2017/03/15 のログ
美澄 蘭 > 「…まあ、こんなところに関わってるなんて、聞いてはいなかったけど。
そういう人なら、なおさらメリットデメリット、大事にするものかと思うし…

…八百万さん、私が不利益被るような嘘はついてないと、思ってたから」

こうも違う世界を見せられて、揺らいでいるので過去形を使うが。
そして…階段を下りきった先の扉の先には、部屋と…また扉。
おまけに、その部屋には男達が数人。体育会系の挨拶に、蘭はびくっと肩を強張らせた。
中学時代の経験からの苦手意識故だが…彼らにとってもまた、蘭の存在は異質であるらしい。

(………お客さんの様子…「まだ」…?
…ていうか、私が「客」って…)

頼と男達の会話を訝りながらも、恐る恐る…頼について、奥の扉の方へ。

八百万 頼 >  
リスク恐れてお金儲けは出来へんからなぁ。

(にやり、と狐の笑みを深くする。
 その返答は、彼女の質問に答えている様で答えてはいない。
 結局のところ、彼女の問いである「何故メリットが無いのにそうしたのか」と言う事には答えていないのだから。)

だから言うたやろ、信用したらあかん、て。

(そう繰り返し、扉を開ける。
 そこは控え室のような場所で、やはり数人の男達。
 その内一人は腕を背中側で縛られている。
 顔にいくつもの痣があり、口から血が垂れている。
 服の下にも同じような痣が多数あることは見えずとも分かるだろう。)

ごくろーさん。
あとはボクやっとくから、休んどってええよ。

(そう言って他の男達を部屋から追い出した。
 部屋の中には自身と彼女、拘束された男だけ。
 顔を彼女の方に向け、部屋の隅に居るように手振りで伝える。)

美澄 蘭 > 「…お金儲けのリスクって、そういうことじゃないでしょ…」

狐の笑みに、眉間に皺を寄せて溜息を吐く。

「………信用するなってわざわざ言うくらいなら、近づくなってストレートに言ってくれたら良いのに。
そういう卑屈な言い方、あんまり好きじゃない…」

そう呟きながら、頼に続いて奥の部屋に入って。

「………っ」

その光景に、口元を手でおさえ息を呑んだ。
手際よく拘束された男以外を追い出し、三人の空間を作る頼。

(…「あとはボクやっとく」…?)

手振りで部屋の隅にいるように伝えられても、蘭は動かなかった。
少女の振る舞いを見れば「動けない」ととることも出来そうだが…瞳は、恐慌でやや潤みながらもその力を失っていなかった。

八百万 頼 >  
美澄ちゃん悪い男に引っかかりそうやからなぁ。

(笑う。
 扉には鍵を掛ける。
 ガチャリと言う音の後、扉からはドアノブが消えうせていた。)

――さて。
そろそろ聞かせてくれんかなぁ。
兄さん、オクスリ売っとるやろ。
どの組織がやっとる?

(男の前にしゃがみ込み、明るい口調で問いかける。
 誰が言うかよ。
 男の返答は苦しそうな、しかし強い意志を感じるもので。)

……しゃあないな。

(そう言って男の肩に触れる。
 ゴキリ、と。
 男の肩が、凹んだ。
 絶叫。)

美澄 蘭 > 「…自分の心くらい、自分で守るわ」

笑われれば、むっとした表情で返す。…正直、ここまでついてきて説得力がないのも自覚しているが。
そして…頼が、文字通りここを「閉ざされた」空間にして…。

「………!」

頼が触れただけで、ゴキリという異音が男の身体からする。苦痛の絶叫。
蘭は、その悲鳴に共鳴するかのように、表情を歪めて…

「………何してるの!」

そう、頼に向かって叫んでいた。

八百万 頼 >  
何って――見ての通りや。

(それがどうしたと言いたげな顔を彼女に向ける。)

この兄さんな、違法なオクスリ落第街にバラ撒いとってな。
ウチの組で捕まえたんやけど、こんな売人一人捕まえたトコでどうにもならんねん。

(立ち上がり、彼女の方へゆっくりと歩いていく。
 軽く手を広げ、狐の笑みを顔に貼り付けたまま。)

こういうのは元を叩かなあかんねん。
オクスリをバラ撒いとる元の組織をな。
ただの売人やったら金でも握らしゃ早いんやけど、この兄さん組織のモンらしいんや。
せやから――

