2015/11/19 のログ
ヨキ > (二週のあいだ盛大に催された常世祭。
 国立常世新美術館で開催されている異能芸術の企画展。
 島外からも人びとが訪れる今だからこそ、ヨキは自身の殺人――島の秩序の平定に余念がなかった。

 自分の仕事が、関係のない人びとを驚かせることがあってはならない。
 今回殺された少年たちも、学籍や出席記録のない二級学生ばかりであった。

 『あいつ最近どうした?』『さあ』。
 数少ない友人たちの、ほんの二言三言ばかりの会話の向こうに――彼らは忘れられ、やがて消えてゆく。

 無人の街路を歩きながら、ヨキは黙して唇を結び、目を伏せていた。

 今晩拵える油淋鶏の、付け合わせのメニューを考えているのである)

ヨキ > (ボトムのポケットに手を入れると、煙草の箱が出てくる。
 蓋盛椎月。獅南蒼二。自身の仕事や、その打ち合わせに関わる人びと。
 周囲に喫煙者が増えると、何となし口にする機会も多くなった。

 人間ならではの嗜みとして覚えた煙草は、その煙の匂いでヨキの嗅覚を鈍らせた。
 色覚の鈍いヨキは、知覚を鋭い動体視力や嗅覚、聴覚に頼っている。
 特に猟犬の卓越した鼻を鈍らせるとき――ヨキは考え事によく集中できた。
 常に外界へ向けて張り巡らせているヨキのアンテナが、このときばかりは内省的に向く。

 よく出来た嗜好品だと思う)

ヨキ > (決して美味くはない。むしろ、不味い。
 仙人が呑む霞にしては、有害が過ぎる。
 その点においても、ヨキはまったく真面目な喫煙者であった。
 火を点けた煙草は、いつ買い求めた箱であったか定かでなく、その中身にはまだ随分と本数が残っている。

 長い人差し指と(もしかすると、薬指も兼用しているかもしれない)中指で、煙草を挟んで抓む。
 大きな口の隙間から、ぷかりと煙が立ち上った。

 歩きながらに、視界の端を過ぎった電柱を一瞥する。
 薬の名前。『個人輸入代行』。電話番号。

 雨ざらしでくたくたに破けたチラシから、呆れたように目を放す)

「…………。その薬、くれぐれも『表』に流してくれるなよ」

(どうぞご勝手に。)

ご案内:「落第街の奥」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > この場所には不釣合いな白衣姿の男。
だが、彼はあまりにも自然に、崩れかけた建物の扉を開いて、通りに現れた。

煙草を吸いに、建物の外へ出てきたようだ…が、その目はすぐに、この男と同様に目立つヨキへと向けられる。
「ほぉ、……珍しいな、こんな場所に何か用でもあったか。」
ここには美術館もアトリエも無いはずだが、なんて、楽しげに笑った。
何かを探るように、僅か、瞳だけを細めて。

ヨキ > 「! ……冷奴と、いんげんの胡麻和え……」

(唐突に思いつく。
 夕飯の、油淋鶏の付け合わせである。
 このうらぶれた辻に差し掛かったとき、通りの三本向こうのスーパーを思い出したのだ。
 安売り食材で拵える常備菜のアイディアが浮かんで、曲がるべき角を変えた。

 路地の先に現れた、見知った男の姿。鉢合わせて、お、と目を丸くする)

「――やあ、獅南。
 はは、もしこんな場所にギャラリのひとつでもあれば、それは見物であろうがな。
 残念ながら、人と会ってきただけの帰りだ。
 これから夕飯の買い物へ行こうと思ってな」

(短くなった煙草を携帯灰皿に押し込んで、いつもの長閑な微笑みを浮かべる)

「君は?
 落第街にも、君の研究の拠点があるのか」

獅南蒼二 > 僅かに細めた目を、そのまま自分の手元へ向ける。
取り出した煙草に火を付ければ、小さく、煙を吐き出した。

アンタが新しく作ったらどうだ?なんて、苦笑しつつも…少しだけ、真面目な表情を見せ、
「前にも言っただろう、私が求めているのは“平等”だ。
 …この街に住む者たちも、学ぶ意欲さえあるのなら同じこと……。」
小さく、そうとだけ呟いた。

