2016/08/31 のログ
レイチェル > 実のところ、レイチェルの目には、目の前の男こそが魔性の者に映っていた。
憎悪に歪んだ闘志は、他者を排除することのみに向けられている。
両者は相容れない、分かっている。それでも、そうだとしても。
魔剣を、握りしめる。


「力なき者だ力持つ者だ、偉そうに延々喚き散らしやがって!
 聞いてりゃ全部、お前が勝手に決めた物差しを置いてるだけじゃねぇか!
 お前らがさっき殺した異邦人は何だ! お前に一瞬で殺されちまった奴らは!?
 一人一人がこれまで一生懸命生きてきて、世界に拒絶されて、
 それでもここに立ってたってのに!
 あいつらは力を持つ者かよ? あぁ!? いい加減お前の御高説を拝聴するのも
 飽き飽きだ、ぜ……!」

殺す、という意志で向かってくる相手を前にするのは慣れている。
物心ついた時から、自分を殺しに向かってくる相手とやり合っていた。
慢心はない、ただただ純粋な殺意がレイチェルを襲う。
しかし。
憎悪を以て、殺意を以て。殺す、滅ぼす、排除する、と刃を振るう。
『そんな者達』の相手は物心ついた時から今に至るまで続けてきている。
彼女の心が怯むことは、決してない。

「だからこうして今、作ってる! お前みたいな、平穏を乱す奴を止めながら!
 一歩一歩! 作っていく! 諦めと排除しか頭にねぇ今のお前を前に、
 倒れる訳にはいかねぇんだよ……!」

首を狙う一撃。然り。
大きな隙を晒せば、狙ってくるのは致命的な一撃を与えうる箇所。
あの男程の手練、そして慢心のないあの態度から見れば、一々四肢を、
といったこともあるまい。
レイチェルは一瞬の内に、そこまでを計算していた。

よろめいた彼女の首筋に迫る一閃。
素人だろうが、手練だろうが。
誰が見てもレイチェルの敗北は免れぬものだ、とそう感じることだろう。
実際に彼女の首に刃が入り、今血が滲み出ているのだから。
このまま彼女の首は転がり落ち、後には無残に死体が残る。
そう在って、当然なのだ。

だが、彼女は時を操る。
世界の法則すら捻じ曲げて見せる。
彼女の内側にある強い心の力が、現実すらも書き換える。

「時空圧壊《バレットタイム》!」

――――――――――――――――――――
その異能の名を叫べば。
ここから先は、彼女だけの時間だ。

首から、否。全身から血を迸らせながら、大きく後方へ身を投げるように
飛び退るレイチェル。同時に、魔剣イレギュラーを大きく振って、
渾身の力で村雨に向けて叩き放つ。
壊れた時間の中で、レイチェルの腕から、足から、大量の血が流れ落ちていく。

「何とかなったは良いが、使えてあと一回、ってところか……」

手足の感覚が、鈍い。身体から多くの血が、精気が失われている。
世界の法則を捻じ曲げる大技。次の一度が限界であると、彼女は悟っていた。


圧壊終了《バレットエンド》。
――――――――――――――――――――

世界の時は、再びその刻み方を思い出す――。

五代 基一郎 > そうだ。

一言。力強く断定した言葉が響く。
自分が刃を向けたものは、力あるものだと。

■黒衣の男>「ただ一つの差異であれど、肉体が違い群れればまた脅威……
       これ以上となる前に切り捨てたまでだ!」

貴様のような魔性から語られる生ぬるい理想もうんざりだと
力が、人など容易く滅ぼせる力があるものだからこそ言える言葉だと
怒り。お前には決してわからない。解かり合いたくもない。
貴様が言うなと、首へ一撃。
それが振るわれる。
絶対に機会を逃さない……斬撃。

しかし、そして。
レイチェルは解き放つ……時間という法則を捻じ曲げる力を。
時間を止めるか、止めてかのにより
首への斬撃を回避し、村雨を打ち払う。

渾身の一撃。

その、時間圧壊が解放されれば一瞬の静寂。
渾身の力により振るわれた魔剣により……村雨の刀身は両断された。
薄い金属が両断されたような音がホールに響く。
響くが、同時に床を蹴る音も続く。

そう。何がしかの勝負や試合であったなら武器が破壊されれば
そこで終わる話であるが。これはそうではなく。
故に、男は後方へ引くレイチェル……金の魔性に突き進む。
その負傷具合からは解かりきったことだ。
どのような魔性の力を使ったかはわからないが、その余裕からか
理想から出た”武器を狙う”行為が仇になったのだと言わぬばかりに

また折れた刀身を補うように水気が刃を形成し……水晶のごとく煌めく。
鋼ではない。水の刃。遠隔ではないためか荒さなどない。
一振りの刃が再び現れ……そして、慢心総意の身であるレイチェルへ向けて振り被る。
鬼神の如き、一撃を以って。
頭部から一刀両断……兜割りの如く。
止まらず、ただ……討つために、刃は振るわれる。

レイチェル > 「…………そうかよ」
静かな、しかしこれまた重く、強く。呟かれるその一言。

お前一人の物差しで。
お前一人の勝手で――

「一体、どれだけ平気な顔して人殺せば気が済むんだ、狂人野郎ッ!
 被害者面して問答無用で奪って奪って奪って……言葉も交わさずに、
 一方的に命を奪いやがって!」

遂に、レイチェルの抑えきれぬ怒りが爆発した。
憎悪ではない。そのようなどす黒い感情ではない。
もっともっと、純粋な――誰かの為の、怒り。

「……オレは決めたぜ。こいつを、完全に打ち負かす!
 異邦人と常世人の殺し殺されの連鎖の一つを、ここで断ち切る!
 絶対に、断ち切ってみせる! 
 だから、お前の本当の力をオレに貸せ、イレギュラー!

魔性は全力を叫ぶ。寄るな化物、そう罵られても、前へと進む。その為に。


真剣勝負において相手の命を考えるなど、愚の骨頂。
多くの人間はそう言うかもしれない。
甘っちょろい、生ぬるい、そんな理想でしかあり得ないと。
レイチェルはその言葉全てを肯定するだろう。

しかし、肯定したからと言って、レイチェルが自分の意志を曲げる訳ではない。
ここで醜い連鎖の一つを終わらせる。
彼女の内には絶対に曲がることのない強い意志が在った。
男の憎悪と比べても、見劣りすることはない、堅牢な意志だ。


レイチェルは刃が再生したとて狼狽することはない。あろうことか、構えもしない。
構えを解いて、魔剣を勢い良く床に突き刺したのだ。柄に血塗れの両手を添えて、
レイチェルは目を閉じる。
突き刺した魔剣から、爆発的な勢いで魔力の奔流が、セレモニーホールを呑み込む
勢いで放たれる。

「魔剣覚醒《ソードイグニッション》!」

夥しい魔力が、紫色の光となって辺りを照らし出し、レイチェルを中心として
魔力による突風が吹き荒れる。
それは丁度、男が兜割りの形で刃を振りかぶる頃合いで――。

ご案内:「落第街 セレモニーホール」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「落第街 セレモニーホール」からレイチェルさんが去りました。