2020/09/20 のログ
ご案内:「第一教室棟 廊下」に出雲寺 夷弦さんが現れました。
出雲寺 夷弦 > 「――――はい、ええと、それじゃあその……あ、あざっした」


――そう言って、職員室から出てきた男子生徒は、放課後の廊下へと踏み出していた。
往来はまだまだ終わって間もない。夏休みが明けた頃、色々な用事でここの近くを通る学生は多くて。
そして職員室ともなれば、先生と面識を多く持つ委員会の生徒たちの目にも留まる。

あまり見慣れない男子生徒がいる。それも結構そこそこにガタイがよく、何より本人もガタイに対して、中々挙動不審というか、非常に慣れ無さそうな様子でいるのだ。

「……っはぁ、"前"もそうだったけど、やっぱ職員室って苦手だな……背筋が張るっつか……はぁ」

独り愚痴りながら、ポケットからスマホを取り出した。
とても真新しいそれを、とても不慣れな手つきで触り、何処かへの連絡を取ろうとして――止めた。

「……こういう時に頼るのは、ちょっと違う、よな」

出雲寺 夷弦 > スマホの画面で開こうとしたアプリのアイコン。それから指を離すと、画面を切って仕舞い、その場で深呼吸をする。

別に、ただ此処に突っ立っているだけでも緊張してしまう理由は――要するに慣れてないし、"随分久しい"からだ。
彼はそれを自覚しながら、目を細めて何気なく歩いて回る。転入生である自分を見る他の生徒と、時々視線が合うこともあるが。
そういう時、少しだけぎこちなく会釈をすれば、ああ成る程な、といった様子に他の生徒は何もなく通り過ぎていく。
……暫くはこうやって誤魔化そう。味を占めた。

そうしてのらりくらり、放課後の喧騒の中を、見学するように歩いていく。
帰るのはもう少し後とするとして――部活動を見に行くか、それとも放課後、教室で遊ぶ奴等を見てみるか。
それとも、どうしようか。

「……」


口許は、緩く笑っていた。こういう悩み方を、ちょっとした幸せとして噛み締めているのだ。

ご案内:「第一教室棟 廊下」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
知り合いを頼ろうとした彼が、廊下でばったりと彼女に出会ったのは運命の悪戯かそれとも何者かの繰糸か
思わず、スクールバッグを抱えたまま足を止めてしまっていた凛霞

「あ…」

彼、出雲寺夷弦の視線が丁度向いた先で、偶然その焦茶の視線と交差する
互いに見慣れた顔、のはず
それでいて、学び舎ではそんなに、と言ったところだろうか

「今日来てたんだ。言ってくれたら、良かったのに」

笑顔を作って、微笑みかける少女はほんの少しだけ寂しげ
けれどすぐに会えたことへの喜びに、その色を消し去って

出雲寺 夷弦 > 「――ぁ」

満喫していた学び舎の喧騒が、彼の中で一瞬――全て途切れる。
"見慣れている"のに、"とても珍しい"ことのように、目を見開いて固まった。
ああ、そっか。そりゃそうだ。学校なんだから。

