2016/09/21 のログ
ご案内:「学園付属治療室」に浅田扁鵲さんが現れました。
浅田扁鵲 >  
 今日も今日とて暇な一室。
 普段は隠れ家的に暇つぶしやサボりに来た学生がカードゲームやボードゲームをやっているのだが、今日は少々様子が違う。

「――まあ要するに、気の仕組みってのはそんなものだ。
 で、俺がやってるのは気を操って治療したり、身を守るために使ったり、ってな。
 気を感じる気を使うって程度まではまあ、割と早い段階で出来るようになるんだが……問題はどうやって使うかっていう理屈の方だな。
 俺がどういう理論で気を用いてるか――ああいや、わからないよな、知ってたよ。
 お前もうちょっと俺の講義聞きに来いよなあ。
 興味があることはもっと積極的に学ばないと損するぞ」

 そんな浅田の言葉に、椅子の上で胡坐をかいていた男子生徒が苦笑いを浮かべた。
 

浅田扁鵲 >  
 さてこの男子生徒。
 元は異能者だったが、浅田の治療で今やすっかり力を失い一般人になっている。
 元々運動好きで鍛えるのが好きだったところから、浅田の気を操る技に興味を引かれてまれに講義を見に来るのだ。
 まあ本当に稀なため、大事なところがほとんど聞けていないのは残念な話だが。

「気は何らかの理論に基づいて使わなければ、それはただのエネルギーでしかない。
 たとえば早く走りたいと思えば運動学や解剖学、体調を整えたいと思えば生理学や病理学、と言った具合に応用するための理論が必要になるわけだ。
 俺ももちろん、こういった知識を使って気を用いる事は多い。
 俺はあまり声を張らないが、聞き取りづらいという事がああまりないだろう。
 アレは気を使って音を伝えてるからだ、って言ったら信じるか?」

 男子生徒は、素直にまじめな表情でうなづいた。
 基本的に素直な生徒なのである。
 

浅田扁鵲 >  
「そんな冗談は置いておくが、俺が主に用いてるのは五行思想だな。
 たとえば五行相生に則って気を使うってのは……そうだな」

 浅田が引き出しを開けて、小さな植物の種と、何の変哲もない金属の棒。

「まずは金生水に則って水を作る。
 金属は冷えると表面に水滴を生ずる――と、こんな具合だ。
 そう不思議そうな顔をするな、こういうものなんだよ。
 ちなみに、気によってこの作用を助長すると――だからそう言う顔をするなって。
 ただ水が滴ってるだけだろう」

 棒の先端からぽたぽたと床に落ちる雫を見て、生徒の口がぽかんと開く。
 ちなみに棒の温度は結露するぎりぎりの温度でしかない。
 浅田は五行説の「冷えて水滴を生ず」と言う部分を自身の気を用いて強めているだけなのだ。
 ちなみに、最初に棒を冷やしたのは熱伝導の理論である。
 つまり浅田の指先は、金属の棒よりやや冷たい温度に冷えているのだ。
 これもまた、気による身体制御の一つである。
 

浅田扁鵲 >  
「で、この水滴をこの種に落とす。
 そして今度は水生木。
 水は木々を成長させる――ほら、成長しただろう。
 そしてこれもまた作用を強めると……こうなる」

 浅田の手の上で発芽した種は、そのまま芽を伸ばし、葉をつけた。
 この一連の現象は、いずれも浅田が自身と、自然界にある気を用いて引き起こしたものである。
 生徒はすっかり口をあけて呆然と、目の前で起きた事を眺めていた。

「気っていうのは万物に宿るものだ。
 俺はまあ軽くやれるのはこの程度だが、気を操るという事を極めると、どんな現象すら起こすことが出来るようになる。
 だからこそ、どの程度の気を用いるか、どんな理論で用いるか、どれだけ精確に操れるか、が重要になってくる。
 お前も気を使いたかったら、さまざまな知識を見つけることだ。
 まあその前に、気を扱うのに十年くらいは修行が必要だろうが」

 そして、浅田はまた治療室に一人になった。