2015/07/23 のログ
ご案内:「保健室のついたてのむこう」に蓋盛 椎月さんが現れました。
蓋盛 椎月 > 昼と夜のあわい。
薄暗い保健室の、衝立で仕切られた向こう側、並ぶベッドの一つ。

その上で、蠢く人の影が二つ。
ひとつは肩までの亜麻色の髪を持つ女性。

もうひとつは、それよりも少し小さい、
黒い髪を腰まで伸ばした少女。
けして整えられてはおらず、手入れのされないままの長髪。
痩せた身体にまとわりつくそれは、打ち捨てられた廃墟に
絡みつく黒い蔦のようにも見える。

前者は蓋盛椎月という養護教諭、後者は星衛智鏡(ほしえ ちか)という
女子生徒である。

この、色の異なる煙が混ざりあうような交接は、
けしてはじめてのことではない。

蓋盛 椎月 > 智鏡は蓋盛が面倒を見ている生徒のひとりである。
『たちばな学級』という、他の生徒とともに授業を受けられない
生徒のために設けられた学級がある。
彼女はそこに通う生徒の一人であった。

彼女の、制御できない異能は、たとえば目を合わせた相手を即座に石に変えてしまうとか、
触れた相手を五千百度の炎で包んでしまうとか、
そう言った物理的脅威はない。
しかし、ある意味ではそれよりも恐ろしい。

この交わりを最初に求めたのは、どちらであったか。
蓋盛が冗談混じりに提案したのか、
智鏡が養護教諭の悪い噂を聞いたのか――
それはあまり重要な事柄ではない。

二人の作る影絵の動きは、徐々にゆるやかになっていく。
水面に立つ波が徐々に静かになっていくように、
煙がやがて薄れ、空気へ溶けこんでいくように。

蓋盛 椎月 > 星衛智鏡の異能――《鏡の悪魔》と名付けられたそれは
周囲に誰かがいれば、否応なく発動してしまう。
その誰かが警戒の必要のない、慣れた人物であれば、
暴発を、精神力で抑えることは可能――らしい。
しかし、それも完全とは言えず、ただ他愛もない会話をしているだけで、
いつでも発動してしまう可能性があった。

故に、彼女はコミュニケーションを放棄した。
いつ濡れて破けてバラバラになるかわからない紙に、
絵を描き下ろす気が起きないのと同じことで。

しかし、何事にも例外はある。

《鏡の悪魔》は、『きもちいいこと』の最中には決して発動しない。

蓋盛との交わり。
それは、智鏡が十全に行うことができる、数少ないコミュニケーションであった。

蓋盛 椎月 > いつものように、この情事は静かに、静かに終わる。
互いの微かな喘ぎ声が子守唄の役目を果たしたかのように、
智鏡は静かにまぶたを下ろした。
智鏡の指が、蓋盛の腕の上をなぞる。
発声によるコミュニケーションを忌避する彼女は、
こういったメッセージの伝え方を好む。
くすり、と蓋盛は困ったように微笑んだ。

智鏡が眠りへと落ちたことを確認して、
蓋盛はベッドから抜け出し、腰掛ける。

ご案内:「保健室のついたてのむこう」に嶋野陽子さんが現れました。
蓋盛 椎月 > 異能の発現と、魔術の発展。
この二つは、人類を新たなステージへと押し上げたと言えるかもしれない。
そう熱く論じる学者も多い。
しかし、超常の力が人にもたらすのは良いことばかりではない。
力に善悪はないのだから。
いま静かに寝息を立てている少女は、年頃の少女であれば
当然のように享受できたはずの幸せを、すべて失ってしまった。

超常の力は、人を人を超えた存在にもする。
しかし、人未満にさえする。

煙草を一本取り出し、咥える。火はつけない。

嶋野陽子 > いつものように静かに保健室に入る陽子。
しかし、今日の陽子は、いつもとは様子が少し違う。
いつもなら多少身を屈めていても、表情は泰然として
いるのに、今日はまるで隠し事でもあるかのように、
視線が左右にさ迷っている。
(蓋盛先生に相談して、果たして良い内容なのだろ
うか?)未だにまよっている陽子。
衝立の向こうに、先日の生徒と二人でいる蓋盛先生
を発見する。生徒は寝ているようだ。
「蓋盛先生、よろしいですか?」と小声で話しかける
陽子。