「……よ、よう、伊――」

ぎこちなく手を振って、呼びかけた名前。
――そう、"呼びかけようとして途切れた。"
……寂しげな顔から、直ぐに笑顔に変わって。そうして告げられては、

「いや、その、悪ぃ。急に連絡して、来るッつわれても、夏休み終わったばっかで色々忙しいだろうなって、思ってさ。

――そちらへ近づいていく足。傍まで来て、数秒ほどの間。
その間で、差し込む晩夏の朱い日差しで横顔が照らされて、頬が赤い。

「……凛霞」

伊都波 凛霞 >  
くす、と小さく笑って
少女もまた一足、二足、少年へと歩み、近づく

喧騒に包まれる中で、そこだけが切り取られたような感覚
不思議とも思える、和らいだ空気の中で

「遠慮なんてしなくていいのに。
 ずーっと、待ってたんだからね?」

トン、と
小さく握られた手でその胸を小突く

学び舎で、学校で
こうやって顔を合わせるのはいつぶりだろう
学校という場だからこそ、記憶の中と照らし合わせると…あの頃よりも顔が近い位置にある

「ふふ、改めて学校で会うとなんか、ヘンな感じ…。
 昔は夷弦くんのこと見上げてたりしたけど、大きくなったでしょ」

にこりと笑って、少しだけ得意げにそう話してみせる

普段から人懐っこく笑顔を振りまく凛霞
それでも今日この場で浮かべるその笑みはどこか特別
心を許せる人…だからこその、暖かな微笑みとしてその顔に湛えられていた

そして、あの頃と違い名字でなく、名前で呼ばれることに、ほんのりとその白い頬に紅が差す
──幼馴染という距離感から、僅かに踏み込んでくれたような気がして

出雲寺 夷弦 > 回りは学生の往来であり、それはまぁ当たり前のこと。人が多いなら、音もうるさくて。
多少耳にも障ることさえあるような中、不思議と相手の声は、近いのもあるけれど、揺らぐことなく、遮る物もなく、凛と届いて聞こえる。
その細い手、指、拳が胸を小突いてくる。懐かしい気がする。この距離で、何時もは……いや、"前"は、見下ろしてたそれが、目の前か、ちょっと心なしか上へと向く位。もうそれは、近くて、近くて、近い距離。
そんな距離で笑う相手の顔が、凛霞の顔が、彼自身の心の何処かを、力強く叩いた。

「……ああ、ホントに、大きくなった。俺、背丈と料理の腕前だけは、絶対に抜かされない自信あったんだけどさ」

ぎこちなさの原因。それは何処かに抱えていた後ろめたさ。心を覆い、感情を薄く濁した錆。
それが叩かれて剥がれ落ちた。
自然と浮かべた苦笑いと、ちょっとだけ悔しそうな声と、それから、抑えられない、嬉しさが。
この相手が、笑顔が上手で、色々な顔をして、そして色んな人と輪を作っていけることは知っている。
けれど、遠くから見ていた時と、この距離で見る時とで顔が違うことが、ちょっと……いや、かなり嬉しかったのだ。
だから自然と、喜びと、それから、凛霞という目の前の少女への――。

「………………」

判り易く、とても判り易く。距離と声と、接触が引き起こしただろう別の感情の爆発。
端的に言うなら『照れ』という気持ち。
顔面の爆発的な紅潮、僅か見開いた目の緊張から、ゆーっくり右斜め上に向かって視線が逸れていく。

「そっそそ、そ、その、ええええ遠慮っつぅか、な?な?ほ、ほらッあの、カミヤが『独りで出来ることは全部自力でやって憶えろ』ってさ、あの手続きとか挨拶とか、色々ッ、そう色々と……!!」

伊都波 凛霞 >  
「えへへ。このローファーちょっと踵が厚いから」

それ抜きなら、やっぱり自分のほうが少し小さい。4cmくらい
逆に言えば、離れている間にそれくらい差がなくなったのだ
それだけの時間が経った。証明だった

「カミヤくんはスパルタだからねえ。
 でもおかげで…すっかりあの頃に戻ったね」

変わったままのところもあるし、変化した部分もあるけれど
彼が自分で変えた…縮めた、距離
凛霞、と呼ばれて…自分だけ彼との距離が変わっていないのは…
これも、待ってるだけじゃダメってことかな…なんて思ったりして

「……………」

じ…と顔を見つめる
視線をそらして、ややしどろもどろ
自分から距離を縮めてきたくせに
だったら、こっちからだって

「夷弦。…顔、真っ赤」

そう呟く自分の顔もほんの少し赤くなってることには気付かない

出雲寺 夷弦 > その靴ひとつで、距離的には近いのだから。まだ、少しだけ自分が見下ろすとしても。
だったら、その背まで伸びるのに、掛かった時間。

それを自分は知らなかったし、何より、ずっと、待たせてもいたわけで。
照れで言葉が紡げなくなる程の動揺を、何時までもして、また相手に言葉を言わせて、待たせて。そんな情けないことになるのは、ちょっとどころじゃなく不甲斐もないからと。

「っ、あ、あぁ。スパルタ過ぎるけどな、かなり。……割とほぼ毎回、全力でグーが飛んで来たりするし」

顔面が何回あらぬ方向へ曲げられたか。はたまたぶっ飛ばされたか。過ったのは恐怖のストレートによる激痛。
思い返したおかげで、感情の振れ幅が少し落ち着いた。その拳に感謝を込めながら、ふと相手が見つめてきていることに気づいて、んっ?と、微妙な顔して首を傾げる。


――いや、それは、ずるいだろ。

「……ッッッ……~~~~~……!!!……」

言えない。言えるほど平静でいられない。名前。そう、呼び捨てで。
自分がさっきかなり頑張って呼んだのを、こんな不意打ちのように呼ばれて、青年の青は激しく猛って彼の心を二度び燃焼させる。
耳まで染まって、パクパクと口が開いて、そして出てくるのは、辛うじての。

