2016/10/19 のログ
ご案内:「喫茶店」に黒い女さんが現れました。
ご案内:「喫茶店」に綾瀬音音さんが現れました。
■黒い女 > 「こんにちは」
昼とも夜ともつかない……
些かに薄暗い店内。そこで二人。
そう、二人しかいない店内で相席のテーブルで、始まった。
テーブルには湯気と共に香りを立てている紅茶が2つ。
色華やかな菓子類はない。
もちろん何かしら伺い、頼めば出されるであろう。
ここは喫茶店なのであるから。
しかし
今ここにどちらとも言わず、お互い必要であるから
それは偶然ではなく必然として再びテーブルを共にするのはただの茶会のためではないことなど
どちらもわかりきっていたことだった。
「あれからどうなのかしらね」
その”あれ”が”いつ”を表すかという仔細など添えず
手はティーカップに添えられながら異質な茶会は始まった。
■綾瀬音音 > (――気がつけば、誕生日が過ぎていた。
それに気づいたのは昨日のことで、やけに鳴っていた片割れからの着信を全て無視/放置し、
更に来ていたメールに漸く目を通したのが、昨日だったのだ。
Happy Birthday、とだけ書かれたメールを見て漸く、今の現状を顧みる余裕というか、焦りというか、正気というか――
兎も角、漸くこのままでは、と思い至る事になった。
父親からも島に来てからの例年通り、祝福の言葉と金を振り込んだ、とのメールが届いていたが、母からは何もなかった。
そんな風に少女は18歳となり、それが理由ではなく一つの区切り――そう、区切りとしか言い様がない――を迎え、この場にいた。
その区切りと漸く向かい合う覚悟、もしくは準備、が出来上がったからだ。
だから、こうして、この黒い女性と対面し、
ここが何処かも解らないような喫茶店に居る)
“どう”も何も知っているんじゃないですか?
ただ、丁度昨日あたりから、まともに考えられるようになったところです。
――違いますね、まともに考える気になった、という方が正しいかもしれません。
(少女の顔色はあまり良くない。
睡眠はずっと浅く、食事もまともに取れた回数が少ないのだ。
それでも、視線はしっかりしている。
紅茶のカフェインが気になって手を付けるかどうか迷いつつ。
どういう生活をしてたかは“彼を通して”知っているんでしょう? と切り出した。
少なくとも、ここにはいない伴侶が知っていることは全て、彼女は知っているはずなのだから)
■黒い女 > 「そう。」
短い応えだった。
警戒している……のではないのだろう。
ある種の荒みを感じてはいるのだろうが、ただ短く。
それを肯定するようにつぶやき。
「世界はかのようにあり、またあなたもある。
変わったことなどなく。貴方もまた変わらずにある。
ただ目を逸らせなくなっただけ。考えなくてはならなくなった。」
世界が変わったわけではなく、綾瀬音音という人間が変わったわけでもなくと。
そうではなくて?と問いかけながら
また少しそれとは違う声の色調で問う。
他の方がよかったかしらと。
好きなものを言えば出てくるわ、ともまた伝えれば
どこからかテーブルに紅茶のお変わり…ティーポットが運ばれてきて。
綾瀬音音がどうしていたか、というのは特に言及もしない。
興味がない、というより事細かにだろうと大雑把にであろうとその内容についてなど
この女からすれば些細なことであり、爛れた時間など茶会の本質から外れるものでしかないのだから。
そう、本当に必要であり本当に大事なのは……
■綾瀬音音 > ――そうですね。
変わった、とは少し違う気がします。
目の前に突きつけられただけ、多分そんな感じです。
笑ってくれて構いません。
私、やっぱり何処かで“普通の女の子”だと思ってたんですよ。
ちょっと人とは違うところもあるけれど、それも個性の範疇で、
自分の異能が扱いようによっては危険なものだとは解っていましたけど、
それでも自分でちゃんとコントロールできるものだと思ってたんです。
思ってたんですよ。
本当に。
だから、大丈夫だって。
本当に、そう思ってたんです。
(話の切り出しは、そんな告白めいた言葉から始まった。
異能はコントロールできる。その自信があった。
確かに“あの場”でも温度調節の異能は間違いなくコントロールしていた。
もう一つの方は――あれはもとより精神干渉だ。完全に自身が制御下に置くのは難しいものだったのだろう。しかし、発動のタイミングは自分で選ぶことは出来た。
だからこそ、認めなければならなかった。
自分は“危険”であり、全くもって“普通などではなく”、更には“化け物”と呼ばるだけのモノを持っているのだと。
そして、それらは全て――大変容以前からの“普通”の枠組みから見たものだと言うこと。
飲み物については、リンゴジュースで、と特に遠慮するでもなく運ばれてきたティーポットを眺めつつ新たに頼み直し)
子供が出来てからは、前より素直に未来が楽しみになりました。
先輩も喜んでくれましたし、私だって嬉しかったです。
だからと言って、見落としていたわけではないです。
だけど、結果としてその形になってしまった。
この子は、確実に、異能者なんですよね。
(自身が“異能者を生み出す異能者”であり、彼もまた血を分けることで異能を芽生えさせる異能者である以上、
それは、確実にそうであるとしか言い様がなかった。
それでも、この子に明るい未来を、と望むのは親のエゴだろうか。
幸せを望むのは。
世界に愛されて欲しいと願うのは。
いつの間にか落ちていた視線をゆっくりと上げて、ベールに包まれた女の顔を見やった)
異能って何なのでしょうか。
私のそれは血で受け継いてきたものですし、
もう一つは血によって受けたものです。
だけど、それは全てじゃない。
あり方も、理由も、人によって様々です。
でも、そもそも。