(彼女の間近まで迫る。
 後ろに引いているなら、その分距離を詰める。
 ガン、とやや乱暴に防御結界を叩き、)

――吐くまで、痛め付けとる。

(拷問だと、告げる。)

美澄 蘭 > 「…!」

銃撃くらいなら普通に耐える防御障壁は、人に叩かれたくらいではびくともしない。
ただ、叩かれた防御障壁が立てた大きな音に、びくっと身を縮めた。

「………そんなの………っ」

おかしい。おかしい。おかしい。
そんな違和感を口にしようとして、ちゃんとまとめることが出来ない。
恐慌ですっかり青ざめた中、それでも必死に呼吸をして…

「…そんなの…ここまでされて喋らない人が、そうそう喋るわけないじゃない!

大体…違法な組織を元から叩くなんて、それこそ、リスクに見合うほどのリターンなんて個人にないじゃないの…!」

そう、食い下がった。

八百万 頼 >  
そらそやろな。
オクスリかて、その組織だけが撒いてるんとちゃうやろし。
せやけどやる。
だからこそやるんや。

(この辺りの考えは、表の世界の彼女にはわからないことだろう。
 人を痛めつけることを嫌う彼女には、わかるはずもない。)

そもそも、や。
ウチのシマで好き勝手にクスリバラ撒いとるなんつう事。
ボクがほっとけ言うてもボスがほっとかんわ。

(そうして振り向き、再び男の方へ。
 先ほどとは反対側の肩に触れた。
 再び肩が砕ける音と、男の絶叫。)

美澄 蘭 > 「………!」

再びの異音と絶叫。
手で口元をおさえるが…その奥で、ぎりっと歯を噛んだ。
それから、男と頼の方に…近づいていく。

「………さっきから、痛めつけるばっかりで肝心の質問なんて全然してないじゃない」

目に蓄積する水分の量を増やしながら、そう、頼に向かっていった。

八百万 頼 >  
耐え切れんなったら言う。
ボクらはそれまでやる。
それだけや。

(肩に続いて足首と膝も。
 手が触れるだけで、鈍い音と共に関節があらぬ方向へ曲がっていく。
 両足ともそうしておいて、彼の顔の正面へしゃがみ込む。)

――兄さん、恋人居るなぁ。
その子、兄さんのお仕事のこと、なんも知らんなぁ。
えらい可愛い子やないの。

(そう告げた途端、男の顔色が変わる。
 やめろ、と男が叫ぶが、こちらはむしろしてやったり、と言う笑顔。)

兄さんにやったこと、その子にもやる。
全部やって、全部直して、もう一回最初から。
兄さんの前で、兄さんが言うまで、繰り返し繰り返し。
良かったなぁ、恋人二人で同じこと経験出来て。

(わかった、と。
 搾り出すように男が組織の名前を口にした。)

美澄 蘭 > 「………」

「恋人」を出しにして、組織を裏切らせた頼の手際に、蘭は心底戦慄していた。その、笑顔にも。
顔からは、すっかり血の気が引いている。

確かに、この男は法に触れる…おまけに、他者にもひどく有害なことをして金を稼いでいたわけだけれど。
ここまでのこと、されなければならないのかと。

「………組織の名前は確認出来たし、もう、終わり…よね?」

そう言いながら、蘭は、男の方に歩み寄る。
「治す」つもりでいるのだ。

八百万 頼 >  
動くな。

(短く、強い口調で。
 同時に自身と男を防御結界で覆う。
 彼女が使うものと全く同じものだ。)

美澄ちゃんは、見るだけや。

(そう言って彼の身体に触れた。
 見るも無残だった彼の身体は、自身と彼女がこの部屋に来たときの姿に戻っていた。)

兄さんの元の姿は保存してへんからな。
申し訳ないけど、ここまでしか出来んわ。

(それだけ告げて、結界を消して扉の方へ。
 扉を開け、人を呼んだ。)

――ま、こんなとこでボクの用事は終わりや。
なんか質問あれば、聞くで?

