2016/07/07 のログ
ご案内:「東雲異能研究所 所長室」に東方 仙子さんが現れました。
■東方 仙子 > 研究区の片隅、他の研究所に比べひっそりと佇む研究所の一室に、その女は居た。
───東方 仙子。
大変容以前から異能の力を持つ人間にして、此処、東雲異能研究所の所長代理である。
肘掛椅子に座り、湯気の立つコーヒーカップを手にしたまま、無感動な瞳はパソコンのモニターを注視していた。
「ふむ。 これは愈々以てどうにか彼を呼び戻さないとならない な。」
抑揚のない声が、機材の冷却ファンの音だけが支配していた室内に響く。
モニターに映し出されたのは、とある少年の過去数か月間の行動記録。
学校の出席状況やその他島内の施設の利用状況が無機質な文字の羅列としてモニターに並んでいた。
「急く理由は無いが、これも彼のためだ。」
熱いコーヒーを一口啜り、女はモニターから目を逸らして独り呟く。
■東方 仙子 > その少年は、女にとって大切な研究材料であった。
遥か昔、自分のみに突如発現した能力。その力の全容を知る為になくてはならない存在。
去年の夏の終わりから連絡が付き辛くなったが、こうして行動記録は常に閲覧可能である事から気にはしていなかったのだが。
「……やはり生徒として学園に贈ったのは間違いだったろうか」
“彼”については何もかも知っている。
出生から現在に至るまでの記録も、全て保管してある。
何しろ貴重な、本当に貴重な検体だ。
「失えば、また一からやり直しだものな。」
実に20年以上の歳月をかけた研究の一つの形が彼であった。
しかし、彼本人にはその事を秘匿してある。せざるを得なかった。
■東方 仙子 > 事の始まりは、些細な好奇心からだった。
《複製と転生》──あらゆる物事をコピーし、別の何かに上書きする能力。
彼女が有するその能力は彼女自身の興味を失わせること無く、未知の可能性を常に提示し続けた。
ある物質の性質を異なる物質が獲得すること
ある生物の習性を異なる生物が獲得すること
ある人間の記憶を異なる人間が獲得すること
それらを彼女は、自身の異能を用いる事で成功させていた。
そんな中、大変容が起き自信と同じ様に特殊な能力に目覚める人間が大量に発生する。
彼女がその能力に対しても自身の能力が通用するのか興味を持ったのは当然の帰結と言えた。
早速、女は異能を発現した人間二人を用意し、自らの能力で一方の能力をもう一方へと移し替える実験を行った。
■東方 仙子 > 結論を言えば、実験は失敗に終わった。
能力を“上書き”された側の人間はただちに能力の暴走を起こしたのだ。
それから何度も何度も、被験者を募っては同様の実験を繰り返したが、そのどれもが失敗に終わる。
しかし、度重なる失敗にも彼女の好奇心が折れることは無かった。
むしろ失敗を重ねるたびに彼女の興味は煽られていくばかりであった。
失敗に失敗を重ね、繰り返し、必ず失敗することが明白になれば、彼女は次の手段を思いつく。
──覚醒した能力者への能力の上書きが出来ないのであれば、未覚醒の段階での上書きは如何か。
■東方 仙子 > 結果から言えば、成年 未成年、男女問わず第三者による異能の譲渡はことごとく失敗していた。
そこに来てようやく彼女は、失敗の原因を探り始める。
まず異能を司る器官が存在するのか否か。
それを知る為に先の実験の失敗によって異能の暴走の末に命を落とした検体の解剖を行った。
その結果、彼女は何らかの確信を得たのだが、それを公表することは無かった。
人体に特殊能力を擁するための器官があるかないかなど、彼女にとっては興味の無い事柄であったからだ。
──そんなものは他の研究者が発表すれば良い。
そうして彼女は自身の発見を、自身の頭の中だけに留めて次の実験に取り掛かる事になる。
ご案内:「東雲異能研究所 所長室」から東方 仙子さんが去りました。