2017/10/16 のログ
裏々築々 > 「ああ、後半は忘れてくれても構わないよ。
 会長とだけ覚えておけばいい。」

今は関係ない話だ。

「怯えてるのか?いや、目は死んでないな。
 …やっぱりいいなお前は。」

…影の奥で表情が動く。
どのような表情を浮かべているのか。

「関係ない?そんな事はないぞ。
 私にとってこの落第街で暮らす者は皆、家族のようなものだ。
 さっき、君がさっき殺した男とも10年来の付き合いでね。私はとても悲しんでいる。」

明らかに嘘だ。一切、心が動いていない。

「何で家族が死んだかぐらいは聞かせてくれてもいいだろう?」

陽太 > 「.........ほんと、なんなん、だ...?
わけ、わかんないん...だよ...!!」

全く目の前の男の事が解せない。
ただでさえ異能による苦痛で、未熟に過ぎる思考が鈍っているというのに。

何故か会長と名乗り、
こうして睨みつけている自分を気に入ったという。
真っ黒な顔の中身は、いったいどんな表情をしているのか。

苛立ち、声を荒らげ...。
.....そして彼が発したとある言葉に、ぴたりとからだを停止させる。

“家族”。

「っっっっ.......____っ!!!」

嘘だと分かっている。
だが、それでも。

今の陽太に、その言葉はいけなかった。
...まして、死んだ、などと。
自分が殺した、などと。

衝動のまま、陽太は感情を爆発させる。
先程まで一切言うことを聞かなかった黒い闇が、
陽太に従うかのように一斉に男に襲いかかる。

憎しみに煮えたぎった闇色の目だけは、
ただただ彼を睨みつけていた。

裏々築々 > 「…どうした、そんなに怖い顔して…ゾクゾクするだろう。」

家族。 どうやらそれに反応したらしい。
あんな攻撃的な異能を持って孤児。
何となく想像はつく。捨てられたか…或いは。

「私にその怒りをぶつけてどうなる?
 一時的にでもスッキリするか?いいや、しないだろうな。」

闇が迫る。襲い掛かる闇が男の周りで急激に膨張する。
それが男を持ち上げて上に上に運んでいく。
男を運ぶそれは陽太が出したものではない見た目は似ているがその性質は全く違う。

「お前が本当に殺したいのは誰だ?
 お前がこのスラムで暮らす原因となったのは誰だ?
 お前は誰に対して怒っている?」

黒い柱の上に立ち見下しながら話をする。
しかし、非常にゆっくりではあるがこの柱も闇の中に飲み込まれてしまっている。

陽太 > 男の声は無視する。
否、聞こえないかのように
ただただ、誰かへの怨念を彼へぶつける。
怨念だけではない。自分が憎むその力も。

「........っ、」

自分が操るものとは違う、
しかし見た目はよく似た闇。
それが出現したことにより、陽太は少し我を取り戻す。
息を整えながら、警戒するように闇の蠢きを止める。
憎悪に満ちた目はそのままに、陽太はか細いがしっかりとした声で。

