2016/10/20 のログ
■黒い女 > 「普通でありたいと望んだのならば、それはもう普通ではないわ」
人は無意識に大多数に迎合し、またその一つになっている。
それこそ普通に、当たり前に。
だがその中に入ろうと普通であろうとするのならば……それは異なるものだ。
普通の中に入ろうとして、入って、そうであると思っていた綾瀬音音は
ある時点からもう既に普通ではないのだ。
「私達は、異邦人もまた同じ。心あれば如何なる者でも同じ。
思うことも考えることもそう大差は無いの。
異能さえなければあなたも大多数の人と同じなのでしょうね。
あっても、同じといってもいいわ。
でもそのたった一つ違うと無い人は違うと叫ぶわ。
声高に。普通ではないと。我々とは違うと。
彼らとたった一つつぃか違わないのに、彼らと同じであるのに
望むものなんてそれこそ普通のありきたりなものなのに。
人が個として独立したが故の業よ。人が個性と確立したときから
誰かと比べ、比べられ、他者より強くありたいと願い
他者より先に進みたいと願い、競い合い憎み呪い……そして今
その果てに命も理すらを弄び殺しあう。」
そう。
大変容以後でも以前でもそれはそこにある。
そこらに、ありきたりにある普通というもの。
だからこそ苦しめる。それらと違うものを。マイノリティを生み出す。
平らなものなどなく。異なるものという存在を生み出して石を投げる…
「普通を受け入れ、普通の中に入れないまま朽ちるか。
普通を受け入れず、新たな人の理を打ち立てるか。
考えれば、考え続けた結果がそう。
私は今も尚”外された者達”のために立った。
このままただ……”いつかはきっと”なんて甘い言葉に諦めることなど出来ない。
今も尚続く混沌の呪縛から人を解き放たなければならないの。
絶対的な頂点の下……差異など些事とし一つにするために私は立ったわ。
いえ、立っている。」
別に入れ替わることなどなくていい。
ただ今広がるこの普通をひっくり返せばよい。
旧来より続くその”普通”の呪縛、普通を生み出す呪縛を解ければよいと。
「たとえば。今もであるけれど。
貴方のお腹の子供がこの世界に生まれて、生きていく時に。
この世界の”普通”はその命を、存在を受け入れるかしら。
受け入れるほどになるのか。
未だに人々はたった少しの差で石を投げ合うというのに。」
その子と同じようなことは、いやその子供のことを思うことは
未来を考えることでありそれは何か漠然とした希望や展望
近未来を描く想像ではなく
綾瀬音音も、また当事者の遠くない……最も身近な未来を見ること。
異能が、異能者が何であるかの答え。
それは異なるものを、別ける、別けてきた人の業の結果であり
世界はそれに満たされ溢れていると……答えた。
「私は今苦しむ者たちと、未来に生まれ生きる者たちのためにあるだけ。」
そうして、それが揺るがないことを……当然、然りと紅茶を新たに注いだ。
また新たに、湯気と共に香りが上がり広がる。
■綾瀬音音 > ――――――…………。
(言葉も、出なかった。
確かにその通りだった。
違うから、それを望んでいたのだ。
そんな簡単な事にも気づかなかっただなんて。
自分すら騙していたのか。
見たくないものから目をそらすように)
それは、そうです。
たったひとつ、異能を持っただけで、もしくはこの場所で生まれてきたわけではないと言う理由で、
虐げられるのは理不尽だと思います。
何も――何も、貴女の言うことは、間違ってないと思います。
(だから、だけど、と言葉は飲み込まざる得なかった。
その先に続ける言葉を持たなかったから。
そんなに世界は暗いところなのか。
たった僅かな差異で酷いことが起こるような酷い場所なのかだろうか。
それを、言葉にできるほど、現実が解らないわけではない。
なら希望はどこだ。
この黒い女性なのか。
世界を変えると言う、この女性こそが希望の光なのか。
傾く。
それこそ、“普通”でありたいと願うために。
当たり前の幸せを甘受して欲しい人が居るために。
異なることが普通であること。
それが当たり前であり受け入れられる世界があれば、それは――)
―――――――。
何が、
貴女をそんなに、突き動かすんです……?
