2016/10/01 のログ
ご案内:「ヨキのアトリエ」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 研究区の一角。清潔感のある、事務所のような建物が立ち並ぶ路地。
その中の一軒から、区画には不似合いな香りが漂ってくる。
煮込まれたトマトと野菜の、家庭的な料理の匂いだ。
そこは美術教師ヨキの工房である。
表札の代わり、扉の傍らには鉄の花のオブジェが飾られている。
インターフォンの上部に掛けられた秋の草花をあしらったリースが、
この無機的な景観にささやかな彩りを添えていた。
ご案内:「ヨキのアトリエ」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 獅南は何の前触れも無く,初めて訪れる貴方の家の扉を叩いた。
普段どおりの服装に普段どおりの疲れ果てた顔。
いつもと1つだけ違うことがあるとすれば,紙袋を提げていることくらいだろうか。
「……………。」
こんな場所にアトリエを構えていることは,研究区にはよく足を運んでいた獅南にとって,多少意外なことでもあった。
こんな場所では画材も手に入れづらいだろうし,芸術を極める場所というには殺風景だ。
貴方が扉を開けるか,声を掛けるまで扉の前で待っているだろう。
■ヨキ > 返事はすぐに返ってくる。
はいはい、と声がして、こつこつと靴の音。
「――やあ、獅南。いらっしゃい」
顔を出す。
普段着姿のヨキが、にんまりと笑い掛ける。
今までのヒールの高い靴とは異なる、こじゃれたショートブーツを履いていた。
どうやら、室内は土足らしい。
「そろそろ来るだろうと思って、支度は出来てる。
あとはつまみを少し仕込むくらいで」
入ってくれ、と相手を招き入れる。
まず目に飛び込んでくるのは――整然と片付けられた金工の道具の中に立て掛けられた、一枚のキャンバスだ。
正方形に仕立てた大きな画面に描かれた、日の出の風景。
荒々しい筆致で色が爆発するかのような、荒野の姿だ。
壁際の床に置かれた油絵の道具は、ブーツと同じく使い始められて間もない新品だった。
■獅南蒼二 > 洒落た服装に…新しい靴,自分と全く対極に立つ相手を見て…
…その笑みにも,獅南は呆れたように苦笑するだけだった。
「邪魔させてもらおう。
しかし,アトリエなんてのは雑然としてるものだと思ったが…」
貴方に招かれるままにアトリエに足を踏み入れて,
獅南は物珍しげに周囲を眺めた。
無論,画材やら資材は転がっているのだろう。
けれど,整然としているその部屋は,獅南の想像した“アトリエ”のイメージとはやや違ったようだ。
「…ほぉ。」
そして獅南は,キャンバスに目を留める。
その絵が何を表現したものなのか,正確に理解できる者は少ないだろう。
だが,芸術を知らぬ獅南には,その絵に込められた思いがすぐに分かったのだ。
「…………。」
言葉には出さなかったが,獅南はその絵を見て,僅かに微笑んでいた。
■ヨキ > 鎚に鋏、金床に何やら大小の電動工具。鉄のオブジェ、紙束、材木に地金。
それらがサイズ別、種類別にきっちりと整頓されているのがヨキらしさといったところか。
油絵のように、“色を扱う道具”が新品であることを除けば、みな丁寧に使い込まれている。
「ふふ。お前の方こそ、初めは研究室を随分と散らかしていそうなイメージがあったがね。
ヨキのやっていることは、何かと扱う道具も多いから……、整頓していないと不便なんだ。
アトリエなど、今までまったく無縁だったろう」
笑いながら、部屋の奥へ案内する。
その途中でキャンバスに目を留めた獅南に気付いて、振り返った。
「少しばかりな。色が視えるようになったから、練習がしたかったのと……。
あとは、……覚えておきたかったから」
ふっと笑う。
――ヨキの趣味らしい、異国の織物で仕立てたのれんを潜れば、そこは私室だ。
広めの一部屋で、キッチンもリビングもベッドルームも兼ねている。
獅南に予め送っていた写真に映っていたとおりに、清潔感ある家具の並び。
どこかショールームめいた、作られたかのような生活感が横たわっていた。
■獅南蒼二 > 「なるほど,お前にはこう見えたか…。」
良い絵だ。と思った言葉を口にする事は無かった。
絵を品評するなど,らしくもない上にそもそもそんな心得は無い。
「あぁ,……だが,アトリエなぞ殆どの人間には用の無い場所だろう?
