2016/10/07 のログ
ご案内:「訓練施設」に龍宮 鋼さんが現れました。
龍宮 鋼 >  
(訓練施設。
 部屋の隅に赤く光る壁のようなもので区切られた空間がある。
 広さはちょうどボクシングのリングくらいの広さだ。
 魔力と物体を遮断する、檻のような空間。
 そこで二人の人影が殴り合いをしている。
 一人は札付きのワルと名の知れた、龍宮鋼。
 もう一人は――いや、人と言うにはあまりにも異形過ぎた。
 鋼色に鈍く光る甲殻、同じ色の巨大な翼と尾。
 全身の殆どが甲殻に覆われているが、それ以外のところは白くのっぺりした印象を受けるだろう。
 それは龍宮鋼の龍の魔力を移した人形。
 龍の力を自在に扱うため、人形に力を移して屈服させる。
 そのために用意させた代物だ。
 その人形を相手に、最近こうして殴り合いを――)

――、あ……、っ、は――

(否、殴り合いではない。
 一方的な暴力そのものだ。
 龍そのもののような見た目の人形に対し、こちらの甲殻は殆ど全てが剥がれ落ちてしまっている。
 鋼色の髪は赤く染まり、左腕は力なくぶら下げられ、更に前腕の中ほどに関節が一つ増えているような動き。
 かろうじて角は残っているため人形の動きはよく見える。
 が、身体の方が付いていかない。
 人形の攻撃に反応して拳を振るうのだが、力なく振られるその腕が人形を捉える前に、人形の拳がこちらの顔を捉える。
 こちらの拳は虚空を泳ぎ、身体が崩れ落ちそうになったところへ逆側からの攻撃。
 そうしてリングのコーナーに磔にされながら何度も何度も繰り返している。)

ご案内:「訓練施設」にデーダインさんが現れました。
デーダイン > 黄色いボールを片手にぶんぶん振りながら、
まるで床の板の摩擦係数がゼロであるかのようなスケートの歩き方をしながら、
訓練施設を通りがかった黒ローブと赤マントの不審者は、
さっきドッジボールの必殺技のフレイムトルネードを習得したばかりで上機嫌な黒魔術教師、デーダインである。
デーダインはきっと陽気なままでいたのだろう、この一室へ踏み入ることがなければ。

「―――な、何だッッッ!!!!!何なのだッ!これはァ…ッッ??!!!!!」

たまたま、ドッジボールの練習の帰りに通りがかった施設でデーダインが見た光景。
いわゆる特訓空間というリングの中で
血だらけの銀髪少女が、そう、バケモノ(ドラゴン?)の手に蹂躙され続けている姿だった。
対する少女、龍宮鋼はろくに動けもしないのだが、拳を握って振るうあたり…何だかまだ諦めていない……?
これはいけない。
なんと無茶な訓練をしているのだ!
しかし、今はそれを気にしている場合ではない。

思わず、だったのだろうか、
デーダインのいつもの3倍くらい暑苦しくて大きい叫び声が、訓練施設一帯へと響き渡った。

「少女よ!!聞こえるか!
今すぐそこから逃げ出すんだ!!!一人が無理なら、手を貸してやる!!」

誰がどう見たって、勝ち目がない戦いなんて可愛いもので終わりそうもなかっただろう。
こうしている間にも、一発、二発と交互に左右の頬を打ち据えるバケモノ。
これを見て何も言わず帰る奴は教師とは言えぬ。
颯爽とリングのコーナー、つまるところ龍宮鋼の背中の方へと駆けていくデーダイン。
寄ってみれば、尚の事その惨たらしさは浮き彫りである。

龍宮 鋼 >  
(もうどれだけ殴られたのかわからない。
 どのぐらい殴られ続けているのかわからない。
 わかるのは嵐のような暴力を受け続けている事と、それに合わせてカウンターを放っている事。
 そしてその悉くが全て失敗していると言う事だ。)

――ぁ、

(ゴキン、と側頭部に打撃を受ける。
 最早声も出ない。
 ぶうん、と自身の繰り出した拳が空を切った。
 既に極限まで狭まった視野と、だと言うのにしっかり視える人形の動き。
 何事かを吼えながら、人形が更に拳を振るう。)

、っ……は――

(脇腹に拳が突き刺さった。
 肋骨など残らず砕けてしまっているかのような衝撃。
 痛みなどとうに感じない。
 こちらの拳は途中で力なく落ちていった。)

