2015/07/14 のログ
ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」に秋尾 鬨堂さんが現れました。
秋尾 鬨堂 > 夏―
秋尾 鬨堂 > もう既にミッドナイト。
海岸を一望できる湾岸線を抜けて、群島を繋ぐ巨大な橋を流す『悪魔のL』。

夏は遊びの季節。
無軌道な学生もそうでない学生も、この夏を楽しんでいる。
それは、今の時間とて例外ではない。

「いつもよりも交通量が多い、ナ」
わかりきっていることを言う。
それを聞くのは、果たして誰か。

秋尾 鬨堂 > 当然、『悪魔のL』のシートにはドライバーである秋尾以外、誰も座ってはいない。

ただ流れ行く道路灯。
そして、いつもよりも荒れた流れ。
いくつものヘッドライトとテールライトが、通りすぎていくだけ。

カーラジオから流れてくるのは、少々浮かれた人生相談。

秋尾 鬨堂 > 『だって彼ったら、ペットは反対!なんて言うんですよ!自分は金魚、飼ってるくせに』
『それはひどいねぇ…で、飼いたいペットって、何?』
『ねこですけど』

暗闇の中、まだ踏み込むべき相手も、場所も見つけてはいない。
渋滞こそしていないが、徐々に車間も詰まり始めている。

秋尾 鬨堂 > 『はい、では今日のナンバー…プラネット・オブ・ジキャッツで、《海と大地と侵略者》』
相談を適当に打ち切って、この夏のヒットナンバーが流れだす。

どるん、と不満気なエンジンの音。

ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」にLさんが現れました。
秋尾 鬨堂 > 「わかってるヨ…」

隙間をパスして、流しているうちに。
進路はクリア。

戯れに踏む。
そういうときも、あるだろう。

クルーズ速度で少し飛ばせば、夏に遊ぶ子どもたちをミラーの向こうに置き去りに。
もうここは路灯の間隔も広い…闇が強くなる道。

《ザ…ザザー……ザ》

ラジオの電波も、入りが悪い。

L > 狂狂狂狂狂狂・・・
ゆっくりとタイヤが回る
ミラーには、海岸で遊ぶ子供たち
夕焼けを浴びて真っ赤な髪の少女がビーチボールを手に波打ち際で笑っている姿もあっという間に豆粒のようになって消えてゆく

秋尾 鬨堂 > それは幻か?
だが今、確かに見えた。
スカイラインとZ32が消えていったはずのそこには、
夕焼けに遊ぶ子供たちが――
それはきっと、乗っていた彼らの過ぎ去りし過去。

時空がゆがんでいる?
青垣山にいたはずが、どことも知れぬ暴力が支配する荒野に辿り着く島だ。
少しくらいの幻覚にも、理由は十分ついてしまう。

だが、何故。
誰がこんなことでからかってくる?
思い当たるのは一人。

L > 狂狂狂狂狂狂狂・・・
山で遊ぶ子供たち。
神社を走り回る子供たち。
バックミラーに映るどこか郷愁を感じさせるような風景は映画館のスクリーンの如くコロコロと変わり、窓の外に連なる反対車線のヘッドライトとともに過ぎ去っていく。

虫取り網を手に、クワガタを自慢気に掲げる少女。
本殿の縁の下に頭を突っ込んでもぞもぞと潜っていく少女。
遠い過去を思わせる映像の中、まるでモブのようにその片隅に姿がある。

狂狂狂……
さながら映写機のようにタイヤは回る。

ミラーの中の少女が、一瞬、鬨堂に微笑みかけた。

秋尾 鬨堂 > いや、一柱か?

光の道を、一瞬遅れて踏んでゆくタイヤ。
夜空に、路面に。
次々と映像の欠片が移っては消える。

「……楽しそうだネ」
誰かの思い出の中から微笑みかけるのは、その娘。
その顔は、よく見知ったものだ。

何故、と問いかけることはもうない。
踏み込むアクセルと、シフトアップが答え。

群島エリア・十五連ベイブリッジを、凄まじい速度で駆け抜けてゆくマシン!

L > 『Twoザザッ…欲…』
『持つザザッ㌧ザザ…ツ…翼…』
カーステレオが雑音混じりに言葉をつなぎあわせ、語りかける。

メーターの数字がめまぐるしく変わっていく。
質の悪い早送りのようなミラーの光景はいつしか人の目にはカーペットめいた光線の模様となって映る。

エンジンが、心地よさそうに嬌声をあげた。

秋尾 鬨堂 > 「そう。それよりも楽しいのは――」
知っている。
夏の子供たちを置き去りに、限界の領域まで。

更に強く踏めばカルくエンジンは8000回転、速度計は振り切っている。
600馬力の狂乱が、足回りから路面へと伝わり前へ、前へと鉄の車体を恐るべき速度で押し出していく。

「この世界の果てへと、踏み込んでくるものがいなくても――」
ただ一人だけでも、悪魔と踊る。