2016/09/18 のログ
ご案内:「異邦人街空家」に五代 基一郎さんが現れました。
ご案内:「異邦人街空家」にレイチェルさんが現れました。
■五代 基一郎 > レイチェルが目を覚ませば、そこは見知らぬ天井だっただろう。
時計の音と空調のが耳を通り……日差しの明かりが差し込んでくるのを
見ることはできるだろうか。
「目が覚めたか。結構に早かったからそれなりに効いたらしいな……」
落第街のセレモニーホールでの戦いの翌朝。
ここは異邦人外にあり、都合をつけられる空家ということを告げつつ
その男はいつものように、なんとなくこの異邦人が建てただろう家屋の…
居間で簡易ベットで横になっていたレイチェルに声をかける。
片手には今しがたいれたばかりのインスタントコーヒーがあり
その若干酸味が見える香りが鼻をくすぐる。
「とりあえずお疲れ様。体の調子はどう?」
己が流した血が、レイチェルに薬として効いたかさては毒か
良薬とまではいかないがそれなりに効果があったからこうして目が覚めているんだろうなということを
再確認できればと声をかけつつ、レイチェルの返事を待った。
■レイチェル > 意識はまどろみの中。
暗い意識の底で、オレ《わたし》を呼ぶ声がする。
『アマリア……』
暗闇の中でこちらを見つめているのは、死に別れた家族、友人達。
彼らの呼びかけに、オレ《わたし》は、かぶりを振る。
それは、今のオレ《わたし》の名ではないと。
『アマリア・アンドール。我が力、貴様に貸すのはあと一度。
あと一度だけだ。覚えておけ……』
彼らから、ではない。虚空からの声は、オレ《わたし》にとって
聞き覚えのある声。魔剣の声だ。
「オレは、アマリアじゃねぇ……」
気づけば足元に、無数の手が群がる。
がさがさとしたそれは、乾燥しきったミイラのような、死人の手だ。
「今のオレは……」
オレ《わたし》は手の内に顕れた魔剣を手にして、振り払い――
――――――――――――――――――――――――――――――
「アマリアじゃ……ない……オレは……」
魘されながら。
はっ、と。目を開ける金髪の少女。
目を見開いた彼女は、見知らぬ天井を困惑した表情で見つめて。
(夢か、嫌な夢を見たもんだぜ……)
見つめること三秒ほど。目を閉じてニ、三度かぶりを振って。
「……お陰様でな。身体の中にあんたを感じる。
血、飲ませてくれた訳だ」
日の光を見て、眩しそうに目を細めるレイチェル。
光を遮ろうと、右手を翳す――ことは、出来た。
何とか腕は動くようであった。
「調子か、最悪……いや、その一歩手前って所か。傷は大分治ってきてる。
深い傷はまだかかりそうだが、浅い傷はもう大体治ってるみてぇだ」
そう返して、翳した手をそのまま自分の額へと落とす。
顔色は、悪くない。治癒が働いている為か、血を入れたからか。
逆に、少々火照っているようにも見える。
■五代 基一郎 > 飲む?と淹れたばかりのインスタント・コーヒーを
一応伺いつつもまぁまだ飲めないだろうかなと思っているのか
そのまま口にしながら話を始めた。
「応急処置というわけじゃないが、ひどいもんだったしさ。
連れて行った人間の責任というわけじゃないけど。」
吸血鬼とかそういった性質の人間がどう、というのはわからないが
次第に気にならなくなるだろうともまた言いながら
今は食事どうこうじゃないかと自分は適当に何か口にしながらまた続ける。
「あとは中身だろうけど、まぁそう今日明日でどうこうなるわけじゃないだろうし
ゆっくりしなよ。どうせ昨日のもだけど連中はもうしばらくは出てこないだろうし…」
流石に二度退けられたら、ここで何かをするのには考えるようになるだろう。
この件に関してはそれなりに効果が出る程度には働いたんだから今は休めばいいとも言い…
レイチェルの寝言には特に何か言うこともなく、また何か口にしている音だけが静かな空家に響き
