2016/08/24 のログ
レイチェル > がやがや、と人々が話を続けていく中で。
レイチェルとその男だけが、暗がりの中唯二つ灯る光のように
その場に在るように感じられた。

何をしに来た、という男に対して。
艶めく唇が小さく動く。

「私は、貴方と話し合いに来ました」

にこり、と笑って小首を傾げるレイチェル。
喚く群衆を意に介さず、椅子から静かに立ち上がる。

逃げ惑う人々。
雑多な色が、雪崩のように。
そんな中。
流れに逆らうように。
中央のテーブルへと向かう白の少女。


「とでも言いたいところだが――」

座っていた椅子を蹴飛ばす。
ドレスの裾をびりりと破れば。
純白のドレスの中にあっても、一際白く光る太腿が顕になる。

「――お前を止めに来た。今は、それだけだ」

そう口にすれば、後ろから護衛やらがやって来て……。

五代 基一郎 > 二歩三歩

いや、レイチェルが椅子を蹴れば。
椅子か床を蹴ったか中央のテーブルからやや檀上側のテーブルに男は降りる。
当然食器や並べられていた料理は踏みつぶされる。

レイチェルの冗談か、そういった予備動作なのか
潜入用の顔と言葉に何一つ表情変えずに口を開く。

■黒衣の男>「この飯と同じく酷い臭いだ。この世界のものでありながら
       この世界のものでない形をしている。この連中ではわからないのは無理もないが。」

この世界の食材を使いながら、異世界の味付け、盛り付け、香りが咥えられているそれら。
この世界で生まれたものではないが良いとする視点から見れば融和と調和
そしてそうでないと思うのならばただの凌辱でしかない品々を踏みながら太刀でテーブルを叩きまた床に降り立つ。

当然その、異邦人らしからぬと言うより本来招かれぬ客は目立つ。
なぜ侵入を許したのか、というような疑問を挟む前に護衛たちが銃やら武器やらを抜くが遅かった。
男の手には既に抜き身となった太刀が握られており、振るうか、というような動きも見せず
ただ水が護衛たちに滴れば血飛沫を上げて悲鳴と断末魔が上がる。

■黒衣の男>「異邦人の魔狩人とは聞いていたが魔が濃いな。ひどい臭いだ。
       ”魔物”が何をしに来た。」


逃げ惑う人々などもはや眼中にないのか、いつでも殺せるとでもいうのか
それとも別の意図があるのか。今やホールに生命があるのはレイチェルとその男のみだった。

■黒衣の男>「化物共の寄り合いに魔物が現れるのは当然だが止めに来たとは人のようなことを言う。
       いくら人の世に紛れようとその臭い消せるものではない。
       その質も然り。魔物が人の真似事とは。」

レイチェル > 「……一応変装《おめかし》して来たんだがな。
 まぁ、てめぇ相手には意味ねぇか。
 臭いなら、てめぇの方だってすげぇ臭ってるぜ。
 とんでもなく濃い、血の臭いがな」

踏みにじられる人々の命。
それを前に、または背にしてレイチェルは
憤りを覚えるが、顔に出さずに奥歯だけを静かに噛みしめる。

「そうだ、この身に流れてるのは間違いなく魔物の血だぜ。
 てめぇが鼻を曲げちまう程の、濃い化け物の血だぜ」

握った拳の親指で、自分の心臓を力強く指差す。
血の噴水を背にしたレイチェルは、冷酷な顔で黒衣の男を睨みつける。
険しい、というよりも何処までも冷たい表情だ。
それこそ、魔に身を置く者こそ浮かべる表情であろうか。
冷たく、ぞっとするような。
艶めかしく、妖しげな。

血に染まった白のドレスを身に纏った少女は、言葉を放つ。

「……確かに、人の真似事かもしれねぇ。
 本来、オレの身体の半分は人を喰って生きる魔物さ。
 どれだけ取り繕ったって、化け物は化け物。
 人間になんてなれねぇ、簡単に人間とは馴染めねぇ。
 そんなの分かってるさ。
 
 けどよ……。
 
 魔物が人の真似事をして何が悪い!
 化け物が人と共に生きて何が悪い!
 オレはこの世界じゃ紛れも無い異物かもしれねぇが、
 人間《ここの奴ら》と共に生きると決めてんだ。
 エゴだと言われても構わねぇ、これが!」

表情に色が灯る。
意志の宿った、燃えるような瞳が男へと向けられる。
同時に、スカートの内側へと手を滑らせる。
抜いて男へ向けたのは、45口径のマグナムピストル。
レイチェルの愛銃である。