(部屋に入ってきた男達が、痣だらけの男を連れて行く。
 彼らがいなくなった後に改めて彼女の方を向いて、両手を広げた。)

美澄 蘭 > 「…!」

「動くな」という命令に従わなかったわけではないが、防御術式にしっかり弾かれた。
ガキィン、という音の後、後ろに倒れ込む。

…が、その後…男の負傷は「マシ」になり、それから部屋に入った男達に連れて行かれる。少なくとも、「最悪の事態」は蘭の前では繰り広げられることはなかった。

「………何のために、私に見せたの」

頼が質問を受け付けると言えば…座り込んだまま、憤りを強く感じさせる目で、頼を睨みつけながら問うた。

八百万 頼 >  
信用したらあかんて言うても、納得出来へんかったやろ。

(どこからともなく煙草を取り出し、咥える。
 先端には既に火が付いていた。
 煙を吸って、吐く。)

ほなこっちから質問。
今の見て、美澄ちゃんはどう思った?

(目の前で起きていた光景が、ではなく。
 自分自身についてどう思ったのか、と。)

美澄 蘭 > 「…近づくなって言われれば、我慢くらいしたわよ…迷惑、かけたくなかったんだから。

………煙草、吸える歳だったのね」

立ち上がる準備も兼ねてか、姿勢をやや前傾気味に変えて。
これだけの光景を見せられた後で煙草のことをいちいち指摘するのも馬鹿らしいとは思ったが…「この空気」に呑まれたままでいるのは、もっと嫌だった。

「………悔しかったわ。
見てるだけでも痛いのに…何も、出来なかった」

前傾姿勢を支えて床についた手を、ぐっと握った。

八百万 頼 >  
――。

(難しい顔で頭を搔く。
 我慢、と言う事は、彼女の本音は近付きたいと言うことだろう。
 困ったような、何かを我慢するような、そんな顔。)

や、まだ十九や。
――見とるだけでええやろ。
こんだけのもん見せられて、何も感じひんと動ける言うんはええ事やない。

(煙草をトントンと叩く。
 煙草の灰は、先端から離れる前に消えた。)

美澄 蘭 > 「………?」

難しい顔で頭を掻く仕草は、さっきの冷酷な様子とはまるで違って。
訝るように眉を寄せながら、首を傾げる。

「………「こういう界隈」にいると、やっぱり若いうちに吸うようになるの?
仲間に勧められて、断れなかったりとか………」

本当に「育ちが良い」というのは、こういうことを言うのかもしれない。
「あえて破る」ということが、恐らく「分からない」のだ。素で。
(蘭の場合、煙草の煙が苦手なのも大きいだろうが)

尋ねる表情は、どこか心配そうですらある。先ほどまでの地獄で、目は潤んだままなのに。

「………悲鳴が聞こえるのが、ずっと辛くて………
でも、逃げないって決めたし…それに…
私の「望み」は「知ること」だから。知って、「考える」ことだから」

「弱いままでいるのは、嫌」と言って、頼の方を見上げる。
…これ以上顔を下げていたら溢れそうだ、という感覚があった。

八百万 頼 >  
(どうも彼女といると調子が狂う。
 自分のペースを保てない。
 しかしそんな事は顔には出さず、難しい顔はすぐに引っ込めた。)

そう言うヤツも居るやろ。
舐められへんように吸うヤツも居るし。
ボクはなんとなくや。

(背中を壁に預け、煙を吐き出す。
 換気扇もないし地下なので窓も無いが、せめて彼女とは反対側に煙が行くように。
 しばらくなにか考えるように黙っていたが、やがて口を開く。)

連れて来たんはボクやけど、美澄ちゃんはこう言う事とは無縁の方がええ。
信用したらあかん言うんは、そう言う奴らに引っかからんようにや。
――近付くなとまでは言わん。
好きにしたらええ。

(短くなった煙草を指で弾く。
 やはり、手から離れる直前に消えてしまった。)

美澄 蘭 > 「………そう………」

神妙な顔で頷く。
身近で吸う人間が多いと、「そういうものだ」と思って手が出たりするのだろうか。
頼が、本当に自分の知らない世界を生きてきたのだ…ということが、こういうさりげない部分でこそ、実感出来た。

「………。」

しばし、沈黙が空間を支配して…頼から出てきた言葉は、蘭からすれば予想外のものだった。

「………。」

声を出さずにぽかんと口を開けて、目を何度か、ゆっくりと瞬かせて…

「………?」

やっぱり、きょとんと、大きめに首を傾げた。
何か、頭の中で色々繋がらないらしい。

八百万 頼 >  
――せやから。
今まで通りで良い言う事や。

(こんな光景、こんな姿を見て今まで通りと言うのは難しいかもしれないけれど。
 それでも彼女がこれまで通りの関係を望むのであればそれで良いと。)