「あ、それと勝手な話だが俺は今回までになる。悪い。」
■レイチェル > かぶりを振って、今は飲めない、と意思表示する。
「まぁ、そうだよな。結構ボロボロになってた筈だからな。
別に責任なんか感じなくて良いぜ。オレはオレの意志であそこに行って、
あの場に立ったんだからな」
再び目を閉じるレイチェル。
身体の力を抜いて、全身を休息させる。
「そうあってくれれば助かるな。毎日出てこられたんじゃ、オレの身ももたねぇ」
二度も退けたのだ。次に何か仕掛けてくるとしても、何か別の手を講じてきそうな
ものであるし、それは今日明日ではないであろう、とレイチェルは思案する。
「へぇ、卒業にはまだ早いんじゃねーの?」
目を閉じたまま、淡々とした口調でそう返して尋ねる。
■五代 基一郎 > 「これはある種の呪いの押し付けみたいなもんでさ。」
例えそれを選ぶとしても、選ぶ遺志や覚悟があっても
その選んだ先を実際に進むのとはまた違ってくる。
正義の味方を、としてもそれは生半可な話ではない。
レイチェルに見せたのは、触れさせたのは誰かが決めた…誰かの旗印にした正義という言葉の味方ではなく。
「正義の味方は行き着けば結局のところエゴイストだ。
自分の信じるものを誰がどう言おうと貫くしかない。
そう続いていくしかない終わりのない生き方だ。」
そこに賞賛とか華やかさもないだろうし、何かで見た栄光とか
ヒロイックな面は最初に踏み出すときのものだけだろうか。
その先はレイチェルも足を踏み入れたように、戦いを用いるのならば
どうしても…用いられるのならば、血が流れるだけだ。
一度流れればそれは誰のであろうと流れ続け……いつとまるのかと。
それをとめるのは自分以外の誰かによるものか、自分か、それとも自分から降りるか…
そして、それを選んだのは……
「誘っておいてなんだけど、そう思うのも勝手なもんでさ。
まぁ、人間ゆえの勝手さだ。わかってほしい。」
そうして一息つけばさて、どう言おうかとしつつ
少し迷いながら言葉に出し始め……
「もう年度の後期だ。後輩に譲っていく時期だよ。
……というのと、まぁなんというかこういうことは出来なくなった。
というか、本土の方に行ったりなんだりで……」
だから、今後はこういうこともなくレイチェルのみの判断で何かやるならとなるし
風紀の方も俺は引退になって卒業に向けて……と続けたところで
少し間が空いて、やがてそれらを否定するように一言謝罪を入れて
「ごめん。綾瀬との間に子供が出来た。だからもう戦えない。
俺はもう誰かのために戦えない。ここで降りる。」
■レイチェル > 「そうだな。正義の味方はエゴイストだ。
でも、エゴイストなのは、正義の味方だけじゃねぇさ。
誰だって自分のエゴを背負って生きてる。オレはそう思ってるぜ。
そう思えるようになった、と言った方が正しいか」
目は閉じたまま、静かにそう語る。
誰でもエゴを背負ってぶつけ合いながら生きるのなら、
きっと自分はこの正義というエゴを背負っても構わないのだろう、と。
「だから今のオレは正義の味方を毛嫌いしていた時のオレとは違う。
他の誰かを守りたい。これは、他ならないオレ自身のエゴだ。
今までは、正義の味方なんて子供じみた純粋な夢背負うには、
オレの手は汚れすぎてると思ってた。それでもな。
今ならこのエゴを、確かな自信と共に背負っていけるぜ。
皆、エゴを背負ってるんだ。エゴ無しには生きていけないんだ。
それなら、オレだって、背負っていくだけさ。やりたいようにな」
淡々と、静かに。彼女はそう語っていく。
語を継いでいく度に、その声色は穏やかになってゆく。
「それに、呪いならもう既に一つこの身に受けてるんでな。今更もう一つばかり
増えたところで、大した違いなんかねぇさ」
目をぱちりと開き、自分の制服の胸の辺りをぎゅ、と握りしめた。
そうして、自嘲気味にレイチェルは笑うのであった。
