このコラムでは、常世学園世界の世界観などを補足するためのものを開示していきます。
学園外についての設定なども追加予定のため、学園に限定したものではありません。
当サイトを利用するに当たっては、必ずしも読まなければならないものではありません。
常世学園の存在する世界について詳しく知りたい方はご一読くださいませ。
なお、基本的にPL向けの情報です。「常世財団公開文書データベース」とは異なり、このコラムの文章そのものがPCに公開されているわけではありません。
基本的には常世学園世界で一般に知られた情報になりますが、一般のPCが知らないような情報のお取り扱いにはご注意願います。
また、当コラムで記した事件の「直接の解決者(協力したなどは可)である」や、「当該組織のトップである」などの設定をPCに追加することはご遠慮ください。
当コラムのそれぞれの記事の編集日時は現実の日時となります。サイト内の日時とは一切関係がありません。
――「常世学園構想」とは。
《常世学園》のような都市を世界中に設立する構想のことである。
この構想は、将来的に実現されるべき世界的な目標として国連により掲げられている。
《常世学園》創立の第一の目的は、将来世界の国々が取るべきモデル都市、モデルケースとして、そのあり方を提示し続けることである。さらに踏み込めば、実験都市とも言える。
《常世学園》は、《異能》と《魔術》、「異世界」の存在、神話伝説上の存在、それらを融和させる都市のテストケースである。「学園」としての形態を取ったのは、初めて《異能》に目覚めた者や、《魔術》を扱う者、「地球」を来訪した《異邦人》が、現実の社会の中で生きていくための術を学ぶ場として企画されたためである。また、《異能》や《魔術》、「異世界」の技術を制御し、人間が扱うことのできる技術として研究するためである。
そして、《異能》や《魔術》を持たない者が、彼らのことを知るためでもある。《異能》や《魔術》を持つものも持たないものも、「地球」の者も、「異世界」の者も、モデルケースとして《常世学園》は多くを受け入れる姿勢を取った。「地球」人類は、それらが融和した社会を目標としているのである。
《大変容》後の諸要素を抱える「常世島」で発生するあらゆる状況は、未来のための重要なデータなのである。故にこそ、《常世学園》はどの国家にも属さず、その運営は学生――学園に所属し、主体的に都市を機能させる者。その種族や年齢は問われない――に運営される疑似社会、疑似国家としての立場が守られ続けている。
《常世学園》は単なる「学園」ではない。「学園都市」である。
「学園」という形態を取っているのはある意味では便宜のためであり、《異能》発現者は若年層が多いためでもあった。都市の運営も全て、学生が行うとされているのは、それがそのまま現実の「都市」に転用されることを考えてのことであった。
もちろん、「学園都市」というシステムを取る以上、現実の「都市」とは異なる点が数多く存在することになるが、それでも《大変容》後に出現した様々な存在を一箇所に集め、社会を運営させていくという一種の実験は、未来のために非常に有益なものであった。
実験都市としての《常世学園》は創立から現在十数年の時を経て、様々なデータを蓄積し、所々の問題の解決策を提示してきた。このデータを元に、各国家や地域などに《常世学園》のような「都市」を設立することが、「常世学園構想」である。
「常世学園構想」においては、特に都市の形を「学園都市」に限定する必要はないとされている。これは当然のことであり、現実の都市は「学園都市」ばかりではないためである。それぞれの国家が《常世学園》の「学園」としての部分を、都市の中の「学園」として実現した時、《常世学園》はその役割を終えることとなるだろう。
「“異能”/“魔術”/“異界”学園都市」などの特殊な都市ではなく、「都市」の中に《異能》、《魔術》、《異邦人》が普遍的に存在すること、それが「地球」人類の目指すべき未来である。
