2018/07/30 のログ
獅南蒼二 > 「お前にしか使えないような魔術を作っても価値は薄いだろう?」

逆に言えば,作ろうと思えばそういう類の術式も組めるということ。
少なくとも貴方の言うように,助力を受けるつもりはさらさら無い。

「…妙な使命感だな。」

肩を竦めて苦笑しつつ,周囲を改めて見回す。
決して物が少ない部屋ではないが,確かに全てが秩序をもって,美しく陳列されている。

「必要になりそうな物の場所を全て記憶しておけば問題ない。」

冗談でも詭弁でもない,この言葉は事実である。その証拠に,この男が研究資材を探し回っている様子は見たことが無いだろう。

「どちらでも構わんよ…お前の好きな方で良い。」

自販機で買うのなら珈琲だが,こういう時は貴方に任せたほうが正しい選択をしてくれると知っている。

ヨキ > 「獅南蒼二のオーダーメイドと来れば、ヨキにとってそれほど価値のあるものもないがな。
 まあ、魔術学史上もっとも意味がない、などと言われても文句は言えんな。はは」

軽く笑ってはいたけれども、獅南の部屋を思い浮かべるや眉間に薄く皺が寄った――とは言え、ソファに座る相手には背を向けているのだが。

「……部屋の中を整理整頓した方が、余計な記憶をせんで済むのではないか……?
 いや、止そう。こればかりはお前なりの方法があるのだろうから」

このヨキと部屋が汚い人間とは、どこか相容れない部分があるらしい。
獅南の回答に、それなら、とティーカップに温かな紅茶を注ぐ。

「紅茶を淹れよう。ちょうど桃が食べ頃でな。ピーチティーなぞ売っているくらいだから、これがなかなか合う」

言い終えると、獅南の向かいのソファへ近付いて腰を下ろす。
手にしていた二組の紅茶と、細身のデザートフォークを添えた桃の皿をテーブルに並べた。

「お前の気晴らしになればいいがね」

獅南蒼二 > 「……それをお前が思い通りに扱えるかどうかは,甚だ疑問だがな。」

貴方の背を真っ直ぐ見て,軽口のようにそう告げる。
しかしその言葉は誇張でも冗談でもなく,本心からの言葉。

「まぁ,初めから整理しておけばそれも良いのだろうがな。
 既に記憶しているものを移動しては,混乱を生ずるだろう?」

散らかしておくことに意味があるのではなく,拘りがあるわけでもない。
だが,あの混沌をまた一から組み立て直し,記憶し直すのは流石に骨が折れる。
獅南が部屋を現状維持とするのは,何処までも打算的な損得勘定の結果である。

「ピーチティーか,普段ならまず飲まんだろうな。
 気晴らしが必要で来たように思われては心外だが,まぁ,有難く頂こう。」

ヨキ > 「そこはヨキも頑張るから、お前も少しは扱いやすさを考慮してくれても……、ないか。
 手心を加えるようじゃ、お前の魔術とは言えんだろうから」

己が研鑽なくして扱う資格のないことを、ヨキはよくよく判っていた。
相手の部屋に関する説明には、些か不服そうにしながらも、

「それは……まあ。そう言えなくはないんだろうよ」

そういう人種もあるのかもしれない。
掃除と整理整頓が大好きなこの男には、なかなか理解が及ばなさそうだ。

紅茶は特に風味を付けていないストレートのダージリンである。
甘く熟れた桃をデザートにすると、茶葉のすっきりとした飲み口が爽やかだ。

「……気晴らしや気分転換というのは、誰にだって必要だろう?
 お前の実力や腕を侮っている訳ではないが、そんな顔色では傍から見ていて心配にもなる」

獅南蒼二 > 「私の所為ばかりにしてくれるなよ。
 お前の魔力はどうも,感情や感覚に支配されるきらいがあるようだからな。」

貴方が努力と研鑽を怠る人物だとは思っていない。
だからこそ,貴方の魔力の在り方を非難するようではなく,単純な事実として語る。
少なくとも,それが自分とは全く異質であることは知っているし,それを認めてもいる。