(これは、本題とは何も関係のない質問だ。
彼女には確たる信念があり、それに基づいて事を起こす――と言う表現が合うかは解らないが――覚悟がある。
それが解るから、訊かずにはいられなかった。
それは血で開かれるであろう道にも思えたし、
その向こうが単純に幸せがあると夢見れるような世界にも思えなかったから。
いや、単純な幸せなど――どこにも無いのかもしれないけれど)
でも、一つだけわかることはあります。
“今のこの世界”に、もし――この子が、もしくは先輩が奪われるようなことがあれば。
きっと――私は何もかも許せないと思います。
それこそ、世界を焼いてしまうくらいに。
(それだけは、断言できた。
受け入れられるようには、きっとならないだろう。
今のままでは。
息を潜めるように生きていくのも辛いだろう。
“普通を模して”生きることは出来るだろう。
だが、それも出来なくなれば――そして奪われれば。
自分はきっと、何もかも許せなくなり、奪う側に回るだろう。
それだけの力があるのだ、そうしないとは言えなかった)
貴女の信念を変えられるなんて思ってません。
その為に異能を使おうとも思いませんし、通じるとも思えませんし。
ただ、本当に解らないんです。
何が最良なのか。
どうしたら良いのか。
■黒い女 > 「それが全てではないけれど」
それが全てではない。
そうあっても、手を差し伸べる者もいるだろう。
それが同じくらい、石を投げるものがいたとしても……
「これも確かなことよ。正しい、間違いではなく。
真実の一つ。
どちらかだけがとは言えない。されど混ざり合った世界がこの世界。
明るくも薄暗くもない。黒でも白でもなく……
そうね。ミルクを入れた紅茶のように……それがそうであるように
もう戻らない。別けることもできないひとつ。
それでも人は人を別ける。別たれた、別つのは人。」
紅茶にミルクを注ぎ、また砂糖を入れて甘く。
そして甘く、香りは豊かか。苦味は果たして。
「私自身が外に弾かれた者。石を投げられ、普通と異と別けられた者。
今は格段世界を憎んでいるわけではないけど、それでもこの世界が正しいとは思わないわ。
だから、変えたいと願った。自分だけではなく……
そして世界を変えたいと願う時、気づいたわ。
一昼夜で人溢れるこの世界は変わらない。
変えるために、変え続けていかなければならない……
それが何であれ、石を投げられ外され薄い暗闇の中に封じられ消えることに屈することを選びたくないから。
私自身のため、異能と呼ばれ別たれた者のため。
普通と外との垣根などない……異なるものを抱えていても
当たり前のように生きていられる世界を作るために。」
もとより綾瀬音音に自身を変えられるとは思っていない。
しかしそれでも声をかけたのは、やはり共感するものがあるため。
故に……
「それはあなた自身が選ぶしかない。
私は確かに貴方を招いたけれども、それは如何なる理由があっても私の都合。
私から出せる選択肢の提示。
”普通”の世界から、”普通”の世界で作られた情報から導きだすか
”普通の外”とされた世界の存在から与えられたものから導き出すか。
それとも。
あなたは何を選ぶのか。
あなたにとって何が正しいのか。
何かに依る正しさ、悪しさなどは誰かが決めたものでしかないのだから
それらを疑うとき、あなた自身で決めなければならない。
何が大切なのか、何のために何かをしたいと思うのか……」
時間は限られているし、私から貴方に与えられることも少ないのと
空になったティーカップを置いてつぶやく。
どう飲んでいたのか、そも飲食していたのかと思えるような音や所作の気配のなさ。
ただ柱時計の音が告げる。時間が進んでいくことを。
■綾瀬音音 > …………でも、大きな側面の一つです。
それは変わらない。
