2018/09/12 のログ
ご案内:「喫茶「Affettuoso」」に花ヶ江 紗枝さんが現れました。
花ヶ江 紗枝 >   
学生寮の近く、商店街から離れて住宅街の奥へ進んだ先にある林の奥に
小さな個人経営の喫茶店がある。
そこは人目につかない事もあり殆ど客の立ち寄らない店で
日中夜間問わず、あまり人気のないことからその店を知る一部の学生からも
営業をしているのか疑わしいと言われるほどの店だが、
今夜は灯がともり、窓際の席に一人、外を眺めながら思案に耽る客の姿があった。
  
「……ありがとう」

小さな磁器の音に少し目を向けると
去っていくマスターの後ろ姿と、机の上で湯気をくゆらせる紅茶を認め
礼を呟くと手を伸ばしそれを手に取る。
今日は少し肌寒かったからだろうか。指先からじんわりと伝わってくるような熱に
小さく吐息を零すと紅茶の香りをゆっくりと吸い込み少しだけ呼吸を止める。
……この店に入ってから随分と時間がたった。
何杯目になるのかすら数えていない紅茶を僅かに口に含み
白地に金と青の意匠が施された磁器のカップをゆっくりと机に置く。
朧げなまなざしのまま見つめる視線の先には軒先に下げられた
オイルカンテラと、その周りを飛び回る白い蛾、そして瞬く夜空。

「……」

随分と久しぶりにこの島に帰ってきたけれど
ここ数年この島で過ごした日々は息を継ぐ暇もないようで
もうこの島にも何十年もいるような気さえする。
……なんて漏らせばきっと周りには驚かれてしまうだろう。
いつも余裕ある姿を必死に取り繕ってきたのだから。

(なんとも、馬鹿な話よね)

そんな必要はなかったのかもしれないと今となっては思う。
良い意味でも、悪い意味でも昔に比べ自分は変わった。
以前は本当に帰る事をどうしても意識してしまっていたがもう本島に戻る予定もなくなった。
事情が変わったりしない限りはこれから先、ずっとこの島に居るだろう。

「……はぁ」

何度目かのため息をつく。
そう、ずっとここに居る。けれど……
その目的もまた、彼女は失ってしまっていた。
自分は何のためにこの島に居るのだろう。
これから何のために生きていけばいいのだろう。

……そんな答えの無い疑問がぐるぐると頭を回り続け
物憂げなため息ばかりが零れていく。
折角の良い紅茶が台無しだ。と心のどこかで
呆れたような声が聞こえるような気さえした。

花ヶ江 紗枝 >   
新調した携帯端末に目を向ける。
そこには先日処理した案件に対する報告完了を告げる文字と
彼女の帰還を知った後輩や同期達のメッセージの着信を告げる文字が浮かんでいる。

「おかえりなさい……か」

部隊を抜けて本島に急遽帰還する事になったのは約半年前
落ち着いたはずの家督争いが再燃し、それを抑えきれなくなった現当主から
本島に帰ってくるように指示があったことがきっかけだった。
はっきり言って戻るほどの事でもなかったと思う。
今の自分にとって相続権など限りなくどうでも良いのだから。
最も、それは既にある程度の財を有しているからかもしれないけれど。

「結枝が居ない所に帰って……意味なんてなかったのにね」

それでも帰った自分は思った以上に情が残っていたのだろう。
花ヶ江の家は過ごしやすい所とは到底言えなかった。
元当主の手駒を排斥するために近しい物が皆いなくなった今の本家ならなおさらだ。
けれど、僅かながら親身になってくれていた人たちが大事にしていた場所を
なんとかしたいという気持ちは心のどこかにあったことは確かだ。

「馬鹿みたいね」

今となってはそれももうないけれど。
少なくとも沈静化には一役買った以上、これ以上は出る幕もない。
本当の意味で帰るべき場所を失った自分に”おかえりなさい”なんて
随分と都合がいい、そして似合わない言葉だと思う。

