2016/01/08 のログ
ご案内:「落第街路地裏」に久方 透子さんが現れました。
■久方 透子 > 「……それで、用事って、なに?」
(明かりらしい明かりもない、暗い路地の裏。
夜目がさほどきくわけでもない、ただの人間である少女は手元に持った懐中電灯だけが道を照らすものとなる。
だが、そのスイッチも今は切った状態。
かろうじて見える人影に目を凝らしながら、声をかけようか。
挨拶すらもなく、その声は何処か横柄なもの。冷たく、突き放すような。
現れたのは一人の男性。酷く頬がこけ、立つ姿勢も定まらない。
一目でわかるその異様さに、けれど少女側には、それを見て動揺する事はなかった。――もう、見慣れた光景だ)
■久方 透子 > (泡を。彼はそう求めて、カサカサで血の気のない色をした手を此方に伸ばしてくる。
少女に触れようとするその手を、パンッ、と乾いた音を立てて払う。
音からしても、ただ払うというよりは少々乱暴に。痛みを意識させようとするように。
けれど、いまいちその刺激には鈍感に、痛みそのものより音に驚いたかのように一瞬男は怯んでみせる)
「お金。用意してもらえないと渡せないって言ったよね?
今日はあるの?
私知ってるよ。もう、全然貯金も残ってないって。
明日食べるパンを買うお金すら危ういって」
(声色自体は明るい。
いつもの少女のトーンに近い。けれど、致命的に異なるのが、その表情。
いつも作り上げている笑顔はそこにはなく、淡々と何の感情もなく、――工場の単純作業者のように、無機質なもの。
問いかけられた男は、懸命に、今はないけれど、数日後には必ず――などとなおも少女に縋りつく。
そんな事だろうと思った、と首を横に振った。
お金が今日用意されないのは、あらかじめ教わっていたし、――だから手元に今日は泡はない。無理やりに奪われる可能性を考慮されたために)
■久方 透子 > 「みんな、ちゃーんとお金を払って、きもちいいことしてるの。
あなただけ特別扱いしたら、ほかの人が可哀想でしょ?
だから、お金、用意出来たらまた呼んでね。
その時まで――――」
(冷たい言葉。自分よりもずっと年上の男性が縋ってくるのを突き放して地面に尻もちを突かせながらも、決まりきった常套句を繰り返す。
何度、このセリフを聞いただろうか。
正規にこの島に入ってきた人間たちと異なり、この区域では金の工面すら難しい大人たちは、そう少なくはない。
目の前で無様に地面に這いつくばる人物とて、同じことで。
何も考えぬよう、何も感じぬよう。
ますます能面に近くなる少女と、冷たい眼差し。
あああああ、と――男性が、月に吼えて、その状況は一変する。
寄越せ、お前なら持っているんだろう、独占するな、俺を貶めるつもりか、殺してやる、などなど。
そんな声が路地に響き渡り、耳を劈く。
地面を這っていた男が、立ち上がり、体格と筋力、性差にものを言わせようと真正面から襲い掛かり――)
■久方 透子 > (薬切れを起こした人物が凶暴化、なんていうのも良くある話で。
真正面より襲われれば、むしろ少女としては彼は優しい部類に入るレベル。
握りしめていた懐中電灯を、ぐっと力を込めて握ったままに拳を上げて、思い切り――顔面目がけて、振り下ろした。
ガッ、と鈍い音。ワンテンポ遅れて上がる男の悲痛な叫び。
ここは路地裏だ。
先ほどの罵声ともども、その悲鳴を聞き入れる人物など、早々に現れる筈もない。
鼻がひん曲がり、鼻血を垂らす男の顔目がけて、全力で、何の躊躇もなく、二度、三度、四度と何度も懐中電灯――いや、鈍器を振り下ろす。
痛みからか、それとも怯んでただ単にバランスを崩しただけか、床へと再び仰向けに男が転がれば、今度は靴を履いたまま、何度も顔を踏みつける。
男の顔が土や埃に汚れ、鼻からの出血は止まらず、瞼を切ってそこからもまた血が溢れ、やめろ、助けてくれ、等の、一切の声が唇から零れなくなるまで。
う、…あ、…… とうめき声すら、危うい状況まで、踏んで、鈍器で殴って、髪も服も振り乱し、見開いた目と強く噛んだ奥歯と、表情も先ほどとは打って変わっての憤怒の形相。
はー、はー、と荒い息を、白く濁らせ夜空に溶かしながら、男の指先がぴくりとも動かなくなった時点で、ようやく、暴行を止めた)