2015/07/12 のログ
ご案内:「落第街の娼館」に『美術屋』さんが現れました。
『美術屋』 > 少し太った男の荒い息遣いが廊下に満ちる。
ただ座っているだけなのに、まるで憧れに会うかのような
心臓がはじけそうなほどに。

――金を稼いだ
――一度、この街で見たそれをこの腕で抱くために
――最初は天使かと思った。だがその実、悪魔だった
――身を粉にして働いた。働いても働いても届かなかった
――故に権力に手を伸ばした。そしてようやくたどり着いた”時間(おうごん)”

扉に手を伸ばす。
開ければそこには……

「いらっしゃい。わざわざご指名ありがと、お客さん」

少年がいた。
小柄な体躯を、大きな大きなソファーの中央に沈めて。
横座りをしながら、テーブルに置かれたブドウを手に取り。
皮をむいて、静かに口に含む。
みずみずしいそれを、口の中で味わえば
男とは思えないほどのあでやかな表情であえいだ

「ん、おいし……突っ立てないで、こっち。来たら?」

男物の着物。
太ももが見えるほどにはだけて、胸元も開いている。

ごくりと、太った男は生唾を飲んだ。
口の中が渇く、異常に。
だが物おじしてはいられない
この黄金は制限がある。
故に、一歩足を踏み入れれば……

『甘ったるい、匂いがした』

『美術屋』 > 「緊張してる?」

くすりと、笑う。
指を口元にあてて、初めての食べ物を前に
食べ方が分からないと困惑する男を見て

「もしかして、こういうのを相手にするのは初めて?
 ちょっと癖があるからね……でもすぐ、あまり変わらないってわかるよ?」

自身の顎に細い指を這わせる。
緩やかに、魅せるように
そして、囁いた。

――黄金の果実を食せと、囁く蛇
――それがつかった、魔法の言葉を

「Come, woo me, woo me, for now I am in a holiday humour, and like enough to consent. 」

――ね、口説いて、口説いて。いまはお祭り気分なの、だから、なんでも許しちゃいそう

劇中で三役を使う、女の言葉。
今、彼は”どんな役柄”なのか分からない。

そう、彼は今この一時だけ、舞台裏の”演者”となる

表の舞台を完成させる、一助として――

男は我慢できず、甘い匂いに誘われて
思い切り、果実にかじりついた

『美術屋』 > そう、今この場において……
男と女の世界。情欲にまみれた
愛欲にまみれた純粋な舞台へと早変わりする。

男は、少年――男娼をすする。

首筋をしゃぶるようになめて、力いっぱい抱きしめて。
きゃしゃな体を乱雑に扱えば少年は苦痛に顔をゆがめるが
その表情すらも香辛料となる。
薄手の着物は、男が選んだものだ。
そのほうが手っ取り早いから――

男は、そのまま無理やり少年を膝立ちにして
己の情欲の塊を眼前にさらした。

「……乱暴な男はモテないよ? 嫌いじゃないけど……」

それからは獣のごとく。性交とも交尾ともいえないものだった。

時間がくるまで……
少年は男に依存し。
男は少年に依存し。

溺れていく。
禁忌の果実を貪りながら褥の奥へと篭もりゆく
繋がり抱き合い交わって、甘い水槽に沈みゆく……

そして、体力を使い果たしたころ――

”蛇”は作動する。
静かに、男の”意志”を混濁させながら

「ね、舞台を整えて? 彩る景色が足りないんだ。だから――」

囁く。
よりリアリティを出すための。
身を買った、その代償を支払えと。

「キミはぼくのファンだよね? 劇、みたいでしょ?」

破滅を生む。あぁ、そう待ちに待った、今日この日
動いている。
懐古の友が、完成させるに不可欠な”部品―パーツ―”が
不完全な美術は、創造を駆り立てて至福なれど。

それでも、嵌ったあれには到底かなわない。

だから――

「素晴らしい風景で彩らなくちゃ――」

取って、盗って、獲って摂って採って……トリまくって

それらをすべて、背景としてささげるのだ。

それが美術屋として、果たす仕事であり
それが存在意義であり……
それが、なによりの快楽を生むのだから……

囁かれた男の瞳から光が消える。

静かに男の上から少年は避けて。
乱雑にはぎとられた着物を身にまとい
白濁を地面に垂らしながら――

「キミの、脚本通りにできてたらよいけれど」

ないはずのシナリオ。
でも”できてしまうシナリオ”

それの一助になればいいと、妖しく笑って。

ぽたぽたと、その痕を身に刻みながら
ゆっくりとその場を後にした。

――Come, woo me, woo me, for now I am in a holiday humour, and like enough to consent.

ご案内:「落第街の娼館」から『美術屋』さんが去りました。