2017/09/18 のログ
ご案内:「違反組織群の一角(過激描写注意)」にヨミさんが現れました。
ヨミ >   
世には死体を芸術作品として利用する芸術家がいる。
死体の腐敗と言うのは意外と早い。
条件次第では一日と経たず死体は腐敗し、
人型の染みを床にしみこませ始める。
だからこそ、真っ先に施すべきは死体の清浄化だそうだ。
ミイラや剥製を作る方法とよく似ているが、
まずしっかりと腐敗する物を取り除き、それから残った”側”に
防腐処理を施していく。
それは本当に時間との勝負。遅れれば遅れるほど、
死体は生前の色を失ってしまうらしい。

勿論本来は本人や遺族の許可、
それだけでなく行政や衛生管制各局の許可が必要だが
そういった手続きを行わずそれらの芸術を行わんとする者も
世界中には一定数いる。

……彼らがこの部屋を眺めたなら、諸手を挙げて喜ぶだろうか。
新鮮な死体がたくさん転がっているから。

それとも憤懣やるかたないといった表情で嘆くだろうか。
それらは無残に放置され、文字通りただの物体として放置されているのだから。

ヨミ >   
「ふふ、運がなかった、ねぇ。
 それとも相手、を、間違えた、のかなぁ?
 ご愁傷様ぁ」

床に広がる赤い池に
まるでオルゴールの様に粘液が滴り落ちていく音と甘い声が響く。
それに応えるかのように吐き出されたのは震える吐息と引きつったような悲鳴。
深紅に染まった部屋の中には震え、声も出なくなったイキモノが二人。
そして怪物が一人だけ。
その他は全て物言わぬ物体へとなり果てていた。

その数は20に少し満たない程か。
運のない傭兵とこの組織の構成員、
目の前で震えているお馬鹿さんとその愛人のペットが幾人か。
――本当に運がない。この階層にさえ居なければ
きっと明日も朝日を拝む事が出来たはずなのに。

今頃外ビルの外では内部で何が起きているのか何も知らない傭兵が
呑気に周囲に向けて威嚇の銃口を向けているだろう。
護衛対象がどうなっているかも知らないで。
今仮に部屋を覗き込めば、何事もなく平和な室内の様子が見える。
いつも通りの連絡にいつも通りの風景。

……一つだけ違うのはそれら全てが彼女の世界であり
その中で再現された虚構であるという事。
空間すら捻じれたそこに入り込み、いつも通りと安心して
愚直に与えられた仕事に務める。嗚呼なんて幸せな一日。

彼らは本当に幸運だ。

同じ階層に居なかったからこそ全てが終わって初めて
この現実を思い知るだけで済む。

ヨミ >   
「それにして、もセンスがない、と思わない、かい。
 こんな下らない、仕事、ボクに投げる必要、なかった、と思うんだぁ?
 今この島ぁ、色々変な人、多いんだからぁ」

一切の抵抗を失ったかのようにざっくりと一部が削れた机に腰かけたそれは嗤う。
少したどたどしい口調と甘い声。
赤い紅い粘液の塊の上で足を遊ばせながらその足先には一切の汚れは付着していない。

「……。
 それじゃ、お喋り、始めよっかぁ?
 面倒だから、早くしゃべってねぇ?
 私サディスト、じゃないから、早く終わらせたいのぉ。
 判るでしょぅ?」

部屋の隅で震える二人には見えるよう自身に付与情報を加える。
目の前に唐突に表れた人影に引きつった怯えた声を上げたそれに
言い聞かせるように人差し指を振った。
それが合図であったかのように
部屋中の至る場所から大小さまざまな“目”が現れ
眼下の哀れな犠牲者をじっと見つめ始める。

