2016/08/20 のログ
五代 基一郎 > 微笑んでいた。
それは親愛といっても差し支えのないものであり、明確な敵対の意志よりも
より印象的に映るかもしれない。それこそ、なぜである。
なぜ所謂男が”悪いヤツ”と表現していたものがこうして綾瀬音音という少女に親愛の情を持って話しかけるのか

■黒い女>「もちろん彼を通して見ていた部分が大きいわ。彼自身の異能の主導権もあるのだから。
      目的は覗き見とかではなくて、彼の異能を封じてという目的があったからその影響よ。
      そのまま放置しておけば世界を焼いていたのは間違いなく彼。
      最もその必要は無くなったわ。予想以上に。だからこうして私は独立して動いて、貴女に会いに来た。」

どこまで知っているのか、ということには正しく男が知っていることは全てと言っていいし
それ以上に、何かを含みを持ったものを持っているのか。
順序立てて話すときのように語り始める。


■黒い女>「全ては一つに繋がっているの。あなたが思う味方と敵の境界線と
      良い人悪い人の境界線のように。貴女も本当は理解しているはず。
      理解しているのに曖昧に隠されたその中で生きていれば当然それは目隠しされているかのように封じられてしまう。
      彼との課外活動、かしらね。それで少しは理解できてはいたでしょうけど、もっと根源的なものは貴女の近くにあった。
      本来それはそこかしこにあるはずなのに誰もが目と耳を塞いでしまうから忘れてしまうだけよ。
      この島は居心地が良すぎるのよ。ある程度暴力的であったとしても。」

確かに私は人の心を読むことも出来るけどそういうことをしているわけではないと
寧ろある程度与えられた情報と、事実とそれらを紐解けば少しずつ見えてくるものだと語る。
それこそ……未来の話をするために、過去を紐解くのだというかのように。

■黒い女>「この島に来るまでの貴女が経験していたこと、思っていたこと。
      この島に来てから貴女が経験したこと、感じた事。
      そしてこの島が何故出来たか。そして求められているか……
      全ては一つの答えに行きつくわ。どうしても逃れられない根源的な答えに。」

それらが繋がり、それらがあるからこそ……それらの過去を経験したからこそ
綾瀬音音という少女は、女は未来に未来に不安を感じ
そしてそれを感じたからこそ自分は来たのだと語るように……

■黒い女>「世界は変わり続ける。人も変わり続ける……さりとて変わらないものもある。
      こういえば美談よ。でも変化と言っても全てがより良いものにというものではないように
      変らないものもまた、全てがより良いものではない。

      境界線を決めるのは誰か。何者らであるかを貴女はもう答えとして手にしているはず。
      そしてそれらが、貴女から奪う者達。貴女の背にいる者達よ。」

もはや確信のように伝える。それを、それがあるからこそ
それが根源でもあり、それが原因でありそのそれらが……そこにあるからこそ
追ってくる……いや、間近にあるそれが奪うのだと。

■黒い女>「”普通”は変わるわ。けど変わらない”普通”が貴女から”普通”を奪うわ。」

綾瀬音音 > (親愛の微笑み。
それがどのような意図があるのか、それは理解できない。
彼と彼女は敵対していたのではないか?
その彼女が、自分に対して親愛すら感じさせる表情で微笑みかける?
悪いヤツ、とは一体――一体、彼女は、男と何があったのだ……?)

“世界を焼かせない為に”先輩の異能を封じて――監視していた、ということでいいですかね。
…………?
(繋がっているのだろうか。
それとも彼女の“異能”だろうか。
男が知りうる事実は全て――恐らくは彼の感情も含めて――知っている、のは理解できた。

しかし、その必要は失くなったとは。
だから自分に会いに来たとは)

それは理解している――つもりです。
線引がある、ということはそういうことです。
繋がっているから、それらをはっきりさせるラインが“境界線”です。
ですけれど、でもそれを完全に分けてしまう事が出来るとは私は思いません。
それすらも、変化して行くものだと思います。

……それは、否定しませんけれど……。
(見えないから、聞こえないから――知らないから。
無いことの様に振る舞える。
知らないとはそういうことだ。
異端の――異端とされていた力と人々が当たり前に生活するこの島では特にそうなのかもしれない。
居心地はいいはずだ、だって、異端の力と存在であっても、ここではそれを当たり前に受け入れてくれる――)

―――――――。
(全てが繋がっている、と。
自分の過去、現在、未来。
そして、世界の過去、現在、未来――。
全ては繋がっているのは――解らなくもない。
自分がちっぽけだとしても世界の一部であるように、
世界も自分の“居場所”である以上、自分の一部だ。

そこに不思議はない。
だが、答えとは――)








――――――――
(息を呑んだ。
世界は変る。
自分も彼にそう語った。
しかしそうだろう、全てが良い物になっていくとは限らない。
悪い変化もあるだろう。
悪いものが変わらないこともあるだろう。

それはそうだ、理解できる。

境界線、それを決める人――。
それが、自分の背に何を突き立てる――?