「常世学園構想」によって、《常世学園》型の都市を世界の各都市に作りつつも、《常世学園》を超えることを最終的な目標ともするのが「常世学園構想」である。
現時点では、数か国において「学園都市」型の新都市建設計画はあるものの、様々な問題から実行には移されていない。また常世学園や常世財団の直接的な計画への関与も、《常世学園》の性格上行われてはいない。オブザーバーとして一部意見を求められることはあるものの、常世学園が一部の国家に与することは当然ながら認められていない。
※「常世学園構想」における新都市などは、仮に作成する場合運営から通知します。
現時点ではそういった都市はまだ存在しておりませんので、ユーザー側での追加はご遠慮いただければ幸いです。
《大変容》については一般に知られるように、その全容については未だ明らかになっていない。「地球」人類側にとっては空前絶後の自体故に、まともな記録を取る余裕などは存在していなかったためである。また、《大変容》直後は「地球」全体に強烈な時空の歪みが発生していたため、たとえ《異能》や《魔術》による「過去視」をもってしても、《大変容》の全体像を観測することはできない。
《大変容》については常世財団が調査し、編纂した『《大変容》に関する報告書』群が最も整った資料であるが、これも完全ではない。これには一般には公開されていない情報も多く含まれている。
そのため、《大変容》を「いつまで」と考えるかは多くの説がある。現在も《大変容》は続いているという説も存在するが、国連および常世学園では《大変容》は既に収束したという立場を取る。そもそも、《大変容》の定義についても立場によっていくつもの説が提唱されている。
上記のように、《大変容》については不明点が非常に多く、今なお調査研究の対象となり、諸説紛々と言った状況ではあるものの、《大変容》直後の、特に重大な変異については様々な資料を元に、おおよそどのようなことが起こったかは判明している。
ここでは、《大変容》直後に起こった出来事の時系列について「ごく簡単」に記す。ただし、これはおおよその時系列であり、確実な過去として決定付けられるものでもなく、「過去視」で観測することもまたできないものである。なお、正確な時刻の記録は残されていない。《大変容》直後は地球全体に時空の歪みが発生していたためである。
【《大変容》時系列】
①南極大陸上空への超大の規模の「門」の出現(21世紀初めの年)
「地球」の南極大陸上空に、南極大陸を覆うほどの巨大な「穴」が出現。後に「門」と呼称されることになる「異世界」と繋がるゲートである。
特に、この南極大陸に出現した「門」は《第一の門》、《始原の門》などと呼ばれる。この出来事をもって《大変容》は始まったと見なす説が通説となっている。
この「門」の出現とともに「地球」と月周辺の時空に歪みが発生したと見られる。
②《第一の門》より「異世界」の存在が出現。
南極大陸上空に出現した《第一の門》の中より「異世界」の存在が大挙して「地球」に出現。このときに現れた「もの」については不明な点が非常に多い。
南極大陸に設営された各国の基地から発せられた僅かな交信によれば、意思疎通不可能な異形の存在、破壊的な性格を持つものであったことが推測される。
③南極大陸の消滅
《第一の門》より現れた存在、あるいは力によって南極大陸のほぼ全域が「消滅」。明確に何が起こったのかは観測されていないため不明。
当時の人工衛星による記録も、南極大陸全体が黒い「穴」に覆われたことがわかるのみである。
現在の南極は国連によって「絶対封鎖領域」として指定を受け、情報公開がほぼなされていない。僅かに、時空間の歪みが激しく危険であるという情報のみが公開されている。
領域全体が材質の公表されていない黒のモノリス群で堅固に覆われており、立ち入ることは不可能。強大な《異能》や《魔術》にも耐えうるとも言われており、現在まで突破された事実はない。
