2016/09/29 のログ
美澄 蘭 > 「………もう………」

困ったように眉を寄せながら、ぎこちない笑顔を浮かべる。
それでも、「冗談」と聞いて、肩の力は少し抜けたようだった。

「…ええ…普通に見て回りましょ。
純粋に、面白いものばっかりなんだし…楽しめなかったらもったいないわ」

相手に先導される形になってしまったが…そう言って、少しだけ悪戯っぽい笑みを零すと、頼と同じように順路を歩き出した。
…ぎこちなさは、大分取れたようだ。

八百万 頼 >  
(順路を進めばすぐに展示場所へ付いた。
 動く石像や物理的に飛び出す絵画、立体騙し絵のようなものもあり、見た目には結構にぎやかである。)

へえ、おもろいもん結構あるな。
この動く石像なんて、まんまゲームに出てくるアレやん。

(造型がそのまんま某国産RPGに出てくるモンスターである。
 格好からポーズから全く同じと言って良いようなものだが、怒られなかったのだろうか。)

美澄ちゃんはなんか気になったモンある?

(彼女は何が気になったのかが気になる。
 振り返り、尋ねてみた。)

美澄 蘭 > 「ええ、「異能アート」って、他の世界は分からないけどこの世界にとっては新しい試みでしょう?
だから、結構「面白さ」に振り切ったような作品も多くて…

………言われてみればそうね、大丈夫かしら?」

頼が指摘した「動く石像」の類似については、一人で見た時には気付きもしなかった。
口元に握った手を添えて、くすりと笑みを零す。

「私?そうね………これ、かしら」

蘭が指差したのは、幻想的な天馬の絵。
しかし、月夜の空を駆けるその天馬は、絵の中の月光だけでなく展示室の光源さえ反射するかのように七色に輝くたてがみと羽根を持ち…しかも、その色彩は一時と留まることなく変化しているように思われた。

「…どういう理屈で作ってるのかは分からないけど…綺麗だな、って」

絵を見ながらそう語る蘭の表情は、どこか優しい恍惚に満ちている。

八百万 頼 >  
まぁ、飾ったるちゅうことは大丈夫なんやろうけど。

(つまりはそう言うことだろう。
 オマージュと言い張れるレベルの似方だと思う。)

ほおん、こらまた綺麗な絵やな。

(天馬の絵を見る。
 見るタイミングによって全く違う色を見せ、書かれている伝馬とも相まって幻想的な光景だ。)

表面の反射率を微妙に変えとんのか……?
だとすると物質の微振動――いや、コート剤の屈折率をランダムに変えとる――

(片目を僅かに空け、顎に手を添えてぶつぶつ言い出す。
 その目は真剣に原理を解明しようとする目で、今まで見せた事のある顔とは別物である。)

美澄 蘭 > 「…まあ、そうよね」

くすりと笑みを零してみせると、頼と同じ方向を…改めて天馬の絵の方を見る。

「………そっか、細かいところは分からないけど、物質に干渉して見え方を変えてるのね…
………でも、凄い…」

そういった方法で芸術作品を作り出したこの作者も、それを分析してみせる頼も。
………そして、原理を解明してみせようとする、いつもとは違う頼の表情も。

…まあ、複数の対象が「凄い」にかけてある状態で、いちいち言明は出来ない。
しみじみと、絵画と頼の間で視線を行き来させて呟いた。

八百万 頼 > ――、……――

(彼女の言葉には反応しない。
 相変わらずぶつぶつと呟いている。)

――あ、ゴメン、美澄ちゃん。
せやな、凄いわ。
手元離れても持続させられる異能やからな。

(一応聞いてはいたらしい。
 彼女の凄いと言う言葉を、絵だけに向けられた物と考え、確かに凄い異能だと改めて確認。
 改めて絵に向き直る。)