異能と言う力は、異能者というものは――
“何なのでしょうか”
(質問、というよりも独白に近いそれらの言葉。
答えを望むというよりは、思考の取っ掛かりと言ったほうが正しいか。
そんな、答えなど無いような根源的な疑問を口にした)
■黒い女 > 「お茶会に華を添える話ではないわ」
笑える話でも、愉快な話でも。
未来の希望という華やかな話でもない。
だから笑うことなどないのだというように
「人は”普通”の存在でありたいの。自分は”普通”であると思う人が殆どよ。
普通という大多数にいることで安心を得るというのかしらね。
社会やコミュニティを作るのもそう。大多数であることで、孤独ではなく
集団であり全体であることで心身共に己を守るの。」
だから、異なるものではないようにありたがる。
国家や協同体から日々の話題、メディアや娯楽という共通の話題まで・・・・・・
人は無意識に行っているが。
綾瀬音音という存在もまた同じく。
ちょっと人とは違うところがあるものの、それを補ってあまるほどに”普通”であろうとしていた。
”普通”のように見えていたわけであり。
見せてきた。己を守るために。
特に音もなく、綾瀬音音の前にあったティーカップは消えて
すっとリンゴジュースのグラスがどこからか差し出された。
紅茶の香りを侵す甘い香り
「そうね。まだ生まれてはいないけど、その子は異能者であり
”普通”ではないわ。我々と同じ存在。」
綾瀬音音の視線をしっかりと受けているように…しかしそのヴェールの下の相貌は伺えない。
されどその瞳は綾瀬音音と、またそのまだこの世界に現れていない存在を見て応える。
「”普通”とは違う人よ」
答えのない問いに、とても短く。
だがその本質的としか言いようがない答えが応えられた。
それが全てであり、それこそが人の業全てであるかのように。
「異邦人もまた然り。この世界の存在とは違う存在。
異能者がこの世界の普通の人たちと違うように。
異能、力。そんな大仰なものではないわ。
ちょっとした差異。それで人は声高に叫ぶ。
我々とは違う。普通ではないと。
肌の色が違う。髪の色が違う。住んでいる場所が違う。
信じている神が違う。
大変容が起きる前から、そして今も人々はそれらを掲げて争い続けている。」
またふと、気がつけばテーブルの上には物が増えている。
焼き菓子。
「それだけではないわ。
同じ協同体。国、土地、そして学校かしら。
人と違うだけで、少しの差異で”普通”と違うと別けて石を投げる。
いじめというのがそうでなくて?
いい?音音。
異能の中身がどうこうなんて些細なこと。
程度などさして重要でないわ。
だってそうでしょう?
異能という言葉がない時代、それは個性という程度に収まっていたのだから。
彼らにとって重要なのは”普通”の我々と違うこと。
”普通”の人々に届かない力が異能。
”普通”の人々と違うとされた者たち。
別け隔たれた者が異能者。」
私はそこに落ち着いたわ、と。
紅茶の豊かな香りと共に、それはそっと差し出された。
■綾瀬音音 > (そうですね、と短く曖昧に笑って。
そもそも自分たちは楽しいお茶会をするためにここに居るわけでもない)
私もそうでした。――いえ、そうです、今でも。
普通でいたかった。
どこにでも居るような、ごくごく当たり前に、沢山じゃないけれど、大切な人や物があって、
悲しいことや辛いことがあったって、それでもささやかな幸せに目を向けて笑っていられる。
そんな普通の子でいたかったです。
(理想の自分を演じていた、とまでは言わない。
共同体――自分の場合はそれは主に家族になるか、そこで望んで妄信して溺れていたのはただただ普通の幸せだった。
そう誤認していたものが、どれだけ歪んでいたのか、今は理解している。
普通ではないと理解して尚、
普通であろうとした。
多分――今でも。
黄昏時を望んだときも。
差し出されたリンゴジュースは一体誰が運んできたのかは些細なことだ。
それに口を付けてから)
――そう、ですよね。
私達と同じ、かぁ……
(特に絶望するというわけではないけれど。
化け物、と呼ばれ。
忌避されるのかもしれないと思えば心は今からでも痛むのだ。
望んでいるのは、それほど大きなモノではないのに、
とても難しくて、得難いものなのだ。
自分は――自分達は、何をしてあげられるだろうか。
この生命に。
望み望まれて生まれてくる、この子に。
薄い布一枚で遮られ見えない視線を、自分のそれを合わせながら――)
“普通とは違う人”――
(鸚鵡返しに口にして、その続きを聞いた。
ああ、この女性は的確に、残酷なほどに、本当のことしか言わない。
そうだ、そうである。
それは差異であり、個性であり――。
だけど、そこにあるのは絶対的な、差。
超えられない、境界線。
あるものと無いものでは――そもそもが、“違う”のだ。
だけど、“時計の針を進める”という行為が正しいのかどうかは、自分にはやっぱり解らないのだ。
分け隔てられた者であっても、普通を望むが故に。
それこそ“普通”の人を片割れに持つが故に。
でも、それが全てではなくとも――それらは側面としてはあまりに大きすぎる)
石を投げられるのは、辛いです。
だけど、それが嫌なら石を投げる側になるしか無い。
世界をそっくり変えてしまうような――。
奪われたくないのなら、捩じ伏せるか、奪ってしまうしか無い。
(いつだったか、似たような言葉を彼にも言った。
奪われるのが嫌なら、より大きな力で捩じ伏せるしか無いのだ。
そして、自分にはソレが出来る可能性もあって、
いや、したではないか。
“あの場所”で。指一本触れずに。
奪われたくないために、奪い尽くした。
唇を、噛んだ。
普通というのは呪いのようだ、と思う。
どちらに転ぼうとも、つきまとってくるものだ)