2020/06/17 のログ
■金剛 経太郎 > 頭痛薬の所為か、それとも頭痛の所為か。
全身を疲労感に包まれ、段々考える事すら億劫に。
「せんねん……そんなに。
へえ、すごいんですねぇ……ルリエルせんせ、ながいきぃ……ふわぁ。」
唐突に漏れる欠伸を隠そうともせずに。
段々と重くなってきた目蓋を擦って、ルリエルが新たに寝台を作るのを見届ける。
なんだか懸命に自分を説得しているのは伝わって来るが、正直何を言ってるのか分からない程に睡魔が思考を蝕んでいて。
「んふぅ、ありがとぉ、ルリエルせんせ。
……なんか、すっごいねむく……ごめん…。」
二つ並んだベッドは大きな一つのベッドに見えて。
既に区別なんてつく思考状況では無い経太郎にとって、今はもうベッドに身を横たえる事が最優先。
よたた、と覚束無い足取りで進んだ後、倒れ込む先は──
既に仰向けに横たわった、養護教諭の上だった。
「じょうぶで……やわらか……ぅん。」
■ルリエル > 「フフッ、そう、私は無駄に長生きなんですよ……なんてったって《天使》ですから………。
……って……きゃあっ!?」
長い時間を異界で過ごしても、自らが《天使》であるという自覚だけは失わず。
遥か数千年が経ち、神代の気が希薄になった現代においてもヒトが抱く《天使》のイメージにほぼ変わりはなく。
そんな自らの誇るべき『肩書』を口ずさみながら、少年の前で豊満な胸を張って見せるが。
……次に少年が取った行動は、その胸の上へと小さな体を転がり込ませるという、あまりにも大胆なアプローチ。
さすがのルリエルもひどく狼狽し、半ば無意識的に押しのけてしまいそうになるが……。
「…………も、もうっ。仕方ない子ですね……」
抵抗を踏みとどまり、そしてそっと両手を伸ばして少年の細い体を抱きしめる。
2人分の体重をうけて雲のベッドはさらに沈み込み、両サイドから経太郎の体を包み込んでくる。
その柔らかさと暖かさは眠気を誘うのに十分なものだが、ルリエルの天使の肢体もまた違った柔軟性で少年を包む。
豊満な胸が、二の腕が、お腹が、太ももが、まるで経太郎のために設えたベッドのようにむっちりとフィットしてくる。
……さすがに腰から下はジーパンを履いてるせいで感触はやや固めだけれど。
「……ええ。キョータロウ君の頭痛がこれで治るのでしたら。私がベッドになってあげますよ。
………さすがに他の人に見られると誤解を招くので、フタはしますけれど。それと、1時間立ったら起こしますからね?」
すでに寝入ったかもしれない経太郎を刺激しないよう小声でささやくと、彼の背に添えた手の指をくるりと回す。
経太郎のために用意したベッドがふわりと浮かんで、二人抱き合った寝台の上に音もなく被さり、一体化する。
外から見れば巨大な綿雲の塊、中はまるで繭……あるいはカプセルホテルの1室めいた熟睡用の空間へと変わる。
綿自体が淡い光を放っているので暗闇にはならないが、外からの音は遮られる。
ブゥーン…という空調の音。パソコンの駆動音。校庭の喧騒。一切が綿のフィルターを通して曇り、遠い世界の音に変わる。
「…………私も………さすがに、眠くなりますね、これは………ふわぁ……ぁ……」
ぎゅ。少年を抱く腕にほんの少し力がこもって、すぐ脱力する。
寝息を立て始めた少年の顔の前で臆面もなくおおきなあくびをすると、ルリエルもまた午睡の底へと誘われていった。
………………。
……………。
…………。
……………ピピピピ………ピピピピ………ピピピピ………ピピピピ。
電子音が、雲の寝台の付近で鳴り響く。ルリエルはベッドに入る前に抜け目なくタイマーをセットしていたのだ。
その高音は雲の遮音をも突き破って確かに聞こえるだろう。しかし、ルリエルは起きる気配はない。
経太郎はどうだろうか? 目が覚めたなら、まるで10時間ぐっすり熟睡したかのようにリフレッシュしたのを感じるはずだ。
■金剛 経太郎 > 「おや、すみ……なさぁい……くぅ。」
自分が倒れた先が雲のベッドでは無いことに気付く余裕も無く。
経太郎は真っ直ぐに、眠りの中へと落ちていった。
家のベッドは堅いマットレスに古ぼけた毛布くらいしか無いので、雲のベッド(とルリエルの体)は非常に心地良く、同時に安心感も確りと感じる事が出来たのだろう。
タイマーが起床を促す時まで、経太郎は夢も見ない程に深い眠りに就き──
………。
──1時間後。
鋭い電子音によって目を覚ました経太郎は、まず頭痛と疲労感が綺麗さっぱり消えている事に気付いた。
ルリエル先生の説明通りだったな、とまだ少しだけ眠い頭で考え、お礼を告げないとと意識を覚醒させていって──
現状を確認し声にならない悲鳴を上げる。
「お、起きて!先生!先生起きて!お願い!!」