美澄 蘭 > 「経験」豊富なはずの相手には、珍しい間だな、と思った。
しかし、そこには特に言及しない。
…それでも、蘭の「掛詞」を相手が読み取らなかったのが、蘭からすればやや意外でさえあって。
どこか、不思議そうに目を瞬いてさえ見せながら。

「…ええ、絵もだけど…
…そういう分析しちゃう八百万さんも、凄いな、って」

「『解説とか期待するな』って言ってたのに」と、楽しげにくすくすと笑ってさえみせながら、自分で付け足した。
………流石に、表情にまで言及する勇気は、蘭にはなかったが。

八百万 頼 >  
――へ?
え、ボクなんか変なこと言うた?

(笑う彼女を不思議そうに見る。
 笑われる理由がさっぱりわからない。)

――あ、あー、そうね、そう言うアレね。
んー、ま、うーん。
昔から、こういうぱっと見てわからん事とか、気になる子ぉやったから。

(聞いてはいたが、言葉の上っ面だけを聞いていたのだ。
 だから単純に絵について凄いと言っているのだと思ってしまった。
 彼女のツッコミに、やけに焦って返答。)

美澄 蘭 > 「………ううん、多分変じゃないわ。
私が、八百万さんに勝手なイメージを持ってただけ」

そう言って、またくすりと悪戯っぽく。
そう…異性だって人間なのだから、いつも完璧にスマートに、なんてあるわけはないのだ。
そう思うと、蘭の中に、頼に対して謎の親近感が涌き起こる。
…が、相手が妙に慌ただしく返答するので、きょとんと目を丸くして首を傾げて。

「私も、結構そういうところあるから分かるわ。
………自分のそういうところ、好きじゃないの?悪いことじゃ、ないと思うけど」

訓練施設で気遣ってくれた折、「知り過ぎても良くない」というようなことを言っていたとは記憶しているが…どうも、今までの頼のスマートなイメージからの、乖離が目立つ気がする。
…が、自分の好奇心に負けて、いささか不躾なことを言っていたな、と思い直し。

「………あ、でも他の人に自分の価値観のことであーだこーだ言われたくないわよね…ごめんなさい」

そう言って、申し訳無さそうな表情とともに、少し俯いた。

八百万 頼 >  
イメージ?
そら、人間やからいろんな顔あると思うけど。

(それにイメージは結局イメージだ。
 彼女が自身にどんなイメージを抱いていたかはわからないが、そのイメージは正解でもあるだろうし、間違いでもあるだろう。)

ん、んー……。
嫌いなわけではないけど……。

(うろたえていた理由は、単に人の前で自分の素を出してしまった事に対するものだ。
 かと言ってそれを口にするのも自分を見せる事であり、結局曖昧な返事になってしまう。)

――なに言うとんねん美澄ちゃん。
ボクと美澄ちゃんの仲や、そんなんで謝らんでもええ。
なんならもっと言うてくれてもええぐらいや。

(が、彼女が申し訳なさそうな顔をすればいつもの調子を取り戻す。
 へらりと笑いながら手をぷらぷら振る。)

美澄 蘭 > 「そうよね………そうなんだけど、歳の近い男の人と、こういう風に、「人柄」のことで話すなんて、しばらくなかったから。
…先入観に囚われないって、大事だなぁ、って思って」

真顔で頷く。
蘭が抱く頼の「イメージ」は、少しずつ…しかし確実に、頼が装う調子から離れ始めているだろう。
…それは、頼にとって都合が良いことなのか、悪いことなのか。

「………?
…まあ、「自分」に対してなんて、肯定一辺倒でも否定一辺倒でもいられないわよね」

曖昧な返事を返されれば、やっぱり不思議そうに首を傾げるが…何とか、蘭なりに好意的に、共感的に汲み取ったようだ。

そして頼がへらりといつもの調子を取り戻して笑うと…

「………そう?なら、遠慮しなくてよさそうね」

返ってきたのは、何故かはにかみがちながらも嬉しそうな笑み。
…他人を褒めて、それを素直に受け取ってもらえるのは、悪い気はしなかったらしい。

八百万 頼 >  
(人柄と言う言葉に困ったように笑う。
 もともと彼女に人を見る目があるのか、もしくは男性慣れしていない故のある種の勘の良さか、はたまた別の要因か。
 なんにしても、あまり好ましい事ではない。)