敵んわ、美澄ちゃんには。
ボクの負けや。

(がしがしがし、と頭を搔く。
 今まで彼女のように近くまで来た人はいたけれど。
 こうして本性を見せれば、幻滅したり怖がったりして離れていったと言うのに。
 彼女は自覚していないだろうが、充分に強いと思えた。)

美澄 蘭 > 「………え、えええ?」

「今まで通りで良い」「ボクの負け」。出てきた言葉は蘭の予想の外から降ってきた。
目をぱちぱちとさせて………不意に、ぽろっと涙が落ちる。

「…わ、私、八百万さんのやることに口挟んだりばっかりするし、そのくせこんな、情けない顔してばっかりで何も出来なかったし…
本当は、今だって怖くて………」

ぼろぼろと、せきを切ったように涙が溢れ出す。

「…でも、八百万さんはそんな私を馬鹿にもしないし…それに、私の言ってることを否定もしないし…」

「どうしたらいいのか、全然分かんなくて…」と言って、泣きながら手で目をごしごしとやり始めた。

八百万 頼 >  
ああもう、泣かんといて。
ボクが泣かしてるみたいやんか、もう。

(彼女の前にしゃがみ込み、困った顔でハンカチを差し出す。
 みたいではなく殆ど自分が泣かせたようなものだが、そんなツッコミは無しだ。)

美澄ちゃんいつも本気やん。
そんな子のこと、馬鹿にしたり否定したり出来るわけないやろ。

(きっと自分の弱さを分かっているからこその強さなのだろう。
 そんなアンバランスさはやはり年頃の女の子のそれである。)

せやな、怖かったな。
ごめんな、こんなとこ連れてきて。

(自分の負けと認めたからには、その事を謝らねばなるまい。
 ハンカチを受け取ったならよしよしと頭を撫でよう。)

美澄 蘭 > 「………あんまり、違わないと、思う………」

ぐしぐしと泣きながら、ちょっと怒ったような顔もする。
ハンカチは受け取らない。

「………多分、ね?信用しちゃいけないタイプの人は、そういう風に、考えないと思うの………。

…あのね?いつも、私の言うこと、真面目に受け取って、真面目に答えてくれてね…?
だからね…ずっと、嬉しかったの」

頼の言葉に、そんな風に返しながら、まだ自分の手で涙を拭っている。
物事をまっすぐに見る「強さ」をしっかりと備えながら、頭が、心が追いつかない。
そんなアンバランスさを見定めて、支えるような同年代の男子は多くないのだ。

「………別に、良いわ。自分に力がついたと思ったら、一人で来るつもりでいたから。
…最初が、八百万さんと一緒で、良かった」

鼻をすすりながら、何か怖いこと言った。
よしよしと、頭を撫でられるような有様なのに。

八百万 頼 >  
――言わんといて。

(受け取られなかったハンカチは引っ込める。
 バツの悪そうな顔。)

そらそうや、そんなこと言うたら騙されへんもん。
――美澄ちゃんが真面目やからや。
美澄ちゃんが真面目やら、そうやってちゃんと返ってくるんやで。

(中には茶化すものも居るだろう。
 まともに取り合わずはぐらかすヤツだっている。
 だが、そう言う真面目なやつが馬鹿を見るのは好きじゃないから。
 だからきちんと返す。
 それも彼女が真っ直ぐだと感じたからだ。
 自身が与えただけのものではなく、彼女が勝ち取ったものでもあるのだ、と。)

――そら嬉しいけど。
こっち側は美澄ちゃんが思ってる以上に怖いとこや。
力が付いた思た時なんて、いっちゃん危ない。
絶対一人で来たらアカン。

(首を振る。
 落第街は魑魅魍魎やバケモノ共がうろつくところだ。
 危ないところを助けてくれたと思ったらそのまま売られた、なんて話はよく聞くどころじゃない。)

