2016/09/15 のログ
■東雲七生 > 「おっと、よっ、ほっ……遅い遅い、そんなんじゃ俺は仕留めらんないって!」
軽口を叩きながら黒い塊の攻撃を捌く姿は、ほとんど戯れている様にも見える。
単純に異質な存在との戦闘であれば、足を止めて最初に宣言した通り『慣れている』のだ。
先の夏休み中も、足繁く転移荒野に通っては異形の昆虫を相手に戦闘をしていたのだから、もう日常とも呼べる。
そんな七生の、見掛けによらない戦闘能力の高さを塊たちも察したのか、個々での攻撃を止めて様子を窺うように一か所にまとまった。
「──そこォッ!!」
その刹那、瞬時に攻勢へ転じた七生の飛び蹴りが放たれ、再度塊たちは散り散りになる。
すっかり新手の獲物との戦闘を楽しんでいる七生は、その場にもう一人の姿がある事に未だ気付いていない。
■滝川 浩一 > (おぉ…!)
相手が集約しつつあるところに一撃、また先ほどよりも細かく散り散りになった黒い塊を見て、拳を握って目を輝かせる。
まるで野球やサッカーの試合を観戦しているファンのように心にはドキドキやワクワクがあった。
そんな感じで興奮している自分に気づき、ハッと我に返る。
自分の役割はもしも彼が劣勢になった際に相手に奇襲を仕掛け、牙城を崩すことだ。
しかし、赤髪の彼に限って劣勢になるなんてなさそうだが…
とりあえず、武器だけは作り出そうと考えて手元に小さな青い光を出現させる。
周囲をぼんやりと照らすそれは武器を形作り、剣を生成した。
■東雲七生 > 「こんなもん、か……ちょっと期待ハズレかな」
数が多いのは単純に脅威足り得るが、それも状況によるだろう。
再び一か所にまとまり始めた塊を見つつ、七生は考える。
先の女性が携えていたのは大太刀で、場所はけして広いとは言えない廊下だ。そこに細かく連撃を放てる相手は、確かに分が悪かったのだろう。
しかし、連撃に応じれるだけの手数を備えればさほど脅威でもない。
戦闘スタイルの相性、なのだろう。
もし、この黒い塊たちが物理攻撃を吸収したり、無効化する相手であれば七生も苦戦を強いられたことは容易に想像がつく。
「……けど、その心配もな──わッ!?」
再度一か所に固まった塊たちを一蹴しようと地を蹴った七生を待ち構えていたのは、
剣山の様に鋭い針のような形状に変わった塊だった。
反射的に足を引っ込めようとするも、重力には逆らえず針山に足を突っ込んでしまう。
「──いッ……痛ァ!?」
■滝川 浩一 > (圧倒的じゃないか…全く、何という三枚目視点。)
物陰から連撃に的確に応じる少年を見て苦笑いを浮かべる。
自分ではあそこまでは不可能だろう。生身ではせいぜい三発ほどが限界だ。なのに、あの少年は何十発も攻撃を往なし、防ぎ、反撃している。
異能の差なのか、練度の差なのか…ともかく、彼にとっては別次元の戦いに見えた。
優勢に勝負を推し進める彼を見て、自分の手助けは必要ないだろうと思い、くるりと振り向いた矢先…
「……!?」
少年の声が聞こえそちらを振り向く。
目に入った光景は針山に足を突っ込み、苦痛に悶える少年であった。
■東雲七生 > 細く鋭い針は七生の足に刺さっていた。
辛うじて腱や太い血管は避けたものの、剣山から飛び退くように離れた七生の足からは血が流れ廊下に広がり始める。
「なるほどなあ、トゲトゲカウンターなんて味な真似を……」
これは完全に七生の慢心だった。
調子に乗って飛び蹴りなんて放とうとしなければ、反撃を見切って怪我は回避出来ただろう。
自分の未熟さに恥じ入りつつ、棘山となった相手をどう対処するか考え始める。
が、それも一瞬のこと。
七生の攻撃が不発に終わった事を、自分たちの策が功を奏したことを察した黒い塊は、そのまま棘を飛ばし始めたのだった。
「……ッ!?」
さほど勢いはないとはいえ、飛んでくるものがものである。
暗い廊下である程度の大きさがあるならまだしも、細い棘を見切るのは容易では無い。
実際、躱し切れなかった棘が七生の腕や肩、腹に刺さり、頬を掠めていく。
■滝川 浩一 > 「ッ…!」
少年の足に針が刺さる光景を目の当たりにする。わずかに差し込む月明りが血に反射して赤い光へと変わる。
彼が攻撃を受けた。血が出た。
信じられないといった表情でその光景を目を見開き見ている。
すると、黒い塊が勢いづいた様子で棘を彼に飛ばす。
驚いた様子の彼は棘を受けて体に傷が増える。
「まさか、劣勢…」
そう言葉を紡ぐと我に返り、青い光を出現させる。粒子のように舞う無数の青い光は廊下だけではなく、グラウンドや教室まで、広範囲に渡り拡散し、幻想的な風景を作り出す。
手の剣を握り、意を決したかのように黒い塊へ向け走り出す。