どうにかルリエルを起こして彼女の胸から、そしてこの雲の繭からも出なければと。
──その後、ルリエルが無事に起床すれば。
ひたすら謝り倒す経太郎の姿を見ることが出来ることだろう。
■ルリエル > 「ん、あっ…………」
普段自分が就寝する時とおなじ、雲のベッド。しかし普段と様相が少し違う……体の上に、子供1人分の重みを感じる。
それが自分の体やベッドを揺さぶって、なにか喚き立てている。
ノンレム睡眠から急激に覚醒へと揺り戻され、ルリエルは喘ぎめいた声を上げながら首を振る。
「なぁに…………あっ………そ、そうでした、1時間と決めて添い寝してたんでしたね」
やがて急速に就寝前の記憶が戻ってくる。今はまだ業務時間、ぐっすり寝るわけにはいかない状況。
そして何で寝ていたかといえば、頭痛の少年の看病のため、こうして……。
「……おはよう、キョータロウ君。どうですか、頭痛は治まりましたか?」
何やら慌てふためいた様子で《雲》の繭の中みじろぎをする少年に、ルリエルは未だ眠気の取り切れない心地で問いかける。
ルリエルは基本マイペースだが、寝起きはとくにおっとり行動するタイプなのだ。
「んふふっ♪ 何をそんなに慌てているのでしょう? まだ日は暮れてませんよ。寝過ごしてなんかいません。
……ええ、さすがに業務中に熟睡した私は少しは慌てるべきなのかもしれませんけどー……バレてなければ別に……」
寝入ったときと同様、経太郎の背に手を回し抱える姿勢のまま。ルリエルはうっとりした表情で諭すように言葉をかける。
そして、背に触れる手の指が僅かに蠢くと、二人を包んでいた《雲》の繭の上部からシュワシュワと封が解かれていく。
雲がちぎれるように綿が薄くなり、虚空へ消える。窓から見える空は若干夕焼けの色を帯び始めたくらい。
未だに半分寝ぼけている様子のルリエルは経太郎を軽く抱えた姿勢のままだが、振り払って起きることもできよう。
■金剛 経太郎 > 「おはよぉございますぅ……!」
しっかりと手を背に回されている所為で起き上がる事も出来ず、
ゆるやかにがっちりホールド、という矛盾の塊のような状況。
身動きらしい身動きは取れず、とにかく呼び掛けだけでルリエル養護教諭を起こそうと試みて、それがようやく実を結んだ。
「おかげさまで!……もう全快しました……!
ありがとうございます、ごめんなさい、ありがとうございます……!」
豊かな山に顔を埋めた様な状況で、謝罪とお礼を交互に。
というかなぜこの状況になったのか、ベッドに促されたあたりから記憶が曖昧である。
訳の分からないまま男として至上の想いを現在進行形でさせて貰っているとなると、出てくるのはやっぱり感謝と謝罪。
(つかでっかくて柔らかくてすっげー気持ち良いけどこの感触……!?)
今までも同様な事態に遭遇して来てはいるものの、今回はこれまでに無い感じがする。
何と言うか、一言で言えば自由だ。頬に当たる感触がどこまでも自由な気がする経太郎である。
そしてその感触がまた大変に心地良く、緊張した心がじわじわと絆され始めて……
(って、いかんいかん。ダメダメ。)
「あ、あの……ごめん、先生……目覚まし、止めよう?」
まだ夢見心地に見えるルリエルへと、静かに提案する。
鳴り続けている電子音を聞きつけて、誰か来てしまうかもしれないし、と。
■ルリエル > 「…………あ、そ、そうね。タイマー止めなくちゃ」
寝ぼけ眼にふやけた表情。そんなルリエルも、頭の傍でやかましい電子音がなり続けてれば否応なく正気を取り戻していく。
眠気を吹き飛ばそうと、ひとつ深呼吸、すぅ、はぁ…。綿飴のような甘い吐息が経太郎の顔に吹きかかる。
少年の体を抱きしめていた腕の戒めを解くと、彼の体の下で、ころん、と女体が翻る。
まるですり抜けるようにルリエルはベッドから抜け出し、立ち上がる。
1人分の重みから解放された綿雲が持ち上がり、残された経太郎を包む。同様の所作をとれば経太郎も起き上がれそうだ。
「……ごめんなさい、って何をです? 私は養護教諭として……あと《天使》として義務を果たしただけですから。
まぁ熟睡したのはよくなかったですけど、誰にもバレなかったのですから結果オーライですよ?」
電子タイマーを止め、白衣の乱れを正し、銀の髪をかき上げて肩の後ろに整える。
経太郎が何にそんなにおどおどしているのか、しばらくは察せていない様子だったが。
……やがて薄々ながら気づく。内心、『歳の割にマセてるのかしら?』と独りごちつつも口には出さず。
「……フフッ。いいですかキョータロウ君。今日の添い寝は『トクベツ』ですからね。
毎回、頭痛のたびに一緒に寝てあげるわけには行きませんから。
これからは体調管理をしっかりして、栄養のあるものを摂り、夏バテしない程度に遊んだり運動したりしましょうね?」
