2016/10/13 のログ
ブロンドの女 > 「女」の反応は、涼やかだった。
「両者のやりとりに手を出す気はない」ととったらしい。やっと、獅南に対する視線がゆるみさえしてみせた。
この結界は「遮断」をその礎に置いている。音が聞こえないのは、効果が反転しようとも変わらないのだ。

…それに、この程度の細工など、後で破れば良い。

それよりも………今は、「標的」だ。

「…どうやら、あの人もあなたを助けてくれる気はないみたいねぇ…?
………どうする?話してくれるなら、もう1回「あれ」を使って、楽に終わらせてあげる。

もし、話してくれないなら…」

先ほどまでいじっていたバッグから取り出してみせたのは、いくつかの白い小さな石………に見えるもの。指の間に、1つずつ挟んでいる。
男の顔が、絶望に色を失う。

「…あなたには、よー…く分かってるはずよねぇ?
どれくらい、痛いかも」

男の顎に触れていた手が、す…と、優しく男の輪郭をなぞる。
男の視線が、最後の望みに託すかのように、獅南の方を、見た。

「………話してくれないのぉ?
じゃあ、仕方ないわねぇ…」

女が、愉悦に目を細めると…指の中の白い小さな石を、1つ弾き出した。
地面に落ちたそれは、男女を白い光に包み込む。

『たすけ、助けて…』

男の悲鳴は、結界に阻まれて獅南には聞こえない。
ただ、光に飲まれる寸前、助けを求める形の口の動きだけが捉えられることだろう。

獅南蒼二 > 男にとって幸運であったのは,少なくとも獅南が貴方の“苦しみ”には同情したことだった。
だが男にとって不幸であったのは,獅南は貴方の運命について僅かばかりも干渉するつもりがなかったことだろう。

「…………。」

手のひらを翳して,ひらりと動かし…ぱっと開く。
あまりにも単純で,それ故に即時性に優れる,魔力による単純な衝撃。
…結界が魔力による干渉を妨げないのは既に承知の上だ。

ただ,狙ったのは女ではなく,不幸な男の方だった。
そしてそれは,命を奪うものではなく,単に男の意識を失わしめるためだけの一撃。
声が聞こえない以上,女の意図など知る由もない。だが,少なくとも必要以上に苦しむことはない,と。

2人を光が包み込んでも,獅南は僅かも心を動かされることなく,ポケットから取り出した煙草に火をつけた。

ブロンドの女 > (………!)

魔力による衝撃…ただし、自分へのものではない…を察知する女。
光が晴れた時…そこにいたのは、魔力の衝撃によって少しずれた位置に浮きながら気を失っている男と…不愉快そうに獅南を睨みつけている女。

「邪魔 しないで」

声は聞こえないのは承知の上、口の形をはっきり作ってそうアピールすると…何かを唱え始める。
軽い魔力の衝撃などものともしないような岩の槍が、男と女を囲んで獅南と分離するように、獅南の足元の地面から次々と突き立った。

突き立つ岩の陰で、男を起こそうとなおも手を伸ばし、更なる術式を行使しようとしているらしい女の様子が、獅南には伺えるだろうか。

獅南蒼二 > それははっきりとした拒絶の意思の表れだった。
女が何を考えているのかは分からなかったが,少なくとも強引な手を使わなければ止めることなどできそうもない。

「……………。」

獅南は小さくため息を吐いた。
それから,貴方と男からその視線を外し,壁際へと静かに歩む。
静かに煙を吐き出して,男は貴方の“要件”が終わるまでそこで待つだろう。

もはや,男が悲鳴を上げようと,どれほど助けを求めようとも,視線を向けることも無い。

ブロンドの女 > 新たな干渉の気配がないことに、安堵の息を吐く女。
精神干渉系の、何らかの魔術が働いたらしい。男が目を開けたのは、その時だった。
周囲にそびえ立つ岩の槍に、目を見張る男。

『…何だ…これ…!』
「変な「邪魔」を防ぐための「保険」ね…
まあ、「彼」も分かってくれたから、もう邪魔は入らないみたいだけど。

…さあ、「続けましょう」?」

女の唇が、三日月の形に笑みを刻む。

『い、いやだ、死にたくない…!』

男の悲鳴は、結界に阻まれて、どこにも届かない。
男の悲痛な表情も、岩の槍に阻まれて、見えない。

そうして、岩の槍の隙間から何度白い光がフラッシュのように零れただろうか。
最後に、一際強い光が放たれたかと思うと…岩の槍が消え、反転された結界も、さほど時間を経ずに無効化される。

そこに残っているのは、女が1人。そして…宙に浮いている、男が着ていた、灰まみれの服飾。

「『解除(ルヴェ)』」

ややかすれた甘い声がそう唱えると、男物の服飾が、ふわりと地に落ちた。

獅南蒼二 > 獅南にとっては,ゆっくりと煙草を味わう時間ができた。
その程度のことで,恐らく先ほどまで男だったのだろう残骸や,その顛末に関してはどこまでも無感動だった。
煙草を携帯灰皿へと入れて,ため息を吐き……

