2017/06/17 のログ
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」に鈴ヶ森綾さんが現れました。
■鈴ヶ森綾 > 入居者の絶えて久しい廃ビルの内部。
散乱したゴミと埃、光量に乏しいライト、割れたままのガラス程度しかない室内に、一組の男女が存在した。
女は立って、男は横たわった姿。
男の身体には深く刺し貫かれた痕が数カ所あり、既に事切れていた。
その顔には恐怖の表情が張り付いていて、最後に何か悍ましいものを見たことが見て取れた。
「まぁ、いかにも不健康そうでしたし。こんなものでしょうか。」
女は不満げな呟きを漏らし、その手を男の身体の上へとかざす。
そこから黒い塵のようなものが降り注ぎ、蠢きながら遺体を覆っていく。
程なくして、遺体は服も残さず消え去り、黒い塵は女の足元に集って幻のように溶け消えた。
そうして、後には赤黒い血痕と金属のアクセサリー類だけが残される。
■鈴ヶ森綾 > 事の起こりは、よくある話だ。
落第街に迷い込んだと思しき少女を、良からぬ輩が人目のないところへ連れ込み、食いものにしようとした。
しかしそうして連れ込んだものが怪物とは、男は死ぬ直前まで気がつけなかったのだ。
そうして、文字通り男を食い物とした女も早々にその場を後にしようとするのだが…。
「…あら。」
いつから降り出したものか、外は嵐と見紛う程の豪雨。
少し時間をかけて嬲ったのが悪かったのか、とにかく外に出る機会を逸してしまったようだ。
生憎と傘のたぐいは持っていない。濡れて帰る?論外だ。
スカートの端を翻して踵を返すと、ビルの出入り口付近からまた少し奥の部屋へと戻っていく。
■鈴ヶ森綾 > にわか雨、そういえばそんな予報を聞いたような気がする。
暫く、ほんの十分か二十分もすれば雨雲も遠ざかる事だろう。
ヒビの入ったガラスが嵌め込まれた窓に近づいて外の様子を窺ってみる。
外は夜の闇と水煙に烟って、殆ど何も見えはしなかった。時折強い風に煽られてガラスが悲鳴をあげた。
「……あぁ、本当に、煩わしいこと。」
壁際に寄りかかったままそうして時を過ごす。
侵入してくる雨に冷やされた外気は、身体の芯に残る痛みを強く自覚させてなんとも不快な気分を催させ、その事に苛立ちを覚えた。
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」に楊柳一見さんが現れました。
■楊柳一見 > その悪態に同調するようなタイミングで、
「ッッントに……人様に恨みでもあんのかねこのクソ雨」
あんまりな悪態が新しく生えた。
それは、闇む街をあぎとに捉えた入口から、胡乱な足取りの濡れ鼠一匹と共に。
「――んお?」
琥珀色の瞳がきょとんと、窓際に静物画の如く佇む姿を認めてしばたいた。
「あー……先客さん?」
屯してそうな薄暗い連中とは、一線を画す姿に若干キョドりつつ問いを投げてみた。
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」にイチゴウさんが現れました。
■鈴ヶ森綾 > 「あら…?」
叩きつける雨音に混じって聞こえてきた乱暴な悪態に、ついと首を入り口の方へと向けた。
そこに姿を見せたのは、先程の男よりは、幾分…いや、大分か。
そう、食欲を唆られる少女で。
ゆるりとした動作で窓際を離れると、狼狽える彼女の元へと近づいていって。
「こんばんは。随分降られてしまったみたいですね…。こんな物しか無いけど…良ければお使いになって。」