せや、好きなとこもあるし嫌いなとこもある。
自分でも良くわからんこともあるからな。

(彼女の言葉に同意して、それっぽいことを言っておく。
 一番単純で、それなりに効果のある手段。)

あっでもあんまり酷い事言わんといてな。
ボクすぐ傷付いてまうから。

(及び腰になって、手を突き出してビビリガードのフリをしてみせた。)

美澄 蘭 > 蘭の知性をあえて一言でくくるならば、「直観力がある」、という言葉になるだろうか。
物事をラディカルに見つめ、物事の本質にショートカットで辿り着く力。
思考の深さよりは、簡潔さ。
元々活発なタイプではないので分かりにくいが、時折、こうして顔を出すのである。

「………あっ、「人柄」なんて、偉そうな言葉使っちゃったわね…ごめんなさい」

…もっとも、本人は自分のそういった特性に無自覚なのか。
頼の困ったような笑みが自分の言葉選びにあると勘違いして、少しだけ俯いたのだった。

「…まあ、ヒトってそんなものよね」

それっぽいことを言われて、こちらも頷く。
流石に、この年になると自分の性(さが)などに自覚が生まれるし、好き嫌いに関わらずそれに付き合っていかなければならないということも、何となくは分かってきているのだった。

「…流石に、言葉は選ぶように気をつけるわ」
(実際のところ、言えそうな「酷いこと」なんて思いつかないけど)

ビビリガードのフリをされれば、そう言って柔らかく苦笑い。
そして、

「…じゃあ、先の方も見てみましょうか」

と、今度は蘭が順路の方へ促すのだった。

八百万 頼 >  
(「頭の良い子」
 改めて彼女の事をそう評価する。
 勉強が出来るだけではない、何事もシンプルに捉えて、場合によっては丸裸にしてしまう。
 何よりもそれが思考ではなく無意識で行われていると言う事に、冷や汗すら流れる。
 「八百万 頼」と言う人間にとって一番苦手で――嫌いなタイプでもある。)

別にそんな偉そうな言葉とちゃうと思うよ?
それに気にしてへんから――ってこのやり取り何回目や。

(しかし彼女を嫌いと言うわけではない。
 彼女自身はそれこそ人柄の良い女性だし、好きな方だ。
 けらけらと笑ってツッコミを。)

自分の事を一番知っとるのが自分やし、一番知らんのも自分や。

(それは、それだけは偽りの無い本心。
 使い古された言葉ではあるが、それは同時に正しい事だと思う。)

内容も選んで欲しいわー。

(相変わらずヘラヘラしながら通路の先へ。
 目に付いたのは何の変哲も無い塔の模型。
 しかしよく見れば、さまざまな金属がグラデーションのように下から順に積みあがって出来ているものだとわかるだろう。
 3Dプリンターなどでは金属の融点の違いや特性の差から到底作り上げる事の出来ない精巧な模型だ。)

美澄 蘭 > 「八百万 頼」が、自分のことをどう評価しているかなど知る由もなく。
「このやりとり何回目だ」のツッコミに、恥ずかしくなったのか、頬をわずかに赤く染めて、困ったように笑いながら…

「…癖みたいなものなの。気をつけてはいるんだけど、言葉として不躾だったな、って後で思うことがよくあって。
………だから、数えてないわ。嫌になっちゃいそうだし」

そう、返した。

「…そうね…本当にね」

「自分のことをもっとよく分かったら、進路ももうちょっと悩まなくてすむと思うんだけど」という言葉を飲み込んで、少しだけ視線を下に向ける。
その口元には、複雑な感情を示唆する笑みが刻まれている。

