2015/10/02 のログ
ご案内:「居住区/公園」に浅田扁鵲さんが現れました。
■浅田扁鵲 >
「まったく、なんでまた散歩なんだか」
【両手で抱えるような大きさの、二本の角が着いた爬虫類にリードを繋ぎ。
引っ張られるように歩くのは深い緑色の作務衣の男。
臨時の教員として常世学園に招待された、浅田である】
「おい、あんまり遠くまで引っ張るなよ。
帰りが面倒になる」
【念のため言ってみたが、『キュイ』と鳴いた”トカゲ”は分かっているのか居ないのか。
まあ、いくら注意したところで、この楽しそうに歩く爬虫類には力では敵わないのだ。
帰って惰眠をむさぼることは諦めて、満足いくまで付き合うほかに、選択肢は用意されていない。
根負けして連れ出してしまった以上、気が済むまで面倒を見るのが飼い主としての務めだと自分に言い聞かせた】
■浅田扁鵲 >
「しっかし、この辺りは静かなもんだな」
【寮から離れて、住宅街へ向かい、人通りはあるものの、静かな道を歩く。
流石に連れている動物が珍しいのか、振り向かれもすれば声も掛けられるが。
公園まで出て犬連れの女性とあった際、互いのペットがじゃれあい始めれば、それを見た住人達が寄って来て、井戸端会議に発展するのは良くある事。
鍼灸師という口コミが大事な商売は、こういったご近所づきあいも大事なのである。
そんな心温まるふれあいのひと時を、面倒だなあと内心思いつつ過ごしていれば。
ふと視線を向けた先で、突然崩れ落ちる少年と、抱えるように蹲る女性】
「すみません、ちょっと失礼しますよ」
【飼い主より先に走り出した”爬虫類”に引っ張られながら、駆けつけてみれば。
目の周りを赤く染めた、震える少年の姿】
■浅田扁鵲 >
「どうしました?」
『こ、この子が、息子が急に倒れて――』
【なるほど、親子か。
二人の関係を認識しつつ、両者の様子を見る。
母親は突然の事で動転しているのだろう、助けを呼ぶ前に救急車でも呼べばいいのに。
そして少年を見てみれば、顔面部を中心に頚部にかけての紅潮と、発汗。
口唇も赤みが強く、耳も赤みを帯びている。そして、瞼の隙間から流れる少量の血。
発熱があるのだろうか、体は寒そうに震えているが……】
「すみません、救急車を呼んであげてください。
それと毛布をいくつかお願いします。
――少し触らせてもらいますよ」
【着いて来たのだろう話していた住人達に頼むと、同時に母親へ断りを入れて少年の足へ触れた。
ズボンの裾をまくり、靴を脱がし靴下を脱がす。
素足を触れば、湿り気もなく異様に冷たい。指先、爪床を見てみれば、青色になり血の気がなかった。
次に手に触ってみれば、これも同様冷たい。爪床もまた青い……爪に波打つような変形や、発達が悪く小さな爪。
――陰虚か?
陰虚による陽気の上行……いや、それだけにしては様子が酷い。
爪の変形を見れば肝、血……?
特徴としては見えるものもあるが、何より眼出血が気になる】
■浅田扁鵲 >
「お子さんは普段から貧血などありましたか?
めまいや、ふらつきなど――あと、この子の異能は?」
【そういくつか質問すれば。
貧血はなくめまいやふらつきがあった様子はない。
そして異能は、『透視』。オンオフが上手く出来ず、その訓練のため常世島に家族に来たらしい。
そう聞けば……この症状にも覚えがあった。
昔に同様の症状を治療した記憶がある。そのときは、これほど酷くはなかったが。
再び手足を、今度は末端から付け根まで軽く掴むように触っていく。
まだ十歳ほどだろうか。けれどそれにしても筋肉が少ない。
脈に触れれば、六部の内、左関上が弱い。ついで尺中。
手足に十分気血が巡っていないからか全体的に弱くはあったが、そこは特に抑えた指を押し返す力もない。
虚の脈だ。少年には声を掛けても反応がなく、呼吸は荒い。
常に持ち歩いている小型ケースから取り出した鍼は、1.5インチの0.3mm。
まずは気付け。足の裏、湧泉に一息に1cm。少年がびくっと震えて反応を示す。
母親は驚いたように慌てるが、低く治療だといって黙らせた】
■浅田扁鵲 >
「よし、聞こえるな? ――苦しいだろうが、すぐに楽になる。
ちょっと痛いかもしれないが、我慢しろよ」
【苦しげなまま、呻くように頷く少年に問いかけ。
続いて1寸3分、四番の鍼。狙うのは膝の裏内側の陰谷、慈陰の鍼。ここは2cm。
手ごたえは弱いが、鍼に食いついた感触。
さらに同鍼で内くるぶしから上方、三陰交に1.5cm、気血の治療。
本数は可能な限り減らしたい――となれば、次は足母指と示指の間、中足骨同士の隙間、太衝。肝経の要穴。
少年は刺されるたび呻いていたが、顔色が落ち着き始めている。
そのまま、各鍼に手技を加えていく。一つずつ、弾き、捻り、気を整え五行のバランスを補う。
鍼を通して体内の気、陰陽、五行のバランスは掴めている。
それが分かれば、調整も難しくはなく――】
「――よし、これで一先ずは大丈夫だ」
【鍼を全て抜き取れば、少年の顔色は落ち着き、震えは納まっていた。
念のため触診してみれば、体温も戻り始めている】
■浅田扁鵲 >
【丁度良く運ばれてきた毛布に包んでやって、暫く待っていれば。
公園の横に止まった白い車体から、人がやってきて少年を運んでいく。
状態を処置内容を説明すれば、鍼と聞いて顔を顰められる。これはまあいつもの事だった。
それでも説明を聞けば速やかに車内へと戻っていく。
母親から何度も頭を下げられたが、気にするなとあしらって、協力者に礼を言うと、野次馬を抜けてベンチの上に腰掛けた】
「ふぅー……」
【ぐったりと背凭れに寄りかかっていれば、集まっていた人間も少しずつ散り散りになっていく。
幾人かが好奇心で視線を向けてくるが、寄って来ない相手は無視だ。
不本意ながら働かされてしまったのだ、暫くは散歩も休憩させてもらおう。
膝の上に妙な”トカゲ”が乗ってくる。
その背をなでてやりながら、ぼぅっと公園を眺めはじめた】