「ぉぉぉおお!!」
大声を上げ、黒い塊へ奇襲するかのように剣を振るう。
塊は真っ二つになり、少年への攻撃を止めるだろう。
■東雲七生 > 「いててて……こンの……ッ!」
頬の傷を手で拭い、べたりと掌に着いた血を見てから黒い塊を睨む。
大きな怪我は負ってはいない。出血こそすれど戦闘に支障があるのは、最初に自ら突っ込んだ結果の足だけだ。
無理をすれば出来ない事もないが、足技は控えて折角の流血を利用しようと獲物を見据えた瞬間だった。
「──は?」
突如叫び声とともに背後から人影が追い越し、そして黒い塊を両断する。
その奇襲には相手のみならず、七生自身も不意を突かれた様で、
暫しぽかんとした顔で、七生は突っ立っていた。
■滝川 浩一 > 「我奇襲に成功せり…ってなぁ!」
真っ二つになった塊に再度剣を何回か振るい切り裂いていく。
塊は明らかに動揺したかのように動きが鈍くなり、必死に反撃をする。
相手の反撃が押し寄せてくる。
「おわっと…うぐっ!」
一撃目、二撃目は回避と防御で対応するものの三撃目が腹に命中し、後ろへ突き飛ばされる。
ぽかんとした表情をした彼の隣へと突き飛ばされると剣を突き立て立ち上がり彼を横目で見る。
「驚かせてすまんな。怪我、大丈夫か?」
剣を構え、彼にそう問いかける。
■東雲七生 > 「あー、えっと……うん。」
こちらを案ずる声に我に返って頷く。
怪我の程度は大した事じゃない、きっと一晩で痕すら残らず完治するだろう。
そして七生は同時に、彼の行動の意味を理解した。
自分が負傷したから、それをピンチと見て彼は飛び出したのだ、と。
(──ま、普通は流血するほどの怪我だったら窮地と思うわな。)
ふぅ、と勘付かれないように小さく溜息を溢す。
誰だって人が怪我を負えば、ダメージを受ければピンチだと思うだろう。
七生自身、自分以外の誰かがそうなれば、彼の様に飛び出すと思う。
ただ、出血を伴う負傷は七生にとって窮地では無い。
むしろ武器庫の鍵を外したような──本領の場である。
だがそれが何も知らない者には伝わらない。それは、仕方の無い事だと思う。
「……あー、その、じゃあ後は任せて良い?
俺、自分で傷の手当しとくから。」
既に異能によって傷口は塞がれている。
しかしそれを伏せて、七生はその場から一歩退いた。
■滝川 浩一 > ニッコリと相手を安心させるような頼れる笑顔とドヤ顔が混じった顔で彼を見る。
少年も自分を頼るように安心した顔をする…と思ったのだが、そんなことなく少年は少し困惑気味に返答をした。
彼の反応を見てこちらは笑顔が引きつり、ドヤ顔成分も一気に消え失せていた。
彼の異能について微塵も知らず、いつか問いただした時には答えてくれなかったため出血=危険という認識を彼にも当てはめてしまった。
予想以上に落ち着いている彼の傷を確認しようとするが目の前に敵が居るためにしっかりと確認できずにいた。
「あ、は、はい。任せてください」
後は任せるという発言に言葉を詰まらせながらそう返す。
彼の落ち着きようとは反比例してこちらは少しばかり焦ったような顔をしていた。
目の前の敵を一人で片付けるという大役を担ってしまい、不安がよぎる。
一歩彼が退けば黒い塊は一つとなり分裂して攻撃を仕掛けてくる。
それらを必死に防御し、防御しきれなければ回避を駆使して被弾を減らす。
彼の善戦のお陰か、黒い塊はもう半分程度の大きさへとなっており、最初より断然にトドメを指すのが簡単になっただろう。
■東雲七生 > 「じゃ、よろしくー……
あ、そうだ。折角だから俺が戦ってた感じのアドバイス贈るね。
えっと、連中、攻撃したらその分増える、
だから、何かこう、対多数を一網打尽に出来る物を創った方が良いかも。」
自分の傷を確認しつつ言葉を投げる。
よく見れば知った顔で、何だかドヤ顔をしていた様だがその表情も消えて行ってしまった。
多分、自分の反応が思ってたのと違ってショックだったのだろう、と七生はちょっとだけ反省する。悪いことしちゃったな、って。
ともかく、彼の異能は知っていたので自分がやろうとして止めた事を、代わりにやって貰おうとアドバイスを送った。
「あ、そうそう。廊下は壊さないようにね?」
念の為釘を刺すことも忘れない。
■滝川 浩一 > 「対多数を一網打尽…思いつきました。了解です!」
彼のアドバイスを聞き、敵を見据える。
どの武器を使うか決めたようでやってくる攻撃を往なし、防ぐ。
時折、やってくる黒い塊の殴打を切り裂き、分裂させる。
それに驚いた様子で下がる黒い塊を見て、しめたと思い剣を投げる。
剣は敵に当たるがズブズブと飲み込まれていく。