「それは、もちろん」

へらへら笑われても、さほど気にする風もなく人好きのする笑みで応じて進む。
先で目立ったのは…一見何の変哲もないが、その実、精巧な金属加工がなされた塔の模型。

「………綺麗………」

金属が織り成すグラデーションに、素直に感嘆の声を漏らす。
金工が生み出す虹色の光沢は、夏休みにこの美術館の展示室の1つで行われていた個展で目にしてはいるが…これは、更に複雑なものなのだろう。
…金属の特性をそこまで細かくは知らない蘭では、それ以上のことは分からなかったが。

(…八百万さんなら…分かるかしら?)

ちら、と、頼の表情を横目で伺う。

八百万 頼 >  
そう言うのは相手が気にしてるような時だけ謝ったらええ。
なんも思ってなかったり、むしろ好意的に見とるのに謝るのは、逆に失礼な時もあるからな。

(彼女の欠点の一つに、ある種の自己評価の低さがあるだろうと思う。
 だからその点に関してはそう忠告じみた助言をしておこう。
 効果があるかどうかは別として、彼女の事は友人だと思っているのだから。)

へえ、こらまた面白い。

(その塔を、自身は面白いと評した。
 融点も特性も何もかも違う多種類の金属を、溶接ではなく混ぜ合わせて、しかも層を成して成形している。
 その層の重なり具合は寸分の狂い無く同じ割合で重ねられているように見えるし、それでもってきちんと塔としての形も成していた。)

金属に限らず、物質言うんはそれぞれ違う性質を持っとる。
熱に強かったり、衝撃に強かったり、よく伸びたり。
そんないろんな性質のものをこんな風に混ぜて一つのモン作る言うんは、異能使っても結構難しいはずや。
しかもそれらを混ぜ合わせつつそれぞれの層にしとる。
作るのに気ぃ使ったと思うで。

(何かを期待するような彼女の目を見て、にやりと笑い、解説して見せた。
 異能についての解説は出来ないが、そう言う解説ならば出来る。
 「異能アート」の解説と言うには、少し無粋かもしれないが。)

美澄 蘭 > 「………そう、ね。気をつけるわ」

真面目な表情で頷く。
「好意」を素直に受け取ってもらえることの喜びは、さっき教えてもらったから。

「………すごーい………」

口から零れたのは、いわゆる「合コンさしすせそ」の1つではあるが…この少女に限って、そんなことはないだろう。
頼の説明を、知的好奇心に輝く瞳で頼の顔の方を見ながら聞き…そして、同じ瞳で塔の様相を、改めてしげしげと見つめている。
知的好奇心に満ちた、素直な瞳だった。

八百万 頼 >  
(とはいえ、だ。)

――ちゅうても、異能アート言うにはちーと地味かも知れんな。

(確かに精巧で面白いものではある。
 しかし、やろうと思えば異能を使わずとも同じようなものは作れる。
 地球上では比重のために作成が難しいが、無重力空間であれば問題ない。
 そこで溶かした金属を積み上げてインゴットを作り、削って成形すれば完成してしまう。
 当然精巧さは天と地ほどの差があるだろうが。
 だからこそ、個人的にはコレよりもさっきの絵の方が見ごたえがあると思った。)

美澄 蘭 > 「…そうなの?
大きい作品って、それだけで凄く大変そうなイメージあるけど…」

頼の言葉に、不思議そうに首を傾げながら。
蘭は、「モノを作る」のはさほど得意ではないのである。

「………とりあえず、先見てみる?」

そう言って、順路の先に視線を投げ…そして、歩き出す。
頼の様子を見ながら、順路を進み………そして、少女の足は、とある大きな絵画の前で止まった。

八百万 頼 >  
大きさと精巧さはさすがやけどな。
けど、やろうと思えば今の技術で似たようなモンは作れる。

(とは言え金属をコレだけ自由に扱えるなら、その汎用性はかなり高いだろう。
 少なくとも、就職先には困らなさそうだ。
 そのような事を話しながら先に進めば、彼女の足が止まる。
 そこにあるのは大きな絵画。
 彼女の顔とその絵を、交互に見比べて。)