蓋盛 椎月 > 「…………」
ベッドから立ち上がる。
蓋盛は、全裸に、白衣を羽織っていた。それに羞恥する様子はない。

「何だね。いま一仕事終えたところさ。
 ……込み入った話題かね?」
小声。煙草を指に挟んで、応対する表情には、少し陰が差している。

嶋野陽子 > 少し不機嫌そうな蓋盛先生の
表情を見て、やはりやめた方が良いかと一瞬躊躇する
陽子だが、事態が切羽詰まってからでは遅すぎるので、
やはり相談するなら今だと思い直す。
蓋盛先生の前の床に正座すると、
「実は、蓋盛先生に相談したい悩みがありまして・・」
と、自分の性の悩みを相談する。具体的には、恋人が
国外留学してから、下半身がご無沙汰なので、上手い
発散方法は無いかという相談だ。
話している側から全身がピンク色に染まっており、
自分でも相当恥ずかしい相談をしている自覚はあるら
しい。

蓋盛 椎月 > 「……別に正座なんてしなくてもいいよ。
 そのへんの椅子にでも……ああ、椅子のほうが壊れるのか?」

苦笑して。ベッドに腰掛けて顎を擦る。
バカにする様子もなく、あくまで真面目な様子で考えた。

「……ふむ。難しい相談だな。
 あたしとしては、セックスフレンドを見つけなさい、とか
 風俗に行け、みたいな身も蓋もないアドバイスしかできないけど……
 その体格じゃ、相手できるのも限られるね。
 下手すりゃ、ベッドごと潰されちまう」

そうなると、出せる答えとしては『自慰でも追求しなさい』という感じになるが、
それもあまりに無体に思えたのでさすがにためらう。
どうしたものか、と首をひねった。

嶋野陽子 > セックスフレンドと言われても、
熊と素手で格闘して勝てそうな女を相手にその気にな
る相手を見つけるのが難関で、見付けたとしても相手
の体力が持つかがさらなるチャレンジだ。
風俗にしても、下手すれば向こうから断られかねない。

「今の恋人とは、3年近く続いていて、1度も怪我をさ
せた事はありません。疲れて失神ならば沢山あります
が」と、一応ある程度のコントロールは出来ている事を
伝える陽子。
「彼の体格は185cm.105kg なので、あり得ない体形で
はありません」と補足する。

蓋盛 椎月 > 「なるほど、彼氏さんはなかなかしっかりした体型だな」

がりがりと頭を掻く。
もうしばらくの沈黙のあと、陽子の巨体を上から下まで眺めて。

「ようし、あたしが一肌脱いでやるか――
 って、できりゃいいんだけどさ。
 きみはあたしの好みの正反対を向いているんだよなあ。
 その立派な身体を満足させてやれるほど体力に自信もないし」

率直に告げる。
蓋盛はわりと誰とでも寝る女である。
自分より一回り背丈のある男性を相手にしたことだってある。
しかし二メートル越えの筋骨隆々とした女性は、さすがに性愛の対象として
とらえるのが難しかったらしい。
保健室のベッドも、200Kg越えの人体の動きに耐えられるかどうか怪しい。

「スポーツか何かで昇華するのはどうかな」

代わりに無難なアイデアを提示する。

嶋野陽子 > スポーツで発散。それはある意味
すでに実行中である。毎週2~3回、訓練施設の高
負荷トレーニング室で筋トレに勤しんでいるが、や
り過ぎるとますます筋肉が付いてしまう難点がある。

