2016/11/24 のログ
竹村浩二 >  
「身分の壁ねぇ……そういうのこっちじゃ時代錯誤だしな」
「だから、自由だ。だがな、自由を履き違えてはいけない」
「自由と不自由は一緒だ」

自由を勘違いして奔放に生きた結果が今である。

「アリクイはアリを食うからアリクイなのであって」
「アリを無理やり食わされたらアリクワサセラレだぜ……ところでアリクイってわかる?」
「どこへでも行けるから、どこにでもたどり着けるわけではないってことだ」

ぬいぐるみは完全に直ったようだ。
傷を塞がれた彼だか彼女だかは、とても健康そうに見えた。

「……………」

実際は非礼ではない。お互い心ない言葉をぶつけあったことさえあった。
ダメな彼女とダメな彼氏の話だった。

「へえ、それはそれは」
「常世島にある自由はな、自由恋愛も含まれるんだぜ」
「気が向いたら異性と積極的に話して恋をしたりしなかったりするといい」

内心、笑っちまう。
ダメな恋しかしてこなかったのに。
目の前の女には素敵な恋をしろと言うのか。

「そのぬいぐるみ、名前とかつけられてたのかな」
「っていうか、俺メイジーと話すことねーと思ってた」
「話せば結構……あ、そういや話すで思い出した」
「メイジーはこっちの世界の携帯デバイス持ってねーのか。必要だから、今度契約しにいこうぜ」

メイジーがいた世界の文明レベルがわからないが、空気が汚せるのだから機械技術は達者だろう。
実際に自分が持っているスマホを見せてみる。

「これだ、いろいろ機能がついてる通信機」

メイジー > 主人はなにか深いことを言った。
どこへでも行けるということは、何ごとも成せるという意味ではない。
そんなところか。
解放感に満ちた美しきこの世界に、まだ何らかの制約が残っているのだろうか。
話の前提が噛み合っていない気がする。よくわからずに、小首を傾げた。

「ええ、存じております。蒸気都市には世界初の科学動物園がございますので」
「……失礼。あちらの世界の、でございますが」

そして主人は恋を語る。何も知らないこの身よりは、信に足る言葉のはずだ。
けれど、務めを負う身には恋どころではない。今はまだ、そういう望みを持つべきではない。

「でしたら、やはり捨ててしまいしょう。僭越ながら、わが主はお優しいお方にございます」
「恋に敗れた証を、いつまでも大事に取っていらっしゃったのですから」
「……とても、お優しい方なのだと存じます」

思いがけず、主人の背中を押してしまったのだろうか。
この決心が変わらぬ内に捨てるに限ると理解した。

「蒸気都市にも、機関通信網を利用する為の携帯端末がございました」
「以前、似た様な機械を向けられたことがございましたが……あれは何をされていたのでしょう?」

竹村浩二 >  
「……ああ、そう。まぁ……その…」
自分でも途中で何を言おうとしたのかわからなくなった。
だが、自由は厄介だ。そんなニュアンスが伝わればいい。
「…知ってるならいいか」

額に青筋が浮かぶ。

「優しい人認定はやめろ、背中が痒くなる」
「未練がましいだけだよ、放っておいてくれそして黙って捨ててくれェ」

向けられた、と聞くと写真機能のことかと思い。

「ああ、そりゃ多分写真を撮られてたんだよ」
「メイドさんは珍しいからな、俺だって街中で見かけたら多分撮る、許可はもらうが」

今度から無断で写真撮られそうになったら一言かましとけ、と言いつつ。

「で、どうする。連絡手段がないと色々困るんだが」
「いるのか、いらねーのか」

メイジー > 「………失礼いたしました。出すぎたことを申しました」

感情を露わにするということは、それが真実に近いことを示す裏返しとも思える。
けれど、主人から不興を買うことを避けたければ口に出さない方が賢明だ。
実際に我慢できるかどうかはさておいて。

「写真………ダゲレオタイプのことを仰っているのですか?」
「なんということでしょう。あの小さな端末で撮影ができるとは……」
「しかし、被写体に無断で撮影するなど聞いたことがございません」
「使用人の姿がみだりに撮影されたとあっては、わが主の面目にも関わります」
「次に同じことがございましたら、このメイジーきつく一言申し上げましょう」

ボタンの取れたシャツを出してきて、替えのボタンがタグについていることを発見する。
なんという親切設計。と感じ入る間もなく問いかけられて。

「身共もあの機械を持てるのでございましたら……是非に、お願いいたします」
「どこにあろうと主のご用を承れます。それは、さぞ便利なことにございましょう」

竹村浩二 >  
「ん。よいよい、苦しゅうない」

手をひらひらと振って笑う。

「そうだ、言ってやれ。そして金を取れ」
「って……そりゃメイド喫茶か…?」

くああ、と欠伸をして。

「ああ、んじゃ次に街に用事がある時にでもついでに行こうぜ」
「主のご用とか堅苦しいことじゃなくて、若者はみんな持ってるモンなの、OK?」
「情報集めるのにも使えるしな……ま、契約は何とかなるだろ」

次の約束。
何とも奇妙な縁だ。

それからも二人で色んなことを話した。
相変わらず不器用なコミュニケーションだった。
けれど、悪くない。ああ、全く。悪くない。

ご案内:「竹村浩二のアパート」から竹村浩二さんが去りました。
ご案内:「竹村浩二のアパート」からメイジーさんが去りました。