美澄 蘭 > 「…そうなの…異能もそうだけど、科学技術も凄いのね…」

科学と魔術は、理論的には通じるところがなくもない。
だからこそ、蘭も一般教養のためだけではなく、魔術を学ぶ下地として理系科目に精を出してはいるが…科学技術の方には、そこまで強く関心を持たないらしい。感嘆の言葉を漏らして終わった。

蘭が、足を止めた絵画。それは、シュルレアリスムのような、ねじ曲がり荒涼とした風景、異様な色彩の空が描かれたものだった。
その絵が………動いている。
先ほどのペガサスの絵とは比べ物にならない、歪みと変色、変形を繰り返している。

「………」

その異様さを目に焼き付けようとせんばかりに、蘭は無言で、その絵画に釘付けになっていた。

その大きな絵画の横には、このような注意書き。

『感覚干渉系の異能が使用されています。酔いやすい方、感覚の過敏な方は長時間ご覧にならないようにご注意下さい』

八百万 頼 >  
(高度に発展した科学は、魔法と区別が付かない。
 昔のSF作家が言った言葉だ。
 異能の出現や魔法などの表面化など、大変容前後で技術体系はガラリと変わったが、その言葉は今も変わらないと言えるだろう。
 逆に言えば、科学で再現できる魔法も存在する、と言う事だ。

 彼女が目を奪われている絵画、その横の注意書き。
 それを読み、もう一度彼女に視線を移す。)

――美澄ちゃん。

(彼女の名前を呼び、肩に手を置く。
 この絵画は自分の手に負えない種類のものだ。
 原理もわからず、効果もわからず、意図すらもわからない。
 わかるのは、彼女が奪われているのは視線ではなくもっと奪われてはいけない何かだろうと言う事。)

美澄 蘭 > 「………え?」

頼に肩をおかれれば、いささか間抜けな声を出しながら、きょとんとした様子で頼の方を見る。
その瞳には、しっかりと自我の光があった。

「………あれ、私、そんなに長い間見ちゃってた?」

迷惑だっただろうか…という風で、申し訳無さそうに尋ねる蘭。

感覚干渉により、動いて「見せている」絵。
一度として、同じ姿を見せないように見える…「あなたの心を映す」という触れ込みの絵。

蘭自身、元々シュルレアリスムなども好んで見はするのだが…使われている異能の注意事項と相まって、それが頼にとってどれほど異様な光景に見えたのか、この少女には知る由もなく。

…自分の肩に置かれた頼の手には、まだ気付いていない様子だ。

八百万 頼 >  
あんま見ん方が良い。
ほら。

(言って示すのは説明文。
 同時に肩に置いた手で、自身の異能を発動。
 許可が無いので意識の読み込みは出来ないが、肉体的な情報ならば気付かれずに読み込める。
 肉体的な異常は無いか、脳の神経をおかしな電気信号が流れていないか、果ては魔力の流れすらも情報として読み込んで、彼女に異常がないかを調べていく。

 改めて絵画を見る。
 そこに移っていたものを見て、思わず笑いが漏れた。

 「絵」など、どこにも見えないのだから。
 ただ色を塗りたくっただけのキャンバスでしかない。)

美澄 蘭 > 「…ああ、なるほどね…
何か変な感じがすると思った」

説明文を示されれば、納得した風に頷き。
蘭の肉体の状態をあえて言えば、「ごくごく軽度の乗り物酔い」が近いだろうか。まあ、身体に支障が出るようなレベルではない。

「…私、シュルレアリスムとかそういう近現代美術が好きで…
………それに、人によって見え方が違うらしいから、他の人はどう見えてるのかな、と思ったら、気になっちゃって…それで、つい。