現在の南極は「生命の存在できない死の海が広がっている」、「《第一の門》は未だに存在しており、異界の存在が封じ込められている」などと、多くの噂がまことしやかに語られるが、いずれも憶測の域を出ないものである。
④《異能》発現者の大量出現
④⑤⑥の出来事はほぼ同時に起こったものである。
南極大陸での異常事態が確認され始めた頃、「地球」全土でも同時多発的に異常事態が発生する。
それが《異能》発現者の大量出現である。今なおその原因については不明。
20世紀までは人類のうちのごく僅かな者だけが所持し、その存在が秘匿されていた《異能》は、この瞬間を以て爆発的に発現者を増大させた。
《異能》に突如目覚めた人々は自らの身に何が起こったかもわからないまま、その力を暴発させた。そのため、周囲の人間を傷害せしめ、殺害せしめたという悲劇も多く報告されている。
同時に、そのような《異能》の発現を脅威と捉え、市民を守るために止む無く《異能》発現者を殺害した警察官や軍人の報告も『《大変容》に関する報告書』に所収されている。
この《異能》発現者の大量出現は《大変容》における混乱を加速させる要因となったが、同時に《大変容》による災厄の収束を導く結果となった。歴史の影に潜んでいた《異能》者達が現れ、「異世界」の存在などと戦ったためである。
⑤「告発者」による《魔術》の暴露
《異能》発現者の大量出現とほぼ時を同じくして、後に「告発者」と呼ばれる者による、一般社会への《魔術》の存在の暴露が行われた。この「告発者」が何者であったかについては今も一切が謎である。
ネットワークを中心に「《魔術》が実在する」という事に関する、《魔術》を用いる者たちについての文章や声明がゲリラ的に公開され、これまで隠されてきた《魔術》の存在が白日のもとに晒されることとなった。
奇怪な電子文書が電子の海に解き放たれ、テレビジョンやラジオの電波がジャックされ、都市部を中心に《魔術》の実在が宣言されたのである。
ただし、この文書や声明自体は《大変容》の混沌の状況の中で失われており、《魔術》の暴露が行われたという事実のみが残っている。
この「告発者」については、伝統的な魔術を守り続けた者たちにとっては忌むべき存在であると理解されることが多い。しかし、《大変容》下の異常事態の中では、《魔術》の実在も人々は信じざるを得ず、この《魔術》の暴露は結果的に多くの人々に《魔術》の存在を理解を容易にさせる一助となった。
後述するように、《大変容》による災厄に「魔術師」達が対抗したため、「魔術師」達による《魔術》の隠匿の歴史への批判は集中せず、《魔術》は人類が生き延びるための技術の一つであると肯定的に理解された。もちろん、強い忌避感を抱いた者たちも少なくはない。魔術的な犯罪を行った「魔術結社」も存在したためである。
⑥「地球」各地にて「門」が出現、「異世界」の存在が到来し。《神々》、架空の存在とされたものたちが「帰還」
南極大陸の《第一の門》の出現に呼応するかのように、「地球」上のいたるところで「門」が次々と開かれた。
そして、「門」より「異世界」の存在が到来し、おとぎ話などの中に登場する架空の存在とされて来たもの、そしてかつて地球を去った《神々》が次々と《帰還》し、様々な災異や事件を引き起こした。これらの脅威に対して、人類の科学的な近代兵器は一切の効力を及ぼさず無力であった。それらに対抗できるのは《異能》や《魔術》、神話伝説上の存在の力であった。
奇妙にもこの時に「門」より現れた存在は、その多くが人類にとって脅威となるものであり、人類に友好的な「異邦人」の到来はこれより後になる。ただし、一部の「異邦人」もこの時に「地球」に到来したが、「地球」人類により脅威とみなされたというケースも存在する。
このときに、「地球」に隠れていた様々な神秘的な存在――土着の神、妖怪や妖精、鬼などと呼ばれるもの――も、隠れ潜むことをやめ、脅威と争うこととなった。《異能》者や魔術師も脅威を戦うために表に出てこざるを得ず、結果的に神秘的な存在、《異能》者、《魔術》を用いる者たちの存在は広く周知されることとなった。
