2019/02/06 のログ
■暁 名無 > 「誰もお前さんが貧乳だとは言っていまい?」
すっとぼけーというやつ。
まあそんな冗談の応酬が寒さから気を紛らわせるには丁度好かったり。
「そんな念押ししなくても分かったっつの。」
はぁ、と僅かに白くなった溜息を一つ。
「だろ?
興味が無ければ覚えてないし、興味があっても忘れるものだ。
逐一備忘録でもつけでもしてなければ。俺が判るのなんて、大まかにも程があるってレベルだよ。」
たとえば2月中に新聞に載る様なデカい事故が起こる、とか。
それが2月の何日か、何時頃かまではわからない。よっぽど大々的に報じられでもしない限りは。
「いや、歴史上にそういう名前は無いな。残念ながら。
まあ未来っつてもそんな何百年も先じゃねえから、俺が来る前の時代より先は分からんけどな。
些細な事がきっかけで未来なんてさっぱり変わっちまったりもする、っていうだろ?」
実際のところ、多少の修正力は働くらしいというのは漠然と感じたりしてるけども。
「ま、生徒の名前なら卒アルくらいには載ってるだろ。
でも不思議なもんだよな、確かに何年か同じ学校に通ってたってのに、どんな奴だったか10年もすりゃ覚えてなかったりするしな……。」
若年性ナンチャラーではないとは思いたい。マジで。
■北条 御影 > 「―そんなもの、ですかね?
他の人も、「確かにそこに居た人」のこと、そんな簡単に忘れてしまうものなんですかね?」
ぐ、と無意識のうちに拳が握られる。
吐き出す言葉は、内に秘めた言いようの無い思いによって酷く重たい。
それでも、それでも彼の言葉の端を掴んでいたいと、そう思った。
彼の真意がどうあれ、その言葉は微かにでも慰めになった。
「私はですね、要するに…その、怖いんですよ。
誰かに忘れられてしまうと、それだけ世界との繋がりが薄くなるというか何というか…。
誰にも覚えて貰えない人って、そこに居たことを誰にも照明してもらえない人って…。
事実がどうあれ、それは「最初からいなかった」のと同じじゃないですか。
私は、そうはなりたくないんです」
きっと目の前の教師は訝しむだろう。
初対面で名も告げず、こんなことを話す生徒などそう居るものではない。
いっそのこと、笑い飛ばしてくれれば諦めもつくのだが―
「それでも、ほかの皆も…気づかないうちに、知らないうちに忘れられて行くんなら―そんなに、悲観することもないのかな、って」
それでも、先の彼の言葉を慰めとしたい自分が言葉を止めてはくれなかった。
■暁 名無 > 「──ふーむ。」
無意識に煙草を取り出そうとした手を止める。
目の前の生徒が語るのは、きっと彼女自身の身の上に関わる事なのだろう。
そういった異能を持っているのかもしれないし、或いは
「そういう風に言われちまうと、俺は非常に困っちまうんだがね。」
最初から居なかった、か。
「そんな事はねえが、そんな事はあるのかもな。
正直、俺自身が、今この時間を生きている俺自身……言い方ややこしいけど、この学校には丁度お前さんと同じ年の頃の俺自身が居るんだよ。
そいつがもし、明日死んじまったりしたら、俺はその瞬間消える。
誰の記憶にも残らないし。記録も残らない。最初から無かったものになる。」
まあ、当然といや当然だ。
俺が『俺』になる前に死んでしまえば、『俺』という未来の結果は消える。
そうしたら時間遡行して来ている俺に関する一切も消える。そういう風に帳尻が合される。
「それでもまあ、俺に出来る事といや今を楽しく生きてくくらいしか無いわけで、だから俺はそうして生きてるわけなんだが。
……ううん、上手く言えねえなあ。もうちょっと頭が良かったら良かったんだが。」
タイムパラドックスとか、そういう色々が大変ややこしい。
一から説明してくとなれば、流石に風邪を引く事間違いなしだ。
「だからまあ、何だ。
だいじょーぶだ、きっと。お前さんのような苦しみを抱えてる奴は多分ちょいちょい居る。
現に同じとまではいかんでも、似た様な爆弾を抱えてる俺が居る。」
似た様な……似てるか……?