ご案内:「喫茶「Affettuoso」」に冬桐真理さんが現れました。
冬桐真理 > 「またここへ来るとはな」

聴集を受けた数日後、女は再び喫茶店へ顔を出す。
以前飲んだ珈琲が思った以上に口に合ったようだ。
そこで、見知った――世話になった、というべきか。露骨に顔を顰めながらウエイトレスの後ろを歩き。

「先日ぶりだな。世話になったよ」

と挨拶に感じられない挨拶を返せば。

『お連れ様ですか?ではこちらの席へどうぞ』
「な・・・っ!?」

何を勘違いしたか、女性の向かいを差し出された。

花ヶ江 紗枝 >   
「……」

この島に来て、本当にいろいろな事があった。
喜ばれる事も、人には言えないような事も沢山した。
それらが全て公になれば、恐らく即時拘束され裁かれるだろう。
外ならぬ風紀委員の手で。

それを知られないようにしてきた。
知らせるつもりもなかったし、事実上手くやってもきた。
彼女自身風紀委員の調査の仕方を、そして後ろ暗い連中の情報の掴み方も良く知っている。
今残っている者で自分まで伝ってくる事は余程のことが無い限り難しいだろう。
例え手繰られたとしてもうまく切り抜ける方法にも自信がある。

けれど、それも知らず無邪気に羨望と笑顔を向ける彼らを
真っすぐ見つめられる自信だけは、失くしてしまった。
自分はそんな価値がある人間ではない。

「……」

それを深く自覚した途端、
彼らの近くで、洗練潔白な風紀委員のふりを続けることが
酷く難しく、そして残酷な事のように思えてならなかった。
彼らを騙し続けて、居場所にすることは許されないと
誰かが何度も何度も囁く。

「……あら」

それを振り払うように頭を振ると同時に向かいの席が引かれ、
そこに戸惑ったような、不機嫌な様な姿を認める。

「なぁに?
 ……口説きにでも来てくれたのかしら」

それに気が付くと一瞬で表情と思考を切り替える。
内心など露見せず、揶揄う様な台詞と共に
柔和な笑みを浮かべた。

冬桐真理 > 「冗談。・・・とはいえ、融通を利かせてもらったからな。礼くらいは言っておこうか」

からかうような笑顔に面倒臭そうに手を振る。
彼女のことは弱みを握られているということで苦手意識を持っているのだろうか、邪険に扱おうにもし切れない――むしろ断りづらいものを感じている。

「世話になったな。下手していればあたしはいまごろ檻の中か爪弾きだったろうさ。ついでに学園の場所もわかった。単位を落とすこともなさそうだ」

引かれた椅子に座りながら珈琲を頼み、向かいの女性に軽く会釈をする。
用事は終わった、とも言いたげな態度だがその実、彼女の持つ妙に混ざった雰囲気が気がかりでもあった。

「今日は“仕事”はないのか? それともナンパ待ちか」

花ヶ江 紗枝 >   
「一応きっかけは被害者だもの。
 その後の行動はあれだったけれど」

くすくすと笑いながら手を振り返す。
あの後事情聴取という名のお茶会を経て
必要な事は大体把握した。その裏も取れたと
先程端末に来ていた返答には書いてあったはずだ。
それにこういうタイプの子は個人的に”嫌いじゃない。”

「本当、そうならなくってよかったわ。
 駆け付けた子、貴方の顔を見て犯人と疑っていなかったもの」

腰かけた相手にゆっくりとメニューを滑らせる。
ディナータイムと言うには少し遅い時間なので夜用のメニューだが
学生でも食べられそうなものはいくつか乗っている。

「こう見えてもリハビリ中なの。
 だから今日はオフよ。
 ナンパは……そうね。
 お茶くらいはと言ったところ」

メニューにはお酒も乗っていた気がするが
まぁそこは気にしない方向で行こうと思いつつ
自身は再びカップを口元に運ぶ。

冬桐真理 > 「まったくだ、キモを冷やしたもんだ・・・サラダとタコス」

渡されたメニューを開き、近くにいた店員にオーダーを頼み。
そしてメニューを閉じテーブルの端へ滑り送る。
いつの間にか置かれていたコーヒーカップを傾け、一口飲み。
ああ、旨いと感想をこぼす。