⑦「地球」各地にて大規模な災異、異常現象が発生
「地球」各地での「門」の出現と共に現れた神話伝説上の存在や、架空の存在によって大規模な災異、異常現象が引き起こされた。また、一部の《異能》者や魔術師によっても、大規模にして凶悪な事件が引き起こされた。
これらの現象は人類が語り継いできた神話や物語を再現しているかのようであったため、後に《神話型》や《物語型》など様々な分類がなされることとなった。何故架空のはずの物語をなぞらえるような現象が発生したのかについては諸説紛々の状況で、未だ解決を見ない。
これらの災異や現象については、《大変容》の混乱の中、断片的な記録しか残されていないものがほとんどであり、どのように解決されたかも不明なものが多い。《異能》者や魔術師、神や妖怪などと呼ばれた者たちが収束に尽力したことになっているが、この時点では表に姿を現していない《常世財団》も動いていた。
⑧《異邦人》の到来と「異界大戦」/「第三次世界大戦」勃発
「地球」人類は、《異能》者や魔術師含め、《大変容》直後は「地球」に一体何が起こったのか明確に把握できなかった。「門」より現れた怪異による災異は都市を破壊し、多くの人々を殺戮した。《異能》や《魔術》を知るものにとっては、これらの災異は何かしらの《異能》や《魔術》による攻撃と理解された。
大規模な破壊が地球全土に広がった頃、「門」より《異邦人》が次々と到来した。《異邦人》側も多くは強制的に「門」によって転移させられており、「地球」人類と接触を試みたが、「地球」で発生し続ける災異に彼らも巻き込まれ、「地球」人類とまともなコミュニケーションを取ることはほぼ不可能であった。「地球」人類からしてみれば、「門」より現れた怪異も《異邦人》も、その区別など付けられるはずもなかった。
「地球」は発狂の様相を呈し、非常な混乱の中で多くの紛争が勃発し、それは遂に世界的な戦争に発展した。相互理解の不可能な状態のまま、各国は様々な災異に対応する中で衝突し、一部では核の力までもが使用された。「地球」人類と《異邦人》とコンタクトも失敗に終わり、「地球」人類と《異邦人》との間でも争いが勃発する。
これらの戦争は便宜上「異界大戦」や「第三次世界大戦」、「魔術大戦」、「異能大戦」などと呼称されているが、様々な現象が入り交じる中での出来事であったため、戦争と呼ぶよりは一種の狂乱状態であったとの表現が正しいであろう。
⑨混迷の時代へ
「門」の開門、「地球」規模の災厄、異常現象、《異能》と《魔術》、「異世界の」怪異の出現、《異邦人》の到来、 世界大戦――黙示録の時は、世紀末ではなく新世紀であったと誰もが信じた。世界の終わりを誰もが痛感した。狂乱の状態は長く続くこととなり、この《大変容》に伴う諸現象によって「地球」人類の半数近くが犠牲になったと言われている(ただし、明確な数値は現在も不明である)。
「地球」の各地で地獄のような有様が繰り広げられ、《異能》や《魔術》、神話伝説上の存在について周知されていくに従い、それらも非道な研究の上、軍事的な活動に転用されていくようになり、混乱の中で闇に葬られた作戦や惨事は少なくない。《異邦人》たちも寄り集まり、一種の戦闘集団を形成した。
慢性的な戦争状態は続き、様々な怪異との戦闘も続けられた。多くの生命が犠牲になり、数え切れないほどの血が流された。
「地球」は混迷の時代を迎えたのである。破滅へと突き進むかのような道を歩むことになる。
⑩《大変容》の収束
だが、混迷の時代が永遠に続くことも、「地球」が滅亡することもなかった。
「門」の影響にて発生していたと思われる災異が収束していくに従って――《異能》者や魔術師による収束。特に《常世財団》が大きく貢献した――世界の混迷もまた収束し始めていく。この時点を以て《大変容》の終わりとする立場を《常世財団》や国連は取っている。