(それはそうだろう。
どちらが多いかなんて、それこそ解らない。
人には石を投げ、他の人には手を差し伸べるであろう人も居るだろうし)
でもやっぱり、真実の一つである以上それは正しい、の一つだと思います。
簡単には分けることは出来なくても。
混ざるしか無いんだと思います。
だって、これだけの人がいて、人じゃない人もいて
いろんな事が起こるんです。
簡単に分けられるほど――“私たち”は単純じゃない。
そう、ですね。
きっと、分けようとする人にとっては異能や異邦人、と言うのは
ゴミの分別より簡単なものなのでしょう。
(紅茶の香りが変わる。
もう戻らないだろうそれ)
――――――。
そう、でしたか。
そう、ですよね。
(本当に、この女性も、何ら変わりなく――“当たり前の”人なのだと、漸く思い至った。
何か特別だったわけでもなく、いや特別な力は持っていたのだろうけれども、
もしかすれば出発点は、然程自分と変わらなかったのかもしれない。
差別され追いやられ当たり前の感覚を持ちながら、“普通ではない”と烙印を押され。
なら、そうだ。
世界を憎んでいるなら、それこそ焼けばいい。
でもそうでなく、他の分けられた人もと言うのであれば――
その道を取るのは、自然なことなのかもしれない。
理解には程遠い感覚なのだろうとは解っていたが、
手放しに賛同するとも言えなかったけれど、
少しだけ、手が届きそうな、そんな感覚)
私は――きっと貴女が思ってるよりとても単純です。
大切な人や愛する人と一緒にいたい。
幸せになりたい。
幸せにしたい。
願い事なんてそれくらいなんです。
だから、何が正しいとか、間違ってるとか――多分、本質的にはどうでもいいことなのかもしれません。
だけど、普通とか異能者だとか以前に“当たり前に人間”なので、やっぱり気になって。
だから、今は貴女の手を取る、とはやっぱり言えません。
貴女は私には正しいかはわからないけれど、間違ってないと思うし、今はそうなればきっと素敵なんだろうな、位には気を引かれるのは本当のことなんですけれど。
それに、“一人では何も決められない”んですよ。
馬鹿みたいかもしれないですけれど、本当にそうなんです。
例え誰かに依存するような正しさでも、少なとも自分のためだけじゃなくて、この子の事を考えて選ぶ、と言う選択をするなら、私はもう、一人では決めちゃいけないんです。
私は私のものであっても、もう私だけのものじゃないんです。
伴侶を持つということは、そしてそこで子供を持つ、と言うことは――
多分、そういうことなんです。
(時間は限られている。
具体的な期間は区切られていなくても、それはそうだろう。
与えられることは少ないというが、彼女は少なくとも、嘘偽りは与えなかった。
彼女の言葉は全面的に信頼できると――嘘まやかしではないと、そう思えるくらいには思っている。
彼女が男を通して見た自分が、どのように見えたのかは解らない。
だけど、彼と一揃いで歩むと決めたから、だからこそ、一人で決められないことも沢山有る。
それが何と愚かしくて、何と幸せなことか。
それを語る口調は、未だに恋する乙女そのものなのだ。
いや、目の前の女性にのろけた所でどういった話だと言われればそれまでなのだが。
自分も、リンゴジュースを飲み干した。
お茶会の終了は、前と同様彼女の空になったコップで告げられた)
■黒い女 > それが答えかのように、女は姿を消した。
茶会の終わりを伝えるように静かに……その姿は闇に飲まれ
ふと瞬きをした途端に消えた。
後に残る音音を残して消えた。
その願いと、選択に対し何かを語ることもなく
ただ黙って消えた。
カップらをも残さず……消えた。
ご案内:「喫茶店」から黒い女さんが去りました。
ご案内:「喫茶店」から綾瀬音音さんが去りました。