研究室か,アレは教え子の所為でな…元は随分と酷い有様だった。
どこに何があるのか全て覚えていれば問題ないだろうに…。」
苦笑を浮かべながらも,ヨキに招かれるまま私室へと。
その部屋を眺めた獅南の感想は,特筆すべきものでもなかった。
「……犬小屋にしては豪華じゃないか。」
冗談を吐きながら楽しげに笑い,ソファか何か,適当に座れそうな場所を見繕って勝手に腰を下す。
■ヨキ > 「本当はもっと、いろんな色も見えていたかも知れない。
だがヨキにはまだ、ここまでを表すのが精一杯で……。まだまだ、練習しなくてはな」
感想を述べられずとも、その顔を見るだけでヨキには充分らしかった。
照れくさそうに頬を掻く。
「何だ、やっぱり散らかっていたのか?
ははは。覚えていれば、って、散らかす奴はみんなそう言うんだものな」
可笑しげに笑いながら、私室へ。
壁際の調理台、クッキングヒーターの上で、両手鍋から香ばしい湯気が立ち上っている。
その傍らには、既にいくつかの料理が出来上がっているらしい。
「これだけ揃えるのに、時間と金が掛かっているからな。
今後は犬小屋ではなくて……人間らしい部屋にしていかなくては」
部屋の中央に敷かれたラグの上に、ローテーブルがひとつと、二人掛けの赤い布張りのソファが向かい合わせに一組。
「ああ、適当に座ってくれ。すぐに準備できるから」
言いながら、調理台に置かれていた皿をテーブルに並べてゆく。
小鉢や木製のプレートには、ナッツやチーズにクラッカーやら、乾き物のつまみ。
それから、小ぶりのボウルに盛り付けたラタトゥイユ。
そうして最後に――例のウイスキーの瓶と、グラスを二つ。
■獅南蒼二 > そんな貴方の言葉に,獅南は僅かに首を傾げて・・・
「さて,案外と“初めて”を表現しただけの絵の方が,
表現を練り上げた絵よりも印象に残るものかも知れんぞ?」
それは獅南の素直な意見だった。
ヨキの感動そのものを絵に凝縮したような,その作品は獅南の印象にも強く残ったのだろう。
「人間らしい部屋か……まったく恐れ入ったよ。
私より人間歴は短いだろうに,私よりよほど人間らしい暮らしをしているじゃないか。
私など,少し前までは魔道書と魔石に埋もれていたからな。」
座ってくれといわれる前に座っていた獅南は,
持ってきた紙袋から,小さな箱を2つ取り出した。
そしてそれを,ヨキが並べたグラスの横に置く。
「中身が良いものなら,その“入れ物”も相応のものをと思ってな。」
言いつつ,箱を開けて中身を取り出した。
中に入っていたのは,非常にシンプルなデザインのロックグラスだ。
光の当たり方によって僅かながら輝きの変わるそれは,
飾り気が無いにも関わらず,内面に炎を秘めた,実に獅南らしい選択だといえるかもしれない。
「………しかし,よくもまぁ,これだけ用意したな?」
・・・グラスにウィスキーを注げば,全ての準備が整う。
■ヨキ > 「そうかな。……ふふ。お前の印象にも残ってくれたら嬉しいな。
ヨキにとっては一生に二度とない感動だったから、お前にもそうだったら良いのに、って」
てきぱきと配膳をする姿から、一人暮らしの長さが見て取れる。
部屋の有り様についての話には、ううん、と半ば大げさに首を傾げてみせる。
「人間らしい、か。そりゃあ比較対象が獅南ではなあ。
だけどこの部屋、女の子には大層評判が悪くてな。
暑いとか寒いとか、色味がおかしいとか、冷たい感じがするとか……。
一緒に住みたくないとか言われたりして。
だからここのところ、少しずつ模様替えをしてるんだ」
ソファに座った獅南が取り出したグラスには、飛び上がらんばかりに目を丸くする。
「それ!……お前が?買ってきてくれたのか?
