2015/09/17 のログ
■畝傍 > 転移荒野の一角。橙色に身を包んだ少女――畝傍は、今日も今日とて『狩り』に臨んでいた。
ここ数日の間は、学園地区や落第街において危険な魔物が出現した報告はない。
なれば今までもこれからも、畝傍は自らの信仰のために、魔物を狩るのみだ。
この日狩った獲物は、小型の翼竜二体。
地に倒れた獲物の体から、異邦人街などの商店に売却できそうな物資をあらかた調達した後、
帰路につかんとしていたのだが――その時である!
■畝傍 > KABOOOOOOM!背後で猛烈な爆発音!
それを聞きつけた畝傍はすぐさま振り向き、爆発の収束を視認すると背負ったフライトパックに点火。
何が起こったのかを確かめるべく、爆発の発生地点へと高速低空飛行で向かわんとする!
やがて、爆心地へと着地した畝傍の見たモノは――恐らくヒトだったのであろう、
しかしすでに原型も留めぬ、焼け焦げたミンチといった形容の相応しい肉片群であった。
■畝傍 > 「っ…………!」
眼前に広がる凄惨な光景に、畝傍は嘔吐しかけた。
それに追い打ちをかけるように、なおも吐き気を堪える畝傍の脳内へと、女の声が響いてくる。
しかし、その声は聞きなれた彼女の別人格、"千代田"のものではない。
――これは警告だ――
――我々"星の子ら"<シュテルン・ライヒ>はお前を許さない――
「シュテルン・ライヒ……」
聞こえてきたその単語に、畝傍は聞き覚えがあった。
"星の子ら"――某国において、少女を素体に作り出された強化人間の一群。憐憫と侮蔑を込めそう呼ばれる――彼女自身もまた、その一人であった。
そして、"星の子ら"の一部は何らかの理由でその役目を追われ、
そのまま母国に留まる者もいれば、畝傍のように支援を受け、この常世島で新たな生活を送る者もいる。
だが、"星の子ら"は決して統一された思想を持つ一枚岩の組織というわけではない。
それ故、畝傍はその言葉に若干の違和感を抱いていたものの、
声の主が特定できない以上、対話を試みることもできず、戸惑うばかりである。
■畝傍 > どこからともなく聞こえてくる声は、なおも続く。
――我々は、必ずお前を探し出し――
――そして、殺す――
「………………!」
畝傍は戦慄した。
そして、その視線が焼け焦げたミンチめいた惨死体へと再び向けられた時、畝傍はひとしきり嘔吐する。
声の主が"星の子ら"を名乗る意図までは定かでなく、畝傍に思い当たる節もまるで無い。
しかし、声の主の意図が確かならば――この惨死体は、遠からぬ未来における自身の運命を指し示すものか、あるいは。
想定される最悪の可能性を、畝傍は脳内で必死に否定しつつ、胃袋の中身を逆流させ続ける。
■畝傍 > 「……させない」
嘔吐の後、畝傍は両の拳を握り締め。
「……そんなこと。させない」
自分自身、あるいは自らと深く関わる者を――
自身と同種の存在を名乗る何者かに、傷つけさせるわけにはいかない。
どこに姿を隠しているかもわからぬ声の主に向け、吐き捨てるように、畝傍は宣言した。
そして、その宣言と共に、畝傍の左目からは冷気を帯びた灰色の炎が溢れ出す。
「≪……珍しく意見が合いましたわね、畝傍≫」
千代田であった。彼女の人格もまた、正体不明の襲撃者に対し敵愾心を露わにしている。
■畝傍 > 灰色の炎はなおも溢れ出し、冷たい声で言葉を紡ぐ。
「≪その"星の子ら"とやらの事など、千代田の知るところではありませんが……それが邪悪ならば、焼き滅ぼす以外にないでしょう?≫」
千代田は畝傍が見聞きした事柄を同様に記憶できるものの、
『生きている炎』の力の一部であるために畝傍が異能に目覚める以前の記憶はなく、
覚えている中でも特にはっきりとしているのは、転移荒野の決戦前後、畝傍が『声』に苛まれだしてからの記憶のみだ。
なので千代田は、畝傍以外の"星の子ら"の構成員について知り得ていない。
しかし、それが邪悪な存在なのであれば、畝傍から肉体の主導権を奪ってでも対決することを辞さぬ構えでいた。
通常、千代田の人格は、『混沌』の力を持つ者の気配を最も強く感じる。
だが例え対象から直接『混沌』の力が感じられずとも、邪悪なモノの気配には畝傍より敏感であった。
現世における全ての邪悪は、ともすれば千代田の憎むべき『混沌』に通じうる。
故に、『炎』である千代田は、それに目を光らせ続けねばならない。
その信念は『千代田』としての人格が信ずる正義ゆえか、あるいは『混沌』を焼く『炎』としての本能か。
性格こそ悪辣ながら、自身の信ずるものには忠実でいる。ある意味、単に邪悪な存在よりも余計にたちの悪いものだ。
■畝傍 > 「そうかもしれない……ううん、そうなんだとおもう」
幸い、周囲にはまだ人はいないようだ。
自らの肉声を以て、自分自身にも言い聞かせるように、千代田の言葉に応える。
日常への回帰を目指す畝傍にとって、可能ならば、この常世島でこれ以上生きた人間を撃つ事態は避けたい。
しかし相手がその気であれば、撃たざるを得なくなる場合もあるだろう。
そのような時に躊躇せず引き金を引く事が出来てしまうほどには、畝傍はまだ狙撃手たり得ていた。
「……いこう、チヨダ。いつまでも、ここにはいられないよ。どうするか、かんがえなきゃ」
そう呟いた畝傍は、再びフライトパックを展開。
「≪ええ。千代田もそう思っていたところでしてよ≫」
灰色の炎がそう答えると同時に、橙色に包まれた体は宙へ浮かんでゆく。
やがて、畝傍は転移荒野の空へと飛び立った――
ご案内:「転移荒野の一角」から畝傍さんが去りました。