「……オレの生き方だ!」

五代 基一郎 > 鋭い声だった。低く重い声であるが、ただただ鋼のように。

■黒衣の男>「悪い。」

何が、ともではなく全てが悪いと切り捨てるように吐き捨てた。
その麗しいおめかしでさえ、気味が悪いとも吐き捨てて。


■黒衣の男>「化物共の本質は”奪う”ことに尽きる。
       如何に人の真似事をしようと共生などと語ろうがそれは変えられない。抗えない。
       共生。人が本来いた場所を奪う。本来そこにいるべきこの世界の人間はいる。
       この組織も、落第街のもそうだ。盗人猛々しい。
       本来そこにいるべき、与えられるべき人間から奪っているなどとも思わない。
       故に存在するだけで悪であることを。
      
       大変容が起きようが古来より何も変わらない。
       お前達は容易く人の住処を、居場所を、命を奪う。
       その本質から逃れることなどできない。お前の色濃い魔を感じればわかる。」


太刀が構えられる。男の目が鋭く、レイチェルを見据える。
妖艶な、冷たい……人が出せるようなものではないその表情に向かう
ただ強固な何かで固められた意志を放つ顔で。


■黒衣の男>「いくつ奪ってきた?罪のある無しではない。
       お前からは奪い続けてきた、奪うことが常であり染みついている気がある。
       奪わなければ生きていけないその魔性が!」


相手が拳銃一丁であろうと、太刀を振り上げて抜き放つ。
それは卑劣等ではない。拳銃一丁だろうが、何も持たなかろうが
その身が全て命を奪うに容易い凶器であるが故。
その太刀の名前を叫びながら振り抜く。
余波か、先ほどまでいただろうテーブルが刀身から放たれた……滴り流れる水。
その刃により紙のように両断されていく……

それは既に起きている、その魔を払う太刀の名前を呼んだが故か。

■黒衣の剣士>「村雨!」

レイチェル > 「へっ、素敵な褒め言葉をありがとよ」

吐き捨てる言葉に対し、ふっと微笑を浮かべるレイチェル。
ひゅるりと吹く風のような軽い声色であった。


「そいつは魔物に限らねぇ。生きる者は全て他から奪うもんだろ。
 奪わなきゃ生きていけねぇんだ。
 人も、魔もそこは変わらねぇだろうが。

 だけどよ、奪うだけでなく与えることも出来る存在になったなら……
 そいつは、ただの盗人じゃねぇ、略奪者でもねぇ。
 きっと、良い共生者にだってなれる。その筈なんだ・
 
 てめぇは相手が奪えば、奪い返すのが当然だと思ってるようだ。
 
 てめぇの気持ちなんざ一生頭捻っても分からねぇが、
 奪われた者の気持ちは分かるぜ。 
 オレだって色んなものを奪われた。
 かつてはオレだって奪い返せばそれでいいと思ってた。
 奪われたなら! 奪い返す! 
 やられたら!  やり返す!
 
 殺されて!   殺して! 
 殺されて!   殺して! 
 殺されて!   殺して!

 でも違うんだ、それじゃ終わらねぇ。いつまで経っても!
 てめぇは『そんなこと』をいつまで繰り返すつもりだ!」

トリガーは引かない。
相手が仕掛けてくれば、動く。
レイチェルは、そのつもりで構えている。

「オレは魔物だ化け物だ、多くのものを奪ってきた魔性だ!
 全てを受け入れた上で、それでもオレは今のてめぇを
 真正面から否定してやるぜ!
 そして止めてやる! 止めてみせらぁ!」

叫びながら、目の前の男が持つ太刀の名を聞く。
同時に、レイチェルはトリガーに指をかける。

確かに拳銃だ。一丁の拳銃だ。
放たれるのはただの鉄の塊で、目の前の凄まじい力の凝縮された
刃を前には切り捨てられる。当然の結果だ。

今はまだ。

しかし、レイチェルはトリガーを引かない。
トリガーを引く前に、こう叫んだ。

「なめんな――付与《エンチャント》! 
 焔唱《ブレイズ》!」

1年生だった時に、学園の講義で学んだ付与魔術。
独自に研鑽を重ねて来たその技を、今ここで初めて放つ。
魔の存在でありながら、レイチェルの魔術の才能はゼロに等しい。
故に、1年かけてようやく覚えることが出来たのが、このエンチャント。
唯一付与可能な属性は、炎。

レイチェルの手から拳銃、そして弾丸へと魔力は伝わり――放たれる
と同時に、発火。火球となる。

水の刃に立ち向かうように、燃え盛る焔の弾丸が疾駆する――!

ご案内:「落第街 セレモニーホール」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「落第街 セレモニーホール」からレイチェルさんが去りました。