美澄 蘭 > 「………ご、ごめんなさい………」

頼にバツの悪そうな顔をされれば、そんな風に言ってしゅんとする。
泣き方は落ち着きを見せつつあるようだ。

「………そう、なのかしら………」

「よく、分かんない」と言って、唇を軽く尖らせる。
この手の人間は、往々にして自覚がない。

「…そうね…八百万さんにも、防御術式さっくり真似されたみたいだし。
それは、約束するわ。危ないこと自体がしたいわけじゃないし」

首を横に振る仕草を交えながら諭す頼には、真面目な顔で頷きを返した。

八百万 頼 >  
(しゅんとした表情に、へらりと笑ってもう一度撫でる。)

せや。
ボクを負かしたんやで、自信持てばええ。

(連戦連勝、と言う訳ではないが、こと舌戦の類ではほとんど負けた事が無い。
 彼女はその数少ない黒星を自身へ与えた相手なのだ。
 むしろ自信を持つべきだろう。)

ああ、アレは真似とちゃう。
貼っ付けただけや。
でもまあ、似たようなこと出来るヤツもゴロゴロいるやろうし、そもそも役に立たん相手もおるしな。
ウチのボスもその類や。

(ほぼ力が全てのようなこの世界。
 強力な防御術式を二重三重でようやくスタートラインという認識で良いだろう。
 手札があれ一枚では無いかもしれないが、それでもあまりに手札が少ない。)

ま、なんか用事あるんやったらボクに言ってくれれば手伝いぐらいナンボでもするから。
――そろそろ時間も遅なってきたし、帰ろか。

(立ち上がり、手を差し出す。
 結構時間が経っている、もう外は暗くなっている時間だろう。)

美澄 蘭 > 「………勝ち負け、なの?」

きょとんとして、へらりと笑う頼の顔をまじまじと見つめる。
色の違う二つの瞳は、常時の透明感を取り戻していた。

「………貼り付けた、だけ?
…でも…そうね。あれ、魔術とか異能じゃないやつだけだし…」

ぽつりと、そんなことを零す。
種明かしをしたのははなはだ問題だが、「一人では来ない」と約束をしたのだし、気が緩んだのかもしれない。

「………用事っていうか…本当に、「考える」ために「知りたい」だけなのよ。
そのために、わざわざ付き合わせるのも悪いっていうか…」

「でも、落第街についてきて欲しいなんて頼める人もいないか…」なんて、ぽつりと呟いて、ちょっとしょんぼり。

「………そうね…来た時点で夕方だし…もう、どれだけ時間経ったのか分かんない…」

ちょっと困った風に笑って…それから、立つために差し出された頼の手を掴んだ。

八百万 頼 >  
ボクの負けやからな。
勝った美澄ちゃんには今度ご飯でも奢るわ。

(そしてちゃっかりデートの約束まで取り付けようとする。
 目を見る限り立ち直ったようだ。
 とりあえず一安心。)

「保存して読み込む(セーブ&ロード)」――や、「複製して張り付ける(コピー&ペースト)」言うてな。
ボクの力の一つや。
その辺は、また今度話す。

(フェイクの異能ではない、本来の異能の一つの名前を明かす。
 が、ここで詳しいことは話さない。
 この隠れ家は安心だとは思うが、こちら側では口にしたくない。)

欲張りやなぁ。
でもそんなトコも好・き・よ。
気にせんでええ、いくらでも使ってくれてええから。
相談でもなんでもしてくれてええ。

(にっこり笑って彼女の手を引く。
 時間、と言う言葉を聞けば、にっこりと笑う。
 仕掛けた悪戯がうまく言ったような、そんな顔。)

――時間やったら、美澄ちゃん便利なもんもう持っとるよ。

(言って指差すのは先ほど渡した紙袋。)

美澄 蘭 > 「………そ、そういうものなの………!?
一緒に食事は…その、悪い気はしないけど…!」

少し前まで青ざめていたのに、今度は赤くなって。
顔色が忙しいことこの上ない。

「………コンピュータの機能みたいな名前ね…
…ていうか、八百万さんの異能って、もっと色々な力があったの…」

ほー…と、感心したような調子の、ちょっと間の抜けた顔。

「…え、ちょ、ちょっと…からかわないでよ!」

それでも、「好・き・よ」なんて言われれば、いよいよ顔を真っ赤にする。
でも、「相談でも何でも〜」と言われれば、赤い顔のまま俯いた。

「………ありがとう。
私にも…何か、八百万さんにしてあげられること、あればいいんだけど」

そう、少し細い声で返した。
…が、紙袋を指差されれば、きょとんと目を瞬かせて。

「…えーっと、これ………今、開けていいやつなの?」

まだ赤みの残る顔で、尋ねた。

八百万 頼 >  
負けた側が言うてるんやから間違いない。
ほなまたデートやな。

(負けた側がペースを握っている。
 だってころころ顔色と表情を変える彼女が可愛いのだから仕方ない。)