《大変容》から十数年立つ頃には大規模な戦争は終わり、《異邦人》との理性的な調停・コミュニケーションも図られ始め、《異能》や《魔術》についての国連からの声明が発せられた。「地球」の諸国家は急速に復興を始める。《異能》や《魔術》、「異世界」の技術を受け入れることで、怪異への対抗も可能となった。これらの事態についても《常世財団》が深く関わっている。
そして、《大変容》から数十年後、世界が新たな秩序を形成しようとしている中、遂に《常世財団》が表舞台に現れ――常世学園設立へと歴史は続く。
《大変容》によってもたらされたものと「地球」が融和して行く未来のモデルケースとして、常世学園は今も、ある。
上記の《大変容》の時系列については、あくまでおおよそのものであり、未だ不明な点も非常に多い。それでも、常世学園世界では《大変容》史として、一部秘匿されながらも、学校などで教えられている。
《大変容》はあまりに大きな災厄であったと言えるが、同時に人類全体に《異能》や《魔術》、そして「異世界」の力をも齎したとも言えるだろう。現在、「地球」人類が今なお現れる怪異と渡り合って行けるのもこれらの力を獲得したためであった。
――「門」とは。
「異世界」――時空連続体の外側――へと繋がる扉。
「異世界」からのものを招来するための虚空(アーカーシャ)の門。
21世紀という新世紀の幕開けの破滅と歓喜とともに、閂は解かれた。
世界の大いなる変容の始まりである。
僅かに残る《大変容》最初期の記録によれば、「門」が「地球」上で初めて観測されたのは南極大陸の上空であった。当時の人類の科学技術では「門」が一体何であるのか観測することもままならず、この「門」については後に《第一の門》、《始原の門》などという名が与えられたが、その正体については未だに結論を見ない。
強烈な時空の歪みと共に南極上空に現れた巨大な「穴」は、天壌に響き渡る破滅の号砲と終末の喇叭の音を齎した。当時南極に存在した各国の基地が電波に残した記録には、絶叫と断末魔の響きのみがあり、その音声記録から何が起こったかを推測するのは困難である。
人類が有史以来一度も聴いたことのない響きが木霊し、錯乱した観測員の数人が、「混沌が溢れ出た」「あらゆるものが見えた」「虹色の極光を見た」などと証言した後に、断末魔を残して交信を終えた。その後、南極は「門」より現れた「もの」によってその大部分が消滅することとなった。南極大陸が現在でも「絶対封鎖領域」となっている所以である。
「門」が出現した直後の南極の状況を詳細に知ることはできないが、「門」より溢れ出たものについては人類の誰もが目することとなった。
《第一の門》が開くと共に、世界中の数多の「門」が一斉に顕現し、遥か外なる世界たる「異世界」のものが到来し、そして遠き過去に「地球」を去ったとされる神話伝説上の存在、架空の存在とされた者たちが《復活》と《帰還》を遂げたのである。「門」の開門の後に、《異能》を発現するものが急増し、《魔術》の存在は謎の「告発者」によって世界に暴露された。世界の終末を思わせる混乱と破壊、破滅、「異世界」の存在や神話伝説上の存在による災厄――これらの出来事は、「門」の顕現が発端といえるだろう。
《大変容》直後の世界には大規模な「門」の顕現が数多に起こったとされるが、断片的な記録しか残っておらず、今なお不明な点は多い。《大変容》直後の世界に現れた大規模な「門」はいずれも消滅している――とされる。南極については今も時空が不安定であるとされ、「絶対封鎖領域」に指定され、その情報もほとんどが公開されていない。《第一の門》、《始原の門》は現在も存在しているのではないかという噂がまことしやかに語られることもあるが、そのような大規模な「門」を制御、あるいは封印する技術はまだ存在していないはずである。
南極に《大変容》によって犠牲になった、あまりに多くの者たちを弔うための碑を建てることが、多くの団体によって計画されたが、上記の理由からそれが実行されたことはない。今再び「門」が現れた場合、世界の破滅の続きが始まる可能性が大いにあるからだ――