哀れなモルモットをただ冷徹に眺める研究者のように。

そう。この場では彼らはまさに
理不尽にさらされた哀れな犠牲者。

ヨミ >   
「えーっと、制裁内容……
 目に余る活動、範囲と、傲慢たる手腕が
 秩序を乱す、と判断?
 うっわぁ……おまいうってこの事、だねぇ?」

片手でつまむ方に羊皮紙を広げ、
内容に目を通しけらけらと笑う。
要約するとこの組織は最近この島で台頭してきた違反組織の一つで
潤沢な資金とそれに支えられる強力な火器を楯に
急激に勢力を広げていたらしい。
しかもその分野が異能開発に関わる薬物や
未登録であったり違法な異能者を中心とした傭兵業……

「つまりぃ、うちと方向性が、もろ、被りしたあげくぅ
 派手に、やりすぎたからぁ、潰すねーってことだねぇ。
 ごしゅーしょーさまぁ」

通商ルートをいくつか接収されたことが
戦力投下を行う切っ掛けとなったらしい。
そして他組織に対しての見せしめかつ警告の為に

「……派手に殺して実況中継?
 やっぱりボク向き、じゃないと思う、んだよねぇ」

ヨミ >   
「だってほらぁ、ボク、映らないし、聞こえないしぃ
 映像的にはあんまりぃ、面白くない、と、思うんだよねぇ……」

文字通り彼女はこの状況に至るまで”一切認識すらされていなかった。”
この制裁は予告文も送り付けられている。
ご丁寧に制裁日と大まかな時間すら記載されたそれに対抗するために
このビルの周りにはこの組織の経済力をフルに生かして
良質な武器を持った異能者や魔術師が両の手で数えきれないほどの数警備している。
……十進法でなければ余裕で数えきれる数ではあるけれど。

彼女はその真ん中を正々堂々、ただ歩いてきただけだ。
誰一人にも認識される事もなく。
当然だろう。今の状態の彼女は実数世界から切り離されている。
だから誰にも邪魔されずに部屋にたどり着き、
中に控えていた有象無象をものの数秒で肉片へと変えてあげた。
きっと彼らは死の目前まで何が起こったのか理解できなかっただろう。
攻撃されている事すら認識できず、ただ目の前で同僚が削り取られて死んでいくのだから。

「きっと君達の光景、も、相当シュールなんじゃ、ないかなぁ
 見えない、何もいな、い場所にひたすら怯えて、頷いたり、首を振ったりする、なんて
 傍から見たら、ただの狂人だよねぇ」

目の前の二人にも光を返さない黒い影程度にしか見えていない。
大男か小娘か、そのどちらかすら認識できていないだろう。
だからこそ恐怖を煽るのだが。

「……まぁ良いかぁ。
 どーせ、ただの共喰い、だしぃ。
 それじゃ、今から君は君はトム、隣のそっちはキャシーね?
 性別、逆だったら御免、ねぇ?」

甘く、たどたどしい子供の様な声色で紡がれるにはあまりにも殺伐そしている内容も
目前の二人には男か女か老人か若者か、それすらも判別がつかない音で聞こえている。
どうせ、理解なんかできない。

「それじゃ二人に聞くね?
 スカボローの市にはいくの?
 空って青いっていうけど灰色だと思わない?
 昨日はちゃんとお風呂に入った?
 筆箱を開ける時左手で開ける右手で開ける?
 この世に神はいると思う?
 豆腐は美味しいけどちくわは好き?
 スカボローの市にはいくの?」

傍から聞けばきっと意味不明だろう。
そのとおり。初めの質問にはまったく意味などないのだから。
 

ヨミ >   
「口も温まって、きたし、
 ちゃきちゃき、答えて、ねぇ?
 まずはそう、資金源、はどこぉ?
 この島に来て、日が浅いのに、
 どうやって、あんなに、資源を手に入れたのぉ?」

幾ら資産に物を言わせたとしても
新参にしてはこの組織は手際が良すぎた。
規制の厳しいこの島の検閲を潜り抜ける手法を見つけ武器や物資を運び込み、
この島内でも一定以上の水準ともいえる都合の良い異能者を集め
この島でしか手に入らない筈の薬剤や機械を複製し、販売軌道に乗せる。
明らかにその期間が短すぎた。
この島における古参組織ですらそこまで完ぺきにこなすことはそう簡単ではない。
けれども彼らはそれをいとも容易く実現した。
背後にいる者が厄介な組織であることは間違いない。
……その優秀さに反して矢面に立たせる組織の選定を失敗したと言わざるを得ないが。