獅南にとって、二級学生であろうと、不法滞在者であろうと、何の関係も無い。
それは彼がある意味で“通常の”価値観の持ち主であり、学園の秩序に一切の関心が無いことも証拠でもあった。

「……ここでは、いとも簡単に人間が消える。
 彼らにこそ、魔術学という“盾と剣”が必要だとは思わんか?」

ヨキ > 「平等……」

(『新しく作ったらどうだ』という言葉に、なるほど、とでも言いたげな顔をした)

「この辺りには、ヨキの知った者も少なからず暮らしておってな。
 歓楽区まで出れば多少の遊びのタネもあろうが……この界隈は娯楽も少ない。
 それはそれで、楽しいやも知れんな」

(低所得者御用達の、粗末なアパート群を見遣る。
 獅南の言葉に笑いながら、顔を正面へ戻す)

「いわば出張講義、とでもいったところか。
 意欲ある人間を拾い上げる君の……『教える意欲』もまた、見上げたところであるな。
 同じ常世学園の教師として、嬉しくもなる」

(目を細め、ふっと笑みを深める。
 続けて向けられた問いには、神妙な様子で頷いて)

「まったくだ。
 ヨキがかつて教えていた娘も、ここで細々と暮らして居たんだがな。
 いつの間にか連絡が取れなくなってしまった。
 二級学生から引き上げられた、真面目な生徒であったのに」

(このヨキという男は、一切の嘘を吐いていなかった。
 元教え子の女生徒は生活苦によって自ずから失踪したし、
 今朝方手を下した少年はもはや『人間』の頭数には入っていなかった。
 すっかり残念そうな顔をして、獅南を見る)

「……ヨキが街を見回るには、何かと限界がある。
 獅南の魔術でヨキを灼くのは構わんから、ここの人びとにもどうか“盾と剣”を、
 そうしてその“使い方”を与えてやってほしい」

獅南蒼二 > 「尤も、この場所はそもそも“地図にない街”だ。
 ギャラリーなど作ったところで、窃盗団のたまり場になりそうだがな。」

くくく、と楽しげに笑い、紫煙を燻らせる。
僅かに細めたままの瞳は…研究室での研究者としての顔とも、授業者としての顔とも違う。
自分以外を信じることのできぬ、この街の住人に限りなく近い。

「才能を埋もれさせておくのは惜しいのでね。」
なんて苦笑しつつ、煙草を携帯灰皿へと入れた。
ヨキの言葉を聞けば、小さく頷いてから…バラック小屋を見上げ、

「どこかで無事に居ればいいのだが…あまり期待はできんだろうな。
 この辺りでは、どうやら、“獣”の目撃情報もあるらしい。」

ヨキの言葉に対して、小さく、そうとだけ呟いた。
獣の言葉で連想できる怪物など、幾らでも居る。
だから、それをヨキの前で語るのは偶然かも知れないし、何かを知っているのかも知れない。

「アンタも、精々、気を付けることだ。
 この街には様々なモノが蠢いている…気を抜けば、すぐに…」
首を斬られるようなジェスチャーとともに、肩を竦めて笑い…
「…影で暮らす者たちは特に、“よそ者”には、厳しいからな。」

ヨキ > 「なに、それが芸術家の腕の見せ所というものだ。
 例えば……『盗まれて人から人の手に渡る』、『破壊されることが鍵になる』。
 悪党をおちょくる材料ならば、いくらでも沸いて出ようぞ」

(獅南の笑みに応える顔に、落第街とその住人らが持つ昏さはない。
 職員室で気心の知れた同僚と世間話をしているような、不謹慎な暢気ささえある)

「“獣”か。《門》の向こうから現れた者たちや、我々の与り知らぬ怪異は、
 時として知らぬ間にヒトを傷付けてゆくからな。
 人が忽然と姿を消すことは、どうにも心に区切りが付かなくていかん。
 もしかするとどこかで、という気持ちが消えんよ」

