2016/09/11 のログ
■レイチェル > レイチェルに殺意は無く。
ただ目の前の男を止める為にのみ拳を振るう。
その点においては、単純明快であった。
男は、違和感を覚えるであろう。
水が、冷気が、彼女の篭手に触れるその瞬間、僅かに綻びを生じているように感じる。
超常の存在に対する防護結界。それこそが、彼女の纏っているものの力、その正体だ。
この力が無ければ、レイチェルの肘から先は既に失われて床に転がっていたことだろう。
超常殺し。完全に無効化する訳ではないが、触れた超常の力をある程度まで弱める効果が
あるのだ。彼女が魔を滅ぼす時の奥の手、である。
破滅がすぐ隣にあるのはレイチェルとてまた同じ。
人外とはいえ、彼女も不死不滅の存在ではないのだ。
半歩踏み外せば死に落ちていく世界の中で、女はただ冷めた表情で拳を振るう。
血を撒き散らしながら、振るう。
流す刃を、右へ左へ、上へ下へ。
探る手に対し、応じる手が続き――。
女の右腕が閃く。軋む金属音と共に。
アッパーの形で、男の顎を撃つ一撃を放つ。
放たれる一撃と同時に食い縛ったレイチェルの口から、血が飛び散る。
■五代 基一郎 > 勝負というのは最初の一合で決まると言っていいだろう。
ゆえに黒衣の男は、どのような相手であっても
何者かどういうものたちか調べまず最初の一撃で絶命させるように心していた。
でなければ人の身で人あらざるものと戦うことなど出来はしない。
正々堂々の戦いなど、それこそ勝つことなど捨てたものである。
それはどのような戦いであっても現実的に考えればそうなのではあるが。
無論そういう戦いに途中で変わったとしても、戦い抜いてきた経験はある。
されどこの戦いは異質であった。魔性と戦うべき存在としてある……
たとえ現在で模造されたものでもそういった質を可能な限り高めた幻想と呼ばれたものを
実態とさせてまで練られたそれが、魔性のものに散らされかけ、蝕まれている。
であるならば、考えられることは多くはない。
その篭手はまさしく切り札の形。こういった類のものに対抗するものであるか。
ならば、わき腹を砕かれた痛みゆえか鈍る足と体のせいか、今顎を打った魔性の女が口から血を噴いた理由もわかる。
その身が魔性であるのにそれを身に着けているのであれば当然己の身を蝕むもの。
そうまでしてか、と揺さぶられる頭を腹部との激痛を
痛みと憎悪を持って正す。
やはりこの魔性は許さない。
幼稚にいえば、気に入らない。
その話を聞いたときから、気配を消して一撃で首を刎ねるなどでは
済ませたくない思いがどうしようもなく沸着だしてきたこの魔性だけは
相手がネをあげるか、己がネをあげるかなどくだらない。
獲物がこういった装備であるもの同士、装備を外せば勝利はあの魔性にとなり
いやそうでなくともか。
魔性の女はあくまで今までのものか、それともあの篭手によるものか
血を吐いているが己はどうだ。
やはり正面で戦うのは愚であったがそれでもこれは譲れない。
この魔性を許すわけにはいかない。
レイチェルにより顎を撃たれてから数歩、のけぞり
また数歩よろめき……村雨の刃が散っていく。
”勝敗”は決したのだろう。
体を折りながら、だが黒衣の男の目は魔性への敵意を収めず
それこそ折れた刃よりも鋭く、うめくような声と共に吐き出す。
■黒衣の男>「……狂気。よく言う。如何に言葉で装飾しようと貴様は
魔性。現にその不気味な力を以って、力で屈服させ己の道理として通している。
お前はこの混沌とした世界の傲慢なる体現者だ。
力により気に入らないものすべて奪えばいい。貴様らが撒き続ける綺麗事で装飾した
力こそすべてという魔性の道理がこれからも憎悪を生み続けることをその身で喰らい続けるがいい!
俺は貴様ら化け物の慰みになどならん!」
お前はどうせ、傲慢にも俺を殺さないのだろう。
そう言っているからな、止めるなどという甘っちょろい……いや
力を持つからこそ、止めるなどという相手の生殺与奪権があることを
無自覚に、それが最善だと良いことだとそれをする自分はと誇示ことが出来る傲慢さ。
力を持たぬものには到底出ない言葉を吐くお前の
達成感や、その勝手な指名として感傷的な……化け物の慰みの餌になどなってはやらないと
その折れた刃で、己が首を刺し貫き胸まで斬り裂いた。
噴出す血飛沫がホールをまた……新たに血を塗り重ねるように
染めながらこの、戦いは”勝敗”などという言葉で決めるような姿を
映さずに終わった。
■レイチェル > 「その刃《ちから》で全て根絶やしにして解決しようとしていた男の台詞にしちゃ、
格好いいじゃねぇか……」
冷たくそう言い放った後。
ニ、三度。視界が歪んで身体のバランスを崩す。
両の腕が、腐り落ちていくような感覚を覚える。
じゅう、と焼けつくような痛みが腕を内側から食い荒らしている。
否、腕だけではない。心臓から身体の末端に至るまで、彼女の内側に巣食う何かが、
暴れまわっていた。
「ぐっ……」
よろよろと魔剣の元まで辿り着けば、その柄を両手で握った。
彼女の纏っていた篭手が崩れ落ちていく。
幾筋もの血が、両腕からだらだらと垂れ落ちる。
口元に両手をやる。とても手では受け切れない程の血が、彼女の口から
吐き出された。血の滴る両の手。
見下ろしていたその視界が、ぐらりと傾く。
彼女の視界が、暗転する。
同時に、彼女の身体を覆うように再び闇が現れて、消えていき。
そうして、華奢な少女の身体が、ぷつりと糸の切れた人形のように床へと倒れ。
そのまま、動かなくなった。
■五代 基一郎 > そこには血臭しかない。
血の大河を渡るが如く。
今まで姿を隠していた男が歩み寄る。
ゆっくりと、瀕死の少女を助けるような雰囲気などなく。
それが死骸となったか、などとは思ってはいない。
何故ならばここで終わるとは思っていないからだ。
自身も、レイチェルもおそらく。
夢見た大志の道ではなく、血の大河を半ばで降りるわけでもなく
レイチェルの体を起こし、顔を仰向けにさせれば
口を開かせその牙で己の指を切り……血を流し入れる。
以前にレイチェルへと語った、己が自身の異能の血を。
それが造血と自己治癒として働いた姿を見るのは、
この血臭にまみれるセレモニーホールを出て少し後のことになるだろうか。
魔剣をクロークの中に放り込めば、そのまま金の髪すら赤黒く染まったレイチェルを抱え
この血と骸の世界を後にした……
これが正義の味方の戦いなんだよと抱えた少女につぶやきながら。
ご案内:「落第街 セレモニーホール」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「落第街 セレモニーホール」からレイチェルさんが去りました。