以上の現状を蓋盛先生に説明した後で、
「今ならば、どんなに小柄な相手でも、私が最後まで
コントロールして、相手に怪我をさせずに済む自信が
あるのですが、あと一月もすると、そこまでのコント
ロールが利かなくなりそうなので、何か解決策を相談
できないかな?と思ってこちらに来ました」
自力で考え付く事は、試しているのだ。流石に自慰は
寮の家具や床を壊す可能性があって、まだ試していな
いが。
蓋盛先生には、自慰を見合わせている理由まで説明
する。

蓋盛 椎月 > 「……いや、悪いな。
 あたしもそれ以上は思いつかない」

済まなさそうに首を振って、しかしハッキリと告げる。
さまざまな人種がいる異邦人街にはあるいは彼女の巨体を受け入れられる娼館もあるかもしれないが、
ハッキリしない希望を示しても、裏切られた時彼女には酷であろう、と思って口をつぐんだ。

嶋野陽子 > 「なるほど、手詰まりですか・・・」
陽子の声には落胆の色が隠せない。先生なら何か自分
が知らない場所や方法を知っているかと期待していた
が、この件については陽子の問題が規格外過ぎたよう
だ。
気を取り直した陽子は、蓋盛先生に一礼すると、
「相談に乗って頂き、ありがとうございました」
と一礼すると、来たときと同じく音を立てずに
保健室の扉から出ていく。

ご案内:「保健室のついたてのむこう」から嶋野陽子さんが去りました。
蓋盛 椎月 > 「お達者で」
一般的な生徒の性の悩みならある程度は解決に自信があった。
しかし彼女に関しては普段示せる手段がことごとく使えない。
話していれば気が紛れて勝手に解決してしまうタイプの悩みでもなかった。
手に余る問題とはいえ、追い払う形になってしまったのは、若干不甲斐ない。

陽子が去ってしばらくした後、ひとりごちる。

「あたしがプロの娼婦だったらね……」

蓋盛 椎月 > 『そうだよ蓋盛椎月、お前はどこまでも自分のためだけにしか寝ない』
蓋盛 椎月 > 「…………」
ゆっくりと、声に振り向く。
すっかり寝入ったはずだった、少女の方向。
背を向けていた、ベッドの上。
起き上がった、星衛智鏡が、顔を歪め、凶相を向けている。

「――なんだ、起きたのか、《悪魔》ちゃん」

諦めたような笑みを浮かべ、静かに“それ”に向き合う。

蓋盛 椎月 > 《鏡の悪魔》。
周囲に立ち入った人間の思考や記憶を読み取り、
本人の意思を無視し、最適な精神攻撃を、言葉によって行う、異能。
それが、発動した。

ここしばらく、蓋盛とふたりきりでいた時、《悪魔》が顔を見せることはなかった。
おとなしくなったわけではなかった。
ただ暗がりに刃を研ぎ、スキを見せる瞬間を、待ち受けていた、というのか。

『お前は弱者と抱き合うのを好む。
 神宮司ちはや。鈴成静佳。この二人など、特にそれが顕著だ』
《悪魔》の口の端から漏れる悪意に満ちた言葉。
その声は、少女のものとは思えない、醜くしわがれた老人のそれ。

蓋盛 椎月 > 『――そして、星衛智鏡。このわたしもそれに含まれる』

《悪魔》は、飽くまでも、自身を星衛智鏡と名乗る。
《悪魔》の正体はつかめない。
悪意が取り憑いて、智鏡の口を借りてしゃべっているだけなのか。
智鏡の悪意が、異能という形で発露したものなのか。

『どうしてかって?
 弱者と寝れば、それは“施し”の形になるからだ。
 笑い話だよねェ。本当は抱いて欲しがっているのは自分のくせにさァ』

「…………そうかもね」

短く答える。それ以上言葉を費やすことはない、と考えたからか。
それ以上、言葉を紡ぐ余裕がないだけなのか。

蓋盛 椎月 > 取り合ってはいけない。
《鏡の悪魔》に付き合っても、向こうを喜ばせるだけだ。
《悪魔》は、記憶を読み、真実を使い、言葉で追い詰める。
動じていないわけではない。だが動じるわけにはいかない。

