2016/06/16 のログ
ご案内:「寄月家」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
机に広げた問題集に向かい、さらさらノートを書き込む。
大した難易度でもなく、ノンストップで作業を進める。

(……飽きてきたな……)

というのもトレーニングの息抜きの勉強だ。
二時間ほど続けたが、もう来週の授業まで予習が要らない程度に終わっている。
義務教育課程を終えた秋輝には退屈以外の何物でもない。

(……来客でも来ないかな……)

一瞬で気晴らしがあればいいな、と思いながら問題を解いていく。

ご案内:「寄月家」に阿曇留以さんが現れました。
阿曇留以 > (えーと、ここが……)

アレから青垣山にいき、大太刀を取りにいったが、当然とでも言うべきか。
そこに刀はなく、血のあとしかなかった。
もしかしなくとも、誰かがもっていってしまったのだろう。
回収を諦めるべきか。
そう思いながら、念のため風紀委員へ尋ねたところ、届けが出ていて回収してくれた人物が居たとの事。
連絡先を置いていったという人物の元を尋ね、いまここにいるわけである。

(返してくれるかしら……。
お金とか要求されるとこまるのだけれど……)

実家だって裕福ではないし、自分でバイトしても高額は稼げない。
そんなことを思いながら、ピンポーンとチャイムを鳴らす。

寄月 秋輝 >  
来客の音がした。
それを待っていたと言わんばかりに、印鑑を手に出迎えに行く。
研究所からの郵便か宅配だろうとあたりをつけ、ドアを開ける。

「いらっ……しゃいませ」

なんとなく別の方面で想定していた人物がいて、小さく息を吐いた。
よりによってこちらの予想が当たってしまうのか、と。

「……どうぞ、上がってください。
 お茶を用意しますから」

そう言って奥へ引っ込んでいく。

阿曇留以 > 「え、あの……」

目が合った瞬間、ため息をつかれた。
どういう意味だろうかとおもいつつも、あがってくださいといわれ、慌てる。

「え、あの……。
えっと、お邪魔します……」

何か言う前におくに言ってしまった彼をおいかけるように、靴を脱いであがる。

寄月 秋輝 >  
奥のふすまを開け、和室を開く。
すでに座布団の敷いてあるそこへ通し、自分は茶の用意をする。
布団の上に、包帯のような布を巻き付けた刀が安置してあるのはすぐにわかるだろう。

「なんとなく、最初に浮かんだのがあなたでした。
 その刀を拾った時に、ね」

茶をお盆に乗せて現れる。
温かい緑茶。

阿曇留以 > 通された部屋は和室だった。
今時珍しい、などと思いながらちょっと視線を向ければ、すぐに目当てのものが見つかった。

(見る限り、汚れが全然ないわ。
しっかり手入れしてくれたのね……。
でも、なんでお布団の上に……?)

留以はそれほど刀に詳しいわけではない。
首を傾げていれば、暖かいお茶をもって現れる寄月をみる。

「そう、でしたか。
……ということは、やっぱり見てしまった……わけですよね。
あの場所を……」

太刀を拾った以上、見ていないわけがない。
少し顔を伏せ、言いづらそうにする。

寄月 秋輝 >  
茶を留以の前に置き、留以の正面にある座布団に自分も腰を下ろす。
もう一杯の茶をすすり、真っすぐに見つめる。

「ええ、見ました。
 刀に付いたのは人の血であることは一目でわかりました」

しれっと言い切る。
そこは全く問題ないのだ。

だからこそ、真っすぐに見つめる。
秋輝が見ているのは、人斬りとしての留以ではない。
その奥、留以という人間そのもの。

阿曇留以 > 隠さずにものをいってくる寄月に、目をあわせられない。
それが既に解決した問題で、本人から激励されているとはいえ、人を斬ったという事実はなくならず、やはり後ろめたいことだった。
しかし、目をあわさずに喋るのもあまりよくないとわかっており、なんどか目をそらしつつも、寄月を見る。

「その、わざわざ風紀委員へ届出をしてくださってありがとうございました。
謝礼はあまり出せませんが、なにかほしいものとかがあれば、できる限りそろえますので言ってくだされば……」