そう言って取り出したのは小さなハンカチ。ずぶ濡れの身体を拭くのには心許ないが、気休め程度にはなるだろうか。
それを相手に差し出して。
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」からイチゴウさんが去りました。
■楊柳一見 > 差し出されたハンカチに、これまたきょとんと瞠目。
遅れて自分の有様を再確認してみる。なるほど、文句なしの降られっぷりだ。
……まあ、眠れぬ夜の慰みに――脳裡にこびり付く残滓の禊も兼ねて――
無謀な夜間飛行かましていれば、状態把握もままならんのは当然か。
「あ、ども……やっ、でも、イイですよ。その、ほら、アタシめちゃくちゃ濡れてるんでっ」
わたわた手ェ振りながら、見れば分かる事をあたふたと返す。
出し抜けの好意というのは、どうにも苦手だ。
況して相手が、掃き溜めに鶴的なたおやかさを帯びた人ともなれば尚更に。
■鈴ヶ森綾 > 「構いませんよ、持ち歩いているのは、こういう時のためでもありますから。」
慌てた様子の相手に柔らかく微笑みを向ける。
そうしてさらに半歩、身体を寄せて。
「遠慮なさらないで。」
一度は断られたハンカチを、半ば強引にその手に握らせようとする。今はまだ、それだけ。
しかし手と手が触れあえば、そこから僅かばかり、味見をするように精気を頂戴しよう。
ほんの僅かの触れ合いでは身体への影響はまず出ないが、超常の事象に敏感なものであれば
触れ合う手に、例えるならドライアイスにすれすれまで手を近づけるような寒々しさを感じるだろうか。
■楊柳一見 > するりと更に身を寄せる相手。
「えぇ…遠慮って言うか何て言うかアタシがこういう距離感に不慣れって言うか――いやいやいや」
そうじゃねえだろうよアタシ、と喝入れの意味も込めてぶんぶかかぶりを振る。
雨滴がなんぼか散るだろうが、そこは御寛恕願いたいところ。
「――ッ」
ハンカチを、似合わぬ強引さで握らされる刹那。
手と手が触れ合う文字通り、弾指の合間に感じた冷気。
それは平生の者の温度ではない。そも、その異常さは温度の高低の枠に嵌るものでもない。
息を呑むや身を翻し、その転回に任せて手を振り解きつつ、雨降る外界に一時離脱する。
「……まあ、何だ。反応がド失礼だったのは詫びとくとして」
本土ならばいざ知らず。
ここは化生さえも認められる半化外の地。
無用の闘争はとかく目に付き易い。そいつは――まあ結構困るのだ。
「アンタ、人間とは別のスジ?」
胡乱げな半眼が、今はさしたる圧も見せずに問い掛ける。
■鈴ヶ森綾 > 相手を見誤ったのは、どうやら先程の男だけではなかったようだ。
思いがけぬ鋭い反応手は振りほどかれ、渡そうとしたハンカチは床に落ちた。
内心で「まぁ」等と呟きを漏らし、叩きつける雨風の中に飛び出した相手を見やる。
さてどうしたものか。
このまま逃げられるのは面白くないが、さりとて追いかけて行くのも…。
ひとまずは――
「ええ。そうですけど…ひょっとして、気づかない内に何か不快な思いをさせてしまいましたか?」
とぼけていよう。のんびりとした調子は崩さず、
落ちたハンカチを拾い上げ、呑気にそこについた埃などをはたき落として。
しかしそうして話をしながらも、足元から、少しずつ黒い塵のようなものが床に広がっていく。
身体を離れた黒い塵、自分の分身たる蜘蛛たちは闇に紛れ、相手の死角になる入り口の影に潜んで。
■楊柳一見 > 仇のように降り付ける雨風をものともせず、鷹揚に佇んだまま。
「いやぁ、本土で色々あってね。身に着いたクセってのがつい。こっちこそ気に障ったらすまんね」
依頼と言う形でとは言え、妖物の類とは徒党を組んで殺したり殺されたりした間柄。
