2016/10/09 のログ
ご案内:「訓練施設・プール」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 今日も今日とて──異能の鍛錬である。
以前行った“水に流されやすい”という異能の欠点をどうにか補えないかと試行錯誤するため、
七生は再び訓練施設のプールを訪れていた。
様々な異能を持つ人間、あるいは異邦人でも利用可能なこのプールは本日の全スプリンクラー解放、
ゲリラ豪雨も斯くやと言わんばかりの土砂降り状態である。
「えーと、出血を抑えつつー……の、出来るだけ距離を跳ばせるようにー……の。」
そうぶつぶつ呟きながら、プールの端にビート板を立てて並べていく七生。
ざあざあと降り頻る水の中、プールの水槽には指一本入っていない筈がもうびっしょびしょである。
■東雲七生 > 「こんなもん、かな。」
きっちりと等間隔に並べられたビート板12枚を眺めてから、足を滑らせて転ばないよう注意しつつプールの対岸へ向かう。
その距離50m。対岸に向かう途中でも、時折振り返っては配置を確認して、最後に対岸から眺める。
右から左へ、ずいっと12枚を確認し。
「よしよし。こんなもんでおっけーでしょ。」
満足げに頷くと、雨を模した水で濡れた前髪を払った。
ちょっと雨脚を強くし過ぎたかもしれない、と今更な後悔をそっと心の底に捻じ伏せる。
■東雲七生 > 「どうせやるならどばーっと徹底的にだよな!」
掻き上げても撫でつけても額に張り付く前髪にうんざりしつつ、七生は海パン一丁の仁王立ちで満足げに頷く。
傍目から見れば何をしているのかさっぱりだが、このまま続けてもさっぱりなのには変わりない。
おもむろにプールサイドに転がしていたナイフを手に取ると、七生は無造作に自分の掌を切り付けた。
横一文字に付けられた切り傷は、みるみるうちに血が溢れていく。
それをある程度貯まるまで眺めてから、七生はぐっ、と一度手を握った。
「……イメージしろ、イメージしろ……この距離を貫く様な……そんな武器を。」
握られた手の中で、血液が動き、固さを得て、形を成していくのを感じる。
思い浮かべるのは槍。以前、模擬戦中に作ったのと同じで、それでも少し趣きを変えた槍。
「──模造想器・破裂する槍!!」
イメージを固定化し、揺るぎ無い物へとしてから腕を伝わらせ手に満ちた血液へと到達させれば。
僅かな形成に要するタイムラグの後に、七生の手の内には彼の血で創り上げられた一振りの槍が握られていた。
それをプールの対岸の的目がけて突き出す。
何処までも何処までも伸びて、見事命中すればそのまま破裂し憐れビート板は粉々に──
──なるはずだった。
「うへぁ、あ、もうちょい、もうちょい頑張れ!」
形成途中でスプリンクラーの水が混じり、濃度が薄まった血液では距離が足りても硬度がまるで足りず。
ぺちり、とビート板の表面を叩く程度に終わってしまう。
■東雲七生 > 「やっぱ、ずぶ濡れじゃダメかあ……」
七生が力なく項垂れると同時、握っていた槍─のような物─もその形を崩してプールの中へと落ちていく。
一直線に自分の血がプールを赤く染めるのを一瞥してから、七生は先程傷つけた自分の掌に視線を向けた。
既に傷口は塞がって、元々傷があったという事すら感じさせない程だ。
「それとも、ちょっと量が足りなかったかなぁ。
あーあ!」
溜息と共に足元に溜まった水を蹴り飛ばすと、そのままプールサイドに仰向けに寝転ぶ。
伝承で見た限りだと、件の槍は水中、水辺でその性能は飛躍的に向上するという。
ざあざあと水滴が全身を打つ中、七生は天井を見上げてぽつりと呟いた。
「これじゃ、完全に名前負けだなあ。」