2016/10/08 のログ
デーダイン > 「私はデーダイン!!ダイン様とよべッッ!」

龍宮鋼の目先にあったのは、男の顔ではない、白い丸型の穴あき仮面である。
ぼやける視界に、ぶれるように赤マントと黒ローブの全身フルカバーな不審者の姿が、映るだろう。
割と、すんなりと黒い魔法が入った様だ。
なんだか、今日はやけに強気な自己紹介の不審者。

「動かすなッッ!!痛みはとってあるが動かせば怪我が広がる。じっとしていたまえ。
貴様には山ほど聞きたい事、言いたい事がある!!

―――しかァし!!
まずは、保健委員を呼ぶ、そして貴様は病院送りだ。文句は言わせん。」

さっきの訓練施設には、こういう無茶をする生徒の為に、緊急に保健委員に
駆けつけてもらうための赤い連絡ボタンがあるのだ!
それを使って保健委員やヒーラーを呼ぶ。
教師をしていれば、年に2,3,4回くらい使う機会がある。
そして、こういう無茶な事をする生徒に限って、治療を受けることを拒むわけだ。
半ば強制的な今後の予定の決定。勿論従うも拒むも龍宮鋼自身が決めることである。

「………まぁいい、少し…。」

座る不審者。どのように動いても素肌は一切伺えない鉄壁の不審者衣装だ。
救護要員が来るまで、暫く話…もとい事情を聞こうか。

龍宮 鋼 >  
――誰だよ……。

(名前を言われてもそれが誰なのかわからない。
 顔――ではなく仮面と格好が見えれば、噂の変人教師とわかるのだが、焦点の合わないぼんやりした視界ではそれも見えず。
 弱弱しいツッコミを入れるに留まった。)

はなし……あぁ、はなし、な。
なんだろうな、わかんねぇよ。
なにが、してぇんだろうな。

(半ば独り言のような言葉。
 既に男の事は意識から半分ほど抜け落ちており、言われた事にただ答えるだけだ。
 動くなと言われれば動かず寝転がっているし、聞きたい事があると言われれば素直に話す。)

いろいろ、はらたって……。
ケンカ、あいていねぇし、俺のちからで、いいやって……。
ボコボコにしてくれるやつ、そのへんにいねぇし……。

(とりあえずこんな事をしていた理由について口にする。
 男から見れば支離滅裂な内容だろう。
 自身の怪我は大小さまざまな骨折と頭や口からの出血。
 つまりケンカ傷のもっと酷い状態のものだ。
 常人であれば一刻を争う状態だろうが、そこは鋼龍の強靭な身体。
 重症には変わりないが、放置しても死に至るほどではない。
 見た目にはどう見てもヤバイけれど。)

デーダイン > 「私は異世界より舞い降りた暗黒の化身―――即ち、暗黒神ッ!!
完全無欠なる絶対悪であり、かつ、永遠無窮たる不滅の存在ッ!
それ故、私の悪の美学を映す黒魔術の教師をしている!…クックック、覚えておきたまえ!!」

これ以上の説明はないと言うくらい中二ワードを羅列した説明が後に続く。

「ふぅむ…。」

ぼやくような、こぼれるような。
力なくつづられる言葉を、静かに聞くデーダイン。
思ったよりも、素直に喋る事に多少意外さを覚えたが、それは言わず。
何を言っているかは分からないが、本人さえも分からないと言う。

「それで、何だ。

……こんな事をして、貴様は満足かね?」

立って左右に往復しながら、そんな問い掛け。
デーダインには、紆余曲折はあれ、
まるで「イライラしたからボコボコにされたかった」と言っているように聞こえた。

「あのまま、ずっと殴られて続けていれば、どうなっていたか……。

―――まさか、に殴られて興奮するマゾヒストであった、
等と言う滑稽なオチではないだろうがな。」

人目に見ても酷いと一致団結しそうなその外傷は、無論デーダインから見ても酷いと思ったのだろう。
少しばかり暑苦しさを忘れた様に、静かに言葉を続ける。

龍宮 鋼 >  
あぁ、なんだ、センセイか。

(思考力が低下している頭はめんどくさそうな中二ワードを処理しきれない。
 なのでその辺はスルーして、教師と言うワードだけを読み取った。)

わかんねぇよ。
どうすりゃいいかなんて、わかんねぇ――。

(力なく答える。
 弱弱しい言葉は疲弊しているからだけではない。
 何をどうすれば良いのか、わからないからこその弱い言葉だ。)

どいつもさ、やりたいこととか、なりたいもんとか。
そういうの、もってるやつばっかでさ。
なんにもねぇんだ。
ぜんぶ、あそこにおいてきちまった。

(普段なら誰かに喋る事など無いだろう言葉。
 だけど、今はこれ以上ないほどに弱っていて。
 それに、なんだか自身のことを、自分の言葉を真剣に聞いてくれるこの教師に。

 遠い昔の誰かの姿が被って見えたような気がしたから。)

――なぁセンセイ。
俺、だめだったよ。
せっかくアンタに、なまえ、もらったのに。
アンタと、やくそく、したのに。

(それは目の前の教師にかけた言葉ではない。
 聞かれたことでもない。
 ここに居ない誰かに、懺悔するようにこぼした言葉。)