子供が出来た、と言われれば、へぇそいつは意外だな、と口にするのみで
あった。特に何か思う所もないようだ。
ただ唐突だったので少し驚きの色はあるようであった。
ふぅん、と続けて口にして、更に少しして彼女は語を継いだ。
「良いんじゃねぇかな、その道で。あんたはそう生きるべき人間
だとオレも薄々思ってたぜ。あんたは、『こっち側』の人間じゃねぇ。
良いじゃねぇか、別に、不特定多数の為に戦わなくても。
守りたいものが決まったんなら、良いじゃねぇか。
オレも、守りたいものが出来た。あんたも守りたいものが出来た。
それはお互い別のものだ。なら、ここで袂を分かつのは自然なことだろ」
落ち着いた声で、レイチェルはふっ、と柔らかく微笑むのであった。
■五代 基一郎 > 「子供じみたわがままの別の呼び方だよ」
妥協しないエゴイストというのは、と。
正義の味方はきっと子供の延長なんだろうと思う。
割り切ることが大人なら、割り切れない子供がこういう正義の味方になるんだと。
賢くなっているようで、賢くない生き方を選ぶ子供。
「どれだけ飾ろうとやっていることがやっていることだ。
いつか蝕まれ続けてとならないうちに、自浄できるうちに
自浄することも必要だしさ。まぁ……ほどほどに。
重ねてもいいことなんてないだろう、きっと」
そんなことを言いつつ、食べたものを片付ければ
冷蔵庫に食料ならある程度残ってるからと告げて
ここを立ち去ることを報せながら
「……そうだな、そうするよ。
レイチェルも下りるときは考えておいた方がいい。
きっとそういう選択が目の前に来ることがある。
死ぬまで戦うなんてやらないほうがいい。
それに途中で下りても誰も責めないよ」
未来を考えることも、大事だと
先に卒業する先輩として伝えながら
その空家を後にした。
最後には扉が閉まる音が聞こえたのみで……
それこそ、その世界を出たようにただ一時的に借りてる空家であっても
レイチェルがいる間に戻ってくることはなかった。
■レイチェル > 「でもよ、世界は大人だけじゃ回せねぇんだぜ」
子供の延長。その通りだ。レイチェル自身、本当に心からそう思う。
平和を取り戻したい。誰かの役に立ちたい。誰かを助けたい。
確かに、子供のわがままの延長と呼ぶべきかもしれない。だけれど。
きっと必要なのだ。そういう者も、世界には。
「いいことなんてない……それを決めるのは、あんたじゃねぇさ。
この道を進んでいく、オレ自身が、これからオレの歩む道に立ってる奴らと
一緒に決めていくことだ」
怒りはなく、冷たい声色でもなく、レイチェルは淡々とそう口にする。
その胸には確かな意志が在った。
「オレは、英雄《ドン・キホーテ》じゃねぇんでな。
下りる時は下りる。でも今はまだ、オレはこの道を歩む必要がある。
そう感じるんだ。オレの意志で、オレは歩いて行く。今は、この世界の
奴らと。大事な、友人達とな」
そう言って、す、と。五代の方を見やる。
その背中に対して、ふ、とほほえみかけて。
「じゃあな、五代基一郎。あんたももう、オレの師匠の一人だぜ……」
最後にそれだけ声をかけて、レイチェルは天井を見上げた。
傷は治りかけと言っても、それでも身体は傷だらけ。
恐らく歩くことくらいは出来るだろうが、
それでも十分に動ける状態ではない。まずは、この身体を治さねばならない。
そう考えて。目を閉じる。
そうして、扉が閉まる音がする。
レイチェルは、一人残されたのでは決してない。
彼女の意志で、この『世界』に生きることを選んだのだから。
彼女の心が、ここに在ることを望んだのだから。
静寂に包まれた世界で少女は眠る。
今は、ただ。
眠る……。
ご案内:「異邦人街空家」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「異邦人街空家」からレイチェルさんが去りました。