《大変容》という世界の大規模な変容を何よりも象徴する出来事が、「門」の出現であった。
「門」は基本的には時空に空いた「穴」のようなものとして現れることが多いが、必ずしも形状に一定の形があるわけではない。「異世界」と「地球」を繋ぐ扉であれば、それは即ち「門」である。一見して「門」や「扉」であるとわかるようなものから、「洞窟」「鏡」「本」「壺」など、一見すれば「門」とはわからないようなものまで「異世界」へ続く「門」となった。
それ故に、「地球」上のあらゆる場所で「門」の顕現は発生し、人類の混乱と犠牲を多くする結果となった。
《大変容》直後に起こった災厄についての断片的な証言や記録を集めると、《大変容》直後に「門」から現れた「異世界」の存在や神話伝説上の存在のほぼ全てが、人類に害をなす存在、意思疎通の不可能な存在であったことが知られる。人類に友好的な《異邦人》が《大変容》直後に「地球」に訪れた例がないわけではないが、それを示す証言や記録は非常に少ない。「地球」の人類からすれば、完全なる未知との遭遇であり、友好的、敵対的などを判断する余裕はなかったためとも考えられる。
だがそれでも、《大変容》直後は破壊的な性格を持つ「異世界」の存在が「門」より大量に現れたことは事実であり、何故《大変容》直後にそれが集中したのか、その原因についてはまだ何もわかっていない状態である。
「門」から《帰還》を遂げた神話伝説上の神々や架空の存在は、かつて「地球」に存在していた者たちであるとされるが、それを証明する方法もまた存在していない。故に、神話伝説上の神々や、かつて架空の存在とされたものの全ては「門」より現れた「異世界」の存在であり、「地球」には本来そんなものは存在していなかったと信じる者たちも数は少ないないがら現在も存在している。
《大変容》という世界の転換に、「門」が非常に大きな働きをしたことは誰もが認める事実である。
「門」の活動は《大変容》の間は非常に活発であったものの、現在ではかなり落ち着きを見せてきている。しかし、「門」の顕現がなくなったわけではなく、ほぼ毎日といっていいほど世界のいたるところで「門」は開き、「異世界」の存在――主に《異邦人》を――「地球」へと招き入れている。「門」顕現による事故や、「門」から人類に友好的ではない怪異の出現なども現在でも続いているため、「門」は現在も「地球」に影響を与えている。常世島の転移荒野のように時空が不安定な場所が世界に幾つか存在し、そこでは特に多くの「門」が顕現している。
「門」の特徴としては、基本的に「一方通行」であるということである。「異世界」の存在を送り出した後は、「門」のほぼ全てが消滅しており、「門」が顕現し続けることは異常事態となる。仮にそのような現象が起こり、発覚した場合は周囲は封鎖され、あらゆる封印措置が試されることになる。
また、基本的に「地球」側から「異世界」への門を開くことは現時点では不可能、あるいは非常に困難とされている。「門」を一時的に開くなどの実験は行われ、成功例もあるものの、科学的・魔術的・異能的にも安定した「門」を顕現させ続けることは未だ成功していない。「門」を自由に開閉する《異能》や《魔術》の存在が確認された場合、それらの存在は非常に貴重なものとして扱われることになるだろう。常世学園においてはそのような措置が取られることはまずないが、常世学園の外では拘束や監視、あるいは実験対象とされることは十分に有り得る。常世学園の場合、自らそのような《異能》、《魔術》の行使が可能だと申告した場合はそれらの所持の公表や使用を行わないように学園側が要請する可能性がある。申告しない場合はその限りではない。
仮に、公的な機関において「門」の開閉技術が確立した場合、その使用には多くの制限や、国際社会の承認などが必要となるだろう。現時点では、「地球」側からの「異世界」への「自由な交通」は一般には不可能であるといえる。