寄月 秋輝 >  
「謝礼も何も必要ありません。
 何を受け取ろうと、この刀をあなたの元に帰らせるべきでないと判断したら、
 僕はこの刀を返しません」

わずかに目を細める。
眉根に皺が寄る。

その感情は怒りか、呆れか。

「何故あなたは、この刀を捨ててあの場を去ったのですか」

尋ねる。
まずは一つ目の質問。

阿曇留以 > 「え……」

彼は何を言ってるんだと思った。
言っていることは分かるが、やっていることがわからない。
質問をなげかけられても、

「ま、待ってください。
意図が理解できません。
なんでそんなことを……」

質問には答えず、逆に質問を投げかける。

寄月 秋輝 >  
「何故、ですか。
 僕が同じく刀を扱う人間だからです」

すい、と目を動かす。
留以の右後方あたりに安置された、秋輝の刀。
一般的な刀と同じ長さ、装飾の無い鞘に納められたもの。

「刀を使う者として、それを放り捨ててあの場を去ったあなたに、理由を聞かねばならない。
 今後も同じことをするようならば、あなたに刀を返すわけにはいかない」

まっすぐ見つめ、迷いのない言葉をぶつける。
正座で姿勢を正したまま、やはりぶれない心。

阿曇留以 > 「……」

そういう、ものなのだろうか。
当然、留以の近くに刀を使う人間などいなかったためにそれが常識なのか彼個人の信条なのかはわからない。
が、彼が【刀】というものを大事にしている、見ているということは今ので分かった。

「……刀を捨てていたのは、私が斬ってしまった子を助けるためにです。
勿論、持ち帰ろうとは思いましたが、あの時は人を運ぶのに精一杯で、刀も持っていくのは難しかったので……」

一分一秒を争う事態だったために、刀は放置せざるを得なかった。

寄月 秋輝 >  
答えを聞き、指先で額を抑えた。
おそらく相手が誰でも、その答えを聞いただろう。
人命とは、そういうものだろうから。
だからこそ。

「……刀を振るったものの、相手を助けた……
 つまり相手には憎しみも無く、助けるべき人間だったと。
 それではまず、何故この刀を振るったのですか?」

目線を横に向け、布団に安置させた刀を見る。

阿曇留以 > なぜ振るったか。
鞘に入れたままの大太刀を。
なぜあの時、鞘から抜いて相手を殺そうと思ったか。

――殺すべき相手だと、認識したから。

「……怖かった、からです」

しかし口からは違う言葉が出た。
それも嘘ではない。
しかし、正しくない。

留以は、相対していた相手を鬼だと誤認し。
殺さなければいけないとおもった。
それは、自分の家族のために。
故に、刀を抜いた。

「……怖かったから、なんです」

もう一度、同じ言葉を繰り返す。

寄月 秋輝 >  
「十分な答えです」

刀を抜いたということは、命の危機すら感じた極限状態だったということくらいは理解できる。
秋輝自身は、留以の言葉に嘘はないと感じた。

「ではもう一度、言葉を変えて問います。
 あなたは何故、あなたの命を救ったこの刀を捨て置くことが出来たのですか」

突き刺すような言葉で容赦なく責めたてる。

「この刀は、本来の使い道を逸脱しても、あなたを救ったはずだ。
 この刀はあなたの命を守った、あなたの一部のはずだ。
 人命を守ったあなたの意志は結構。
 ですが、同じく人命を守った、この刀の尊厳をあなたは守らなかった」

わずかに、あごを引く。
少々上目になり、強く睨みつけるような角度。

「この刀があなたにそうしたように、あなたはこの刀に対して真摯であり続けましたか」

阿曇留以 > 真摯であり続けたか。
そんなの決まっている。

「……いいえ」

答えは、それしかない。
確かにそこにおいてある刀は愛刀であり、相棒でもある。
しかし、真摯であり続けたかといわれれば、否定しかない。
なぜなら、留以はその相棒を、心のどこかで、しかし自分で認識できるほどに、”道具”と思っているから。
道具はいつか壊れるもので、無理をすれば必然となる。

餓鬼を斬り、土蜘蛛を斬り、そして鬼さえ斬ったことのあるその刀は、いつ壊れてもおかしくないと思っている。
それは、留以が未熟ゆえに。
自分の技量のなさを刀の性能で補い、無理をさせている。
それを承知の上で、酷使している。
もし刀を信用し続ければ、刀が壊れたとき、次の一手が遅れる。
遅れればどうなるかなど、目に見えている。

ゆえに、真摯であるわけには、いかなかった。

寄月 秋輝 >  
その答えは短かった。
そんなところだろう、とも思う。
武器が自分の一部だと知れるのは、刀を長く振るった者だけだ。
大抵がそれを道具だと思い込む。

そして、道具だと思い込んだ者に対して、武器は十全にその力を見せない。
武器と人は一つである。
それを理解出来ない者には、武器は力を貸さない。

「……あなたには、刀を返さない方がよさそうですね」

静かに口を開く。

「あなたがまた他の誰かを斬る可能性もありますが……
 それ以上に、あなたがこの刀を失う。
 そして、刀の次にあなた自身の命を失う」

淡々と告げる。
未熟だから刀を持つべきではない、という意味でもなく。
刀を持った上で、それを理解出来ない人間は戦ってはならない。
ただ、それだけのことなのだ。

「戦いから身を引くべきです。
 刀も体術も、退魔の術も。
 全て捨てたほうがいい」

阿曇留以 > そうかもしれない。
彼のいう事は、確定ではないが外れているわけでもない。
きっとそのままでは、いずれはたどり着く未来かもしれない。
だけれど

「あなたのいう事は、多分正しいと思います。
ですけれど、お断りします。
私が戦いをやめれば他の人が犠牲になります。
私が戦わなければ、守りたいものが守れませんから」