もう一度彼の前にかがみ込み、そっと頭を撫でる。愛おしげなアルカイックスマイルと、仔猫を愛撫するような指使い。
そして、白衣の天使はそのままぐっと顔を寄せてきて……。
「……それでも、もしどうしてもしんどいって時には私のところに来てくださいね。いつでも《雲》を出してあげますから。
さあ、起きましょう。子供は帰る時間ですよ?」
ちゅ。少年の額に軽く唇を触れさせた。
笑顔のまま顔を離すと、ルリエルは立ち上がり、そのままデスク前の椅子に座ってパソコンに向かい始める。
■金剛 経太郎 > 甘い吐息が鼻腔を擽る。
ルリエルの肢体がすぐ傍で動く。
その間ずーっと経太郎はどこか遠くを見つめていた。見つめていただけで意識はすぐ傍に向けられていたけれど。
そして、
「…………っはぁぁぁぁぁぁぁっ」
自分だけとなった綿雲に顔を埋め、溜息と共にやり場のない感情を全部吐き出した。
頭痛も治まったし、体力も全快だ。その代償に特大の心労が付いてきた。それだけの事である。
「……いや、いいです、もう。
ホント、誰も来なくて良かった……ホント……」
ルリエルの動きを真似てもそもそとベッドから抜け出れば、軽くなった頭と体に改めて驚く。
凄い効能だ、と感心したように雲のベッドを一瞥。
そしてこれを自在に扱えるルリエルという存在。この島の住人は本当に多種多様だと思う経太郎だった。
「は、はいっ!気を付けます……!
もう頭痛はこりごりです……!」
実際のところ、忠告は耳に届いていなかった。
目の前にルリエルの顔が、少し視線を落せば豊かな胸があり、どうにも感触を思い出してしまう。
しかし、髪を撫ぜる指だけははっきりと感じ取れた。案外、撫でられるの好きなのだろうか、と自分の事に戸惑う経太郎。
「……っ! は、はい!ありがとうございました!
し、失礼しますっ! ……またね、せんせっ!」
唇の触れた額を手で抑え、耳まで真っ赤な顔になりながら。
なるべく平穏を装った態で、経太郎は保健室を後にするのだった。
■ルリエル > 「はぁい、さようなら。気をつけてね~」
先程まであれほど濃密に抱き合って眠っていたというのに、別れ際はそっけないもの。
午睡のリフレッシュを経て、すでにルリエルの精神は仕事モードに切り替わっていたのだ。
「………さて、と。カルテを残さなくちゃいけませんね……」
頭痛薬1錠の処方とて、れっきとした看護行為。逐一記録に残す必要がある。
デスクに置かれた《パソコン》なる装置を未だ使いこなせていないが、記録を残すルーチンワークくらいは覚えている。
チカチカと光の映像を写す平板を覗き込み、人差し指で1つ1つ丹念にキーボードを押しながらカルテを記載していく。
……その指がふと止まり、カタカタと震え始める。
スクリーンを見据える目は見開き、こちらもまたぷるぷると戦慄いて。
学籍番号を聞きそこねたので口頭で聞いた名前から生徒情報を検索したところなのだが……。
「……金剛経太郎………18歳……えっ??
デンノウセカイに囚われて……肉体だけ若いまま……?? うっそー……」
幼い子どもだと思って触れ合った相手が、実は大人と言って差し支えない年齢だった。
この事実にはさすがのルリエルにとってもショックであった。
……いや別にルリエル自身はいい。男嫌いというわけではない……正直に言えばむしろ好きなほうだ。
でも仕事と私事を切り分けるくらいの分別はついてる自覚はあるし、なによりこの事実がバレたら立場が危ない。
結果的にはバレてないハズだが、100%とは言えず……いや、そのくらいはまだどうとでもなる。
それよりも問題なのはあのキョータロウという少年にとっての影響だ。
18という年齢は成熟した大人と多感な子供の境界みたいな頃合い。
そんな異性とあれほど濃密に接してしまったなんて。
口をつけたペットボトルの水を飲ませて、上から寝そべられて、抱き合って、抱きしめちゃって、額にキスもして……。
子供扱いが過ぎただろうか? それとも刺激が強すぎただろうか? 彼の精神、いや性癖はネジ曲がってしまわないだろうか?
今日あった添い寝の話が他の人に伝わったらどうしよう? 怒られる? それとも他の子がワッと保健室に押しかけてきたり?
それはそれで……いやいや……でも………。
………良くない思考、とりとめない思考、ちょっとよろしくない思考が悶々とルリエルの脳内で渦を巻く。
瞳がぐるぐると乱雑に旋回し、冷や汗がこめかみを伝い…………唐突に、『バン!』と机を叩く。
「…………………知~~~~らないっ♪」
――すぐに思考停止を迎えたルリエルであった。
ご案内:「第一教室棟 保健室」からルリエルさんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 保健室」から金剛 経太郎さんが去りました。