それも一年二年の話ではない。
もっとも熟練の達者ならば、彼女と相対した時点でその異質を察したろうが――全く、未熟者はツライ。
「こちとら妖し憎しの鉄火稼業でもなし。少しばかり雨宿りが出来りゃそれでいいよ。つまるとこ――」
言いつつ靴先を、ビル内へ一歩踏み込ませる。
視線は果たして相手の足下から這い淀んだ黒を認めたか否か。
どちらともつかぬ気色で、女は虚ろに笑ってみせ、
「アンタが大人しく世間話にでも興じるだけなら――“始末しないでおいたげる”」
その口端に、相手を試すような挑発的な物言いを載せて放った。
■鈴ヶ森綾 > 「あぁ…。」
攻撃的な言動、それを聞いて悲しみに耽るように表情を崩す女。
漏らした呟きも悲嘆の色が濃い。
つまるところ、なんの事はない。
目の前の相手は、自分が今この島にいる原因の同類ではないか。
ならば、最初からそう扱えば良かった。そういう、後悔の呟き。
相手が再びビルの中に踏み込んだ一歩、そこは既に、蜘蛛達のテリトリーだ。
踏み出した足は床に張り巡らせた糸によって貼り付いてしまうだろう。
糸の強度は本体である自身のものとは比べるべくもないが、粘度は十分。人間の行動を一時妨げるのに不足はない。
足元だけなら靴を脱げば容易に抜け出す事もできようが、足が動かぬことに気づくのが遅れたり、動揺を見せれば、その足首、胴体、腕や首にまで次々と絡んでくる糸を避けきる事は叶わないだろう。
ましてや、同時に本体の背から生えた巨大な脚が、その身体を横殴りにして壁に叩きつけようとするのを、止める手立てがあるだろうか。
■楊柳一見 > 「何を残念がってんだか知らんけど――」
もう半歩進めようとした足が――厳密には靴が粘質の何かに戒められる感覚。
「ッとお――!」
空いた片足が空を掻く。文字通りの足掻き、でしかないそれが雨散らす風圧を喚び、
「絡新婦の類かな。玄関マット換えた方がいいんでなあい?」
イラつく軽口と共に、張り付いた靴だけ残して脱した身は、風の圧すまま弾丸の勢いで迫る。
その勢いを乗せて振りかぶる、風孕む腕を薙ぎ付けようとした瞬間。
横合いから襲い掛かる蜘蛛の大肢に、寸前で気付き守勢に回した。
衝撃こそ幾らか減らせたものの、その重圧はこちらの吶喊をも減殺してしまっていた。
「ぐあっ…!」
たまらず吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる体。
痛みを堪えつつ、床にずり落ちるよりも早く壁を手で突っ張る。
その動きで新たな風圧を生み出し、捻りを利かせて壁から疾り出る。
狙うは相手の後方。それは背に控えるだろう肢の射程だ。もっとも。
「ッらああああぁぁッ!!」
一個の小竜巻と化したそれを。
床闇に潜む眷族とその糸罠を、微塵に切り刻まん程のそれを、如何にして止めるかが課題となるが。
■鈴ヶ森綾 > 「それは勿論、悠長に味見などせず、ひとおもいにと…。」
そう言ってちろりと舌を覗かせ、唇を小さく舐めあげる動作。
「ああ、でもそうね。貴方に直接の恨みはないのですけど…少し、甚振って差し上げたい気もしますね。」
先程、それで帰りどきを逃したのをもう忘れたかのような発言。とは言え、生きのいい獲物を前にすればこうなるのは抗いがたい性というものだろう。
「あら怖い…。」
脚先に確かな感触を感じたが、簡単には戦闘意欲を失っていない相手に目を細め、言葉とは裏腹にむしろ楽しげに呟いて。
その体から生み出されるのは、なかなかんどうして、大した風圧だ。この威力の前では分け身には荷が重い。
そう判じて自身の元へと戻るように蜘蛛達に命じる。
