2016/09/12 のログ
ご案内:「氷架の夢」に雪城氷架さんが現れました。
雪城氷架 > 「…? あれ、なんでこんなところにいるんだ…?」

ふと気が付くと、見知ったような見知らぬような路地にいた
街頭は間隔が遠く、ちょっとした地面の窪みで転倒しそうな程度には薄暗い

突然目の前に広がった景色と、それまでの接合性のなさになんとなく、理解する

「……夢かな」

明晰夢、というやつだろうか
もちろん氷架はそんな小難しい言葉は知らない

雪城氷架 > 自分の格好を確かめてみれば
いつもの学校へいく服装
スクールバッグを肩にかけて、中から取り出した手鏡で自分の顔を覗きこめば
いつも通り、薄めの化粧もばっちりのった美少女が映る

「うん、いつもどおり可愛い……違うそうじゃない」

夢の中で夢として認識したのなんて初めてで、なんだかふわふわと落ち着かない
ほっぺときゅっとつねってみても、普通に痛いだけだった

雪城氷架 > 日は沈みかけていてどうにも辺りが暗い
此処が何処なのか、特に何も警戒もせず、異能の力を使った
掌の上に煌々とした白炎が灯り、辺りを照らす

「(あれ…普通に使えてるじゃん…夢だからか?)」

此処のところ不都合ばかりがあった自身の異能
夢のなかということもあって、本当にいつも通りに使えてしまった

ふわふわと輝く白炎を頭上高く浮かべて、それを肥大化させる
一気にそれは辺りを照らし出す

その光景に、なんだか見覚えがあった

雪城氷架 > 「ここって、確か……」

去年、まだ学園に来て風土にいまいち慣れなかった頃
歓楽街の外れに近い、細い路地で不良に絡まれた

その時は、まだ満足に扱えなかった異能の力を感情のままに発現させてしまった
そえrが、多分この場所だった

少し歩くと…アスファルトに燻ったような痕がある
キャンプファイヤーでもした跡のように煤けた地面は、四角形を描くように続いている

「……やっぱりここだ…じゃあ、此処は歓楽街…?」

不思議だ
何よりも、なぜ今になって此処にいるような夢を見るのか、ということが

雪城氷架 > 最近、異能のことで再び頭を悩ませていたせいだろうか

確かに記憶に残る場所ではあったのかもしれない
自分が異能の力を、はじめて人に向けて撃った場所だ

「……なんだろ、変なの」

この場にいても何もすることはなく、照明用の火球をゆらゆらと動かしながら歩いて行くことにした
そういえばあの時はここから先に進んでいない
歓楽街の寂しい路地、この先はどうなってるのか…知らない
自分が知らない場所は夢のなかだとどうなっているのか…そんな妙な好奇心も湧いた

雪城氷架 > 『おいッ!!』

「ひえっ!?」

突然暗闇から声がかかる
驚いて思わずその場に硬直していると…その声の持ち主であろう相手が、闇から現れた

一目で、そいつが大怪我をしているとわかった
片足を引きずり、服装はボロボロ、歩くたびに赤い跡が引きずるように地面に描かれた

『た、助けを呼んでくれ!はやく───』

その相手が自分に訴えたのは、そんな内容で

「え、あ、うわ。ちょ、ちょっと待てよ、待って……」

突然のことにこれが夢であることも忘れて、ポケットの携帯を取り出そうとする…が、無い

雪城氷架 > 『はやく───』

どさり、目の目に男が倒れる
赤いものが、水たまりのように広がっていく

「ま、待てって、携帯っ、あれ、なんで───」

慌ててスクールバッグの中を掻き回しても、見つからない
頭のなかにどうしよう、の言葉が無数に、乱雑に浮かんでは消えていく

ダメだ、この場ですぐに外に連絡をとる手段がない

だとしたら、どうするのか
ぐるぐるとした思考の中で、ハッと気づく

「し、しっかりしろよ!しっかり……」

倒れた男に駆け寄って、上体を起こそうとする

「う……」

男はそれなりに大柄で重く、ぬるりとした血が滑り、氷架の力では起こすこともままならなかった
こういう時どうしたら良いのか、という知識が氷架にはまるで備わっていない───

「お、おい、死ぬなよ。えっと、ええと…どうすればいいんだ…」

うっすらと涙を浮かべ、おろおろとする他ない
普段ならば、母親である涼子が、兄貴分である来島が、いつも一緒にいる括流が、恋人である零が、助けてくれるのに

この夢のなかには誰もいない

雪城氷架 > 夢なんだろ?夢なら覚めろよ───

そう思っても、目の前の光景は鮮明でまるで夢とは思えない

"所詮夢の出来事、無視しちゃってもいいんじゃないかな"

誰かが、そう囁いた気がした

でも手に残る温かい血の感触が、弱っていく息遣いが
どれもこれも夢だとはとても思えなくて

「……助けを呼んでくる。死ぬなよ、絶対」

───こんな夢のなかで、誰かがいるのか

それはわからないけど、だからといって何もしないのは我慢がならない
複雑ながらも温かい家庭、幸福の中で氷架は正しい意味での"良い子"として育った
曲がったことは嫌いだし、自分が曲がったことをするのは、夢のなかだって嫌だった

だから、意味はなくとも立ち上がって、走り始める

そう思った矢先に、背中に嫌なものを感じた