それだけは即答し。
その場から立ち上がる。

「私の刀を拾ってくださって、手入れもしてくださってありがとうございました。
今後は気をつけるようにします」

ぺこりと頭を下げ、そして大太刀を回収しようと置いてある部屋へ行こうとする。

寄月 秋輝 >  
「僕が言っているのは、あなたのことではない。
 その刀のことだ」

そこから座したまま、微動だにしない。
顔も向けない。
刀を回収する留以を止めようともしない。

「その刀はあなたを守り続ける。
 報われぬまま、いずれ砕け散るその日まで。
 それでは、その刀が不憫でならない」

目線を正面に……自分の刀に移す。
誰よりも大事な、自分の刀。
自分の命を守り続けてくれた、自分と共に切り開いてきた刀。
大切な、母の形見の刀。

「あなたは守りたいもののために、あの刀の尊厳を無視するのですか。
 あなたのために生きてきた刀の尊厳を。
 あなたの手に渡る前に、その刀を生み出した誰かの尊厳を。
 あなたが救ってきた命と共に生きてきた、その刀の生きる理由を」

阿曇留以 > 布団の上で横たわる大太刀を見据えながら、後ろからかかる声に動きをとめる。

「……でしたら、どうしろというのですか。
私は、妖怪から人を守らないといけません。
けれど、この刀がないと勝てるとは思えない。

あなたは、私にどうしろといいたいのですか」

若干の怒りをこめながら、寄月に振り向く。

寄月 秋輝 >  
「刀を見てください」

短く言い放つ。

「今見るべきは、僕ではない。
 刀と向き合ってください。
 あなたを守り続けた刀を。
 あなたを主人として、『共に』戦ってきたはずの刀を」

秋輝の目線は、自分の刀に注がれる。
対話の見本を見せるように。

「今もあなたは、一人で戦おうとしている。
 道具として刀を使って。
 だからその考えを改めなさい。
 あなたは刀と共に。刀はあなたと共に。
 真っ直ぐ向き合って、礼と謝罪をしなさい。
 今日まで生きてこれた感謝と、投げ捨ててしまった謝罪を。
 それは道具ではない」

顔を向ける。
今度は怒りではなく、優しさに目を細める。

「あなたの、一部のはずだ」

阿曇留以 > 自分の一部。
そういわれ、じっと刀を見つめる。
永い時を、いろんな主人と渡り歩いたその刀。
いまだに自分の腕には重く、振り回し、振り回されている。
けれども、昔のあの時。
鬼を斬った、あの日。

「――」

そっと、刀を拾い上げる。
子供を抱くように、優しく、自分の目線にまで持ち上げる。
じっと、何分もの間、刀から何かを言われるのを待つかのように。

「――寄月さん。
この子を、拾ってくださってありがとうございました。
正直にいえばあなたのいうことを実践できるかはわかりません。
けれど……少し、考えて直してみます。
考え直して、自分の中で決心がついたら、また振るうことにします」

だから、きょうのところはこれで失礼します。
そういって、ぺこりと頭を下げる。

寄月 秋輝 >  
留以と同じように、自分もまた愛刀に目を向ける。
そのまま静かに語らう。

(うん。大丈夫。
 少し焚きつけただけ)

少しだけ微笑んだ。

「それがいいです。
 すぐにはわからないかもしれない。
 今はそれを知るべき時なのではないのかもしれない。
 でもいずれ、わかりますよ。
 命を落としそうなとき、その刀が傍に居た時、僕の言っていることの意味の全てが」

少し安心した様子で立ち上がる。
ゆったり歩き、玄関まで先導する。

「二度とこんなことの無いように、気を付けてくださいね。
 刀も、あなた自身も」

阿曇留以 > 「……はい、ありがとうございました」

落ち込んでいるような。
けれども、何かを考えるような。
歩きながら、複雑な表情で、ずっと大太刀をみていた。

「また今度、答えが分かったら。
答えが言えるようになったら来ますので。
そのときは、宜しくお願いします」

大きく、ぺこりとお辞儀をし、そして家を出て行く。
帰り道も、寮についてからも、おそらくはずっと悩んでいるだろう。

ご案内:「寄月家」から阿曇留以さんが去りました。
ご案内:「寄月家」から寄月 秋輝さんが去りました。