…心配、させちゃった?」

頼の目に、この「絵」がどう映ったかを、知る由もなく。
心配そうに、上目遣いで頼の表情を伺った。

八百万 頼 >  
――少し休もか。

(ちょうど近くに休憩スペースがある。
 この絵を見て体調を崩す者のことを考えての設置だろう。
 肩から手を離し、そちらの方へ歩いていこう。)

しゅる――えーと、ヤカンに脚生えてるようなやつやったっけ。

(咄嗟に自身の異能でその言葉を検索する。
 まさにシュールと言うべき絵がヒットした。
 よくわからない顔をしつつも、確認するように。)

そら心配したわ。
いきなり立ち止まってあの絵ガン見しとんのやもん。
――気分悪かったりせーへん?

(困ったような顔で彼女の体調を気遣う。)

美澄 蘭 > 「…え、ええ…」

何やら、相手の雰囲気が普段の軽さではなくて。
深刻そうな面持ちで頷いて、後に続く蘭。
そして、休憩スペースに腰掛ける。

「ヤカンに脚………なくはないと思うけど、それよりは、宙に浮いた大岩とか、だれた時計が荒野に一杯ある絵とかの方が有名じゃない?」

頼が「シュルレアリスム」についてよく分からないような顔をするのを見て、おかしそうに少しだけ笑った。
…しかし、我ながら酷い説明だと思う。いつか頼には現物をネット経由でも良いから見てみてもらおうと思う蘭だった。

「…ほら、何ていうか…ああいう絵って、自分が今まで見てなかったものを突きつけられるみたいな感覚、あるでしょう?
だから、普通に好きなのよ。………ごめんなさい。でも、私は大丈夫だから」

見ていた当時でも「何か変な感じ」くらいだったので、絵から離れれば体調はまるで問題無いようだ。
…寧ろ、頼を心配させてしまったことの方が彼女の気がかりであるようで。
口元には柔らかい微笑を刻み、その一方で心配そうに頼を見返す………何とも、微妙な表情。

八百万 頼 >  
(あの手のモノはわからない。
 わからない故に、警戒する。
 彼女の隣、離れすぎず近すぎない距離にこちらも腰を下ろして。)

そらまた――凄いな。

(彼女の説明になんとも言えない顔。
 実際になんとも言えないので、その絵面を想像した感想を凄いの一言に込めた。)

んー、まぁその感覚はわからんでもないな。
――せやけど、せめて注意書きはちゃんと読も。
心配するから。

(優しく、けれども叱る色も混ぜた声。
 真面目な顔で、彼女のその顔をじっと見る。)

美澄 蘭 > まさか、自分に分からない異能や技術の説明をしてくれた頼に、「アレ」が分からないとは思っていないらしい。
…それでも、微妙な距離感から、相手が平静とは言い切れないだろうことは、何となく感じた。

「今私が言ったのは、マグリットの「ピレネーの城」に、ダリの「記憶の固執」ね。
…ちょっと、私の言葉での説明じゃあんまりにあんまりだから…「気が向いたら」、探してみて。
質感とか、凄いのよ。…無理にとは、言わないけど」

少女が「気が向いたら」を気持ち強調したのは、どうも相手はそういった趣味をあまり持っていないようなのが表情から察せられたからだ。
声のトーンを、上げないように細心の注意を払う。

「………そうね…ましてや、このエリアにあるのは普通の絵じゃないんだし。
ちょっと、勇み足だったわ。…本当に、ごめんなさい」

優しい声だが、厳しさが混じる。相手の、真面目な表情も痛いくらいだった。
…でも、目は背けない。少し沈んだ顔で、軽く頭を下げて…それから、頼の目をしっかりと見た。

八百万 頼 >  
――前も言ったと思うけど、ボクは魔法とか魔術とかにはからっきしや。
せやから、そう言うのは――わからん。

(怖い、と続けようとしてやめた。
 どうも彼女に対しては口が軽くなるようだ。
 信頼を向けられているからだろうか。)