「欲を出し過ぎ、たんだよぉ。
 あっさり特定される、ような動き方して、
 この島で生きていけ、る、なんて考えが甘すぎ、だよぉ?」

この世界で最も何でもありな領域と言っても良いこの島で
他地域で通用したような方法は通用しない。
銃弾も刃物も一切怖くない様な物などそれこそ幾らでもいるのだから。
学生だけに限定しても簡単にその例を挙げる事が出来る。

ヨミ >   
「あ、単独です―、とか
 そういう答え、いらない、からぁ
 そんな答え、無駄だもぉん」

震える声で返された予想通りの回答にうんざりとした様子で腕を振って遮る。
そう、この組織だけでこれらを行ったと考えるにはあまりにもちぐはぐすぎる。
流通の手際と立場確保の手腕があまりにも違いすぎるから。
だからこその見せしめなのだ。
背後にいる者達に
”この島に、自分達の領域に手を出せばどんな目に合うのか思い知らせるために。”
目前のコレもその事はそろそろ理解できるだろう。
どうせ殺されるなら何も喋らず終わらせるつもりらしい。

「……ああ、浅はかぁ」

そんな事が可能だと甘い夢をまだ見ている辺り
この期に及んで異能者の事を、この島の事を理解していない。
ただ苦しむだけ。こちらとしてもただやるべきことが増えるだけ。
嗚呼本当に心の底から……

「下らない」

この滑稽な人形劇のアクターが自分だという事がさらにやるせない。

ヨミ >   
「言ったよねぇ……
 ボク、は、サディストじゃないって」

氷像のような眼で目前の二人を見下ろす。
ああどうしてコレはこんなにも醜いのだろう。
ああどうして、こんな奴らの同類に……

「それじゃぁ最初は定番のだねぇ」

言い終わると同時に答えた男の腕から乾いた音が響き
口の端から泡を吹きながら汚らしい絶叫をまき散らした。
骨を捻りながら幾条にも割られた感覚は
文字通り正気を失う痛み。
あの時は本当に痛かった。叫ぶ事すら出来なかったけれど。

「それじゃぁもう一度聞くね?
 スカボローの市には行ったの?」

相手が答えるよりも早くもう一方の腕から同様の音が響く。

「幸福な王子は幸福だったのかなぁ」パキン
「トマト食べたい?」パキン
「前でする派?後ろから派?」パキン
「夏に行くならヒマラヤとアンデスどっちがいい?」パキン
「1972年にノーベル物理学賞をとった人は?」パキン
「鶏が先?卵が先?」パキン
「男の子は何でできてるの?」パキン……パキン……パキン……

答えるより先に、手が、足が形を変えていく。
耳に障る絶叫を聞き流し淡々と紡がれる質問の調子が変わる事もなく。
骨は開いても血管は今はまだ傷つけない。
次は……そう、何処を削ろうか。

ヨミ >   
彼らは未だ一つ勘違いしている。
この処刑は初めから、情報を得る事などあまり期待はしていない。
そもそもこれまでに取り込んだモノ達の情報で大体は把握できている。
必要なら目の前のこれを喰らえばいいだけの事。
彼から自発的に吐き出される情報に何ら価値はないのだ。

「だから面倒って言ったじゃないかぁ
 早く吐いてよぉ。暇じゃないんだからさぁ」

望まれるのはただの喜劇。
血反吐を吐き、尊厳を失い、無意味に無様に
人にも満たない畜生以下のあり様で
歎願し、這いずり回り
果てる姿を晒すことこそがこの演目の目的。