そんなのは、決まっているのだ。
決まりきっている。
決まりきって、いるのだ)

(目を伏せた。
口の中がからからに乾いていることに気づいて、漸く先ほど薦められたアイスティに口をつけた。
いい茶葉を使っているのだろう、良い味がした)

ええ、そうだと思います。
いまもきっとこの瞬間だって、“普通”は変わっていっていて、それでも――変わらない、変わることが出来ない“普通”がある。
きっと、その“変わらない普通”の中に――私はいません。
知ってるんです、本当は、ちゃんと解っていたんです。







――私は。
ちっとも“普通”じゃないって
(それは、ここではない何処かを見ているような、ぼんやりとした声音で落とされた。
自分の手を見る。
以前彼は――それこそ普通とはちょっと違う、だけど先輩と後輩をしか形容でいない頃、
「世界を焼きつくすことも出来る」と言った。
自分の意思は置いておいても、それはきっと可能なのだ。

ならば、自分は追いやられる側だ。
変わった世界の“普通”でも、大変容前の普遍的な“普通”が通じるのならば、石を投げられてもおかしくはない。
実際――――――――、)

(何かを追い払うように、頭を振った。
それからのろのろと頭を上げた。

そうして、それを理解させて。

この女は、一体自分に何をさせたいのか。
それがまだ、語られてない気がする)

五代 基一郎 > 肯定。その頷き。

■黒い女>「彼の根源的なものは全てに対しての怒り。憎悪。憤怒。異邦人すらも異能を扱う人間も
      そうでない人間にしても憎悪の対象。いつか帰るべき”普通”の世界のために戦っていたのだから、それ以外は当然敵であり
      焼く対象であったからこそ封じたの。最も力を封じて、それこそ”普通”の人間として今の世界を感じ
      貴女といたことでそれが変わった。貴女も異能を持つ、普通の人。
      既に”普通”が変わり、自分の帰るべき場所がそこになったのなら……もう戦う理由もないもの。
      だから必要なくなったの。」

貴女には感謝している、とも。そして自らの異能は男と同じものであったものを続けて語り
であるからこそわかるし、察することも感じることもできたと。

■黒い女>「実際この島はよく誤魔化す……と言えば悪いようだけどよく考えられているわ。
      だって今でも多数であろう”普通の人々”が作り上げてきた制度を利用して全てが執り行われている。
      最もそれが効率もいいし、何より大事なのは馴染み易いからなのだけれど。
      故にこの島には異能者は来る。曖昧になってしまった境界がある世界の中で生きるために。
      または逃れるように。でなければこの島は成り立たないし、求められない。
      この世界で生きられるように、そしてこの世界で共に生きられるようにというのはとても曖昧。
      曖昧だけど普通の人々のためが大きいわ。だってそう、彼らは私たちが怖いもの。
      この世界で安全な、とも言える存在になってもらわなければ困るわ。
      本来そんな怖れる必要などないのにね。」

悲しいことだけど、これは事実なのだと語る。
この島が求められるということは、そうならざるおえない背景があるのだ。
元々特に何もなく調和できるというのならば、共生を目指す社会モデルのための島など生まれようがない。
だからまだ世界は”普通”の世界であって、それが溢れていて
だからこそ”普通”ではない人々は世界を追われているのだと……

■黒い女>「世界が大変容を迎えても、時計の針は止まったままなの。」

紅茶に口を付けられたのならば、微笑む。折角いれたのだから、というような雰囲気で。

■黒い女>「恐らく世界は変わるわ。異能者、異邦人と呼ばれる者達が普通に受け入れられる世界に。
    
      でもそれは今じゃない。近い将来でもないと思うわ。
      ”異能者”と”異邦人”と人々が呼び続ける限りね。」

それは所詮我々とは異なるものなのだという、呼び方からも分かる明確な境界線だった。
決めたのは、異能者でもなく異邦人でもない人々。
それが彼らを、追い立てる。

■黒い女>「それまでに苦しむわ。人を傷つけたから怖れられるなんてものじゃない。
      ただ存在するだけで阻害され、怖れられるような時代がまだ続く。
      綾瀬音音。私は時計の針を進めたいの。今現在異能者と呼ばれる人達が
      異邦人と呼ばれる者達がそれこそ受け入れられる、などという言葉が使われないような
      本当に何気ない普通の時代にするために。」