「異世界」には「門」のような超・時空間のゲートを開閉する技術、転移技術(科学的、魔術的など問わず)が普遍的に存在している場合があるが、その技術も「地球」では上手く動作しないことが確認されている。その原因についても未だに解明はされていない。成功例がもちろんないわけではないが、その数は非常に少なく、大々的に公表されることもまずないだろう。そういった存在、人間、組織などが観測された場合も同様である。「門」を開閉するということは、常に《大変容》のような災厄と繋がる可能性があるからである。
故に、「門」によって「地球」に到来した《異邦人》の多くは故郷に帰る手段を持たないことになる。
「門」を安定的に自在に開閉するような技術は「地球」にはまだ存在していないが、「門」についての研究は進んでいる。「門」の開閉を常時監視する監視所が世界中に作られ、「門」の出現については、地震のようにある程度予測が可能となってきている。ただしこれも完全ではないため、顕現を予測できない「門」も存在している。
なお以上に記した「門」の性質、開閉の制限などについては、当然のことながら例外も存在するため、上記の記述が全てというわけではない。しかし、殆どの場合は上記のような性質を持つことになる。
《大変容》直後から学園草創期にかけて存在した反社会的組織『黙示の実行者』がある。《大変容》によって引き起こされた《神話型》災異の一つ、「黙示録」に強く影響され、神の啓示を受けたと自称する《異能者》たちによって創設された。
このセクトは、「《大変容》は、旧き世界の滅亡にして新天新地の創造であった。《大変容》後に生まれた《異能者》は神に選ばれ、その権能の一部を賦与された優位存在、新たなる人類であり、《異能》を持たない不完全な旧き人類を支配、あるいは淘汰する天命を受けている。新天新地の創造は未だ途中であり、《異能者》が自ら黙示の実行者《黙示の騎士》として旧き世界への断罪を行うことによって、新天新地は創造され、理想的な完全なる世界、永遠なる帝国が降誕する」と主張した(同団体の主な経典である『新天新地の黙示』より引用)。
これは「新天新地思想」(《大変容》以前に存在した同名の思想とは異なる)と呼ばれ、『黙示の実行者』によって盛んに喧伝された。《異能者》を神――団体内では「真なる“神”」「大いなる古きもの」「星辰の支配者」と呼ばれる。かつて世界を創造した「真の神」であり、それ以外の神性は神を僭称した「偽の神」とされる――に選ばれた民(団体内では《異能》を《刻印》と呼称し、《異能者》は《刻印者》と呼ばれた。実際に、《異能者》の中で、身体の一部に刻印を持つ者がいたためである)とし、それ以外の存在は旧き不完全な存在として滅ぼすべきであるという選民的で過激な思想である。
『黙示の実行者』は主張を述べるだけでなく、《異能》を持たない者や異邦人を対象とした、《異能》を用いたテロ活動を開始した。常世学園草創期には、学園を「偽の神」の信徒である常世財団に作られた悪徳の街と認定し、学園草創期の非合法組織の乱立と混乱のなかでいくつもの事件を起こしたが、当然このような行為・思想は常世学園として受け入れられるものではなく、風紀委員や公安委員会、有志の協力者の共同作戦により構成員の殆どは逮捕され、『黙示の実行者』という組織は壊滅した。組織は分派して島外に存在してはいるものの、かつてのような勢力・影響は失われている――とされる。
学園創立から十数年を経た今、このような選民的な思想は厳しい批判の対象となり、大部分の人間は《大変容》の世界のありかたをそのまま受け入れている。だが、『黙示の実行者』のような組織は未だ存在し続けており、《異能》という、天から賦与されたかのような特殊能力を持つものと、持たない者の間の溝は埋まっていないといえるだろう。
21世紀の始まりは《大変容》と時を同じくする。
新世の喜びは、旧世の滅亡、夥しい破滅と血と死、それらと共にあった。