――ありがとう、獅南!」
途端に顔を輝かせて、あまつさえウィスキーの注がれたグラスをボトルと並べてスマートフォンで撮ったりする。
でかい図体をして、子どものような喜び方だ。
「本当はもっと食事らしい食事にして、お前の腹を満たしてやろうと思っていたんだがな。
せっかくウィスキーの日だから、今日は酒をメインに楽しむことにした」
自前のグラスはさっそく片付けて、獅南の向かいに座る。
ぴかぴかのグラスをゆったりと掲げて、首を傾いだ。
「……さて。何に乾杯しようか?」
■獅南蒼二 > 「ははは,それは難しいだろうな…私にとっては何度もみた夜明けだ。
それを言うならお前も一度死んでみるか?人生観が変わるぞ?」
そう嘯いて笑う獅南はもはや“死”さえも道具の1つとしてしまっている。
獅南はもはや彼の言う“凡人”の領域を遥かに逸脱しているのだが…
「…私にも部屋くらいはあるよ。
といっても,もう半年は鍵を開けていないが…。」
…苦笑しつつ,貴方の言葉を聞いて,肩を竦める。
人間の家に行くつもりが犬小屋ではな。なんて失礼な事を言いながらも,
「……私がこの部屋にさほど違和感を感じない所を見ると,
模様替えの観点が良いか,もしくは私も犬小屋がお似合いだということかな。」
さらに失礼な言葉で上塗りした。
そんな中でも獅南が思った以上に喜んでくれる貴方の素直な言葉は,
単純だがそれゆえに獅南を喜ばせる。
「お前の趣味など分からんからな,私が気に入ったものを買っただけだ。
気に入ってもらえたなら良かったが……まったく,お前は学生か?」
苦笑しつつも,もう片方のグラスを手に取って,少し考え…
「私の初めての命日と,お前が“私と同じ世界”を初めて見た日に。」
…なんてのはどうだ?
■ヨキ > 「だよなあ。普通は何てことのない光景だと言うのだから、贅沢なことだ。
だからヨキがどれだけ感動したか、あのキャンバスに留めておきたいのさ。
死ぬ?はは、またとんでもないことをさらっと言う。
そしたらお前が使っていた、あの時間を戻す魔術を教えてもらわなくてはね。
お前よりいい使い手になれるかも」
獅南に部屋がある、と聞くと、これまた驚いた顔。
「…………。お前、てっきりあの研究室しかないのだと思っていたよ。
もしかして、家賃とか払っているんじゃなかろうな」
やれやれ、と呆れた素振りを作って、「犬小屋に住みたくなったら、ヨキが掃除しに行ってやるよ」。
飽かず叩かれる憎まれ口にさえ楽しげだった。
「ふふ。人間になってから、感情が次から次へと溢れ出してくるようでな。
嬉しいのも悲しいのも、ついでに魔力も、コントロールが難しくて」
どこか困ったような顔を作って、頭を掻く。
そうして、グラスを手ににやりと笑う。
「いいね。それじゃあ――乾杯」
言って、ウィスキーをちびりと口へ。
「……そう、あとはアルコールも。
もう前みたいに、無茶な飲み方は出来ない」
ウィスキーの強い酒気が、じわりと染み渡る。高価なだけあって、味と香りは申し分ない。
取り分けたラタトゥイユを食べて、んむ、と咀嚼する。
「お前の舌に、合うといいんだが」