お代わりもあるから、遠慮なくどうぞと紅茶を薦めながら話を続ける。
これらはもうほぼ核心でありこうして会いに来た理由であるかのように。
しかしそれこそ……これが自然としたような会話の中で、ちょっと真面目な話を日常に挟む……
言うなれば進路相談のようなものなのだろうか。


■黒い女>「貴女には私と一緒にその時計の針を進めて欲しいの。
      何故貴女かなんて簡単な話。如何なる力を持っていても、動機が希薄ではだめなの。
      より現実と、自分と密接なものがなかればいけない。
      だからこそ貴女に会いに来た。
      貴女ならわかるはず。変えなければならないものが。変えてはいけないものが。
      絶やしてはいけないものが……絶やさなければならないものが。
      それはこの島の外にあり、またこの島にもある。
      政治の話ではないわ。政治だけで変えるのならばそれこそ長い長い時間ががかる。」



綾瀬音音という少女……女にとって、この先の未来を見る時にどうしても付きまとう影。
そこにある、その普通の世界にいる、潜む影に怯え続けるのか。
本当にこの先に平穏という居場所に行けるのかという不安の根源はもうそこでしかない。
圧し掛かる、そこに存在し続ける普通という世界。


■黒い女>「だから誘いに来たの。貴方達の言葉でいうなら……
      誤魔化しなどない本当の課外活動を始めましょう。綾瀬音音。
      私達が貴女達が受け入れられる、居場所となる世界を作るために。」

綾瀬音音 > …………………。
(ゆっくりと紅茶を飲む。
緊張で口の中がからからだ。

いままで目をそらしてきたものが――沢山。
恐らくは女が思う以上に沢山つきつけられている)

貴方にとっては――異能を持つ人が、異邦人と呼ばれる人たちが、
“普通”の人なんですね。
(まずは素直にそう思ったことを――そう、告げて。
一度自分の手を見てから、それからまっすぐに女の顔を見た。
ベールの中に隠された、その視線を見つめるように)

それは――貴女が見ていた世界と、
先輩の見た世界がある程度一致した、と言うこと、ですね。
貴女が言う普通と先輩の普通――力があることが、それそのもの普通である。
私が先輩の中で“普通”になったから、
意識が変わったから――。

この島には、沢山の人がいます。
私は――恐らくは“逃されて”ここに来た人間です。
この場所は居心地がいいです、多分異能に目覚める前を除けば人生で一番平穏な――って言うにはちょっとアレですけれど――日々を送っています。
私は“普通の常識”の中で育ってきました、だからこの世界の“常識”は理解できます。
でも、それがわからない人の教育機関――それもまた、この島の存在理由。
ならば、答えは簡単です。
首輪が欲しいんですね、きっと。
“普通の人々が”“安全に暮らせるための”“絶対的な保証”。
そんなのは無いと思いますけれど。

大変容があって、世界は変わりました。
だから、その変化について行くのは大変です。
それこそ、“普通の人”からすれば、理不尽な世界かもしれません。
もともとは無かった無数の力が溢れているんですから。
だから、時計の針が進まないのも当然です。
“私達”と“普通の人”には絶対的な差があります。
相互理解は難しいです。
“私達”が“普通の人”を――簡単に害することが出来る力を持っているんですから。
“怯え”があるなら、理解は難しいのは簡単に解ります。
だって、その時点で対等じゃないんですから。
どちらかが既に優位があると思う関係に、本当の理解を求めるのは難しいでしょう?
だから、時計の針は進まない。
進められることはない。

――――苦しんだことがない、とは言いません。
いえ、苦しんだことのほうが多いかもしれません。
私は何もしなかったのに、それこそ実の親に、“普通の人”に虐げれました。
多分私が“普通”なら、もしくはお父さんが“異能者”であれば、
それは無かったと思います。
だから、解ります。
解りますよ。




だけど――――――

(そこまで語って、それから、女をまっすぐに見たまま。
視線を探る様に。
彼女が見たもの、望んだものを探るように)

お断りします。
私はどうしても、貴女の語る世界が、今の世界の“普通の人”が居る世界に思えません。
貴女が望んでいるのは共存じゃなくて“排他”の様に聞こえます。
異能者と異邦人――力を持った人が、普通の世界に“普通の人”はいますか?
いないなら、それじゃあ、結局――――――


立場が今と逆転しただけで、何も変わらない。
同じです。
それは、時計の針が進んだんじゃなくて、ただの変化です。
違いますか?