「おれが、本当にころしたいやつ?
おれがここにすむようになったきっかけ?
...おれが一番だれにおこっているのか?」

正直に答えよう。
異能?確かに嫌いだ。憎い。
でも一番はそれじゃない。
自分を__した大人たち?確かに嫌いだ。憎い。
でもそもそもの元凶じゃない。

陽太はあどけなく、明るい、
完全に壊れてしまった笑顔で答えた。

「.....おれだよ」

闇が、ぶわりと広がる。
それは壁を伝い、男を呑み込もうとして...。

しかし、するすると何故かすぐにほどけるように
地面へと戻っていくだろう。

裏々築々 > 少年の闇の性質はきっと飲み込むものだ。
どんなものも同じように飲み込んで離さない。

だが、男の扱う闇はそれとは違う。
何を内包しているのか分からない不明瞭な暗闇。
破壊力だけで言うならば分が悪い。

「…なら何故、君は生きている?殺したいんだろう?
 死にたいなら好きに死ねばいい。
 君が死んだところで誰も悲しまない。」

その答えを予想していたように言葉を続ける。
地面に降り立つと同時に立っていた黒い柱は霧のように消えて。

「生きる目標があるようにも見えない。生きる楽しみがあるようにも見えない。
…何故死なない?少し高いビルから飛び降りればすぐだろう。」

陽太 > 自分が憎いのは事実。
なぜなら、彼女を殺してしまったのは自分だ。
到底許せる筈も無い。

だが。

「.....だって、しんだら楽になるだろ...?」

暴走していた異能を制御できたものの、
その疲労は明白で。
肩で息をしながらも、息を荒らげながらも
陽太は何とかして言葉を紡ぐ。

「らくになったらだめなんだ。
ゆるされたらだめなんだ」

本当の望みは、自分の死だ。
だけどそれは、陽太にとって許され難い行為だ。
彼女は望んでもいないのに死を迎えた。
それを押し付けたのは自分。
そんな自分が楽になるために、彼女の全てを奪った死を望む?

「だめだ、そんなの、絶対」

睨みつける。
闇を収めても、尚。

裏々築々 > 「死んだら楽になる?」

その答えを聞けばその影の中に手を入れて顔を押さえる。

「許されたくない、楽になりたくない?」

その言葉に肩を震わせて…何かを堪えるように。
そして、堪えていたものがあふれ出す。

「アッハハハハハハハハ!そうか!だから死にたくないのか!
 良いじゃないか、お前のような阿呆は大好きだ!」
 
何がツボに入ったのか思いっ切り笑い飛ばして…

「なら、生きるがいい!生きて苦しみ続けるがいい!
 その、想いさえ忘れなければお前にとってこの世は地獄となるだろう!
 殺したい相手が一番近くにいるのに自分の意思で殺せるのに殺せないんだからなあ!」

心底愉快そうにいう。

陽太 > 「.....なんだよ。そんなにわらわなくてもいいじゃんか」

狂ったように笑い出した男に、驚きながらもむすっとした表情で。
自分が馬鹿だということは百も承知だが...。
未だ睨みつけてはいるものの、先程殺した男達や、
この男自体への怒りはすっかり鳴りを潜めてしまった。

自分への怒り。
ずっと、それだけ治まらない。

「.....うるさい...わかってる」

でもさすがにイライラしてきたので、
更に男を睨みつける。

自然に男を脅すように、足元の影がゆらりと揺れた。

裏々築々 > 「いや、久しぶりに笑わせて貰ったよ。ありがとう。」

口を恐らく手の甲で抑えて未だに笑いを堪えている様子。
影の中にあるので見えないが。

「おっと、言い過ぎた。」

男の足元を見ればその影は影絵のように次々移り変わっている、
まるで遊んでいるかのように。

「それじゃあな、少年。精々長く生きろよ。
 …もし、どうしようもなく食うに困ったら私の所を尋ねるといい。
 糞みたいな仕事をまわしてやろう。」

そんな言葉を言い残すと男は自らの陰に沈んで消えた。
その後には、影も形も残らない。

ご案内:「路地裏」から裏々築々さんが去りました。
陽太 > 「.......あっそ...」

全然嬉しくない礼だ。
むっとした表情のまま、陽太はようやく男から視線を逸らした。
どうにも好きになれない、と考えて。

「ぜったい、おまえなんかの世話になるか!」

ぎっと男を睨み、べーっと舌を出す。
自らの影に沈む男を最後まで睨んでいたが。

やがて男がいなくなれば、
陽太は小さなからだを引き摺りながら
ゆっくりと路地裏を後にするだろう。

あどけない顔立ちを、憎悪と怒りに彩り。
その対象は、紛れもない自分だというのに。

ご案内:「路地裏」から陽太さんが去りました。