2016/07/01 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏」に久方 透子さんが現れました。
■久方 透子 > (雨が降っている。午前中は晴れていた筈ではあるが、午後より雲行きは怪しく、日が沈む頃にはすっぽりと空は厚い雲に覆われた。
それから程なくして、ぽつり、ぽつりと地面に模様が描かれはじめてからは早く。
今は、ざあああ、と耳障りな音が響く、大雨)
(傘を持たぬものの雨宿りと言えば聞こえはいいが、制服姿の少女は既にずぶ濡れ。
長い髪からは、ぽたぽたと滴が零れ、制服は不快に肌に貼りつく。
それでも少女は、袋小路となる、外灯すらないその場から動けずにいる。
かろうじて雨がしのげる、そんな建物の陰で、ずっと、立ち尽くして空から降る雨粒を憎らしげに睨みつけていた)
(……少女の頬は、痛々しく、赤く、腫れていた)
■久方 透子 > (かろうじて、という事は、防ぎきれないものも当然ある。
空を睨みつけるぐらいなのだから、額に、鼻に、瞼にと当たる雨はそのまま頬を、顎を伝い落ちていく。
時折目を閉じ、瞼を手の甲で拭い、それでも滴は流れて止まらない。
瞼を擦ろうとして伸ばした手が、不意に頬に触れて、小さく痛みを訴える声も上がるが、それも雨の音に掻き消されるようなもの)
「……っ、……サイテー」
「……最低。本当、馬鹿じゃないの。
知らないよそんなの。いい加減にしてよ。何だと思ってるのよ」
(ぼそぼそと。唇がかろうじて動くといった呟く声。
並べられる言葉に、マイナスの意味、怒りに近い感情の共通こそあれど、まるで意味が繋がっていない、そんなものを繰り返し、繰り返し、呟いていく。
また、空を睨む。
憎むべき相手が、まるで雲の向こうにいるかのよう)
■久方 透子 > (また瞼を拭おうとして、その手は顔に届く前に止まる。大きく両手を広げ顔を覆ってしまえば、壁に背をついて、ずるずるとその場にしゃがみこむ。
身体が強張り、肩が震えて、吐き気に近しい感覚と戦い、横隔膜がひくつく。
けれどそんなものは、一瞬で消え失せる)
『君。……君。ねえ、どうかしたのかい?』
(少女よりずっと、ずっと年上の、異性の声。
覆っていた両手を退ければ、最初に視界に入るのはビール腹。
中年太りをしている事と、多少頭髪に不安が見える事以外はこれといった特徴のない男が、目の前に傘を持って立っていた。多分学生ではないのだろうが、一体誰なのかはわからない。
少なくとも学校の教師ではない。学校の教師ならば顔と名前は把握出来ているはずだから)
『だいじょうぶ、かい?
具合が悪いのなら、医者を呼ぶよ?』
「――……あ。
……いえ。違う、んです。そういうのじゃ、ないから…」
(首を振る。
苛立ちを含んだ声は表に出さないが、それでもけだるげな返事になってしまってはいる。
中年の男性は、ははは、と何がおかしいかは知らないが、笑い声を発しながら、それでも少女を見下ろしている。
完全に雨をしのげているわけでもない少女に、傘を差し出す事はしない辺り、自分が濡れるのがすごく嫌な事だけは間違いない)
■久方 透子 > 『それなら良いんだけどねぇ。
ほら、ここらへん物騒だからさぁ。こんな時間だからおじさん心配で…』
『もしかして親と喧嘩したとか?
家に帰りづらいにしても、ここじゃあ風邪を引いちゃうよ?』
(心配、している風。
そんな言葉が続くのを、冷めた眼差しで少女は見上げる。
本気で心配しているわけがないのは、男の態度と、彼の目線が己の顔ではなく、不自然に下半身に下りているのがわかった。
しゃがんでいる今の恰好では、短いスカートで際どいラインまで露出している。
嗚呼、とだけ呟いて、そこを隠すでもなくポーズを変えた。
多分これで際どいだけはなく、スカートの中の白まで見える事だろう。
……中年の、目線が、更に釘づけになる)
「……そうなの。
すごく、怒られて、ぶたれちゃって、私、今日帰るところがないの。
誰か、いっしょにいてくれないかなって、さみしくて、すごく、つらいの」
(けだるげな声は一変。
甘ったるい声は学校ではまず発さぬ類の、媚びた下種い女のもの。
帰りたくない家出少女と、欲望を隠さぬ男の利害の一致と、そう認識したのだろう。
善人ぶった仮面は早々に剥がれ、しゃがんでいた少女に手を伸ばす。その手を取れば、あれだけ濡れるのを嫌がっていたのいも拘わらず、ずぶ濡れの少女も厭わず、抱き寄せ)
ご案内:「歓楽街路地裏」に蓋盛さんが現れました。
■蓋盛 > 乾いた破裂音。
――その方向、路地の入り口に視線を向ければ、拳銃を天に構えた
亜麻色の髪の女が立っている。
硝煙が、雨に混じって消えた。
「合意の交際か非合意か知らんが、もう少しあたしの目につかない所でやってくれないかな。
――そうしないと、うっかり暴発しちゃうんだ。困ったことに」
酷薄な笑み。
銃を懐に収め、雨に身を晒したまま、身体を密着させた二人にまっすぐと近づいていく。
「もうちょい先の“落第街”なら、まだしもな。
……それとも非合意なのかな?」
二人を見比べるように視線を動かした。
■久方 透子 > (ひぅ。と空気が細い喉の管を通る音がした、気がする。
夜の雨よりよほど冷たいものが背中を走る。
びくん、と身体を跳ねさせながらも、それでも男の大きな胴の陰に隠れるように動いたのは少女の方。
ワンテンポ遅れて、ひぃ!と情けない声を上げて、目を見開き怯えの色を隠さのままに傘を落としたのは男の方)
『ちが、……ちがうんだ。ただ、雨に濡れて、傘もなくて、
家にも帰れずに、困っているようだったから声をかけただけで、
そんな、…っ 何もしちゃあ、いない…!!』
(男の方が雄弁に早口で捲し立てる。
袋小路のこの場所は入口も出口も一つだけ。歩み寄る女との距離が近寄れば、陰に隠れていた少女を振り払うように巨体を捩り)
「大雨で、途方にくれて、いじけていた私に
傘を貸していてくれただけですから」
(暴れられた結果、結局、また、雨ざらしとなった少女が、
先ほどの屋根の下まで歩く。
発砲の音自体に怯えてはいるものの、それよりは、今、彼との抱擁をどう説明するか、に重点を置きたいのか。衣服の裾を、ぐっと掴む右手に、緊張が伺える)