■北条 御影 > 断片的にではあるが―
彼は今、凄く重要なことを語ってくれていることぐらいは分かる。
幾度か繰り返した彼との「初めまして」の中で、こんなことを語ってくれたのは初めてだ。
きっと彼は次の日にはこの会話のことなど欠片も覚えていないのだろう。
だからこそ、自分だけでも忘れないようにと、彼の言葉を一言一言かみ砕いて、飲み込んでいく。
「……先生、あの。ごめんなさい。そんなこと、言わせてしまって」
最後まで彼の言葉をしっかりと飲み込んだあと、おずおずと頭を下げる。
彼に此処までのことを言わせてしまったという想いがそうさせたのだが、
きっとこの謝罪はこの場には相応しくなかったのだろう。
それでも、彼もきっと。
自分でこんなことを話した事実を忘れたくなど無かっただろうと、そう思った。
「でも、ありがとうございます。
何か、ちょっと元気出ましたよ。えへ」
ぐし、と鼻をすすって頑張って笑顔を作った。
ちゃんと笑えているかどうか分からないけれど、ここで泣き出してしまったらそれこそ彼を困らせてしまうだろう。
「先生のこと、ちょっと見直しました。私的にポイント+1、です。
ちゃんと先生らしいこと言えるじゃないですか。上着は無くても、十分かっこいいです」
■暁 名無 > 「いやあ、別に聞かれないから話せねえだけで、もっと色々めんどくさい事とかいっぱいあるぞ?
同じ時間軸に同一人物を置かないために、俺自身の存在は本来死んでるべき人間に上書きして存在を確立させてるだけ──とか。」
あんまり聞いて楽しい話でもないだろうことは重々承知済みだ。
だから話さない。聞かれたら話すけど、はぐらかせるうちははぐらかしたい。
「だからまあ、あんま深く悩むな──は無理か。無理だよな。
だったら悩んだ分だけ足掻いてもがいて、そして出来りゃあめいっぱい楽しんで今を生きる方が、割かしどーにかなるかもしんないぞ。」
気にすんな気にすんなと笑いながら、手をひらひらと振ってみる。
若いうちは何やかんやと悩むもんだ。俺もいっぱい悩んだし、悩んだ結果こんな綱渡りをしてる。
我ながら、何の成長もしてないと思う。
「株が上がるかなって言っただけで俺は最初からカッコいいんだよ。
割と気付かれるのが遅いタイプのカッコよさなだけだ。」
さて、そろそろ本格的に中に戻らないと風邪ひくな。
「ほら、べそかいてねえでさっさと戻るぞ。
風邪ひくぞ、なーんか最近流行ってるみてえだから。」
■北条 御影 > 「別にっ!別にべそなんてかいてないですから!
そういうとこ、そういうとこはかっこよく、ないですから!」
涙がこぼれていただろうかと、慌てて目元を擦り声を張り上げてごまかした。つもり。
多分、この先生にはお見通しなのだろう。
自分が無理して笑っていたことも、誰かに吐き出したくてたまらなくて、胸の中が淀んでいたことも。
だからこそ、こうして断片的にでも自分のことを話してくれたのだろう。
それを口にするのは、野暮というものだということは分かっているつもりだった。
だから、これ以上は言わないことにして、校内へと続く扉へと歩を進める。
「―でも、先生のカッコよさに気づいてる人ってほかに居るんですかね?
取り合えず…私は、覚えておいてあげますよ。先生が忘れても、私は覚えていることにします」
ドアノブに手をかけて、扉を開けて。
この扉をくぐり、階段を下りきる頃にはきっと彼も自分のことを忘れてしまう。
だから、その前に言っておかなければ。
「ねぇ先生、そういえば言ってなかったですよね。
私の名前は―」
最後に名前を告げて、幾度目かの彼との「初めまして」は終わりを告げる。
この終わりが避けられないことは知っている。
それでも、この終わりを経た先にある次の始まりは、
きっとこれまでとは違うものになるのだろう。
彼にとっては何も変わらない、見知らぬ少女との出会いだとしても。
自分にとっては、「冴えない遊び人の先生」との出会いなんかではない。
「生徒に寄り添える、カッコいい先生」との出会いになるのだから。
ご案内:「屋上」から北条 御影さんが去りました。
■暁 名無 > 「……ああ、そうだな。
覚えて貰えている事を祈っておくよ。」
北条が去った後、閉まろうとしていく扉へ向けて呟く。
暁名無。本来この時間に居てはいけない人間だから、名前すら持てないという意味を込めての名無。
時間遡行して来たばかりの頃に、そんな風に自分で付けた便宜上の呼び名。
「懐かしいな、もう何年くらい経った?
3年……4年目くらいか?早いもんだな」
軽く振り返りながら俺も校舎に戻るべく歩き出す。
さっきまで誰と居たのか、段々とおぼろげになる記憶にどこか懐かしさを覚えつつ。
未来は割と簡単に変わっていく。恐ろしく脆い。
例えば子供の俺が、今の俺の様に育たなくなる事件があったなら。俺はゆっくりと消えていく。
誰かにそんな話をしようとした様な気がするが、気のせいかもしれない。
「やれやれ……明日の準備して帰るか。」
こうして似て非なる邂逅は幕を閉じた
ご案内:「屋上」から暁 名無さんが去りました。