「……どうやら,私はアンタのお楽しみを邪魔したようだな。
 アンタが何者か知らんが,そんな無理をするくらいなら,声くらい魔術で変えたらどうだ?」

……確信をもってか,それとも探りを入れてのことか,
獅南はそんな風に呟いて,楽しげに笑った。

だが,貴方と同様に,その疲れ果てた目は僅かも笑ってはいない。
どこか悲しげでさえある澄んだ瞳が,貴方をまっすぐに見る。

ブロンドの女 > 「お楽しみ?………まあ、そういうことにしておきましょうか。
必要な話は聞けたから、別に構いやしないわ」

「用件」が1つ片付いたからか、女の顔には笑みが再び貼り付いている。
…もっとも、やはりその瞳は笑っていないのだが。

「…何の話?さっぱりだわぁ」

獅南の探りには、会話に不自然な間をほとんど作らず、そう鼻で笑って返す。
相手のまっすぐな視線と、その瞳に宿る悲しさには、気付いているのかいないのか、まるで触れるそぶりもなく。

獅南蒼二 > 「…こんな場所だ,アンタが何をしていようと,咎めるつもりはない。
 だがこうして目撃してしまったのだから,理由くらいは聞かせてもらおうか?」

それは穏やかな口調で語られたが,紛れもなく脅迫であった。
…その一言に含まれた獅南のしたたかさを,貴方はどこまで看破するだろうか。

つまり,貴方がわずかでも獅南を魔術師として脅威と思っていれば,この脅迫は有効であり,貴方を動揺させる効果がある。
そして,効果があったということは即ち,貴方がこの白衣の男を知っているということの証明でもあり,
貴方の正体に関する獅南の想像が,正しいということの証明ともなろう。

他方,脅迫に一切の動揺を見せなければ,それは,さらに一歩踏み込むに足る理由となる。

「…そうか,そうだろうな……。」

鼻で笑う貴方の言葉に,獅南は小さく頷いて視線を地面へと落とす。

ブロンドの女 > 「…理由?あなたが知って、何になるわけぇ?」

甘ったるい口調で、なおも嘲るように語る女。
そこに混じるのは、純粋な嘲笑ではなく…ある意味、岩の槍を出現させたときよりも強烈な、拒絶。
「お前に何が分かる」と、その紫の瞳が敵対的に告げていた。

「…変な人。昔、私に似た違う声の女でも抱いたことがあった?」

視線を地面に落とす獅南に対して、なおも鼻で笑うように。
実際のところ、「相手に限って」そんなことがあろうとは考えていない。
恐らく、「バレて」いる。その可能性を考えない「女」ではなかった。

獅南蒼二 > 期待通りの反応ではなかった。
だが,それはむしろより明確な形で,獅南に貴方の正体を知らしめる。
拒絶…そして敵意。
声には決して出さぬよう努めているのだろうそれを,瞳が雄弁に語っていた。

「……さて,どうだろうな…女を抱くなど,何年も前のことで忘れてしまったよ。」

静かに,歩み寄る。
悲しげな瞳は,貴方を憐れんでいるわけではなく,灰と化した男を憐れんでいるのでもない。

「人違いかも知れんし,お前が言うように他人の空似かも知れん。
 ……どうやら私は,そいつのことを一つも理解してやれなかったらしくてな。
 今更ながらに,話を聞きたいと思った。」

……足を止めてわずかに笑んだ男の瞳には,何が映って見えるだろう。

ブロンドの女 > 姿を変え、言葉を偽り。この上で、なお瞳を偽ることがあるだろうか。
仮面を付けることが、逆に人を露にする…「彼女」は、結果として、それを体現していた。

「あら、見た目通り。
「カワイソウ」だからってこの身体を貸してやる義理もないけど…あなたにも、そんな気はなさそうね?」

強調された胸元に手を当てて、なおも嗤う女。
獅南が知る「彼女」の演技だとしても、あまりに挑発的で…服装と合わせると「品がない」とすら思える仕草。
そして、女が纏う甘ったるい香り。

…が、獅南が、わずかに笑みながらも「とある人物」の話を始めれば、訝しげに片眉を動かしてから…

「…誰の話だか、さっぱり分かんないけど。
話を聞くなら、本人のところへ行ったらぁ?」

と、何事もなかったかのように鼻で笑った。

獅南蒼二 > だが,獅南はもはや確信に至っており,その動作の1つ1つに意味を求めることはしなかった。
時として人には,別人にならざるを得ない瞬間がある。
……そして今は,貴方が別人になっていることが,この獅南にとっても幸いであった。