「お約束って大事、だけどぉ
 無駄な時間を使うの、は、良くないと思うんだぁ?」

あまりの痛みに泡を吹き、白目をむく男から視線を外し
もう一人の女へと目を向ける。
その何の感情もない瞳を見た女は悲鳴すら上げる事も出来ず
ただただ壁際で震えるばかり。

「次はキミ、だねぇ。
 それじゃ、何処から始めよっかぁ」

ふと足元に転がる物体に目を向ける。
かつてはパイプ椅子の足だったのだろうそれをゆっくりと拾い上げる。

「君はちゃあんと判ってるよねぇ?
 どうすれ、ばいいのかぁ」

にっこりとほほ笑む言葉に涙を零しながら頷いた女を見てその笑みはさらに深くなる。

「良かった。じゃぁ手っ取り早くいくねぇ?」

その手から棒状のそれが消える。
同時にぐぇとえづく音共に女の口の中からパイプ椅子の足が生えた。

「次はどれにしようかなぁ……
 神様、の、い う と お り♪」

目についた小物を女の体内に適当に移転していく。
大小さまざま、入るか入らないかなどどうでもいい。
嗚咽の間に零れた懇願ももちろん気にもかけない。
どんどんと女の体が膨らんでいく。
肺の中にも、喉の奥にも、好き勝手に詰め込んでいく。
脳はまだ残しておかないといけないので適当に残しておこう。

「ああ、こんなのも、在るよぉ?」

この部屋に入る際に巻き添えを食った有象無象の
上半身を削り取られ、倒れた半身を見つけ、
手を伸ばし、一部を掴んでそのまま引きちぎる。

「こういうの好きでしょ?
 ほら、だって君に、求められてた事って
 こういうの、咥え込むだけだもんね」

涙を流し僅かに首を振る様子も気に留めず容赦なく体内に転移。
ついでについてきた消化器官も一緒に転移しておく。
中身も何だか詰まっていたけれど大した違いはないだろう。多分。
幾分か経てば数刻前までは綺麗と言われていただろうその体は達磨のように膨れ上がり、
体内に詰め込まれた異物で歪な凹凸が浮き出た不気味なオブジェと化した。

「あは、意外と頑丈だよねぇ。ヒトってぇ」

それでも彼女は生きていた。
厳密にいうと、生かされていた。

ヨミ >   
「ほらほら、ちゃんと起きないとだめだよぉ
 愛してるんでしょぉ?ちゃーんと愛してあげないとだめだよぉ」

白目をむいていた男の意識を無理やり引き戻す。
激痛に気をやっていた男は現実に引きずり戻されると同時に
目の前の狂気に悲鳴を上げた。

「ほら、抱きしめてあげて?
 そうしないと、ほら、そのヒト弾けちゃうよぉ?」

哄笑を哄笑と受け取れる余裕もなかったのだろうか。
それとも本当に愛情だったのだろうか。
そのどちらなのかもわからないが
男は萎びた腕を懸命に伸ばし女の体を抱きとめようとした。
ぱんぱんに膨れ上がり、あごも外れ下を向くこともままならず
裏を向いていた女の目がそんな様子の男へと注がれる。
けれどその腕が抱きしめる事は無い。
骨が螺旋状にわかたれた状態でまともに腕が上がるはずも
力が籠められるはずもないのだから。

「仕方ないなぁ。手伝ってあげるよぉ」

無邪気な調子の声に、双方の顔が凍り付く。
それと同時に地面を紫電が走った。
それは二人の体を通り抜け、苦痛だけを残し
その筋肉を収縮させる。
砕かれた手足と……体に異物が詰まった体の筋肉を。

――ビリ、ともバリともそのどちらとも言えないような
けれど確かに肉が裂ける形容しがたい、そんな音が響いた。

ヨミ >   
胸の悪くなるような音と共に
様々な材質の物が床にぶつかる音が部屋内に響く。
中身をたらふく吐き出して少々スマートになったモノと
紫電の痛みと目の前の惨劇に気も狂わんばかりのモノを
つまらなそうに眺めた後、足元まで転がってきたリング状の物を
軽く蹴り飛ばす。

