2017/03/15 のログ
ご案内:「学生街の路地裏」に和元月香さんが現れました。
和元月香 > 放課後、夕方。

日の暮れた人通りの無い路地裏を近道と利用している月香。
今日は珍しく私服に身を包み、買い物へ出掛けようと早足で通っていた最中だった。

「うわっ、いでっ!」

何の拍子か足をひっかけて転んだ月香は、色気の無い悲鳴を上げて倒れ込む。

(…最悪)

…いつつ、と呟きながら体を起こす。軽く、涙目になっていた。

和元月香 > 「…」
(…うわちゃー…)

痛みを訴える膝を三角座りの形をして覗き込むと、広範囲に渡りすり剥いていた。
血がとどみなく流れている。どうやらたちの悪い転び方をしたらしい。

(…あー、うー…。いでぇ…。この辺洗うとことか無いし…。
そこまで我慢…するのもなぁ…)

憂鬱な気持ちで、ズキンズキンと痛みを訴える膝小僧を見つめる。
…空間魔術を利用した【転移】も、痛みで集中力がぶれているので使えそうに無い。

和元月香 > 「………」
(……仕方ねぇ)

月香は傷を見つめてかがみこんだまま暫く考え、決意したように顔を上げた。

(…あんまり気は進まないけど…。かなり痛いし)

正直、使いたくない手ではあった。
これ以上“これ”を悪化させるのは自分でも良くないと分かる。
でも、今はこれしかないのだ。

(…誰も来ませんように…!)

そう願い、周囲に散らばっていた先の尖った硝子片をおもむろに手に取り。

「___えい」

___ぐじゅり、と。
思いっきり、傷口を拡げるように、刺す。

和元月香 > 「あー、うー、これ見られたら絶対誤解されるー…」

…誤解もクソも、これは自傷行為以外も何があるのだ、と言われんばかりの行動だ。

月香はひたすら、傷口の中を鋭利な硝子片で掻き混ぜていた。
硝子片の欠片が入らないよう、慎重に。

しかし、傷口はぐちょり、ぶちょり、だの不気味な水音を発している。
それに流れ出る血液の量は増し、破れたタイツを赤く染めていた。

和元月香 > しかし、それを行う月香の顔から苦痛の色は消え去っていた。
特別何も変わらない、いつもの表情。

「…うん、収まった。
……ヤバいなー。確実に進行してやがら」

その口調は軽い。
千切れた肉の欠片がつき、血に染まった硝子片を側に置き、傷口を手で拡げてみる。

随分深いところまで抉られており、血は中々止まらなそうに無い。
周りに人がいたら、その人は顔を少し歪めるぐらいには痛々しげな、それ。

だが月香は、けろりとしていた。
けろりとしつつ、確信していた。


(___やっぱり、私の痛覚狂ってるわ。しかも進行してる)

自らの、歪みを。本人は軽く。

和元月香 > 始まって、100度目かの世界の事。
その時、薬浸けの母親に包丁で刺され、何度も突かれたにも関わらず、痛みをほとんど感じなかった。

痛みを少ししか感じなかった。
それも、最初に突かれた時だけ。

体は少しだるかったが普通に動かせたし、腹からボトボトと臓器を落としながら歩く自分を見て怯えていた母。

(…まぁ、そのあと急に意識が遠のいて気付いたら死んでたけど)

“大きく酷い痛覚から消えていっている”。
寧ろ、小さい怪我に痛みを感じる自分のおかしさには、早めに気づけた。
そして、痛覚の“歪み”は人生の回数を重ねるごとに度を増していった。

だから恐らく、心の問題だろう。
自分でも理不尽なくらい強すぎて全く分からない、心の。

和元月香 > 月香は精神的な攻撃を与えられた際、恐怖や、絶望などはもうしない。

恐怖はしても、でかい犬にビビるとか…軽い物のみ。
それさえ痛覚のように、大きな物から消滅し始めている。
だから、傷を広げれば痛みは消える。
そしてどの具合で痛覚が消えたかどうかで、進行度が確認出来るのだ。

「…最終的に、私って痛み感じなくなるんかな?そしたら、どうなるんだろ?」

…ちょっとした刺激的な感覚さえ消えて。
小さな恐怖も、五感さえも?

