2020/08/05 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
レナード > 「あついし。」

暑いけれど、今日はここがいい。屋内は、僅かとは言え人目もある。
こうしてぼんやりしていると、思わぬ単語を独り言ちるかもしれない。
…別に聞かれてもいい話題だけれど、堂々と聞かせるつもりはなかった。

屋上の、それこそ境界たるフェンスの傍。
そこに両腕を押し付けるようにしてもたれかかれば、多少の沈みを感じるもそれ以上は進むことはない。

「………。」

照りつける暑さは相変わらず鬱陶しいが、時々そよぐ風が仄かに心地よかった。

レナード > 「……まさか、この眼を使ってるとき以外に…出てることがなんて。」

目元を指先で、そっと触れる。
昨日もそうだったし、この前も。いずれも、自分はあのとき、透視の力を使ってはいなかった。
きっと、自分の感情や、傷か何か受けた時にも出るのだろう。

「…………。」

瞳を閉じて、開く。
僅か数瞬で、その眼は蛇のものに。その視界は辺りの物を透過する。
焦点を絞る様に目を細めれば、更に遠いところまで、文字通りの丸裸に映る。
夏季休暇中だから、そこには誰もいない。それが分かっていたから、やれたことだった。
この眼の前ではどんな隠し事も筒抜けだ。…人の心までは、読めないが。

レナード > 再び、瞳を閉じた。
…先より少し間を置いてから、再び開く。
今度は、その眼はいつものとおり。黒い眼、丸い瞳孔…人間のそれと変わりない。

「……僕は、この眼の事を知らなさすぎるのかもしれない……」

産まれながらに得ていた、この眼。それは、自分に忌々しい蛇の血が流れていることに他ならなかった。
その力のせいで、自分は…

レナード > 具体的にいつだっただろうか。
物心経った頃から自分は、言われることされることに反抗的になった。
…聡い子だと言われて育ったからかもしれない。
自分で考えて、自分の思うままに生きたいと、強い願いがあったからかもしれない。
それはただの反抗期のはずだったのに。

「……自分の中に流れる血に、運命を決められてる気がするのが嫌だった。」

子を成すまで不老、為した子にもその血の定めは受け継がれ、そうしてテスラの血族は続いてきた。
…先祖からの習慣の踏襲、そう結論付けて納得できる性格だったら、どれだけ楽だったろうか。
眼は便利だった。それ自体に恨みはない。だが、それを為す血は死にたくなるほど嫌いだ。

レナード > 「僕は、僕の手で、自分の運命を切り開く力が欲しかった……」

目指したのは、血に混じる蛇の呪いからの脱却。それが、自分の生きる道だと妄信して。
始まったのは、長い長い旅路。最早道中の事は覚えていないことの方が圧倒的に多かった。
…そして、もう両親はこの世にいない。
老衰だろうか、病死だろうか、まともな人間の寿命を越えてしまった自分に知る由はなかった。

引っ込みがつかないまま、自分は旅を続けてしまった。
頼れる相手も、自分を導く大人も、自分の反抗心がそれを拒んでしまったから。
気づいた頃には、周りに誰もいなかった。
…それでも進めてしまったから、ここまで心が擦り切れるまで気づくことができなかった。

レナード > そうして、この世界にやってきて、あの出来事が起きる。
欺瞞の中に紛れ込ませたはずの自分の空虚を知らしめられ、
擦り切れ過ぎた心にやっと気づくも、…きっと手遅れだった。

足掻いて、足掻いて、それでもまだ足りない。
行きつく先は無間地獄。辿り着く保証もない上に、隣に誰もいなければ、自分の後は何もない。
…それを本当は理解していたはずのこと、それを隠していたのに暴かれたから。

「……僕は、正しい………
 そう思うしか、ないわけ。」

小さく、息を吐く。
自分のしたい生き方するために、これは必要なのだ。
自分のしていることは、自分にとっての正義だ。
そう、思うしかなかった。
それさえ否定されると、擦り切れすぎた心が本当に折れてしまう。

レナード > 擦り切れた自分を癒してくれたのは、きっと、スノーウィーだろう。
…そして彼女は、自分にとって、非常に重要な単語を見せてくれた。
欺瞞にまみれた心では、きっと見て見ぬふりを無意識にしていたろう、あの単語を。
あの状態だったから、自分は現実を始めて目にすることができたはずだ。