――ぜんぶ、だめにしちまった……。

(その言葉を、涙と共にこぼす。)

デーダイン > 「………ウム。」

反応薄ッ?!
きれーに暗黒圧倒論をスルーされてちょっとショック受けたっぽいデーダイン。

「………そうか。」

分からない、つまり何かの迷いの中にいる。
デーダインは、単に無茶な訓練をしようとしていたというのであれば、
叱りつけてやろうと考えていた。
だが、本人なりに何かあったのだ。モヤモヤして、どうしていいか分からなくって。
それでも、何かしようとして、ここに行きついたのだ。そうだろう。

「………そうか、そうか。」

何を言っているのか、デーダインには分からない。
けれど、今の少女の、龍宮鋼の心は、限りなく、弱っていて、追い詰められていて。
これから先、人生の分岐点に立つ生徒が……こんな事を、嘆き、呟く。
白い手袋が握りしめられる。

「……貴様は…ッ。」

デーダインは、龍宮鋼が言う「センセイ」ではない事も分かっていた。
だが、黙っていられなかった。

「貴様は…置いてきたのなら……!!それが、あそこだと、分かっているのなら……!!
取り戻しに、行かないのかッッ!!

何もないのなら、何かを得ようと、すればいいッッ!!

それが、難しい事だとは分かっている…分かっているのだ。
だが…私は教師だ。もし、貴様が何かに行き詰まった時は、声をかけろ。
全て解決してやるとまでは言わんが、必ず共に悩み、答えを探すことを約束する。
だから……。」


血に混じって、零れる涙の意味は…諦めと、後悔。
学園での華やかな生活や、学生の抱く夢を失ったかのような言葉。

「諦めるには、まだ早いッッ!!!

―――貴様のセンセイとした約束と言う物を、私にも教えてくれないか…?」

そう、こんなところで、全てを駄目にする……そんなこと、あってはならないのだ。
例えそれが、さっき見かけたばかりの生徒であっても。

龍宮 鋼 >  
――むりだ。

(取りに行くなんて、出来ない。
 出来るわけがない。
 だって、)

おこったことは、かえられねぇんだ。

(置いてきた場所は、二年前。
 取り落としたものが風化して消えるには、充分な時間だ。
 身体を起こし、上着の襟をしっかり銜えだ。
 そうして、左腕を右手で掴んで。)

――ふううううぐうううううううう!!!

(思い切り、引っ張る。
 麻酔代わりの魔法が効いていても、その激痛はやすやすと脳を貫く。
 叫びながら骨が曲がって接合しないように整復。)

悪いな、センセイ。
俺にゃ、その言葉は勿体ねェよ。

(その激痛で頭が少し晴れた。
 教師の鑑のような言葉を、不良学生らしい言葉で拒否して立ち上がる。
 折れた左手は甲殻で覆い、添え木の代わり。
 壁に手を添えながら、歩き出す。
 が、途中でその脚を止めた。)

――妹を、守れなかった。

(零すように呟いて、再び歩き出す。
 これ以上話す事はないと言うように。
 これ以上は頼れないと拒絶するように。)

デーダイン > 「ッ…そ、それは、やってみなければ…。

そんな…。」

そんな予感が、しなかったかと言えば、嘘だ。
それでも、諦めるしかなかったとしても。
全てを失っただなんて、思って欲しくはなかったのだ。
龍宮鋼にとって、それが全てだったのかもしれないが。
諦めるしかないにしても、ただ諦めるのではなく…新たな物へ目を向けて欲しかった。
それは、難しい事だと、しっているが。

「……お、おいッッ!!

待て!…そんな怪我だらけで何処へ行くッッ?!」

その背を追う、デーダイン。
だが、

「………そう………か。すまない………!」

その時、デーダインにはこれ以上どうしようもなかった。
取り戻す、諦めない。綺麗で簡単な言葉だけれど、出来たらとっくにやっていた。
そのはずだった。
最初から、そんなこと出来るわけがなかったのだ。
普段のデーダインからは想像もつかない、小さくて暗い声。
自身の言葉の浅ましさを、恥じていたのかもしれない。

「―――。」

せめて治療くらいは、なんて、声もかける事はなく。
デーダインは沈黙して、酷い有様のその背を…追いかけて、止まる。
起こった事は、変えられない。
そこから無理に持ち直そうとさせたって、悪戯に古傷を抉るだけ。
まして、初めて言葉を交わしただけの生徒と教師だ。
拒絶されるのは、当然。

どうにかしてやりたい。だがどうにもならない。
せめて気の利いた言葉を送れれば良かったが、それすらもデーダインには叶わない。

突っ立った黒ローブに赤マントは、その背が消えてなくなるまで、
ずっとそちらへと仮面を向けたまま、言葉を失っていた。

龍宮 鋼 >  
(自身の中の龍の拳をあれだけ受けて。
 それでも尚倒れなかったのは、心が折れなかったからじゃない。
 折れる心など、初めから砕けていただけだ。)

――まぁ、うれしかったよ、センセイ。

(それでも、笑える。
 空っぽに笑いながらズタボロの身体を引きずって、訓練施設を後にした。 )

ご案内:「訓練施設」から龍宮 鋼さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からデーダインさんが去りました。