「あの建物が建て替えれれる時まで私が生きていれば,次の部屋は綺麗にしよう。」

白々しい発言である。見張っていなければ,ぜったいやらなそうだ。
獅南は静かにカップを手にして,紅茶を啜った。
香りに敏感でもなければ,味覚が優れているわけでもない。
だがまぁ,貴方の数分の一かもしれないが,その香りを楽しむことができないほどでもない。

「まぁ,それは否定しないがね。
 だがお前だって,大きな作品を仕上げようとしている時は,同じようなものだろう?」

桃を一切れ口に入れて,静かに味わいながら。

ヨキ > 頭を掻いて、何かを思い出すように言葉を続ける。

「本当に、困ったものだ。体系化された魔術とは、どうも相性が悪いらしい。
 訓練施設で、少しだけコツを掴み掛けたこともあるにはあったのだが……どうにも後が続かんでな。
 こちらは引き続き、目下練習中というところだ。人間になって二年も経つからには、知識だけならそこそこ身に着いてはきたと思うのだが」

続く相手の発言には、思わず半眼になって訝しむ。

「……大爆発でも起こらん限り、自体は動かなさそうだな」

もはや諦めの境地である。
ひんやりとした桃を味わって、紅茶を口に運ぶ。何とも美味そうに息をついた。

「ヨキだって集中こそすれ、お前ほど鬼気迫る面構えにはならんよ。

 ……多くは理解出来んやも知れんが、今は何の研究をしてるんだ。
 獅南でも突破出来ないほど、難しい内容なのか?」

獅南蒼二 > 「なに,魔力に対する親和性から何から,私とは真逆だということだ。
 少なくとも,お前のやり方で行使可能な範囲に在る限り,問題にはならないだろう。
 複雑な魔術的作用をもたらすような魔術を行使する場合には,多少なりとも工夫か,もしくは努力が必要だろうが。」

獅南の研究する魔術学はそもそも,魔術を感覚的に行使できる者を対象とはしていない。
万人に与えることをこそ至上としているが故に,無意識にそれを行使できる人物には,逆に足枷にもなりかねない。
それは確かに,事実の一側面である。

諦めの境地に至る貴方の向かい側で,顔色の悪い男は,しかし楽しげに笑う。
こうして会話をすることは,確かに“気晴らし”になっているのだろう。
なお,貴方の問いには,何の抵抗もなく…

「あぁ,空を飛ぼうと思ってな。」

…さらりと答えた。

ヨキ > 「それでも、ヨキはお前の魔術学がよかったな……」

ぽつりと零す。
困ったように笑って、眉を下げた。

「お前の魔術は、ヨキの憧れだからな。
 どうにか追い付きたいと思って魔術を学んできたが、元から性質が相反しているようでは太刀打ち出来ん。
 ヨキはヨキなりのやり方でお前に並び立ちたいのさ、ワガママな夢だがね」

そうして、獅南が口にした“空を飛ぶこと”。些か不意を突かれたのか、目を丸々と開く。
けれどもヨキはそれを笑いもせず――努めて声を抑えるようにして、僅かに身を乗り出した。

「――すごい。魔力で空を飛ぶ機械か。それとも、人間が生身で宙を?
 獣のヨキは車より速く走ったが、空は終ぞ飛んだことがない。どんな仕組みなのだ?」

尋ねる口の端が吊り上がって、好奇心が滲み出ている。

獅南蒼二 > 「それは私がお前と同じような絵を描けんというようなものだろう?
 私はそれを描く気が無いから問題にもならんが,お前の場合は難儀な夢を抱えてしまったものだな。」

肩を竦めて,苦笑を浮かべる。
獅南は,貴方ならいつの日か,その壁を克服する日が来るのではないかとも感じていた。
もっとも,それが相当に困難なことであろうとも,想像がついていたが。

「機械はある程度実用化されている。言ってみれば魔女の箒だってその一種だ。
 だが,何の補助具も使わずに飛翔する魔術は,一般的ではないだろう?
 魔導生物の中にはそれを擬似的に完成させているものも存在するがね。」