「ふゥん、リハビリ中ねぇ。そうかい、じゃあお茶にでも付き合おうか」

テーブルに肘を立て、頬杖をつきながら柄にもないことを言い出す。

花ヶ江 紗枝 >   
「随分言い張っていたわよ?
 あいつなら犯人側で襲っていたとしても不思議ではない……なんて。
 あれは相当根に持っているようよ?今後身の振り方には気を付けて頂戴ね」

相変わらず揶揄う様な口調の端に
一体何を仕出かしたのと問う様な調子を乗せ
カップを置くと首を傾げる。
とは言え、別に彼女的にはある程度なら暴れても問題ないという認識なのだけれど。
1か0かと言うほど杓子定規に取り締まるつもりなんて元々ないのだから。
そんなの面白くないし疲れてしまう。
そんな事を考えていただけに……

「……あら」

吐き出された言葉に驚いた、と示す様にたれ目気味の瞳が僅かに見開かれる。
こういうものにあまり乗る様なタイプではないと思っていただけに
予想外の対応に少しばかり驚いてしまった。

「嗚呼ごめんなさい。
 そういうタイプだと思っていなかったものだから」

それを取り繕うように少し申し訳なさそうに
そこだけ見れば武芸など触れた事もないような笑みを浮かべ
両掌を合わせて。

ご案内:「喫茶「Affettuoso」」に冬桐真理さんが現れました。
冬桐真理 > 「気にするな、あたしの気まぐれだ」

むす、とした態度のまま言葉をつむぐ。

「根に持っている、ねぇ。ああ、肝に銘じておこう。まったく、初日からついてないにも程があるぞ。それにだ。そもそもあたしはまだ宿も取れてないのにだ。おかげでまた野宿しなければいけないかも知れん」

珈琲を含み、のどを通す。
目の前に運ばれたサラダとタコスを一瞥しては両手を合わせた彼女に
胡散臭そうな視線を送る。

「正直な話、まだ手続きを踏めていなくてな。少なくとも2.3日はかかるだろう。それまで凌げる宿に心当たりはあるのか?あと、出切れば働き口も欲しいところだ。寮にせよ宿にせよ、住むには金がかかる」

親指と人差し指で上向きの丸を作り、自嘲するように乾いた笑いを見せる。

花ヶ江 紗枝 >   
「まぁあの子なりに焦っている所もあると思うのよ。
 目立つ手柄を上げて同期と差をつけたいっていうね。
 自分があまり優秀とは言えないって自覚しているみたいだから」

だからこそ余計に根に持ってしまっているのだと思う。
折角のチャンスだったのにと思うとどうしても余計に強い感情を抱きがちなもの。

「宿……ねぇ。心当たりはあるにはあるけれど」

少し甘いものが欲しくなりブラウニーを注文しつつ口元に指先を当て思案する。
確かに登録にはしばらくの時間がかかるはずだ。最低でも数日は。
その間寝泊まりできる場所は島に入ったときに教えてもらえるはずだが……
訳アリを泊めてくれるほどひらけていないのも現状だった筈だ。まぁ妥当な判断だけれど。

「働き口もセットの良い物件がとりあえずすぐ思いつく限りでは3件……かしらね」

風紀委員としては摘発だけでなく案内や生活委員会の補助と言うのも
実は仕事に含まれていたりする。
最も、ほとんどの風紀委員はそれらを嫌がるけれど。
半分戦闘集団と言うのは強ち間違っていないわけで。

「その中で風紀にほぼ絡まれないのは一件だけね」

しっとりとしたブラウニーをフォークで切り分け、パクリと口にしながら
聞きたい?と言外ににじませつつ笑みを浮かべて瞳を見つめる。

冬桐真理 > 「・・・ああ、聞こう」

どことなく危険なにおいがするが、背に腹は替えられないと言葉の先を促す。
荒事なら慣れている。別にどうということはない、が思わせぶりな態度はやはり易い条件ではなさそうだ。

「目をつけられたんじゃあこの先もすこし暗いな。癪ではあるが今は縋らせてもらうとしよう」

腹をくくり、瞳を見返す。