ダリさんは名前だけは聞いたことあるわ。
へー、そんな絵描いとる人なんか。

(聞いたのは名前だけで、作風とかそう言うことは知らなかった。
 彼女の語りに熱っぽいものを感じ、帰ったら調べてみようと考えて。)

――わかってくれたなら、ええよ。
デートやからな、楽しくいこ。

(彼女にそれが伝わったとわかれば、一転していつもの軽薄な笑顔に戻る。
 真面目さとは程遠い、いつもの何も見えてこない笑顔。
 一度真面目な顔を見た後なら、その何も無さをより強く感じるかもしれない。)

美澄 蘭 > 「………そう………」

「さっきのも、一応異能だったみたいだけど」という言葉は、伏し目がちにしながら飲み込んだ。
そんな軽口を、今の「彼」にぶつけてはいけないような、そんな危うさを感じて。

「ええ…他にも独特の雰囲気の絵をいっぱい描いてるのよ。
…ちょっと、グロテスクな感じもするくらい」

そう言って、肩をすくめながらほんの少しだけ笑みを零す。
…ダリの名で出てくる絵達は、頼にどのように映るだろうか。

「………そうね…あ、気分転換にミュージアムカフェ行かない?
美術品をテーマにしたメニューとかがあって、お洒落なのよ」

軽薄な笑顔に、こちらも応じるような…少し、作った感のある明るい声。
先ほどの真面目な表情と、うってかわった空虚さ。
………感覚を少しばかり痛めつけながらも好きな作風を楽しんだ自分よりも、頼の方にこそ気分転換が必要ではないかと思って。
明るい声を装うが…その口元には、少しだけ作為のぎこちなさがあった。

八百万 頼 >  
(異能についても詳しいわけではない。
 特に自身は触れるものに特化した異能だ。
 情報や記憶なども扱えるが、それはいわば「副産物」のようなもの。
 あの絵のような、精神的な異能は魔法と同じなのだ。)

グロテスク、なぁ。
どんな気分で描いてたんやろ。

(ダリに限らず、シュルレアリスムに限らず。
 一般的に理解しにくいものを作る芸術家と言うのは、どういう事を考えて作品を作っているのだろうか。
 天井を見ながらそんな事を口にする。)

ミュージアムカフェか、ちょうど腹も減ってきたし、ええな。
ほないきましょか、お姫様?

(立ち上がり、貴族のような幽雅な所作で手を差し出す。
 彼女のぎこちなさには気付いていたが、そこをつつけば逆に問われる。
 だから見えないフリをして、いつも通りの軽薄な顔のまま。
 
 チケット代については、聞かれなければ言わないし、聞かれてもいつものようにはぐらかしてしておいただろう――。)

美澄 蘭 > 蘭は、頼のことを詳しくは知らない。
ただ、頼の異能にも限界があるとは聞かされているし…何より、彼も人間だ。
分からないことなど、いくらでもあって当然だろう。
………落差に戸惑いを覚えながらも、蘭はそう自分を納得させることにした。

「…さあ、私も詳しくは…。
ダリと並べられるマグリットなんかは、徹底して「ビジネス」として描いてたらしいけど」

そう言って苦笑する蘭。
芸術家の頭の中が理解出来るなら、そっちの道で生きていけるんじゃないだろうか、と何となく思う。

「ええ…結構長く見て歩いたしね。

………って、お姫様って、ちょっと…!」

貴族のような所作で手を差し出されれば、蘭の白い頬が赤く染まる。

結局、その後は頼に上手くあしらわれてしまったのだろう。
カフェのことも、チケット代のことも………差し出された、手のことも。

ご案内:「国立常世新美術館」から八百万 頼さんが去りました。
ご案内:「国立常世新美術館」から美澄 蘭さんが去りました。