どばどばと血を流し続け、地面が赤黒く染まっても月香はしゃがみこんだまま想像し続けた。


「…わからない、」

ご案内:「学生街の路地裏」にラクリモサさんが現れました。
和元月香 > もう、月香は辛い物を食べても味しか分からなくなりかけている。
例えばそう、激辛キムチを食べてもほんのちょっとした辛さと、味しか。
辛味の薄い物では、もう辛味をほとんど感じることが出来ないせいで、辛い物を食べる時は極端に辛い物ばかり食べている気がする。

(…うー…。辛い物食べれないのはやだなー…。でも、

…その後は?)

五感が消えたら、甘い物も何も食べれなくなる。

「嫌だ、とは思うけど、こわくないな」
(自分は、どうやったら恐怖できるんだろ?…絶望できるんだろ?

いや、しなくていいけど)

これからも、きっとできない。
…それに、ちょっとの残念さしか感じる事が出来ない自分を、特に何とも思わず。

さすがに血を流しすぎた、と止血しようかとハンカチを取り出す。

ラクリモサ > 眠り込んでしまって随分遅くに保健室で目が覚めた。
そういえばあの部屋は普段使っていないんだった。
なんだか随分と気に入らない夢を見て寝なおしたんだっけ?
再び目が覚めた時にはもう寮は門限を過ぎていて……
今帰ると丁度寮監に見つかる時間。
見つかればお説教は免れないのだから面倒で……

「……この辺って聞いたんだけどなぁ
 何処かなぁ……何処かなぁ」

時間をつぶすついでに少し忘れ物を取りに行こうと思い
この辺りまで足を延ばしてみた。
ついでにこの辺りに狩って良い対象がいるとかいないとか。
ふと思い出したのでのんびりと空中散歩がてら屋根を伝って移動していて……

「んー……ぅ?」

嗅ぎなれている匂いをふと感じる。この町では珍しくもない
そして彼女にとっても嗅ぎなれた匂い。

「誰か"遊んでる"のかなぁ……
 時間まで暇だし混ぜてもらおっかなぁ」

実に軽い理由でそちら方向へ辺りをつけ飛び降りる。
かなり重い音共に路地裏に着地。辺りに砂煙が立つが……
ぱんぱんと軽くはたいて体の確認。
うん、全く異常なし。

和元月香 > 「…ん?」

不意に、月香は気配を感じて太陽が沈みかけて藍色に染まった空を見上げる。
まぁ気配には敏感な方だ。

(…なーんかやな予感がするぞー?)

大当たり。
一瞬遅れて、屋根から人影が落ちて砂ぼこりが立った。

「っ、うわ、げほんげほんっ、でぇっ!」
(…傷に砂しみた!)

咳込みながらも、傷口に入り込んだ砂の粒が食いこんで小さな痛覚が刺激されるのを感じとり、指で抉り取る。

「…誰やこんな端迷惑なのする奴は!!」

ラクリモサ > 既に遊んで(狩って)いい相手のことは忘却の彼方。
というより彼女の場合、相手を見つけても多分気が付かないのだけれど
その事も綺麗に脳内からさようなら。

「あれぇ……?一人ぃ?
 増えてる気がしたけど……気のせい?」

夢見がちな雰囲気のまま独り言のようにつぶやく。
先ほど感じたのはただの血の匂いではない。
乾いていくそれと、規模が増えていく流血の香り。

「楽しーことしてる気がしたんだけどなぁ……
 ……まいっか」

それは往々にして荒事や"オタノシミ"の香りだったりもするけれど……
少なくとも近くに人影はない。
自分で傷口をえぐるようなそんな特殊趣味がいるわけもなく
しかも目前の相手はそれなりに服装を気にかけているように見える。
それが血で汚れるような事をするなんて言うのは無いだろう多分。

「はーぃ。傍迷惑ですー
 ……何処かで見たことあったっけ?
 ないよね?あったっけ?どっちだっけ」

何処かで見たこともあるような気もするけれど
誰を見てもどこかで見たような気がするのだからきっと知らない人だろう。多分。
ああでもここ学生街だしもしかしたら知り合いかもしれない?
……いや、彼女の学校での普段を知っている人なら間違いなく彼女が事故ったと判断するだろう。
なら知らない人かな……

和元月香 > 砂煙が晴れ、現れた人影に少し目を見開く。
先日見掛けたばかりの女性だったからだ。

…名前は知らない。

(ていうかなーんかヤバい気がするなー。

楽しい事って殺人?殺人ですか?
何かこの人あれじゃないか、『血みたら最後まで搾り取る主義なんだ☆』的な快楽主義の殺人鬼じゃないよね?