その号令と同時に張り巡らせた糸も散り散りになって霧散し、もはやものの役には立たぬだろう。
雄叫びを上げて突進をしかける相手、その竜巻を思わせる威容にたじろぐ素振りも見せず脚先を向ける。
そこに加えて、背を突き破ってさらに二本、合計三本の脚。
その身体の中でも特に強固な爪の先を束ねて、相手に差し向ける。
一本があるいは弾かれたとして、二本、三本ともなればどうであろうか。防ぎ切ることが叶わなければ、その肩口に防ぎきれなかっただけの風穴が穿たれる事だろう。
■楊柳一見 > 「……ホンッッット、アンタら蟲妖連中って趣味最悪よねえ!!」
味見だの甚振るだのと、涼の増しそうな言葉に悪態吐き返す竜巻。
その風捲く勢いが、差し向けられる肢を撥ねつける。
――しかしこれは所詮、人工の風力だ。
魔術の妙手が繰るような超常の風ではない。
阻みに遭えばそれだけ衰える。
二撃目の時点で、それは突き込む軌道を辛うじて逸らしたのみ。続く三撃目に、
「――い、ぎっ…!?」
過たず右の肩口を撃ち貫かれた。
風は主の動きを制され威勢を失い、その主はと言えば宙に吊り上げられ標本になる寸前の小虫と言った有様。
「こ、の……変態ムシ野郎ぉッ!」
自由なもう一方の手は、千切れそうな肩に刺さる肢を支えたまま。
両足がブランコめいた弧を描いて振り抜かれる。
その動線はカマイタチとなって、絡新婦へと向かう。
もっとも、力のろくに入らぬ体勢で放たれたそれは、それこそ小娘が振るう薄刃包丁程度の効果しかなかろうが。
■鈴ヶ森綾 > 「ご存知?蜘蛛って、巣にかかった獲物がもがくのを見るのが、何よりの楽しみなの。」
突き出した三本目の脚がその身体を貫く。肉を裂く感触は言葉では表し難い喜悦を与え、
その愉悦に表情を蕩けさせる。
ふわりと、女の長い髪が風になびいた。相手の突撃で得られた成果はといえば、それに加えて二本の脚が少々痺れたという程度。
人間態の手の先、そこから伸びた黒光りする禍々しい爪が相手の最後の一撃を切り裂いた。
その一撃の行方を見届けた直後、相手の身体をビルの床へと叩きつけて固い床へと縫いとめる。
弾かれた残り二本の脚も、すぐに自らの役目を思い出したかのようにそれぞれが群れ寄ってくる。
一本が反対の腕を、もう一本が動くことを禁ずると言外に主張するように喉元へと突きつけられる。
「安心なさい、動脈は外れているみたいよ。多分死にはしないでしょう。最も…」
床の上の少女を見下ろしながら、口元に薄っすらと笑みを浮かべる。
直後、肩に刺さった脚先の爪がぐりっと傷口を抉り、赤い飛沫と悲鳴を上げさせようとした。
「無事である事は、保証できないですけれど。」
酷薄にそう告げて、興奮した様子のまま横たわる相手に身体を重ねる。
互いの肌をすり合わせ、傷ついた箇所を舌で舐り、血の味を確かめ、さらにその先…。
空が白み始める頃まで、その狂宴は続くことだろう。
■楊柳一見 > 悪足掻きに対する答えは、床への磔刑だった。
「ぁ、はあっ…!」
慢心。過信。増長。倨傲。
その全てが重苦に成り代わって己を叩きのめす。
漏れるのはもはや、苦悶の喘ぎと――
「い、やだ……ゃ、やあぁあぁぁああんッ……!!」
あられもない悲鳴――あるいは嬌声だけ。
血と涙と――言うも憚れる蜜とで噎せ返る地獄絵図。
それもやがて、夜の底へと沈んで行く。
少女の意識と共に――。
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」から楊柳一見さんが去りました。
ご案内:「落第街路地裏の廃ビル」から鈴ヶ森綾さんが去りました。