「だらしない、なぁ……?
 ボク、の時は、体の倍位は、詰め込まれたらしいよぉ?
 柔軟性が足りない、んじゃないかぃ?
 包容力って大事、だよぉ」

あの時は本当色々突っ込まれたらしい。
まぁそもそもあのタイミングでは
異物が体内に入らない時期は無かったと思い返す。
最も、記録にすぎないけれど。

「そっちはしばらく動けないみたいだし、
 少し寝かせて、おいて、あげようかぁ?
 ボクってば、やっさしー」

男の瞳が恐怖一色に染まる。
やっとわかったのだろう。
目前に居る姿形すら判別できない何かが
何をしてもおかしくない存在だという事を。

「男女平等って大事だよねぇ。
 ちゃんとそっちの方に、も答える権利があっても良い、と思うんだぁ?
 言いたいことは、ちゃぁんと発言しないとねぇ」

けれど遅すぎる。
こうなって初めてそんな事に気が付いても、本当に遅すぎる。

ヨミ >   
「あは、これ見た君のごえーさん、達は血相変えて
 君の部屋に、飛び込んでるんだろうねぇ」

有象無象が持っていた銃器を拾い上げ
くるくると手元で回しながらのんびりと呟く。

「でも部屋の中、の、君達は呑気にポーカーなんかして、
 お気に入り、のペットに突っ込みながら、笑ってるんだよぉ?
 映像に騙されてるんだ、ろって。
 それを見て彼らは、ほっと胸を撫で下ろして、そのまま持ち場に戻っていく……
 襲撃なんか、ただのガセだったんだぁ。何もない、じゃないかって、ねぇ?
 いやぁ実に平和だよねぇ」

そちらの方が虚像だというのに。
足元の世界が既に彼女の世界に切り替わっている事すらも気が付かず
良く出来た人形劇の世界で安心している。
例え精査しても気が付かないのは仕方がないだろう。
ビルの中の人物、置物、塵の一つに至るまで
全て完全に複製し、再現しているのだから。
まぁある意味、彼らにとっては現実か。

「だからねぇ?安心してぇ?
 ここにはだーれも、来ないからぁ。
 だーれも、邪魔しないからぁ」

助けなど来るはずもない。来れる筈もない。
起こっている事を認識できなければ、それに対処などできるわけもない。

「さぁてと、次は何が良ーぃ?
 嗚呼、その前にちゃんと、質問しないとだった。
 どうして、空は青いのぉ?」

その言葉と共に男のつま先にポツンと黒い粒が落ちる。
それはもぞもぞとうごめくと次第に数を増やし……
増えると同時に靴から削られるような音が聞こえ始め、
靴にゆっくりと穴が開いた。
音は次第に大きくなっていく。
無数の何かが肉や布を顎で挟み、削り取るような、そんな音が。
やがて身を削られる痛みに身をよじり、暴れる体から黒い粒がいくつか
隣で内臓や文字通り体内を晒しながら横たわり、虫の息のもう一人へと降り注ぐ。

「あはぁ。じゃぁ二人に質問するねぇ?」

その体がビクンと跳ね、耳障りな声を上げる。
ふりかかった粒は被害者の体を糧にどんどんと数を増やしていく。
付着した皮膚を、内臓を、目を、その顎で削り取り
奥へ奥へと進みながら。

「あーぁ、トムぅ。キャシーが蟻に襲われた青虫みたいに
 びっくんびっくん跳ねてるよ?
 例のお薬も注射した、ら、こんな感じになるんだよ、ね?
 よかった、ねぇ。自ら体験できる、なんて貴重な経験だよぉ
 今後の人生に是非、ごかつよーください」

この行為は決して正義等ではない。
むしろこの島に、常世に対する背信行為と言える。
結局はただ毒蛇がより強い毒蛇に甚振られているだけ。
主より先に死に瀕しているこの女もただの愛玩動物。
主の意を借りて好き放題やっていた愚かなハイエナに過ぎない。
何も知らず、なにも理解していない。
だから、この男に苦痛と恐怖を与える為にしか"使え"ない。