次の手でカタをつける。右手を前に出せば手に青い光が収縮し、現れたのは筒状のグレネードのようなものだ。
これまた近未来デザインよろしく、現代兵器のそれとは一線を画したものであった。
それのピンを抜き、黒い塊へと投げると同時に咄嗟に後ろへ飛び退く。
グレネードはズブズブと黒い塊に飲み込まれていくが一瞬煌めきを放つと瞬時にしてそのグレネードを中心とし黒い球体が塊を呑みこむように出現する。
塊を呑みこんだ黒い球体は消え去ると黒い塊諸共その場には何も残らず普通の廊下が広がっていた。
「……あ!」
地面にがばっと顔を近づける。黒い球体が地面に触れてないか確認する。
廊下には何も異常はない…よかった。壊さないようにというアドバイスも守れたようだ。
「…ばっちり片付きましたよ」
跡形もなく消えた塊。それが居た場所を見ると少年へサムズアップする。
すると、足元に『何か』が蠢くと滝川の背後へ向かって思いっきり飛び出していった。
『何か』は彼の背中へと接触すると…彼の背中を突き破り、脇腹を貫通していく。
「…!な…」
何が起きた。そう声に出そうとするもその場に倒れ、声は出ず。
『何か』の正体。それは先ほど剣で切り離した黒い塊の残骸だ。
■東雲七生 > 「よし、じゃあ頑張って。」
小さくガッツポーズをしながら応援した後、滝川の戦いを眺める。
果たして想定通りの結果を出した事には、満足げに笑みを浮かべて。
「いやー、えっと、何を創ったのか知らないけど、とりあえずこっちはこれで一件落着だな。」
すん、と鼻を鳴らしながら辺りの匂いを嗅ぐも、異質な気配はもうだいぶ薄れている様だった。
その事にも満足げに頷いてから、一息吐こうとした時である。
突如、目の前で滝川が何かに襲われた。
「……なっ!?
おい、滝川!?……くそっ、取りこぼしがあったか!?」
滝川に傷を負わせた黒い塊に目を向けると、すかさず掌底を叩きこむ。
一度友人から教えて貰い、密かに練習した、勁と呼ばれる技。
衝撃の打点をずらし、相手の内側にダメージを与える方法である。
実戦での使用は初めてのそれを、躊躇なく、そして正確に使用して黒い塊の残滓を散らす。
■滝川 浩一 > 東雲の最後の一撃により、最後の黒い塊は消滅した。
負傷した滝川は仰向けに倒れ、薄暗い廊下の天井を見る。
背から脇腹にかけて開いた穴は決して大きくはないが普通の人間にとっては致命傷に足るダメージであった。
そこから血が出ていき、廊下を赤く染めていく。
(い…しき…が…)
痛みに顔を歪ませるも徐々に意識が遠のいていく。
手で必死に傷口を抑えるもその手も徐々に力が失われていく。
突然、頭の中にある考えが過る。
死――――
■東雲七生 > 「おいっ!おい滝川!しっかりしろ!!」
みるみる血の気を失っていく顔を見て、背筋に冷たい物を感じる。
ゆっくりと、しかし確実に消えて行こうとしている命の灯を間近に見て、言い知れぬ悪寒が七生の足先からじわじわと登ってきていた。
「馬鹿野郎ッ、男がこれくらいの傷で昇天すんなよッ!?
俺なんて日常茶飯事だぞ、こんな傷!」
言葉を掛けながら、先の戦闘中に負った自身の肩の傷を拡げる。
肉が裂け、溢れる様に流れ出した血が七生の手を濡らした直後、厚手の布へと変わっていった。
それを包帯代わりに滝川の腹に巻き付けて出血を抑えようとする。
廊下に広がる、自分以外の血液。そして力を失っていく目の前の体。
ぞわり、と背中に氷を当てられた様な寒気が七生を襲う。
■滝川 浩一 > ――――――声が聞こえる。
くぐもっていてはっきりとしないが自分を呼ぶような声がする。
徐々にその声ははっきりとして行き、次の瞬間。
"馬鹿野郎ッ"
それがはっきりと聞こえる。
しかし、また意識が朦朧とし、視界も黒くぼやけてくる。
厚手の布を腹に巻き付けられれば、出血は止まる。
呼吸は浅いがまだ継続している。
すぐさま病院へ連れて行けば、一命を取り留められるだろう。
しかし、長い入院が必要だ―――
■東雲七生 > 「……よし、ひとまず止血はこれでよし。
死ぬなよ滝川、絶対だぞ!これで死んだら末代まで祟るからな!」
焦燥からか意味不明な事を口走りつつ、自分より遥かに背の高い身体を背負う様に担ぐ。
ひどく冷たく感じる身体に、自分の体温まで失っていくような錯覚を覚え、一刻も早くこの場を立ち去りたいと足を動かした。
あとに残されたのは、滝川の流した血の溜まりと、氷柱の様に凍て付いた真っ赤な足跡のみ。
そのまま一気に病院に担ぎ込むと、自分も検査を受けさせられて帰るのは夜遅くになってしまったという。
ご案内:「学校内」から滝川 浩一さんが去りました。
ご案内:「学校内」から東雲七生さんが去りました。