南極上空に最初の異界の「門」が開き、終末の号砲が鳴り響いた。それを合図として《大変容》は始まり、世界は暗黒・混沌・無秩序に支配された。一説には《大変容》に伴う様々な災害や争いによって、人類の半分が死滅したともされる。ただし、《大変容》とそれに伴う災異、争いについては体系的な資料は存在していないため、その被害の全容は未だ不明な点が多い。死傷者数についても同様である。
あらゆる終末が起こり、神話が再現された――《大変容》に遭遇したものたちの証言を纏めると、このような結論に導かれる。《大変容》直後に地球や月の周囲に非常に大規模な時空の歪みが発生していたことが後に観測されており、世界の様々な場所で時間の流れさえも歪みを見せる結果となった。
《異能》に目覚めるものが現れ、《魔術》は暴露され、神話や伝説上の存在が天地に跳梁跋扈し、異世界の存在が「門」より到来した。「地球」の時空は歪み、一部の都市が異界化し、異形の存在が破滅と災厄を振りまいた。これが《大変容》の齎したものであった。旧世界に生きた人々にとって、それは世界の死であった。
そのような状態で、《大変容》の体系的な記録が残されることはあり得なかった。《大変容》の全容は未だ闇に包まれている。
《大変容》は、唯物的な科学によって万物の霊長へと至った人類が支配する、20世紀までの「地球」を死に至らしめた。かつての人類の歴史を胞衣として、新たなる天と新たなる地が誕生した。《異能》、《魔術》、《神々》、《異世界》――それらが中心となる、新たなる天地である。
それまでの「地球」には《異能》、《魔術》などは存在していなかった。それらは信仰と空想の世界にのみ実在した。少なくとも「一般的」にはそうであり、《異能》や《魔術》は世界の影の中にのみ存在した。歴史に介入することなく、世界の99%以上の人間がその実在を目撃することもなかった。故に、歴史の主体者である人々にとって、《異能》と《魔術》は「存在していなかった」と表現することが可能である。
《大変容》によって、《魔術》や《異能》、《神々》、《異世界》は歴史の表舞台へと現れた。それらは歴史の影に実在し続けたものである。故に、《魔術》や《異能》を使う者たち、そしてかつて「架空の存在」とされ、歴史から実在を消去された者たちの一部からは、この歴史的な転換は《復活》と呼ばれた。隠匿された事実が《大変容》によって一挙に暴露されたとも言えるだろう。歴史の影に隠れ続けた人々や存在にとって、自らは現実に「存在していた」と表現することが可能である。
旧き世界は一度死に、新たな世界として新生した。これは紛れもない事実である。21世紀は、20世紀との連続性を人々が認識できない程に変容した。一部の「《大変容》セクト」が《大変容》は「門」より降臨した神による「世界の書き換え」であったと主張する所以である――曰く、《魔術》や《異能》などが存在していなかった世界に、それらが存在した歴史が追加・編入されたのだと。
《異能》、《魔術》、架空の存在、《異世界》が現実には実在していたなどという事実は、近代的な思考を身に着けた人々にとってあまりに突飛にすぎるものであったのだ。そのような裏の歴史が存在したとは到底思えない。そのように隠匿し続けるなど不可能である。故に、これは非科学的なものが実在した世界と、唯物的なものしか存在しなかった世界の融合なのであると。
――無論、この説は一般に否定されている。20世紀と21世紀の「地球」は連続したものであると考えるのはごく当然のことである。だが、この説を完全に荒唐無稽であるとすることもまた、できない。そういった《史実》の書き換えさえ起こりうるのではないかという可能性を否定できないほどに、《大変容》は旧世界を根本から作り変えてしまったためである。
《大変容》のために、20世紀以前の旧き世界の物理法則、常識、それらは彼岸へと去った。世界は死に至り、《異能》と《魔術》などを携えることによって、死からの再生/新生に至ったのだと言えよう。
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