を解除したら、元通りに時間が動き始めてしまうので……」

突然廊下での、血まみれの患者と刀、そして見舞い客の出現。
大騒ぎになるのは目に見えている。

というわけで、留以を担いですたこら走り、病室へ。

阿曇留以 > 「え、あ、そうね――ひゃっ!?」

すく、ともちあげられる。
まさかこの歳になってお姫様だっこをされるとはおもわず、変な声をあげてしまう。

「あ、あの。寄月くん、確かに結界を解除したら大変だけど、もうちょっと別の運び方でも~……!」

そんな叫びは届かないのか。
すたこらさっさと、病人に病室へ運ばれる健常者だった。

ご案内:「常世保健病院」から阿曇留以さんが去りました。
ご案内:「常世保健病院」から寄月 秋輝さんが去りました。