2018/07/29 のログ
ご案内:「ヨキの美術準備室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > かつて獣であったことばかりが理由でもないだろうが、ヨキは果物を好き好んでよく食べた。
日が沈んで蝉たちが鳴りを潜め、街は間もなく夕食どきを迎えようという時刻。
仕事を終えたヨキが、備品の冷蔵庫に隠し持っていた桃を剥いていた。

青果店で買い求めた硬めの桃の、食べ頃を見計らっていたのだ。
今日がお待ちかねの実食、という訳である。

鼻歌交じりのヨキは何ともご機嫌だった。
カットした桃を皿に並べて、日記代わりのSNSにアップする写真を撮るのも抜かりない。

ヨキ > 皿の上にはつるりと熟れた桃が一玉、二玉。豪勢にもう一玉剥こうとして、止めた。
さすがのヨキにも自制心くらいある。

「さて」

支度を整えて、机の上の桃と向かい合う。
瑞々しく甘い匂いは、空調の風に乗って部屋を満たした。
にんまりと笑って合掌し、拝むように「いただきます」の挨拶。

ようやく待ちに待った一切れを、大きな口で頬張ると――

「――んふッ」

言うまでもなく、美味いのである。果汁で頬をいっぱいにして、まるで子供のように幸せを噛み締めた。

ヨキ > 一切れ、また一切れと大事な宝物のように頬張る。
待った甲斐があったというもので、冷えた桃は甘く濃厚だ。
お供に選んだ紅茶の香りがマッチして、一日働いた疲れも吹き飛ぶ。

誰かにお裾分けをしたいような、独り占めをしてしまいたいような。

気が付くとぺろりと平らげてしまいそうなのを我慢しながら、また一口。

ご案内:「ヨキの美術準備室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 扉をノックする音と,「居るのか?」と短い声。貴方にとってはよく知る声。
ただ,これまで,この声をこの場所で耳にすることは殆ど無かったはずだ。
貴方がもし,数週間前にこの男に向けて言った一言を覚えていなければ,この男がここに現れた理由は皆目見当も付くまい。
この男は数週間前に言われた「美術準備室に寄ってくれ」という言葉を,今日,やっと行動に移したのである。
つまりそれは,この男の魔術学研究がひと段落したか,暗礁に乗り上げたか,どちらかだということ。

ただ,獅南としても勝手の分からない場所である。
無暗に乗り込むようなことはせず,扉の前で待っているようだ。

ヨキ > ノックの音には、人それぞれ癖がある。教え子のいずれとも付かない音に、聞き知った声。

「は――ァい、」

教師としての声音が、途中で友人のそれに変わった。
ここには獅南の研究室のような、魔術仕掛けの鍵などない。ただ単純な、よくある造りの扉だ。
席を立って入口へと歩み寄り、来客を出迎える。

「よう獅南、お疲れさ、………………、」

扉を開けるなり、短い挨拶。それから相手の顔を見て、少しの間。

「……ひっどい顔。あれからどうなった?」

ふっと笑って相手を室内へ招き入れると、応接用のソファへ座るように促した。

獅南蒼二 > 招き入れられれば,部屋の中を軽く見回して…それから,貴方の問いに苦笑を浮かべ,

「どうもこうも,どのような術式構成を試しても予想の範疇から出なくてな。
 お前のように無尽蔵の魔力でもあれば,どうにかなるのかも知れんがね。」

皮肉めいた言葉と共に,小さく肩を竦めた。
どうやら今回の場合,魔術学研究に関しては後者の方だったらしい。
促されるままにソファへと腰を下ろし,ふぅ,と小さく息を吐く。

「…思ったよりも片付いているな。」

自分の研究室と比べればそりゃあそうでしょう。

ヨキ > 「難儀なものだな。協力してやりたいのは山々だが、きっとお前は首を縦には振らないんだろう?」

笑いながら、ソファへ腰掛けた獅南を見下ろす。

「ふふん。ヨキが使う部屋となれば、見た目にも機能的にも美しくなければならんのだ。
 作業中に道具をどこへ仕舞ったかも判らんようでは、そちらの方がストレスが溜まるからな」

偉そうに鼻を鳴らすと同時、ヨキが奥の机で茶器を準備する音が聞こえた。

「紅茶を淹れたところなんだが、それでいいか?コーヒーもあるぞ」

甲斐甲斐しく支度する様子は、まるで自分の自宅のようだった。
一つ残しておいたとっておきの桃も、ここで剥くことにしたらしい。