そうだったら逃げよう)

明らかな被害妄想を繰り広げる月香は、自分の命は大切だ。いくらどうせ繰り返されると言えど、まだ死にたくない。
…さっきまで自傷まがいに励んでいた奴が言う資格は無さそうだが。

変な汗をだらだら流しつつ笑顔で流す事にしよう。

「…うーん、あるんだけど一応…。
異邦人街の店で意味分からんジュース売りに来た人よね?」

前回の如く記憶喪失しちゃってるのだろう、月香は察したので、当たり障りの無い口調で言ってへらりと笑った。

…血は地面に血溜まりが出来る程には広がっている。

ラクリモサ > 「あ、知り合いだった?
 ごめんねぇ。私物覚え悪くって」

正直面倒な所で知り合いにあったと思う。
情報としての記憶をたどる。

「……ああ、ジュースデートのヒト」

ぼんやりと眺めながらうわの空で手を打つ。
それよりも微かな違和感が気になっていた。
目の前のコノヒトは何だか違和感を感じる。
イキモノとしてのヒトには何だか目の前の相手は不自然だ。
……嗚呼、わかった。

「……痛くないんだ?」

目の前の相手からはけが人の雰囲気がない。
命に別状はないとはいえそれなりの怪我をしているのに
追い詰められた雰囲気や、苦痛や恐怖といった"表情"がない。
とは言えこの島では別に珍しくもない話だけれど。

「止血しないとそのうち歩けなくなるよ?それともそういう趣味?
 流血好きは引かれちゃうよ?オトコノコには。
 それはともかくその服もう着れないねぇ
 一式買い替えだよ?」

普通なら心配するのは傷かもしれないが全く別の事を心配していた。
ボーダータイツとスニーカーは完全に血で染まっている。
座り込んでいるなら服の裾も、当然傷口近くを抑えていただろう手の袖口も。
あれはもう買い替えする羽目になるだろう。
血の汚れはそう簡単に落ちないらしいし。

和元月香 > 「うん、物覚えが悪いどころじゃないような気がする」
(だって自分の名前覚えてはらへんかったやん!)

にっこりと笑って、そうきっぱりと言う。
自分の名前だけは覚えてくれ、心配だから、との念も込めて。

「うん。デート違う。真乃君とは知り合い、男女の間にも友情は生まれるものなのだよ、必ず恋愛感情が生まれるなどという事は無いのだ」

…にっこり笑って、付け加えるように諭す。
何か最後の方血迷ってるような気がするけど気のせい。

そして思ったより心配してくれている目の前の女性には笑顔で、

「あぁ、大丈夫大丈夫。その辺についてはご心配無く。
この服もう要らないし、私転移できるんで周りの人には見られないように帰れるし。

…うーん、血はちょっとヤバいな。早めに止血しないと」

…と、軽い口調で説明してハンカチ片手に淡々と止血に掛かる。
その手際は恐らく、手慣れているように相手には見えるだろうか。

寧ろ、血で汚れた服については好都合。
服は何年も買って(貰って)ないし、新しい物をそろそろ一気に買おうと考えていた所だ。
サイズがピッタリなのは、単に成長期が来なかったから。

そのまま、軽く笑って尋ねる。

「で、君は何で今ここにいんのかな?」

ラクリモサ > 「気が付いたら忘れちゃってるんだもん。仕方ないよね。うん」

人の名前を覚えるのは本当に苦手だ。
見分けがつかないので服装やしぐさ、付加情報だけで覚えないといけない。
一応知り合いらしいけれど顔見知り程度というより会っただけが近い。

「んーぅ…?」

ぽやーっと首を傾げながら少し離れた場所にしゃがみ込んだ。
その割には何だか異常に警戒されている気もするが
あの時何かやったっけ?うん、全く覚えてない。
多分何かやったんだろう。爆発物飛ばすとか。
もしかしたら変人嫌いとかその類かもしれない。

「ユージョー。あ、知ってる。
 夕日の中殴り合いしてその結果生まれるとかいうやつだったよね多分。
 拳で語り合うだっけ?裸の付き合いだっけ?なんかそんな感じの」

ここは昼間の食堂かというほど呑気な言葉を交わし続ける。
実際は血まみれでへたり込んでいる近くにしゃがみこんで首を傾げているのだけれど。
血だまりが出来るほどの深い傷には見えなかったけれど
事実出来ているのだから、打ちどころでも悪かったのだろう。
冷静に目測で血液量をはかり、致死量を推定する。
案外出血死というのは血液という目に見える死の恐怖に耐えれば
苦痛の少ない方法の一つと彼女はよく"知って"いる。