(かたん、と紅茶を置いた。

虐げられてきた。
異能に目覚めてからこの島に来るまで。
それから目を逸らしてきた。
ずっとだ。
今までずっと。

力がない人は力を怖れるだろう、妬むだろう、虐げて、排他しようとするだろう。
それがいいことだとは、口が裂けたって言えない。
虐げられることは恐ろしい。
自分を歪めてしまうほどに。

だけど、だから言って彼らを力を用いて虐げて、排他するのであれば――それは違う。

絶対に違う。

だって、力を持たない人とて、必死なのだ。
恐怖と戦って、それをどうにかしようとしている。
それなら、“自分達異能者”と“力を持たない人たち”の何が違うのだろう?

力は境界なのか。
そうじゃないと思う。
もっと境界は――作るとすれば、別の所に作るべきだ。

答えは出ないけれど。
それはもしかしたらただの駄々っ子の理屈なのかもしれないけれど――)

居場所は欲しいです。
先輩と何も不安なく生活できる場所は――欲しいです。
だけど、多分貴女の手を取って手に入れた場所で、私は後悔しない自信がありません。
だから――――


お断り、します。

五代 基一郎 > 違うわ。と一言、全てを聞いた後に、ただ一言否定の言葉を返しながら
今後のことを決める一言……決定的な一言が出たことを残念そうに思いながらか、呟く。

■黒い女>「排他する必要などないのよ。それこそ究極的な話では力あるものがないものを排除すればいいだけ。
      最も力を持つものとないものとの境界も曖昧な世界ではどうなるかはわからないけど、恐らくできるでしょうね。
      曖昧な表現だったかしら。時代が進めば自ずと力を持たない人は減るわ。
      異能に目覚めない人の方が少なくなる。異邦人もこれから増えていくでしょう。
      それでもまだ時計の針は進まないかもしれない……
      歴史の教科書でたった一行で変ってしまったと書かれる結果であったとしても。」

紅茶はもう空だ。茶会の終わりを表すように、それは……女のカップには
注がれず、空のまま語られる。


■黒い女>「本質的な話になるわ。大変容以降にもう異能者であろうが、特異なものであろうが…
      そう。私も貴女も彼も皆普通の人なの。特別な人間ではないわ。
      かつては違ったわ。それこそ大変容以前は……
      本来人間なんてそう。ただ差異があるだけなのに、その異なることがどうしても障ってしまう。
      それをずっと続けてきたから今も続いている。」

大変容以前。大変容以前の価値観ならそうであろうと、いやそのそれが続いているから
今も差異を、とされているんだろうとも含む言葉。
この世界に来ればこの世界の人間でしかなく、またこの世界にいるならこの世界の人間なのだと
とても、それこそ理想的な言葉ではあるが苦痛しかない現実に裏打ちされた……虐げられた、追われた者としての言葉か。

■黒い女>「排他なんて言わないわ。ただ一度時計の針を0に戻してから進めるだけ。
      それが必要なのは……そうね、貴女ならわかるかもと思っていたのだけれど。
      貴女から語られる言葉はとてもそう、良い言葉。夢を見ていると言えばそれまでかもしれない。
      けど大切なこと。そうあればいい、そうなればという事はとても必要よ。貴女はとても善良な人……だから誘ったの。
      こんな話しかけ方しかできなかったけど、悪く思わないで。」


そうしてゆっくり立ち上がれば、置いておくわねとティーポットやら何やらをそのままに
帰る支度を始める。それこそ何気もなく。ただお茶会が終わったから
話が終わったから変えるように。


■黒い女>「私達と共にいて、貴女が後悔するだろうことは確かよ。
      そういうことですもの。でも”不安”と”恐れ”は取り除く試みは出来るわ。貴女だけではなく、貴女の先にある者達にも。」

