2016/08/20 のログ
ご案内:「女子寮 綾瀬自室」に綾瀬音音さんが現れました。
綾瀬音音 > (あの黒い女と邂逅し、その後本来のその部屋の主と談笑などをして――。
帰ってきて、寝る準備を済ませ、深夜を過ぎて最早早朝と呼んだ方がいい時間帯。

携帯端末を耳に押し当てて、コール音を聞く。
出てくれればいい、なんて。
こんな早朝に電話をかけているのにもかかわらず、そう思った。

だけれど、電話の相手は――父は、此方からかけた電話に出た事は此方に来てから、殆ど無い)

綾瀬音音 > ■綾瀬信明>なんだ

(明らかに不機嫌を混ぜ込まれた声。
その声を最後に聞いたのは帰省の最終日、一日だけいた家で家族皆で食事をとった時だ。
特に何も話をしなかった気がする。
普段以上に双子の姉が話しかけてくれていたので、話している余裕は殆ど無かった。

それが今ならどういうことなのか解る。
姉は、自分を守ってくれていたのだ)

ううん、声聞きたかったから。
寝てたならごめんなさい。

(ぼんやりと自分の携帯端末を持っていない方の手を見る。
何度も折られた指だ。
それこそ何度折られたことか覚えてはいない。

当たり前だ。

大好きな父親に頭を撫でられた回数を、覚えている子供はいないだろう。
自分にとって、父に骨を折られたり、打たれたり、タバコの火を押し付けられたり。
そう言った行為は愛情行為だった)

綾瀬音音 > お父さん、あのね。
私今、好きな人が居るんだよ。
その人優しい人でね、ちょっと変わってるというかズレてるっていうか……
人とは違う所あるけれど、凄く好きなんだよ

(年頃の娘が父親にするには、些か色気づいた内容だったけれど。
それを伝えたい気分だった。
電話の向こうの父親がどういう顔をしているのか、自分にはわからない)

(怪我は、治癒能力者であった祖父があっと言う間に治してくれたから、
二三日寝こむ以外はそれほど不便は感じなかった。
おかげで義務教育は全体で通えたのは出席日数の半分程度。
それでも良かった。

だって、大好きなお父さんが、自分を大切に扱ってくれる、それで良かった。
ちょっとお父さんは不器用なだけで。
ちょっと――ではなく痛かったけれど。
それで良かった。

今――あの黒い女を話して。
“認識が改まった”今なら解る。

父は自分が恐ろしかったのだろう。
妬ましかったのだろう。
多分、それが虐待の理由だ。

だけど、旋毛から足の先までそっくりな姉と自分を完璧に見分けられたのは、この父親だけだった。
そこに一握りの愛情は――恐らくはあったのだろう、と思う)

綾瀬音音 > (母は――あまり家に居なかった。
忙しいの、と言ってどこかにでかけていることが大変多い人で、
それを自分は専業主婦って言っても大変なんだね、とぼんやりと思っていた。
“今”思えば全くの一般人だった母からすれば、一瞬でお湯を沸騰させるような娘は、
恐ろしかったに違いない。
しかも父親に虐待されても笑っているのだ、何度もそれを求めるかのように
父親に近づくのだ。
気味も悪かったのだろう。

だけど恐ろしいゆえに。
放置されることもなかった)

私より歳上なんだけどね、
子供みたいなところもある人でね。
夢みたいなことも言ったりするんだよ。
結構現実的な人だと思ってたんだけどね。
男の人ってそうなのかな、良く解らないけど

(姉は――一番の味方だった。
それは昔から変わらない。
何も言わなかったけれど、それが解る。
多分、何も姉は言えなかったのだ。
だから、何時も一緒にいてくれた。
大切な片割れだ)

綾瀬音音 > (だけどそれらを自分は全て“普通の事”として捉えていた。
他者の家とは違うのは解っていたけれど、
それはそれとしてそれが家では当たり前。

“普通の愛のある家庭”だと思って育った。

誰が、愛する両親に虐待されていると思いたいだろうか。
だから――自分の認識を歪めて育った。
父は、不器用だけど自分を愛してくれていて、母は忙しいけれど暖かい食事と風呂を用意してくれていて、片割れは何時も一緒にいる。

そう“認識していれば”自分は――幸せだった。
紛れも無く、自分はあの家でたった一人。
幸せだったのだ。

だから、普通に育った。
いや、“普通に歪んだ”。
本来なら歪むべき歪み方をせずに、“普通と言う形”に歪んだのだ。

それが――今なら解る)

お父さん、あのね、


(お父さんごめんなさい。
お母さんごめんなさい。
音色ちゃんごめんなさい。

私が一人“おかしくなってしまってて”、その所為であるべき形にはならなかった。
最初に指を折られた時に笑わずに大声で泣いていれば、
きっともう少し“普通の家族”でいられたはずだ。

それは紛れも無く、自分の罪だ。
もう、謝ることも出来ないけど、ごめんなさい。
本当に、ごめんなさい)

綾瀬音音 > (自分はちっとも普通じゃなかった。
普通のふりをしているだけだった。

だけど、コレも今となってはどうしようもない。
こうして、こうあるように生きていくだろう。

辛くはないが、家族には申し訳なく思う。
いや、本当は虐げられた事実を怒るべきなのかもしれない。
だけど、ちっともその気にはなれなかった。

自分にとっては、家族は大切な存在なのだ。
どれ程歪んでいようとも。
だから、怒るより先に出てくるのは
「ごめんなさい」)

■>綾瀬信明「話はそれだけか」

(くだらないことで連絡してくるな、と吐き捨てるように言われて通話を切られた。

通話終了の音がして、後は無音だ。
ゆっくりと耳から携帯端末を離した)

綾瀬音音 > ……………
寒い。

(気温は高いくらいのはずなのに、気がつけば指先が随分と冷えていた。
だから、そう呟いて、少しばかり自分を誤魔化すように。

それからタオルケットだけを被って、ベッドに横になった。


朝日はもう、とっくに上がっている)

ご案内:「女子寮 綾瀬自室」から綾瀬音音さんが去りました。