「……嗚呼、誰に被ってるんだろう」

小さく呟く。
この目の前の愚かで震えるしかない醜いものを
以前何処かで何度も目にしていた気がする。
ただただ、目的すらなく、何も与えられることなく
愛玩動物どころか憂さ晴らしの道具として
ただただ消費され作り替えられ
獣の玩具にすら堕ちた誰かを。
目の前のこれが、記憶の奥底にいるその誰かと被って仕方がない。
一瞬走った不快感はすぐさま忘却の奥底へとしまい込まれる。
そんな事はどうでも良い事。
忘れてしまうほど、大事でも何でもない事。

「嗚呼、でも言ってたよぉ。
 これが愛なんだって。
 こうやって沢山沢山遊んでくれることが、愛されてるっていうんだって」

そう、誰かが言っていた。
これこそが愛なのだと。
“彼女”は皆に愛されていたのだと。
だから……

「良かったねぇ……沢山沢山愛してあげるよぉ?」

脛まで食いつぶされ、悶絶するソレと
断末魔の痙攣で時折ピクリピクリと震えるモノに
優しい笑顔で投げかける。

ヨミ >   
あれは意識も完全にない。
あの痙攣はただの生理反応に過ぎない。
もう片方はそれを悟ったのだろう。
襲い来る苦痛の中で身をよじり、恐怖に身を捩りながらも
解放されたと心の何処かで無邪気に喜んでいる。
なんというか……愚かを通り越していっそ微笑ましい。

「あらー死んじゃったかぁ。
 脆いよねぇ。ヒトってぇ。
 折角愛してあげるって言ってるのにぃ」

その言葉と共に無数の何かが動きを止め、彼女の足元へと集まり動きを止める。
それに覆いつくされていた下半身は既に骨も残っておらず、
喉がかれ切った男もうめき声のようなものをただ零すのみ。
あと数分もすればこの男も死ぬ。そう、蟲に喰われた下半身を投げ出して。
もうそろそろ痛覚も感じなくなる頃だろう。
彼女はそのタイミングをとてもとてもよく知っている。
苦痛も感じない中で、少しだけ正気に戻ったのだろうか。
何も喋らなかったぞ。ざまぁみろ。と吐き捨てられた言葉ににこにこと笑みを返す。
これだから、初めて死ぬヒトと言うのは甘い。

「……んふ、足りない。まぁだまだ足りないよぉ」

その声を理解できなかったのだろうか。いや、理解したくなかったのだろう。
何かを願うような男の目が声の方向へと向く。そうでないであってくれと。
胸中を吹き荒れる不安が現実のものになりませんようにと。
けれど、悪い予感と言うものは当たるものでしょう?

「死んで終われる訳ないじゃなぁい
 もしそうなら、私が殺すわけがないでしょぉ」

小さく手を打ち鳴らす。
それと同時に息絶えていた筈の女がごふりと息を吹き返し
その傷もまるで無かったかのように元に戻っていく。
その様子を見て男の目に理解の光と、深い絶望が宿った。
喉から漏れる声は最早啼き声にもならない。
そう、この喜劇はいつまでも続く。
彼女がやめようと思うまで。

「へーきだよぉ?
 体が壊れても、心がすり減っても
 なぁんどでも、治してあげる。作ってあげるぅ
 そうすれ、ば、ずーっと愛して、あげられるよぉ?
 嬉しいでしょ。嬉しいよね?
 だって本に書いてあったものね。ヒトは皆愛されたいってぇ」

そう、死んだところでもう一度やり直せばいい。
死んだ程度の事、幾らでも生き返らせてあげよう。
実に無邪気な調子で告げる。
その心が愛で満ち満ちるまで何度でも繰り返してあげましょうと。