それは良いと思うことだけど貴女の不安はそのままなのだけれどもと
綾瀬音音という異能者が今”も”目を逸らしているだろうことを囁き
そして

■黒い女>「あと……そうね。異能者も異邦人も”普通”の人もだけれど。
      
      そう。それほど賢くないのよ。人はね。」


それは特に、貴女はわかっているでしょうけどとも肩に手を置くように語る。
直接的には言わないが……異能者であれ、異邦人であれ、何も持たない人であれ
変らぬそれが。怖れを生み出し、怖れを振りまき、そして……

最後に一言。気が変わったらでもいいし、ただのお茶会でもいい。
貴女からの連絡待っているわと囁きそのまま退出していった。

後に残されたのはまだ冷たい紅茶と、冷めつつある焼き菓子と……
綾瀬音音が一人。

女が退出すれば、何かを取り戻したかのように外のセミの鳴き声が部屋にまで入ってくるのだった。

綾瀬音音 > その基本的な基準が“異能を持つ”か“異邦人”か、ですか?
出来ると思います。
力はある意味では絶対的なものです。
力でしか通じないものもあります。
だけど、本当にそう思いますか?
それこそ、もう一度大変容が起きて――逆のことが起こらないなんて、何の保証もありません。
(自分も紅茶にも焼き菓子にも口を付けない。
これは御茶会ではない――いや、御茶会だったのかもしれないけれど、自分にとっては純粋に楽しいものとは言えなかった)

私も貴女も先輩も、“普通の人”ですよ。
だけど、“力を持たない人”も“普通の人”です。
大変容以前は――きっと違うことが、“普通じゃない人”でしたよ。
違うっていうことは恐ろしい事か個性かと言われれば解りませんけれど――
でも、それを認め合って生きていける生き方を、探せればいいと思います。
理想論なのは解っていますけれど。

(世界の全てを、自分は知っているわけではない。
だけど昔の価値が続いているのは解る。
人は簡単には変われない。
それこそ時計の針を進めるのであれば、それを破壊する必要があって――
でも。
それをいいこととは自分はどうしても思えなかった。
この世界にいる以上、だれもが、この世界にいる者だ。
そこに優劣はない。
恐ろしいほど平等だ)

…………お断りしておいてなんですけれど、貴女の言うことが解らないでもないんです。
誰だって痛い思いも辛い思いもするのはイヤですし、
虐げられてきたのなら、それをなくそうとするのは当然です。
権利かもしれない。
居心地の良い場所を作る事も。

だけど、貴女の手をとることは出来ません。
先約もあるので。
――まあ、実際だったらどうするんだ、と言われればどうしようもないんです、と言うしか無いんですけれどね。
……いえ。
お話出来て良かったです
(それは偽りのない言葉であることが伝わればいい。
相容れないことと、印象が悪いは違う問題だ。
この女性のことは、自分は嫌いではなかった。
短い時間であったけれども。

浅く腰掛けたまま、女の動作を見やりつつ)

それなら、後悔をしない生き方を模索することだって同じ価値が有るはずです。
今だって不安ですよ、先輩最近凄く子供っぽいですし。
なんか筋が通っているようで無茶苦茶言ってる気がしないでもないですし。

……………、それを言われるとかなり辛いものはありますけれどね。
でも、こうやってお話をして、少し不安は減りました。
だから、ありがとうございます
(先にある者達――例えば自分の子供だとかが。
不安も恐怖もない世界に生きられればそれは良いことだろうけれども、とは思った。
思ったけれど、考えは変わらない。

なんだか愚痴のな事も交えつつ、そう言って笑う。
正しくは、不安が消えたわけではない。
ただ――不安でもなんとかしてやろうと言う覚悟は決めた)

――――――。
そう、かもしれないです。
でも、賢くはなくても強く生きていこうって思ってる人は沢山います。
結構今の世界も捨てたもんじゃないと思いますけどね、私は。
(結局、そこなのだろう。
自分はこの世界に愛着を持っている。
ここで生まれて、ここで育った。
そして、この世界で生きているのだから。

簡単に、変えましょうと言われてそうしましょう、と頷けるわけがそもそもなかった。
何が正しい世界か、なんて分からないけれども。
お互いが違うことで生まれる恐れや妬みや僻みが沢山の悲劇を生み出すとしても――、
そう簡単に、変えてしまうには愛したものが余りに多い。

分かりました、と女の背中に返事は返して。
それから、冷えた紅茶と焼き菓子に手を伸ばしつつ――




この部屋の本来の主を待った。
夏の気配が、戻ってくる)

ご案内:「異邦人街安アパートの一室」から綾瀬音音さんが去りました。
ご案内:「異邦人街安アパートの一室」から五代 基一郎さんが去りました。