だが、今は…それはいい。
擦り切れすぎた心を立て直すために、これから回り道をする。
それは、彼女に逢う前に…自分の中で決めたことだ。

「なにより僕自身が立ち上がるために……
 僕はこれから風紀の道に堕ちる……」

風紀委員という常世の警察組織。
個人の持つ、異能が、権力が、立場が、幅を利かせているだろうその世界に。
…解体されたトゥルーバイツといい、風紀委員という立場を利用する悪辣どもが蔓延っていることを。
弱り切った自分を食い物に、奴らが近づいてきたことを。
風紀を守るためでなく、己が欲を満たすために、自分に近づいてきたことを。
許せないと思ってしまった。

そう思ってしまった理由は、非常に分かりやすい独善だ。

自分の中で、斃すべき敵を作らないと、
憎まないと、自分の中に広がる空虚に押しつぶされそうだったから。

レナード > 「………そう思って準備をしていたから、もう止まれないのにな。」

自分の異能をネタにして、研究所にコネを作った。
そこから横に根を伸ばして、様々な提案にひた走った。
…協力してくれる有志が現れ、技術や資源の提供にこじつけた。

勿論、タダではない。
彼らは彼らで、自分を通じた活動によって、誇示したいものがあるはずだ。
…或いはもっと直接的なものかもしれないが。
それでも、いい。精々自分に利用価値を見出してくれ。
自分はそれでも、自分のやりたいことのために彼らを利用する。
利用し、利用される。Win-Winの関係じゃないか。
それがお互いに分かっているだろうから、この話は迅速に進めることができた。

ここ最近は毎日研究所に入り浸りっきりだ。
異能自身の出力向上、効率向上、反動軽減に努める一方で
呼吸方法の改善、多数並列思考のシミュレーション、近接戦闘術などの訓練…
…最近はようやく負荷においついてきたが、それでもひどい疲労が残る。

「………もうちょっとだ、もうちょっと……
 なのに……」

レナード > 「……どうして、
 僕は自分の血のことを、本当は詳しく知らないのでは…
 なんて、思ったのかな……」

回り道さえ、立ち止まってしまうのだろうか。
片目を手のひらで覆う様に、押さえる。
…気になってしまったことは、つい夢中になってしまうのが悪い癖だから。
それはきっと、いつだって変わらない事だった。

レナード > 「……自分の生きたいように、自由に生きる。
 そのために、この血は邪魔だし……」

自ら死を選ぶのは、逃げるようで嫌だ。
かのトゥルーバイツのように、分の悪い賭けをするつもりもない。
自分の手で、この血と決別する。そこに真理は必要ない。

「……この血が邪悪だから、僕に伴侶は作れない。」

この血は子孫に伝搬する。
この血を治さなければ、子供まで自分と同じように呪われてしまう。
そんなことは、させたくない。

「………だから僕は、恋ができない……
 でも、いい。僕は自分を騙すことに、長けてる……」

伴侶にしたいと、思ってはいけない。
そう、心の底で自分を厳しく律してきた。それは三大欲求の一角に、ほぼ背くこと。
自分の心にウソを吐く…それは壮絶な苦痛だけれども、自分を騙すことなんて、いくらでもやってきた。
時と場合によっては身体を重ねることもあるだろうし、あった。
それでも、相手に特別な想いを抱いてはいけない。
…とてもつらいことだけども、それが出来てしまうから、今も続けている。

レナード > 「……はあ………」

大きくため息を吐いた。

「……………。」

誰か、僕を助けてほしい。
そう無意識に想いがこみ上げてきたけれども、なんと発音していいのかわからなくて、口から出てこなかった。
自分の知覚し得ない、本音かもしれなかった。
でも、少年は気づかない。

「……なんか、反抗しっぱなしだな。僕は。」

ご案内:「第一教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
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レナード > 自分の運命に反抗して、
自分の血に反抗して、
自分の先祖に反抗して、
気に食わないと思ったことに反抗して、
誰も頼れず、誰も信頼せず、いつも独りを選んで生きてきた。

…だから、今も少年の傍には誰一人いない。

レナード > 「……さて、そろそろ戻ろうかな……」

ぐい、と、腕を屈めて伸ばす。
ギリギリまで沈んで反発したフェンスから弾かれるようにして、その身体を直立させた。

まだ日は沈んでいない。
まだ暑さは残っているが、少し辺りをふらついてから戻るのも悪くないだろう。

そう思った少年は、屋上をふらりと後にした。

ご案内:「第一教室棟 屋上」からレナードさんが去りました。