(君はヨキに黙って消えてくれるなよ、と口にして笑った。
 獅南が水平に引いた指に合わせて、小首を傾ぐ)

「そうだな。余所者として追い立てられることに慣れてはいるが……
 捕まえて殺されることには、どれほど抗えるとも知れん」

(傾いだままの顔が、ふっと薄く笑む)

「君は、ここいらの住人に襲われるほど“余所者”ではないと?」

獅南蒼二 > 「ははは、確かに金貨とは違う…盗むにしても面倒なものだな。
 学園祭の見世物もそうだが、悪党によって変化する芸術というのも、面白そうだ。」

楽しげに笑いつつ、煙草をもう1本。
普段通りの表情を浮かべるヨキを、横目で見ながら火をつけて…

「まったくその通りだろうな…だが、それは人間だけの世界でも起こり得る事だ。
 だからこそ人間は防犯グッズを買い込み、護身術を身につける。
 ……だが、理不尽な力の前に、そんなものは無駄な足掻きだ。」

「誰もが得られる、己の身を守る術は“魔術学”の他に無いだろうな。
 アンタがその身を守りたいのなら、私の授業でも聞きに来るといい。」
消えてくれるなよ、と言う言葉には、「さて、約束はできないな。」なんて苦笑してから、
ポケットへと手を突っ込んだ。煙草を咥えたままに息を吸い込んで…

「…意外だったかな?
 私の教え子たちの中には、物陰が好きな生徒が多くてな。」
周囲の建物、獅南が出てきた建物、それらから幾つかの視線が向けられていることに、気付けるだろうか。
彼らは、既にこの島の学生ではない者たち。卒業してなお、この島に留まる者たち。
もしくは、最初から“入学さえしていない”者たち。

「さて、まだ授業の途中なのでな…そろそろ失礼するよ。
 帰り道も、どうか気を付けてくれ。」

ヨキ > 「だろう?このヨキが求めるものは、常に“変革”だ。
 普段はその場に留まり続ける芸術作品が、時に動き出したっていい。
 盗みたいと、壊してやりたいと、あるいはつまらぬものだと――
 そこに在ることを認識され判じられること、それだけだってヨキには随分と僥倖だ」

(授業への誘いの言葉には、くつくつと楽しげに笑って)

「ヨキは授業を聞く分にはまだいいが、演習はさっぱりであるからな。
 ただ君の顔を拝みに行くほどのことしか出来んだろう。
 だがそれも、話の種には悪くなさそうではあるが」

(獅南の言葉。陰から針のように刺さる視線。
 変わらぬ笑みを湛えたままに、金色の瞳は獅南だけを真っ直ぐに見ている)

「はは。獅子の子らは、その名の通りに暗がりを好むか。
 まったく以て、ネコの集まりだな」

(その場を辞そうとする獅南に併せて、不意に目を伏せる。
 耳を澄ます。くん、と小さく鼻を鳴らす――

 ――高いヒールをアスファルトに打ち鳴らし、ぐるりと振り返る。

 暗い窓の奥に潜む顔、そのうちの一人の双眸を、寸分違わず真っ直ぐに視た。
 四本指の親指が、馴れ馴れしく獅南を指し示す)

「彼には世話になっている。
 ――君らの“親分”によろしく!」

(ひどく愉快気に深く笑うと、見据えた一人のみならず、
 周囲の監視者へも余さず知らしめるような高らかさで挨拶する。
 顔だけで獅南へ振り返り、)

「君が教え子を活用することは歓迎するが――

 最期にヨキへ手を下すのは、くれぐれも“君自身”であってくれよ、獅南」

(別れ際にひらりと手を振って、では、と元通りの歩調で歩き出す。
 はじめに目指していたとおり――夕飯の買い物をするために、スーパーのある方角へ)

ご案内:「落第街の奥」から獅南蒼二さんが去りました。
ご案内:「落第街の奥」からヨキさんが去りました。