「あそぉ?」

慣れているようにも見えるしやっぱりちょっと出血する癖のある変な人だったみたいと
脳内の情報に書き足しておく。
わざわざこんな所でやらないでもとは思わないでもない。

「それは私の方が聞きたいかなぁ……。
 そいうのは自分のおうちのお風呂でやるのがおすすめだよ?
 運が良ければあれだから」

割と笑顔でそういう人なんだなぁと温かい笑顔を向けていた。

和元月香 > 「そっか。うーん、…名前は今覚えてます?いい加減知りたいんだけど」
(…気になるから)

順応力には自信があるので、あっさり頷いて了承。
…まぁこの島じゃそんな人もいるよねー、とまさにそんななげやり状態である。

「…君知識偏ってんなー。
ま、まぁね、それも一つの方法ですわな」
(アニメ脳?なんかなー)

間違いでは無いので、苦笑いで肯定する。てか、こんなとこでする会話では無い。

「うん、その笑顔止めてね。これ不可抗力だから。しゃあないから。
私はここが早道だから歩いてただけ。OK?」

生暖かい笑顔を向けられ、そういう変人扱いはやめなさい、とばかりに矢継ぎ早に弁解しておく。

「…お風呂かぁー、炊くのめんどいしいいや。てかあれって何」

…こんなとこでするのは、月香が妙にめんどくさがりだからに他ならない。
そして、止血に医療的知識はほとんど無い月香だ。独学で覚えたにすぎないので、きょとんと首をかしげるだけだった。

「あー、あと、私和元月香ね。覚えなくてもいいけど、まぁよろしくね」

血だらけの手をもうどうせ要らないし、と服で拭いながらなんとなく自己紹介。

(…出来れば関わりたくは無いけど、二度ある事は三度あるだし)

はぁー、とつい溜め息が出た。

ラクリモサ > 「名前ー……」

……何だっけ。
たっぷり数秒首を傾げたまま固まる。
そういえば最近似たような自己紹介をした気がする。何時だっけ?

「ああうん、確かカナタ、だよ。
 自分の名前とか吃驚するほどどうでもいいよね。
 何であるんだろ。名前。ああ、区別する為かぁ」

独りで納得しているがこのくだり、実は学校では日常茶飯事だったりもする。
実際に彼女も学校の知り合いは大体名前で紐付けして覚えているのだから
恩恵にあずかっていないわけでもない。

「不可抗力の人はそんな怪我の仕方しないよ?
 怪我したままじっとしてないし、もっと慌てるし。
 それにお風呂は毎日はいろ?」

唐突に正論をぶちかましていく。
本人からすれば思いっきり親切のつもり。
良いからいいからわかってるからみたいな笑顔のままうんうんと頷く。
まぁ確かに人に知られたい趣味ではないし。
続く言葉には小さく首を傾げる。

「覚えなくていいのに紹介はするんだね。変なの
 名前……ん、名前は覚えた」

いかにも面倒だなぁという空気が漂ってはいるものの
それでもこうして暇つぶしに付き合ってくれているのは律儀なのかそれとも変な拘りでもあるのか……
まぁ歓迎してほしいとは微塵も思ってはいないけれど、面倒ごとに巻き込まれやすそうな性格だなぁと思う。

和元月香 > 「……………………カナタね。うんありがとう。
私は自分の名前、気に入ってるけどねぇ」

名前が嫌いな人はいるだろうが…どうでもいい人は始めて見たかもしれない。
ぱちくりと瞬きしながらも、ふぅんと聞いておく。

「…もういいよ…。君は私を可哀想な人にしたいんでしょ…。そうだよ客観的に見れば痛い人だよどうせ…」

もうツッコむのもめんどくさくなったらしい。
別にへこんではないけど、月香はいじけたように地面に落書きし始める。寧ろお前がめんどくさい。

「お風呂は毎日入ってないけど…シャワーは浴びてるよ」

…だから不潔じゃないんだよ、と然り気無くアピール。

「ただの自己満足みたいなもんっすよ。何かこっちは名前教えてもらったし、こっちも教えなきゃなーみたいな」

そう軽く笑った後、月香はなにかを思い出したかのようにすっくと立ち上がった。
さっきまでだらだら血流していた人物とは思えないぐらい機敏に。

「もうそろそろ帰るわ。まぁ付き合ってくれてありがとうね。

…アニメあんの思い出したし」

使命感に駆られた真顔だった。

ラクリモサ > 「名前が気に入ってる、うん。いいことだよ。
 きっと沢山呼んでくれる大事な人が居たんだね。
 ……痛い人って言っても実際痛がるべき怪我してる自覚はあるのかな?
 実際問題現在進行形で物理的に痛い人だよ?キミ。
 それはともかく……それじゃ止まんないよ?」