――二つのソレがモノになる事を許されたのは
それから数時間も後の出来事だった。

ヨミ >   
「連絡が遅いですぅ。
 ボクだって暇じゃない、ですよぉ?」

生けるものが一人もいなくなった部屋で机に腰かけたまま
唐突に鳴り始めた有象無象の内の誰かのスマートフォンを拾い上げ
そのまま通話モードにする。
どうせ今回も生贄用に用意されたダミーのダミーのダミーの尻尾切り役が
不確かな伝言を伝えに来ただけ。

「あれだけ中継、して、満足いかなかった、のぉ?
 え?気持ち悪く、なって退出続出?
 え―……そんなのぉ……ボクのせいじゃないじゃないですかぁ
 映ってないから余計怖い?馬鹿ですかぁ?
 ボクがそういう物、に、痕跡でも映ると、本気で思ってるですぅ?
 どうせ、ついでにボクの姿、を補足しようって腹積もりでしょ?
 ご愁傷様ですよぅ」

叶うのならばむしろ画面越しに感染させてやりたい所なのに
それをしなかったのだから感謝されても文句を言われる筋合いはないとおもう。
画面越しでも彼女を目視さえしてくれればあとは幾らでも殺しようはあるのだけれど
今回もどうせ洗脳されたり操られてる誰かが全員死滅するだけで終わるだろう。

ヨミ >   
「後片付けは、ボクの好きなようにする、ですからね
 それじゃもう二度と掛けてこないでください」

携帯を投げ捨てるとソファから汚れを消去しゆったりと腰かける。
……出口警備の人は運がない。かわいそうに。
いや、認識できない方が幸運だろう。感染せずに済む。
まぁどちらにしろ“神隠し”に会うのだから大した違いではない。

「あーぁ、無駄な時間だったぁ」

腰かけたままぽつりとつぶやく。
そう、彼女にとっては実に無駄な時間。
中継したものは記録に残る事は無く、
その性質から本物と認められることもない。
誰もいない場所に怯え、不可解な現象で死に続ける男女など
誰かが作った悪趣味な映像か、
何処かでよく似た別の誰かの異能が暴発した末路とでも取られるだろう。
今この瞬間も誰かがこの建物を覗き込めば
いつもと変わらない光景が広がっているのだから。

仮に現実だと理解できたとしても
あんなものを見せられて気分が悪くなりこそすれ、
自らの手を汚す事を躊躇うものなど
この島でとぐろを巻く毒蛇の中にいはしない。
精々子蛇を追い払うくらいだが往々にしてそういった者達ほど
真実などと言うものは見えていないもの。
そんな事も理解できない事を彼女は理解できない。
こんな行動は初めから意味などない。

「……ブージャム、良いよ」

その一言は周囲のヒトの誰にも届かない。
けれどその日ビルの周囲を警護していた傭兵達は
最期の瞬間になってやっと現実の光景を見た。

光さえ返さない漆黒の巨大な何者かの咢が
地面や自分達ごとビルを飲み込む瞬間を。

それはほんの一瞬。瞬きにも満たない僅かな時間。
音すらも残さずにその場にあった物全てを消し去ってその怪物は虚空へと消えた。
残されたものはそのビルがあった場所に残る綺麗にえぐれた地面だけ。
それは鋭利すぎる刃物で切られたような鏡のような断面を見せるも
その後吹いた強い風に晒されざらりとした表面を晒していた。

――結局のところ、この顛末に関しては
予告状が送られたこと、その宣言通り、ビルごと消失した事。
そしてその通商ルートをかの狩人が所属するといわれる組織が丸々接収したという事、
以降誰もかれらの行方を知らないという事だけが
ただの事実として残っただけだった。

けれどそれは密かな噂を呼ぶ。
まことしやかに囁く者たちの口で。
あの連中は狩られたのだと。あの怪物に。
この島に巣くう、正体不明の化け物に。

狩人としての彼女を一部の者はこう呼ぶ。
死の刈り入れ人、決して逃れえぬ運命。
グリムリーパーと。

ご案内:「違反組織群の一角(過激描写注意)」からヨミさんが去りました。