この男の研究は常に魔術学の新たな可能性を求めている。
必要性は,と聞かれれば甚だ疑問だが。

ヨキ > 「魔術学より、絵を始める方がずっと簡単さ。
 まずは一枚描いてみればいい。また一枚、それからまた一枚。下手でも、遅くても、まずは完成させること。
 描き出すことの早い遅いに関係なく、『自分は描けない』と思っている人間は自分で壁を作ってる。

 言ってみれば、自分がその作品を完成だと思わなければ、どこまでも手が入れられるからな。
 その途方もなさを知っているから、どこまでも魔術を突き詰めんとするお前に憧れるんだ」

学生へ真っ直ぐに道を説く教師の顔とは異なり、自分自身の憧憬を吐露する顔はどこか柔和だった。
だからこそ、空を飛ぶ魔術にも素直に顔を輝かせる。

「ふふ。人間が誰でも身一つで空を飛べるなら、色んな物事が楽になるな」

爪を黒く塗った指先で、テーブルの天板をついとなぞる。

「どうしたら飛べるんだろうな。反発と……姿勢の安定と……」

頭の中でパズルを組み立てるように、ぶつぶつと言葉を漏らす。
その組み立て方は、魔術を学び始めた頃よりもずっとこなれて、理路整然としている――無論、専門の研究者には及ぶべくもないのだが。
相手の顔色を窺うでもなく考えに耽る顔は、子供のように楽しげだ。

獅南蒼二 > 貴方の言葉は相変わらず,過大評価も甚だしいといった調子だが,
それが社交辞令ではないと分かっているからこそ,返す言葉には毎度困る。

「…お互い,自分の分野は簡単に思えるものだろう。
 考えてもみろ,私が芸術など作りだせるような人物に思えるか?」

そう言ってから,いや,貴方ならきっと,そこにも可能性を見出してしまうだろうと思い直し…

「いや,仮に可能だとしても,お前の言うように,私には魔術を突き詰めるために時間が必要だからな。」

…先回りした。

「さて,その先に何が起きるのかは,実際に使う者たちが見出すのだろう。
 そうだな…方策は何通りか存在するが,その何れも“熟練”ないし“才能”を要するのが難点だ。
 サーカスの綱渡りよりも難しいとあっては,話にならんからな。」

空を飛ぶ。
その言葉から物理法則や肉体の制御について思い至る貴方の様子を見て,獅南は目を細め…苦笑した。
努力と研鑽と言葉にするは容易いが,ここまで実践を伴って体現している例は,他にそうそう無いだろう。

「案外,お前の方が柔軟な発想で面白い術式を生み出せるかも知れんな。」

そうとだけ告げてから,紅茶を飲み干し,静かに立ち上がる。

「さて,そろそろ戻るとしよう。何か思いついたら教えてくれよ?」

それは半分冗談であったが,半分は本気だった。
貴方の言葉は時に,禁書庫に眠る魔術書より貴重な気付きを齎してくれることがある。

ヨキ > 嘘がないヨキの言葉は、時に過剰で、胡散臭くすら響く。
恥ずかしげもなく言い切って――先回りされると、先に言われた、とばかり軽く笑った。
今にも頷きそうだったことは、獅南にも丸分かりだったろう。

「確かに、獅南は多芸を究めるよりも一芸に秀でる方が似合ってる。
 寄り道など以ての外と言わんばかりにな……休憩と、睡眠や食事はまた別の話だぞ」

遠回しに、ちゃんと寝て食えよ、と。
獅南が口にする「何通りかの方策」は、ヨキにはまだまだ未知なる世界らしい。
ぶつくさと呟く内容の、ほんの一通りの取っ掛かりだけが精一杯である。

それでも不意に相手から告げられた言葉に、喜びと謙遜の交じった笑顔を浮かべる。

「……ヨキの方が?
 まさか。ふふ、もし本当に実現するなら、願ってもないがね」

桃の最後の一切れを頬張ってから、席を立つ獅南を見上げる。

「ああ。お前の方も、事が進んだら教えてくれよ。ヨキの何よりの楽しみなのだから」

笑って空のカップを取り、相手の後に続いて立ち上がる。

ご案内:「ヨキの美術準備室」から獅南蒼二さんが去りました。
ご案内:「ヨキの美術準備室」からヨキさんが去りました。