2016/11/19 のログ
ご案内:「竹村浩二のアパート」に竹村浩二さんが現れました。
竹村浩二 >  
男は部屋で懇々と眠っている。
昨日は遅くまで変身アイテムを改造していたため、疲れていた。

夢を見ないほどに、深く。

ご案内:「竹村浩二のアパート」にメイジーさんが現れました。
メイジー > かの蒸気都市でさえ、夜明けからしばらくのあいだ、朝のひとときには神秘があった。
都市に滞留した亜硫酸ガスもつかのま朝靄に薄れ、清く澄んだなにものかを享受できる。
メイジー・フェアバンクスは朝を愛するものである。
青空の祝福を受けたこの地にあっては、冷たい大気で肺を満たす喜びもひとしおだ。
それだけに、仕事は大いに捗っている。

積もりに積もった埃を払い、賞味期限切れの食品と去年の新聞、その他忘れ去られたものたちを処分した。
丸まったまま押し込まれた汚れ物をまとめて洗濯にかけ、最後の一枚までアイロンをかけて仕舞った。
古雑誌やカバーの外れたコミックスに秩序をもたらし、一人暮らしの部屋から頽廃の気配を駆逐していく。
元より小さな部屋ゆえに、黴と埃を落として隅々までピカピカになるまで、さほどの時間はかからなかった。

「……これでは………メイドがいなくなるのも道理でございますね」

部屋の主が目覚めるまであと少し。呟くようにひとりごちて最後の仕上げに向かう。

竹村浩二 >  
「ふご……」

これが男の目覚め。
何か生活感のある……実家で母親が家事をしているような匂いに気づいて薄目を開ける。

そして、周囲が異界に変わっていることに気づき、愕然とした。

「えっ……は、ええ!?」

正確に言えば今までの汚い部屋が異界であり、ようやく人界に戻ったのであるが。
竹村浩二26歳。自分の部屋の床の色を思い出す。

上体を起こして部屋を見渡しながら、目に入った女に声をかけた。

「あのー……どこの野良メイドでいらっしゃいます?」

聞くまでもない。あのシルエットは、以前に会った…

メイジー > 朝の挨拶。
旦那さまのお客様に向けるような笑みを向け、混乱する男に向けて自然な所作で上体を傾げる。

「お早うございます、竹村様。お目覚めもよろしい様で」

部屋の主の目覚めにあわせ、直前まで温めておいたカップに熱い起きぬけの一杯を注いで供する。
蒸気都市の市民は誰しも、王侯貴族から名もなき庶民にいたるまでこの一杯から一日を始める。
それは習慣のようなもので、意識の覚醒を促し、夢から現へと引き戻す効能がある。
エインズレイのティーセットではないけれど、一番手に馴染むと見込んで使い慣れたカップを選んだ。

「正山小種(ラプサン・スーチョン)にございます。どうぞお召し上がりを」

この部屋にないものは持参した。特級の茶葉も、そのひとつ。

竹村浩二 >  
ごく自然な、まるでこの時間この場所でこの動きをすることが決まっていたかのような。
そんな動きで彼女は一礼をした。

「おはようございました」

こっちは自然とはかけ離れた、強張った笑みで挨拶を返した。
故障した自動販売機の硬貨投入口をガムテープで塞ぐようなその場しのぎの笑顔だった。

「ああ、ああ、ラプサン・スーチョンね……あの有名な………」

カップを受け取って一口。
安酒とデフレ飯しか知らないような口に、その香気は広がる。
芳醇。馥郁。色々言葉を思い浮かべたが、何も足りてない気がして。

「ふう……」

竹村浩二 > 「って何でうちでメイド業務してんだよッ!」
竹村浩二 >  
頭を抱えて叫んだ。近所迷惑。

「なんなんだよ……なんで俺の家知ってんだよ…」
「誰がどういう意図でメイジーを送り込んできたわけで…?」

メイジー > 「なぜ、と仰いましたか」
「竹村様は、心優しくも勇敢なお方。身共のような者に手を差し伸べて下さいました」
「このメイジーにもできることはないかと、考えていたのでございます」

掃除道具と当座の活動資金、竹村家の所在に関する情報は生活委員会の提供である。
けれど、一度に答えるべきは一つまで。
枝葉の疑問は次の話に移るとともに消えてしまうのが世の常というもの。

「すこし、よろしいでしょうか。竹村様」
「僭越ながら、この様な暮らしをなさっていてはお身体に障ります」
「生活委員会の皆々様もその様に。御身を案じてのことと、お許し下さいませ」

紅茶の香り漂うベッドサイド。憩いの吐息を漏らす姿に口もとをほころばせる。

「朝食のご用意がございます。今朝は、すこし軽めのものを」
「卵はポーチトエッグにいたしましたが、他のご用意もございますので」

竹村浩二 >  
「良い人扱いはやめろ、寒気がする」
「別にお礼を期待して世話したわけじゃねーよ」

そうかそうか。メイドの恩返しか。
そういうことか。昔話みたいだな。
何とか言い返す部分を探しながら頭の中ではのん気にそんなことを考えていた。

「あん? なんだよ……生活へのダメ出しは勘弁してくれ」
「てめぇは俺のおふくろか?」
「生活委員会の連中はロクなこと言わねぇな!」

異能で何もない場所から煙草の箱を取り出す。
が、空箱ばかりだ。昨日、全部吸ったらしい。

「だから、俺は放っておいてほし………」
「わかった、朝食だな。朝食を摂取すればわたくしめのお話をお聞きになっておいただけるンですね?」
「ったく。うるさいんです」

座りなおして首の辺りをボリボリ掻いた。