『――くっく、蓋盛椎月!
 次にお前が、もっとも寝たいと思っている相手、当ててやろう』
《悪魔》は、高笑いとともに宣言する。

蓋盛 椎月 > 『――朽木次善だ』
蓋盛 椎月 > 『怖いんだろ?』
『お前が十年以上もの間積み上げ、阿ってきたものを壊そうという、夢が』

『だけど殺すわけにもいかない』
『おまえは教師、あいつは生徒だ』
『だから掌握したい』
『免疫として、更生させてやりたい――』
『そうだろ?』

『怖がる理由は、それだけじゃない』
『あいつの見た夢は』
『かつてお前が愚かにも抱いた夢そのものであるから』

ご案内:「保健室のついたてのむこう」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (頭痛がした。
 『たちばな学級』の生徒に、絵を描かせたあとだった。
 その時間、運の良いことに目に見える形では彼らの異能は鳴りを潜めていたというのに、息つくごとに脳裏が重くなった。

 かの『たちばな学級』へ足を踏み入れたとき、大なり小なりの障りは免れられなかった。
 それでも、彼らが予め『そうである』と覚悟はしていたから、講師の任を離れるつもりはなかった。

 ――勝手知ったる様子で、保健室の扉を開ける。

 伏せた目に、保険医の姿はまだ映らない)

「蓋盛……邪魔するぞ。頭痛薬をもらう。……」

(小さく鼻を鳴らす。
 残り香。人肌の、女の匂い。
 いつものことだ、とばかりに、半ば無遠慮に薬棚へ足を向ける)

蓋盛 椎月 > どた、ばた、と。
衝立の向こう、踊る二つの影絵が見える。
取っ組み合いを演じている――ようにも見える。

『――――!』

年老いた老人を思わせる、がさついた耳障りな叫び声。
物音に遮られ、くぐもって、内容までは細かく聴こえない。

ヨキ > (衝立が閉じられているとき、普段ならば用を済ませ、それきり出て行くのみだった。
 しかし、ばた、と布団の煽られるような音が耳に入った瞬間、顔を素早く奥へ向ける。

 その二つの影が何者であるかは判然としない。
 けれど、布を隔てて漏れ聞こえた――ノイズのような声、あるいは音。

 聞き覚えがあった)

「(……まさか、)」

(早足。手を伸ばす。
 いつもならば触れようともしない衝立を、開ける)

「――星衛君、か?」

蓋盛 椎月 > 衝立が開かれた時、全裸の蓋盛は同じく全裸の智鏡を両腕で押さえつけ、
その顔を自身の乳房で塞いでいた。
抱擁、などという生易しいものではない。彼女の口を強引に塞ごうとしているのだ。
しかしなおも拘束を解こうと、智鏡は暴れ続ける。
《鏡の悪魔》は精神系異能に分類されるが、『口を塞ぐ』という行為に対しては
16歳の少女離れした膂力でそれに抵抗する。
――罵倒や中傷を止めるには、意識を奪うしか手立てはないのだ。

「……ッ」
蓋盛の表情が苦悶に歪む。乳房に歯を立てられたらしい。
ヨキの方を向こうともしない。余裕はまったくなかった。

ヨキ > (足を踏み入れた衝立の奥。裸の女が二人。蓋盛と――星衛智鏡)

「蓋盛!」

(呼びつけた彼女が自分に返事を返せるような状況でないことは、すぐに分かった。

 『星衛智鏡』という生徒に関わるとき、そうした荒事は常に付き纏う。
 その異能によって心を侵された者、あるいは、異能を封じようとする者たちによって。

 鬼のように歪む智鏡の口が、蓋盛の白い肉に歯を突き立てたのを見た。

 次の瞬間、迷うことなく足を踏み出す)

「――……!」

(フレームが鳴くのも構わず、ベッドに片足を乗り上げる。
 二人の女の身体のあいだに素早く手を差し入れ、獣人の膂力が智鏡の首元を掴みに掛かる。
 蓋盛からその口を、身体を、暴れる手を引き剥がさんと)