――、

(声が聞こえた。
 誰かが居る。
 かまうものか、どうせ邪魔は出来ない。
 血塗れの姿で、血塗れの拳を弱弱しく振るい続ける。
 近くのコンソールには、タッチパネルに解除と書かれたボタン。
 その画面を見れば、リングと人形がリンクしている事もすぐにわかるだろう。)

デーダイン > 「………ええい!!!この…ッッ!!!」

返事はない。わざと無視しているのか、それとも聞こえることさえ出来ないでいるのか。
何とも言えない歯がゆさというものを噛みしめるかのように、或いは何らかの返答を促すかのように。
赤い壁を、リングの檻を、白くてやけにごっつい手袋が殴りつける。
物体と魔力を切り離すその壁面は、しかし手袋でなぐりつけたところで何事もなかった。

「クソッ!
―――少女よッッ!!……この………!!

あっ、そうだ!」

次々と殴られる少女。殴られるたびに、イヤなダメージの受け方、
内臓を抉られたみたいな(デーダイン談)よくない呻き。
早く何とかしなければならない。
直接手を貸そうにも、赤い壁が邪魔だ。
暗黒神の権限で壊してしまおうか…いやそれは、教師としてどうだろう。

しかし、このままでは、最悪死ぬまで殴られ続ける。
そういえば、こういう自分専用の訓練用ベースには、
必ず緊急救出用のボタンがある筈ッッ!
アレを発生させている装置を探して……。

「どれだ…?これか!!!」

駆ける黒ローブ。はためく赤マント。
その付近にある装置のボタンを操作して、ひとまず解除を試みる。

龍宮 鋼 >  
(ボタンを押せば、赤いリングが上部から消えていく。
 同時に人形から鋼の甲殻が剥がれ落ち、力なくその場に転がった。
 リングの隅に背を預け、また倒れた方から殴られる事で辛うじて倒れることを拒否していた自身の身体は、その支えを両方失って、やはり力なく倒れる。)

あ、う――

(それでも尚、身体を起こそうともがく。
 右腕を地面に突き立て、折れた左腕をも突き立て――ぐにゃりと曲がった。)

――ああああああううううううぅぅぅぅ……!!

(思わず叫び、地面を転がる。
 激痛しか感じなかったせいで最早感覚が死んでいた身体だが、それを塗り替えるほどの激痛。
 左腕を押さえて蹲る。
 リングを解除した教師の姿には、まだ気が付いていないようだ。)

デーダイン > 「―――っ!!」

一段落、ついた。
しかし、一息は吐けない。仮面のせいもあろうか。
あのバケモノは消えて、干渉を許さない赤い防壁もなくなる。
とはいえ、やることはまだまだあった。

「………。」

倒れ込んで、間髪入れず…おかしな方向へ曲がる身体。
絶叫する龍宮鋼。それをいつになく冷静に眺める仮面。
何と声を掛けたものだか、デーダインも迷ったのだろう。暫しの沈黙。

「………話は、後だな。……少し、失礼!」

このまま放っておくわけにはいかない。
その血だらけで折れた体へと近寄れば、デーダインの手袋の人差し指を胴へと向ける。
真っ黒な魔力が霧となって、龍宮鋼へと降っていく。
「一時的に痛みを消し飛ばす」ための麻痺の呪術。「出血を抑える」ための停滞の魔術。
少ないMPで使える、瀕死からHPを全回復する、
なんて曖昧で簡単で単純で便利な魔法は、ないのだ。

龍宮 鋼 >  
(黒い霧が身体を覆う。
 途端に身体の動きが鈍くなった。
 麻痺と停滞、その両方を魔力に弱い身体へ受け、男が想定しているよりもやや過剰気味に効力を発揮する。
 加えて痛みと疲労で頭も回らず、うつろな目を男へ向けて。)

――あ――だれ、――?

(小さな声で呻く様に。
 首を動かして男の顔を見るも、視界がぼやけて誰だかよくわからない。
 いつものような不機嫌そうな低い声では無く、年相応の少女の声。
 もう一度起き上がろうと腕を地に付けた所で、左腕の前腕が半ばからあらぬ方向へ向いているのに気が付いた。)

……あ――、は。

(だからあんなに痛かったのか、と言う顔。
 あまりにも当然な事実に、思わず笑いが漏れた。)