手慣れているようにも見えたけれど傷が深すぎたのだろう。
血だまりが出来るレベル。間違いなくある程度血管は傷つけている。
その割には手当が雑というか……まぁ"平気なタイプ"のよくやる癖。
間違って深く傷をつけすぎたのだろうか。

「……此処学校じゃないけど、まいっかぁ。
 座って?知り合いの誼で治してあげるよぉ」

保健室の変人と呼ばれる程度には魔導医術には精通しているし……
恩は売っておくに越した事は無い。まぁ売ったところできっと忘れてしまうけれど。

「アニメ見終わって文字通り昇天したいなら止めないけど」

アニメ好きなのもわかった。
ヘマトフィリアでアニメ好き……きっと吸血鬼のアニメに違いない。
もしも言葉に応え座ったなら、傷を一手撫でるだけで傷は消えているだろう。
まるで周りの血が冗談のように……痕一つなく。

和元月香 > 「…………ん?マジでか。
………止まってねぇじゃねぇか…」

ちょっとやり過ぎた、と苦い顔。
つい物思いに耽りすぎて、ぐりぐりやっちゃいすぎたかもしれない。

(治癒魔術とか、学校で覚えようかな)

…こっそり意思を固める。

「…あー、かたじけない」
カナタの申し出には、大人しく頷いて座る。

ちなみにアニメは何か吸血鬼に支配された世界の某アニメである。

そして、傷が完璧に治ったのを見て大きく目を見開いた。

(…なんかすげぇ。何これ?異能?いや魔術か。

…使えたら便利だろーなー…)

結構のやり手らしい、と感じて少し息を飲む。
…やっぱり…出来れば関わらない方がいいかもしれない。
あちらもきっと、こっちには興味は無い。
でもきちんと、礼は述べるべきだと立ち上がり。

「ありがと、助かった。
…あー、これちょっとばかりのお礼ね。忘れられるかもしれないし」

血に濡れていないポケットから、キャンディーを取り出して握らせる。

__息を吸い、魔力を軽く練り上げ。
ぱぱっと印を手慣れたように結べば、金の光が月香の体を包み。

「じゃーね」

…音も無く消えて、血だまりを残すのみとなった。

ご案内:「学生街の路地裏」から和元月香さんが去りました。
ラクリモサ > 「治す手段無いんなら気を付けないとだめだよぉ」

そんな一言で治癒は一瞬。
それについての知識は無いほうがきっと幸せだろう。
それは自然治癒ではなく術式が複雑な上にミスすると悪性腫瘍になりかねない、プロでもなかなか使わないような術式。

「結構ヒトって脆いからねぇ」

勿論失敗するはずもないが。
彼女にとっては呼吸以上に身近な術式の一つなのだから。

「それじゃ、バイバイ
 次会ったときすぐわからなくても怒んないでね?」

そんな一言で消え去る瞬間まで笑顔を向ける。
その後おもむろに握らされた包み紙を開けた。
中に入っていた飴を投げ上げ、口に含む。
――うん、甘い。
舌で転がし、微笑む。それはある意味扇情的とまで言えるような笑み。

「ふぅん、ああ、そういう事かぁ」

その舌先に在る飴には赤い染み。
傷口から採取した、赤い赤い液体。

「うん、オボエタヨ」

そう呟くとまたとことこと何処に向かうまでもなく歩き出す。
時間を見るとそろそろ良い時間。

「……あれ?良い時間って何待ってたんだっけ。
 そもそも此処何処だっけ」

そんな事を呟きながら表通りへと歩いていく。
どうしてこんな場所にきたのかは既に忘却の向こう。
なんでもいいやと思考をとぎらせながら、どこともなく歩いていくだろう。

ご案内:「学生街の路地裏」からラクリモサさんが去りました。