そっから取っとるからな。
基本的には一つやけどな、使い方で色々名前付けとる。

(なぜかって?
 その方がかっこいいからさ。
 真っ赤になった彼女の顔を見て、楽しそうに笑った。)

充分してもらっとるから大丈夫や。
かまへんかまへん。
おっきい方の箱開けてみ。

(箱の中身は懐中時計。
 それもクオーツではなく機械式。
 派手さはなく実直なデザインではあるが、洒落っ気も感じられる一品。
 小さめで女性が使うのにちょうど良い大きさだ。)

美澄 蘭 > 「………え、ええ………」

赤い顔で頷く。本当に頼が負けたのか、流石に疑わしく思う蘭だが、悪い気はしなかった。

「…ふぅん、そうなの…」

異能の汎用性については、自分のそれが極端なためかピンとこないようで。曖昧な返事で頷く他なかった。

「………そ、そうなの………?」

「充分してもらっている」という言葉を不思議に思いながらも…頼の楽しそうな笑顔に、蘭はどこか安堵を覚えていた。
そして、少しだけ顔の火照りを落ち着かせつつ、促されて箱を開けると………

「………これ………」

腕時計ではない。置くようにも出来ていない。たまに歴史がかった小説で出てくる、懐中時計だろうか?
掌はともかく、蘭の指は「少女」というには若干歪な程度には長いので、包むように手に取る。

「………これ、いいの………?三倍返しどころか、十倍返しでもきかなそうに見えるんだけど………

………というか、こういう場所で出して良いものに見えないんだけど…」

時計を持つ手が、ちょっと震えている。
機械式とかは分からないけれど、女子高生相当の人間が持っていい代物にはちょっと見えないし、懐中時計を使おうにも、入れておける懐なんて無いし。

八百万 頼 >  
(彼女が箱を開けて驚いた顔をするのを見て、満足そうな表情。
 正直それを見たいがために選んだと言う部分もある。)

ええんか言うても、もう買ってしもたものやからな。
いらん言うなら仕方ないけど、それ以外の理由で返されても困るから、いらんくないなら受け取って欲しいな。
納得出来んなら、こないだのお詫びも兼ねて言う事で。

(なんとなく、腕時計よりもこちらの方が彼女の雰囲気に合うと思ったから。
 一緒にチェーンも付いているので、鞄の持ち手に付けて鞄に入れておいたり、ベルトに付けてポケットに入れたりも出来るはずだ。)

この辺は治安ようない言うてもまだ歓楽街やしな。
気い付けとれば持ってかれんやろ。
元通りしまっとけばわからんしな。

(何より自分が居るのだ。
 そう簡単に持っていかせる訳がない。)

――ほないこか。

(そう言って扉を開ける。
 男達が居る元ライブハウスを通り、階段を上がる。
 その際手当てを受けている先ほどの男が、彼女にすまねえな、と謝ってきて。
 地上へ戻り、何事もなく歓楽街を抜けた。
 彼女が良いというところまで送り、自身も自宅へ。

 尚、もう一つの包みはチョコレートやクッキーの詰め合わせである。)

ご案内:「歓楽街」から八百万 頼さんが去りました。
美澄 蘭 > 「………こないだのお詫びというよりは………今日のお詫び、くらいで………?」

そっちの方が本人は納得出来るらしいが、頼の心はちょっと痛むかもしれない。

「…そう………でも、念のためしまっておくわ。綺麗にしておきたいし」

そう言って、箱に収め直す。ご丁寧に、破らないように解いた包装まで、出来る範囲で直して。

「………ええ」

そうして、再び頼についていく。
先ほど拷問を受けていた男に謝られれば、びくぅっとした後、「こっちこそ、何も出来なくてごめんなさい…!」とか、あわあわと口走って。
それでも、その建物を無事出て、最寄り駅まで送ってもらうのだろう。

…帰ってから、改めて取り出して悶絶したのは、また別の話。

ご案内:「歓楽街」から美澄 蘭さんが去りました。