「っ…………それ、ずりぃ、だろ」

という、抗議。

伊都波 凛霞 >  
「今は同い年になったんだから、呼び捨てあったっておかしくないよね」

明らかに動揺、狼狽する様子を見れば
してやったりの表情を僅かに浮かべる
不意打ちで距離縮めてきたのはそっちなんだから、と言いたげである

──でも

こうやって名前を呼べば応えてくれる
そう在ってくれた彼自身と
そう在れるよう尽力してくれた友人
全てが元通りにはきっと戻らないけれど──十分。
十分、すぎる

「夷弦夷弦夷弦。いくらでも呼ぶよ?
 ちゃんと応えてくれるって、約束してくれるなら」

名を呼んだって応えてくれる彼はいなかった
そこに魂すら眠らない石、遺骸すらもない葬儀、幾度も名前を呼んだのに
でも今は此処にいて、触れて、声を返してくれている
───嬉しい

「…待たされたぶん、たくさん埋め合わせしてもらうから!」

感情のまま、人目は憚らなかった
周りには喧騒、学生の往来
周囲にいた学生から、驚いたような声が聞こえようと気にもせず

言葉と共に青年の胸元へと飛び込んで
まるでその存在を確かめるように、ぎゅうぅ…と、しがみついていた

出雲寺 夷弦 > 「……そ、そうだけどな、お前……っ」

してやったり、という顔。あぁ、なんかこういう顔してるのも珍しい気がする。人に悪戯仕掛けるようなタイプ……だったような、ないような。でもそう考えると、今までされてなかったことをされてると受け止めればいいのか。
何にしても、ちょっとばかりそういう振る舞いを受け止める側は許容オーバーも良い所で、顔面は真っ赤のまま。
だから、少女の想うこと、巡らせているもの。それらを汲むために、冷静を比較的早くに――。

「へ」

"ちゃんと応えてくれるって、約束してくれるなら"
相手のそんな言葉に、思うことはといえば、そんなの、言うまでもない
……訳がない。どれだけ、それを待ち望ませてきたんだ。と。
少し、顔を引き締めた。

「……ああ。凛霞に呼ばれたら、いくらでも応えるよ。電話でだって、手紙でだって、声でだって、何時も傍には居れなくたって、
――いや、傍にいれるように、頑張るし、俺自身が、凛霞に呼ばれたら、直ぐに答えに飛んでいきたいんだ」

答える。自分の精一杯の気持ちを滲ませた言葉だった。
嗚呼、今間違いなく、回りから見たら恥ずかしいこと喋ってんな。なんて思いつつ、相手からのそれは――。

「って、どぉッ……!??」

――自分よりずっと強く、勢いも含めて、絶対出来ないようなことをしてみせた。
胸に飛び込んできて、言われる言葉と、抱擁と。
周囲はもっちろん見ているし、見られているし、聞かれているし。
放課後の廊下に、これ以上無いくらいのアオハルが炸裂して。

「り、凛霞……ッ!ちょ、ちょっ」

――ええい、ままよ。

「――……ッい、くらでも、埋め合わせ、する。だから、その」

と、弱々しくもきちんと聞こえる声で返し、背中に腕を回す。
……ぽん、と後頭部を優しく叩いた。

「い、今は、その、こういう、短めの埋め合わせで、その、勘弁してくれ……めっちゃ、めっちゃ見られてっから……」



放課後のアオハルの見学客は、余りにも、余りにも多かった。
突き刺さる。ぶっ刺さる。四方八方から貫かれて、青年は爆発寸前であった。

伊都波 凛霞 >  
受け止めてくれる
確かにそこにいる
変わらぬ姿で、変わった部分があっても、そのままの声で
体温を感じる、自分がこうやって寄りかかっても支えられる力を感じる
失った、失くなったと思っていたものが確かにそこに───

「────」

ぽん、と優しく手が頭を撫でて
で、ようやくそこで…はた、と冷静さが戻ってくる

此処は学校の廊下で、生徒達の往来の中だった
慌ててバッ!!と両手を突っ張るようにして離れる
言われなくてもわかる。耳まで顔が真っ赤だ

「あ、わ。ゃ…えっと」

周りが完全に見えてなかった
完璧超人?なんて揶揄される神童とは程遠い、慌て過ぎて言葉も出てこない様子

───……間

ああ、周囲からの視線が痛い
舞い上がっていたというか、なんかこう…感情が爆発してしまったというか…
我ながら、情けない…

「ご、ゴメン…。ちょっと、テンション上がっちゃって、その」

しゅううう…と頭から煙でも出ていそうな憩いで俯いていた