「……なに,本人はきっと,私とは口も利きたがらないだろうさ。
 私は,アイツを裏切ってしまったからな。」

本人を前にしては決して言えないような言葉を,紡ぐこともできるのだから。

「私のような凡人は,元より信頼などされていないものと思っていた。
 裏切るべき信頼など,我々の間には存在しないものとばかり思っていた。
 ………私にとってアイツは“天才”だった。勝手に,そう決めつけていた。」

……その裏側の努力を,認めてやることができなかった。

ブロンドの女 > 「………ばっかみたい」

「別人」という建前のもとでの、獅南の告白。
それを聞いた女は冷たい声でこう吐き出して、嘲笑した。

「誰の話なんだか、相変わらずさっぱり分かんないけど…
裏切りとか信頼に「天才」とか「凡人」とかが関係ある話だったなんて、は・つ・み・み。

…そもそも、いくらこの島だって、「天才」はそう何人も転がってないでしょ。
………ほんっっと、馬鹿みたい」

努力を認められなかった?それが何だというのか。
見えないものを認めなかったところで、だから何だというのか。

「この男」は、互いに交わした表向きの言葉すら、明白な形で裏切った。
その奥にあったそれなりに真剣な危惧も、完膚なきまでに踏みにじられた。

そして…「女」の知る限り、「魔術において」天才と呼ぶに値する存在の筆頭は。
救うべき、「あの人」をおいて他にない。

「…話はそれで終わり?もう、私は行くけど」

そう言って、女はバッグの中から、何か棒のような物を取り出した。

獅南蒼二 > 獅南は落胆することもなく,弁明もしなかった。
ただ,小さく肩をすくめて苦笑を浮かべ,

「道理だな,お前の言うことが正しい。」

そうとだけ言ってから,表情を一変させた。
相変わらず悲しげな色を湛えた瞳はそのままに,
表情はかつて異能者に対峙したこの男のように,冷たく,そして険しい。

この物語における,獅南蒼二の役割は決まった。


「……では,裏切りついでに一つだけ言わせてもらおう。
 【我々】の理想はもはや私を救いはせず,慰めにもならん。
 【お前】がそれに殉ずるというのなら,私はお前の【敵】だと覚えておくことだ。」

「“獅南蒼二はやがて必ず,最高の魔術でお前を倒す”」

そこまで言い切ってから,
……おっと,お前はアイツではないのだった。
などと,楽しげに笑った。まるで遊んでいるかのように。

ブロンドの女 > 表情を一変させ、「他人」に向かって宣言する獅南。
その様子を見て、挑発的に唇の端を吊り上げる女。

「………ほんっと、誰の話なんだか。
敵対宣言くらいは受け取ってあげても良いけど。

…あなたの立場があれば、「私」くらい簡単に潰せそうだけどねぇ?」

そう言って嗤う女。

「「………楽しみにしているわ?」」

間違いなく、動いたのは女の口だけだった。
しかし、そこに、微かに紛れ込む…枯れきった喉を持つ、別の女の声。
そして…魔術で変身しているからこそ安定しているはずの、「女」の瞳の色に…一瞬、わずかだが血の赤が入り交じった。

しかし、それを問いただす間は獅南にはなかっただろう。
手にした棒を女が手折ると、女の姿が掻き消えてしまったからだ。

「棒を折る」ことが、転移魔術発動のキーになっていたのだろう。
よほど強固に防護したのか…行き先を辿るのは難しそうだ。

もっとも、獅南には、その行き先は、ある程度想像がつくことだろう。

ご案内:「落第街の路地の奥」からブロンドの女さんが去りました。
獅南蒼二 > 全てを受け入れる世界を作るなどと嘯いても,人はそう簡単に変われるものではない。
彼女の全てを理解してやる器量など,あるはずもなかった。
……ここに立つのが自分ではない誰か他の人間なら,彼女を止められたのかもしれない。
だが,ここに無いものをねだったところで何も変わりはしないのだ。

それならば,己の手の内にあるもの……つまり,魔術学という強大な力をもって,己に成し得ることを成す。
不器用で,魔術学以外に何の取り柄もない獅南は,そんな選択をせざるを得なかった。

「……その信念は,誰の信念なのか。」

胡散臭いあの教師の言葉が,脳裏に蘇る。天を仰いで,獅南は大きく,ため息を吐いた。
……これは,思った以上に厄介なことになりそうだ。

凡人教室の連中を使って,クローデットを監視するか…それとも,泳がせておくか,
【レコンキスタ】から正式に離脱することで復讐心を煽るのもいい。
そしてまずは手始めに,降霊術についてでも,調べることにするか。

「……すまなかったな,クローデット。」

本人の前では口にできなかった言葉を漏らして,獅南は歩き出した。
……研究室でも,図書館でもなく,研究区のある区画へと。

ご案内:「落第街の路地の奥」から獅南蒼二さんが去りました。